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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
1章 騎士見習いへの道
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13話 折れぬ決意に揺るがぬ覚悟

「母さんって、本当は領主なんでしょ? なんで皆から村長って呼ばれているの? 領主の方が格好良いのに……」

「村の皆でこのラティーを守りたいから。だから領主じゃなくて村長なのよ」

「うーん……わかんないや……」

「皆で話し合った時に自分からそう呼ぶって決めたのよーーレノンは大きくなったら何になりたいの?」

「騎士になりたい!」

「どうして騎士になりたいの?」

「えーっと、それはねーー」



 ◆



「ーー朝か。サキ、おはよう」

(あら、早いわね。おはようレノン)


 ふと目が覚めた僕はサキに挨拶をする。この言い方から、まだ鐘は鳴っていないようだ。


(ボーッとしているわね。眠い?)

「ううん、そうでもないんだけど……」

(けど?)

「小さい頃の夢を見たからさ。何だか懐かしくってーー」


 大きくなった今だったら何となくわかる。母さんも、頑張っているんだろうな。


(寂しい? 帰りたい?)

「サキと宿屋の皆がいるから、大丈夫。試験も近づいてきたし、頑張ろう!」

(試験ーーそう言えば、試験の受付ってしなくて良いの? そろそろじゃない?)

「……あれ? そう言えば……受付の期限っていつだっけ?」

(試験の一週間前ね。夕方までにって話だったわねーー)


 そっか。忘れずにちゃんと入れなきゃなーー


「…………今日だ!?」

(約束のお金もらわなきゃ!)


 僕は出来る限り急いで階段を降りた。


「おはようございますマリアさん! 朝早くからすみません。今時間大丈夫ですか!?」


 僕はマリアを見つけてすぐに話しかける。


「おはよう。丁度良かった。こっちからも言わなきゃいけない事があったんだよーーだけどまずあんたから言いな」

「はい、では……今日の夕方が受付の締め切り最終日なんです。それなので、こんな事を急に言うのは申し訳ないのですが、足りていない分のお金ーー銀貨一枚を、その、今日中に用意していただけないでしょうか……!」


 それを聞いたマリアは僕と目を合わせる。


「あんたからそれを言い出すのを待っていたんだよ。騎士見習いは仕事を与えられるんじゃなく、する事を許される。つまり自分から取りに行かなきゃダメなのさ」

「それなら覚悟を決めて言ってみて良かったです」

「大丈夫、金は出すよ。約束だからね」

(良かったー。それなら一安心ね)


 苦い顔をされるかもしれないと思っていたので、ホッとした。


「ありがとうございます。僕からは以上ですが、マリアさんのお話ってなんですか? 臨時の仕事ですか?」

「違う、そんなもんよりもっと大事な話さ。今日は準備は休みで良いから、とりあえず座りな」

「はい」

(お金の件でもないのなら……なんでしょうね?)


 言われた通り席に座る。彼女を相手にすると少し緊張する。最初の働かせてほしいとお願いしたときに戻った気分になった。


「話は二つある。まず一つ目は……ラティー区域がなくなるーー」

「ええっ!? そ、それってどういう事ですか!? 皆は無事なんーー」

「最後まで聞きな!」

「す、すみません……」


 驚きのあまり立ち上がってしまうも、そう言われて再び席に座る。


「区域がなくなるとは言ったけど、村が襲われたとまでは言っていないーーラティー区域は前の火事の被害で蓄えを失ったみたいでね、リシューが補う形でその区域も統治する事になったという話さ」

「ーーそうなんですね。だとするとラティー区域は……いえ、餓死する人がいなくなるならそれが一番だと思います」

(今のって、ラティーはリシュー区域の一部になるって事よね? というか今までそうじゃなかったって事? 小さな村なのに?)


 つまり母さんはリシューの領主と地位的に対等ではなくなったという事だ。サキが聞く通り、こうなるのが普通の形なのかもしれない。

 ーー父さんが居なくても、頑張っていたんだけどな。


「……母は、ラティー村の責任者として居続ける事は出来るのでしょうか?」

「それはあたしにはわからないよ。進言するのは領主、決めるのは皇帝だからねぇ」

「そうですよねーー今の村のやり方を守りたいって、母はずっと言っていたので、気になっただけです」

「……一生懸命頑張っていても、上手くいかない事もあるんだよーー」


 マリアは目を閉じて言った。


「そこで、もう一つの話だーーあんたは、どうして騎士見習いになりたいと思っているんだい?」

「ーー確かに騎士見習いの話って、マリアさんとあまりした事がなかったですね」

「うちで働く事に騎士見習いになるかどうかは関係なかったからね。役に立つかを見る、金を払う価値があるから雇う。宿屋の主人としてはそれだけさ。だから騎士見習いになるならそれで良い。ただ大先輩として、覚悟だけは聞いておこうってわけさ」

「僕は騎士見習いになって強くなりたいんです。そして、大切な人達を守れるようになりたいです」

(そして私がまたメイジスの生活を送れるようにするために!)


 マリアは僕の目を見て聞いた後、


「騎士見習いになったからと言って強くなれるわけじゃない。弱い者が淘汰されて強い者だけが残るだけさ。あの世界はそんな甘いものじゃあない。娘には絶対にやらせたくないと思うくらいにはね」


 僕の希望を見透かすような目で言った。


(……やっぱり、それだけ過酷なものなのね)

「だからマリアさんは、騎士見習いから宿屋の主人になったんですね」

「時代もあったさ。昔は試験なんてなかったからね、多くの人が騎士見習いになったさ。あたしは制度が整う前から狩人だったから生き残ったけど、多くの人が消えたよ。戦って死んだり、傷の治療代で破産したり、依頼を取れなくて路頭に迷ったりってね」

「そんな時代が……」

(酷い……)

「リシューの働き手が減って困ったからある程度制限はかけたけど、本質的には何も変わっちゃいないさ。あたしは逆に優秀な騎士見習いとしての立場に、まだ整っていない宿泊先事情を上手く使って何とかここまでこれた。ただそれも時代が良かったってだけで、あんたも同じように流れに乗れるとは限らないのさ」

「ですけど、僕はもう村を出てきてしまったので。簡単に帰る気はありませんし、後戻りは出来ないところまで来ていますから」


 確かに村や母さんは心配だけど、今の僕が帰ってどうなるわけでもない。むしろどうにか出来るようになるために出てきたのだから、帰るわけにはいかない。


「ーーそれならいっそ、うちでずっと働かないかい?」

「それって……騎士見習いになるのを止めてって事ですか?」


 いきなりそんな事を言われたので、驚きのあまり思わず聞き直してしまった。


「そうさ。本末転倒に聞こえるかもしれない。でもあんたの働きぶりは見事なもんだからね。もう騎士見習いを目指さないで、今まで通りここで生きていかないかい? あたしなら安定した暮らしを約束するよ」

「で、でも僕は騎士見習いになりたくて、そのためにリシューに来たんですし……」

「それは理解しているつもりだよ。でもね、それだけ魔法が使えれば、騎士見習いじゃなくても今のような形で全然働いていけるだろう? わざわざ明日に迷う仕事を選ぶ必要ないじゃないか」

「その通りかも知れません。ですが、それでも僕は、安定した仕事よりも、魔物と戦う機会を得て、戦って強くなって、騎士を目指すと決めたんです」

「わからず屋だねぇ……」


 溜め息を吐いて彼女はそう言った。


「すみませんーー」

「謝れと言ったわけじゃあない。まったくあんたは本当に鈍いやつだよ。要するに、あんたにここに残って仕事をしてほしいと言っているのさ。出来る事が多いからこれからも仕事を覚えれば更に出来る事も増える。治癒魔法を生かしたいならうちの宿屋にそういうサービスを足しても良いとさえ思っている。やりがいがないとは言わせないよ」

「それはそれで楽しそうですし、僕は今の仕事に不満を持った事はないです。僕が二人になれたら片方置いていきたいと思う程です。ですがそうであっても、この夢を目指したいんです!」

「あの試験は、誰でも受けられる割には難し過ぎるよ? 戦わせる魔物が一般人向けじゃあ全くない。それに最初に署名をさせられるから、死人が出ても自己責任で御構い無し。お上はその中でもほんの一握りしか騎士にはしないよ。それでも、そんなでも目指すというのかい?」


 彼女は騎士見習いとして活動し、今なおそれに関わっている人間だ。嘘はない。

 それでも、ここに居ては成し遂げられない事がある。僕にとっても、いつもは我儘放題な癖に、今は口を挟まないでいてくれているであろうサキにとってもーー


「理解しています。今思っているよりも更にそれよりも厳しいのかも知れません。でも、たとえどんなに厳しくても、僕は騎士見習いになりたいんです!」

(レノン……!)


 僕は再度彼女に宣言した。お互いに強い目線でどちらも引かない。沈黙の時間が流れる。


「…………ふふっ、あはははは!! これはダメだ。流石のあたしでも根をあげるよ」

「えっ? えっ……? どういうことですか?」


 笑うマリアの理由がわからない僕は困惑する。


「そこまで強い意志を持って騎士見習いになりたいやつがどれだけいるか! 大体は一攫千金だの騎士になるだのそんな事を言っては絶望するのばかりなのに」

「そうなんですか?」

「ああそうさ。でもあんたは違うね。きっと大成するさーーまあ宿屋と騎士見習いで宿屋を選ぶようなら、まず騎士見習いには向いてないさ。腕っ節だけでなれるけど、それだけじゃ続けられないんだからねぇ」

「ありがとうございます。騎士見習いだったマリアさんにそう言ってもらえると自信になります」

「さあ、じゃあ約束通り金を出そう。銀貨六枚、持っていきな!」

「六枚ですか!? まず、試験に必要なのは五枚ですし、僕は四枚分なら既に持ってます。それにこれまでお金を払わずにずっとお世話になっていたのでーー」


 マリアは僕の言葉を手を前に出して止める。


「五枚はあんたと約束したときに決めたんだ。そのときはあんたがいくら持ってるかなんて聞かなかったしね。そしてその一枚は報酬だ。私が想定していた分よりその分多く働いた。だからその分を出したまでさ」


 そしてそう言ってくれた後、僕の手に銀貨を手渡し、握らせた。


「ーーそれなら、いただきます。ありがとうございました!」

「長く拘束して悪かったね。さあ、さっさと行って納金してきな!」

「はい! ありがとうございます!」

(おかげで希望が見えたわ! 本当にありがとう!)


 僕はその銀貨をしっかりと袋に入れ、深く頭を下げた。


「まだ仕事は終わっていないからね? 夜の仕事に間に合うように帰ってきなよ!」

「はい!」


 僕は返事をすると、宿屋を後にした。そして騎士見習い試験の受付に再び辿り着いた。


「すみませんルーシィさん。騎士見習い試験の受付お願いします!」

「かしこまりました。あなたは、確か……レノンさんでしたっけ?」

「はいそうです! 試験を受けたいので、お願いします!」

「では最初に試験費用の銀貨五枚の納金をお願いします」

「これでお願いします」

「はい、確かに頂戴致しましたーーしっかり用意されたのですね」


 ルーシィは僕に柔らかい口調で言葉をかけてくれた。


「はい。絶対に合格するので……!」

「ではこちらの書類に必要事項を記入し、血判をお願いしますーー」


 僕は申込書に記入し、『本件死後保障なし』と書かれた横に、血判を押し、受付を完了させた。



 ◆



「おはようサキ。遂にーー今日だね」

(うん、おはよう。ちゃんと起きれたわね)


 練習を重ねて時は経ちーー早朝を告げる鐘の音が聞こえる朝、僕は起き上がって窓を開けて陽を浴びる。準備を済ませると、下に降りる。


「おはよーレノンくん! 遂に今日だねー。どう? 自信ある?」

「やるしかないからね。とにかく頑張ってくるよ。マリアさんは?」

「お母さんはもう起きてるよー。でももう話す事は話したから言う事ないってさ」

「そっか。うん、前にそう言っていたね。じゃあ行ってくるよ」

「応援してるからねー! 頑張ってー!」


 僕は手を振り返した後、宿を出る。


(やる事はやったもん! どんな魔物でも、かかってきなさい!)

「そうだね。これまでの努力と経験は、きっと役に立つ。一緒に頑張って勝ち取ろう!」


 サキの言葉を聞いて強気に笑うと、力強く足を前に出し、試験会場に向かった。

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