127話 ヴィロに向かう
連戦、訓練を終えた僕達は、次の朝を迎えた。
「遂にヴィロとの決戦だな。エイミーも最終決戦という事で、来てもらうことになった。みんな、準備は良いか?」
ラドが僕、セレーナ、エイミー、師匠、パロ、ハク、ギン、アゲート全員に語りかける。
「ちょっと待って。ヴィロについて、知っておいた方が良いと思わない?」
そう提案したのはハクだった。
「確かに。ルセウを一撃で更地にした男だーーわかるだけ話してくれないだろうか」
師匠は言った。
「ええ、それじゃあ始めるわね」
ハクは目を瞑って深く息を吸って吐いた。
「ヴィロの概要を説明するわね。あいつは魔法を使えない劣魔族よ」
「それはおかしい。劣魔族ならルセウであれ程の大魔法は使えないはずだ」
ラドがつっこんだ。
「そうよ。普通ならあり得ない話。でもサキがいるならどう?」
「サキなら、魔法で武装を作っているなら、可能性があるな」
師匠が答える。
「その通り。ヴィロはサキに魔法で作ってもらった武装を使っている。ヴィロの武装は魔法だけど、魔力さえ足りていればサキから離れても使用可能な代物よ。だけど、あくまで魔法という事はつまりーー」
ハクはレノンを見る。
「悪夢の魔剣が通用する相手って事ですね。それなら……!」
「何らかの対策はあるだろうから、簡単にはいかないと思うけどね。決め手は悪夢の魔剣よ」
「頑張ります。悪夢の魔剣いっぱい練習したので」
僕は元気良く声を張って言った。
「自信があるのは良い傾向ね。何があっても心を折られないように意識しなさい」
「わかりました」
「後はサキとの関係かしら」
「良好なんじゃないですか?」
僕は問いかける。
「それはそうなんだけどお互いの理想よ。お互いがお互いを想っているから絡まって複雑にしてしまっているの」
「二人の理想、わかるんですか?」
僕は驚いて聞いてみた。
「ええ、簡単よ。ヴィロがサキを幸せにする事、サキはヴィロが安心して暮らせる世界を作る事なんだから。だからルムンに結界を張って好きな人だけ集めて平和に暮らそうとしている」
「ヴィロが安心して暮らせる……」
「そう。だから私達は、サキの理想を叶えてあげなければならない。そうしないとこの問題は綺麗に終わらないわ」
「ヴィロは今は敵だけど、サキの仲間だ。手を取り合う事もできるかもしれない!」
僕はセルゲイを思い出しながら言った。
「ヴィロは常にサキの事を基準にして行動するから。その為なら自分の身なんて平気で投げるわ。でも、ヴィロが死んだらサキが壊れちゃうわ。だから殺さないようにして」
「強敵相手に殺さないようにか……厳しい事を言うな」
「わかったわ。ありがとう、ハクさん」
セレーナに続いてみんなハクにお礼をした。その後ラドが再び号令をかけた。
「今度こそ出発だ!」
「はい!」
「おう」
「おーなんだゾ」
それぞれが返事をしてリューナを後にした。ルムンの怪物と何回か接触したが、フラウの目のお陰で簡単に倒す事ができた。
「これ以上は進ませぬぞ」
結界の目の前に怨恨の憑魔と知らない男が立っていた。
「怨恨の憑魔……それにそいつに手を貸すなんて何者だ!」
ラドは険しい顔をして言った。
「私ですか? 私の名前はグルージ。元帝国四天王、グルージです」
グルージは丁寧な口調で悠々と答えた。
「怨恨の憑魔はまだわかる。グルージ! 今更何故俺達の邪魔をしようとする?」
ラドはグルージを睨みつけながら言った。
「神が! 神が生まれる邪魔はさせないという事です」
「ここで消耗するのは避けたかったが……」
「ちょっと待った!」
剣を抜いたラドに対してギンは言った。
「このルムンの結界は特別な作りになっていてね。サキに仲間として認識されないと入れないんだ」
「何だって!?」
全員が驚愕の声を上げる。
「サキが大結界を作り慣れていないせいで、人を指定できなかったのさ」
「つまり全員が入れるとは限らないということか」
「残った人がこいつの相手をしよう」
ラドはそう言うと、結界に向けて炎の槍を突き刺した。そこに瞬間移動して入っていった。
「一人逃しましたか……まあ良いでしょう。他は逃しませんよーー奇跡の星よ!」
すると流星群が降り始めた。セレーナはすぐに盾を展開して攻撃を防ぐ。
「くっ……中々の力ですね」
しかしかなり広く展開している事もあり、セレーナの盾もだいぶ追い込まれている。
「私は最後に入ります。ゼクシム、お嬢様。レノンくんをお願い!」
「そこの少年がレノンですかーー奇跡の光線よ!」
キラキラした光線が僕に襲いかかる。フラウはそれを剣で受け止めた。
「ゼクシムさん! 行って!」
「二人とも行くんだ」
強風を巻き起こし、二人を結界の中に入れた。
「舐められているな。ですがこれでどうです! 奇跡の弾丸!」
「手から何発もの弾丸を放つ。しかし、ゼクシムには回避され、アゲートは指で空間を裂き、グルージに当てた」
「な、何と言う強さなのでしょうか!」
その後、
「通らせてもらうぞ」
「通らせてもらうゾ」
師匠とパロは結界の中に消えていった。ギンは時を止めると、
「さて。行くとするかな。怨恨の憑魔よ。私の邪魔はしない方が良いよ。君にはかつての力が残っていないのだから」
「うぐっ……気づかれていたとは……」
「じゃあね。誰も残らないと良いね」
そう言ってギンは結界の中に入っていった。
「私達も行きましょう」
「我は少年の生きる意味を見届けなければならないーー行くぞ!」
空間を裂き、結界の中に入った。
「申し訳ございません神になる者よ。全員の入場を許してしまいました」
ーーそう思った時、
「ぬわあ!」
一人の男が弾かれた。その男は憑魔であり、怨恨の憑魔を逃がす、杖を奪うなどをして来た者だった。
「ハハハハハハハ!! そうか。我は弾かれたか」
「エイミー行きましょう。アゲートもできたら手助けを!」
「この中に入れ」
アゲートは指で空間を裂く。
「ありがとう!」
エイミーとセレーナは空間の裂け目の中に消えていった。戻ってこないので、上手くいったのだろう。
そしてグルージの方を見る。
「男よ。貴様四天王と言ったな。強者か試してやろう」
「ア、アゲートですか……! いえ、でも負けませんよ」
「力の差を見せてやろうーーその業火で地獄を再現せよ」
八つの炎の柱が立ち上り、その後グルージを追尾するように動き出した。グルージは、
「奇跡の光線!」
グルージが放った光線は、アゲートが放った一本も消すことができず、グルージを焼き尽くした。
「死んだか?」
アゲートがそう言うと、
「奇跡の復活!」
何と丸焦げだったグルージが立ち上がった。
「面倒な奴め、その首落としてやるわ」
アゲートは空間を裂き、その中に自分が入ってグルージの後ろに回り込み、切り落とした。
「マダオワッテイナイ」
グルージの傷口から一滴も血は出なかった。地に落ちた口が片言でそう言った。
「汝、憑魔か。汝のような者を憑魔にした覚えはないがーー」
「帝国の技術の結晶ですよーー奇跡の復活!」
グルージの首が付け根から生えてきて、元通りになった。
「今度はこちらから行きますよ。これなら裂け目では防ぎきれないはずーー奇跡の星よ!」
「くだらん」
アゲートは剣を振ると、超巨大な空間の裂け目を作り出した。
「な、何だって!?」
アゲートはグルージの八方に空間の裂け目を作り出した。それらから奇跡の星が飛び出してきて、全てがグルージに当たった。
「ば、馬鹿な……! その空間を裂く魔法に穴はないのか……!」
アゲートは近寄り、グルージを剣で滅多刺しにした。動かなくなったグルージから目を離し、怨恨の憑魔を見て、
「怨恨の憑魔よ。魔女の捨てた記憶に数多の怨恨の感情でできた憑魔よ。汝はまだ役目があるだろう。ルムン城に向かえ」
「見逃してくれるというのか?」
「貴様が元に戻らないと魔女は完全にならない。故に汝を殺さない」
「わかった。必ず戻ってみせるから、時間をくれ」
そう言って怨恨の憑魔は結界の中に入っていった。




