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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
7章 理想同盟
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121話 夢から覚めて

「ゔぅ……ぶおおお!!」


 雄叫びと共に魔法が放たれる。それはメイジスによるものではない。


「ぐっ……! ルムンの怪物だけじゃない……! ティマルスのヤギまで侵略してきている! 一体これはどう言う事だ!?」

「あの馬鹿でかいおかしな兵器に結界を破壊されたせいで、オウムからの火炎弾爆撃で都市はもうボロボロです!」

「アムドガルドから剣族が侵略してきているそうです! とても強力な強化魔法を受けている様で、どんな魔法も通用しないのだとか……!」


 騎士達は侵攻を防ぎながらも混乱している。それもそうだ。本来森から出ないはずの獣族が、弱いはずの剣族がこうしてメイジステンを脅かしているのだから。


「リューナに撤退だ! 幸い結界が壊されただけでまだ侵略されていないはずだ! そこでセレーナを中心に立て直すぞ!」


 三番隊の隊長、エーギルはそう言うと騎士達は退いていく。

 一方ディマルス側ではーー


(リューナは襲うなよ! あそこは和平の拠点だ。あの剣族が結界を壊しちまったが、他の都市と間違えるなよ!)


 オウムの指揮長が伝心で他のオウムに伝える。


「パロ……死ぬなよ……!」


 指揮長はググッと嘴を強く噛んだ。



 ◆



 目が覚めたら見慣れない赤茶色い天井だった。煉瓦で作られているのだろう。


「僕は……なんでここに……?」


 そう言って立ちあがろうとした瞬間、


「動くな! 動けなくしてやろうか!」


 という声が聞こえた為、座ったまま止まった。武器を持った剣族が僕を見張っているところから、どうやらアムドガルド軍に捕まったようだ。


(サキ、聞こえる? サキ、サキ!)


 反応がない。最後の様子からして、サキは僕の身体から消えたんだ。


「僕はこれからどうなるんですか」


 敵に囲まれている。絶体絶命の状態だ。


「いやー、どうしても良いんだけどなー」


 悠々とした声が聞こえた。


「お前は……クーリィーー」

「様をつけんか! この田舎者め!」


 そう言って僕のことを槍の刃の逆側、石突きの部分でどついた。


「痛た……」

「大事な客人だぞ。あまり痛めつけるな。本当に壊れちまうぞ」

「はっ! 失礼しました!」


 クーリィの言葉を聞いた兵士達は、緊張した様子で僕から少し離れた。


「レノン。久しぶりだな」


 クーリィは手を振って言った。


「前にあった時は敵同士。感動の再会ではないですけど」

「ああ、そうだな。お前達に負けた事。忘れたわけじゃないぜーーさて、本題に入るが……お前は今、状況をどれくらい理解している?」

「状況……捕まっているという以外全く理解できていないというのが本音です」

「正直で宜しい。俺は理想同盟のクーリィ。そしてここはルセウの拠点だ」


 ルセウとはメイジステンの都市のはずだ。


「という事はルセウは……!」

「ヴィロの力によりアムドガルドの手に落ちた。長らく昔はアムドガルドの領土だったというし、絶対に取り返さなきゃいけない領土だったからな」


 それなら返してあげた方が良いという考えが浮かぶ僕は、為政者に向いていないのだろう。


「それよりヴィロが復活したのか!?」


 ヴィロとはサキを帝国から攫った悪魔の王と呼ばれている存在である。この旅の中で何度かその名を聞いたが、よく考えるとサキからその話をしてくれたことはなかったと思う。無理に聞くのも酷だし、聞いてこなかったのだが、まさかこうなるとは思わなかった。


「ヴィロは理想同盟の盟主でもあるからなーーそれより今の状況を話してやる。お前達に負けてからルムンで軍を再編させた俺達は、悪魔の王ヴィロが復活して以来理想同盟としてアムドガルド軍を動かしている」

「お前の理想はーー」

「勿論剣族の差別撤廃とアムドガルドの独立だ」


 クーリィは僕が言い終える前に言った。


「ティマルスのシーナも理想同盟の一員でな。同じような理由でティマルスの各族長も軍を出している。まあ今までのメイジス共の報いってわけだ」


「その他の戦況を教えるかは今後のお前の回答によるな。ラティー村は包囲させてもらったがーー」

「ラティー村には手を出さないでください!」

「お前、魔女の嬢ちゃんと同じ反応するのな。いらねーよあんな村。夢の世界から抜け出すであろうお前を狙って張っていただけだ」

「それなら良かったーー」


 僕は安堵の息を吐いた。


「次はお前の状態だ。聞いた話によると、この状況でも色々と危ない魔法が使えるみたいじゃないか。俺達を殺して脱走くらいできるってギンは言っていたな」


 悪夢の魔剣、吸魔の大鎌のことだろう。強化の魔法を無視するどころか糧として強化、そして鎧をも貫通する魔法だ。


「僕はそんなことしませんよ」

「魔女の嬢ちゃんと同じことを言うんだな。長い間一緒だっただけはあるな。だが嬢ちゃん直伝の魔法は使えるのだろう?」

「悪夢の魔剣、吸魔の大鎌なら今の魔力量でも使えると思います」

「そういった特殊な魔法説明は受けている。なるほど。そうやってあの結界から抜け出してきたのか。もう戦えないと思っていたが、案外やるかもなーー装備はどうなっている?」

「ただの頑丈な帽子と法衣ですね。ハクさんもこうなることを考えていて僕用に調整はしていないみたいです」

「そうか。ハクならここまで考えていてもおかしくはないな。それで? 何か他に聞いておきたい事はあるか?」

「サキは、他のみんなはどこにいるのですか!」


 僕は一番気になっていたことを質問する。


「サキならルムンにいる。大丈夫だろうさ。ヴィロと一緒になんだからーー」

「危ないじゃないですか! 今すぐ助けに行かないと!」

「まあそんな慌てるなって、ヴィロはサキの力の代行者だ。サキの言う事は聞く。それに助けに行くってお前に何ができるんだよ」

「それは……その通りですけど……」


 口ではそう言ったが、焦りは消えなかった。


「それに他のみんなは知らん。セレーナとかいうメイジスのヤバいやつはリューナにいるらしいな。まだ攻略できていないと聞いている」

「セレーナさんがリューナに!?」


 メイジスのヤバいやつ。確かにリューナ騎士団を不死身と言われるまでに支えている人だ。前の戦争でも結果を残しているし、要注意人物扱いでもおかしくはないだろう。


「ああ、いるらしいぞ。よし。状況の擦り合わせはできたなーーじゃあこれから俺が命令するから、お前はそれを飲め」


 クーリィの様子は飄々とした様から一転、真面目な口調になった。


「魔女の嬢ちゃんより先に、ハクを救ってほしい」

「救ってほしい? ハクさんは捕われたのですか!?」

「いや、まだだ。だが様子がおかしい。どんどん前線へ進んでいっている。リューナじゃ飽き足らず、イヴォルの結界まで戦車塔で破壊していっている。それだけでも危険なのに更に前線に出ようとしている。イヴォルはまだ制圧されていない。戦車塔も頑丈だが、無敵ではない。内部への侵入を許したら確実にハクは死ぬ」


 クーリィは苦しそうに言う。そんなことは絶対にあってはいけない。


「その、戦車塔っていうのは何なのですか?」

「本来は秘密だが、必要な情報だから教えてやる。ハクがルムン城の一部を改造して砲台と車輪を付け、魔力で動かしているものだ。対結界破壊兵器だが、対人用に他の兵器も搭載している」

「ありがとうございます。ハクさんは何故そんな前線へ?」

「理由はわからないが、彼女の理想に関わる事なんだろう。理想同盟内では、それを聞くのは禁止されている」

「そうなんですね……」

「話を戻してお前の話だ。お前を捕虜として数人の兵士と共にリューナまで向かう。これで手出しができないまま俺もリューナに入れると踏んでいる。セレーナにも会える。なっ、悪い話ではないだろう?」

「えっ!? 僕が捕虜として連れていかれるんですか?」

「今も捕虜だろ」

「た、確かに……」

「おら、そうと決まれば行くぞ。目指すはリューナ=イヴォル王国がアムドガルド軍と戦っている西部戦線だ。何たって味方に攻撃されないからな」


 僕はそのまま檻に入れられ、人力戦車に乗せられた。


「魔女さんの力があるから凄い速度が出るんだぜ?」

「ちょっ、心の準備が……!」

「待てるか! 発進!」


 ゴオオオオオオオオと音を立てながら進み始めた。


「す、すっごい揺れますねー!」

「屋根付きなだけマシだろ。落ちる心配がないんだし」


 そして揺られ続けて気持ち悪くなってきた頃、


「戦線領域に入る! 気をつけろ!」


 気をつけろと言われても僕は吐かないことくらいしかできないのだが。


「こっちには捕虜が居るぞ! 道を開けろー!」


 戦っている兵士を横目に突っ切って行った。


「おのれアムドガルド兵め! 一点突破でここまで来たか!」

「ここで、止めてみせる!」


 門番のリューナの騎士が言った。普段は二人だが増員されて六人になっている。


「おっと、そういう血生臭い話は後だ。こっちには捕虜がいるからな」

「レノン……!」


 騎士の一人が僕の名前を呼ぶ。


「すみません……」


 僕は謝ることしかできなかった。


「要件は何だ」

「リューナ=イヴォル王国女王のアメリアと話させろ」

「そんな事……!」


 騎士がそう言っていると、


「私の事をお呼びでしょうか」


 来るとわかっていたというようにそこにはアメリアが立っていた。


「アメリア陛下!」


 僕は安堵の息をまた吐いた。


「この者達を城の中に入れなさいーー条件を満たせばレノンは離してくれるんですよね?」

「当たり前だ。話す機会をくれれば自由にして構わない」


 クーリィはそう言うと、門が開き、僕達は中に入って行った。

 ーーそして城の一室で話し合いが始まった。


「この戦争、もう止めにしないか?」


 クーリィは単刀直入に行った。


「ルセウを占領しながら言いますか」


 アメリアはそう簡単には了承しないと言った風だ。


「そこは前の領土だったから返してもらったで良いだろう……じゃなくてだな。俺の力があればティマルスも停戦できる」

「そうなのですか?」

「ティマルスが戦う理由は、一国としての独立とティマルス内の魔物を獣族として他の民族と同じように扱うーー獣族の承認だ。前の帝国なら意地になるかもしれないが、今のそっちにとっては悪くないんじゃないか?」

「確かにティマルスは前と同じ状況を維持し続けていました。ティマルスの資源は惜しいですが、公正に取引をする時期なのかもしれないですね」


 アメリアは動揺せずに淡々と答えた。


「まあ買えば良いんだよ買えば。沢山金持っているんだろ?」

「小さな努力の積み立てが今の資材なのですが……今はそれは良いでしょう。では、ティマルスの交渉相手をこの場に呼ぶという約束で良いですか?」

「ああ、それで良い。同時にアムドガルド軍も退かせよう」


 こうして話し合いが終わった。僕も城内なら自由行動を許されて歩いているとーー


「レノン!」

「レノンくん!」


 フラウとセレーナに会った。


「また会えて本当に良かった!」

「みんなでリューナに一緒に飛ばされた時にいなかったけど大丈夫だった? 怪我とかしてない?」


 フラウは喜んでくれて、セレーナは相当僕の事を心配してくれているようだ。


「怪我は全然大丈夫なんですけど、サキが……」

「そっか。サキちゃんは元の身体を取り戻したという話も流れてきているしね。つまりレノンくんからは……」

「はい。そういう事です。これまで通りには戦えませんし、帽子も法衣も効力を失ってしまったという状態でして……」

「大丈夫! レノンは私が守るから!」


 フラウがそう言って手を握ってくれた。


「レノンくん。こっちに来て」


 セレーナに連れていかれて辿り着いたのは武器屋だった。


「この店で一番レノンくんに合うかつ強力な杖は、これかなーーすみませんこの杖をください」

「その杖に目をつけるとは、流石は守護騎士セレーナ様。お目が高いですねーー金貨五十枚になります」

「はい、これで。ありがとうございます」


 セレーナは一括で払ってしまった。守護騎士の財力は物凄い。


「はいこれ。次の戦いから使って。杖なしで魔法が使えるとはいえ、今レノンくんは魔力を補う必要があるだろうから」

「私もレノンに何かしてあげたいんだけど……ごめんね」


 フラウはセレーナを見てから残念そうに言った。


「いやいや、気にしないでよーーそれよりフラウ、セレーナさん。大まかな状況はクーリィから説明を受けました。他のみんながどうなっているかを教えてください」

「そうね。ルムンに向かった私達六人の中で、リューナに飛ばされたのは私、お嬢様、ラド、パロよ」

「あの、師匠は……?」

「ゼクシムは飛ばされなかったみたい。でもティマルス側で戦っていたという情報が流れているわ。無事かは分からないけど、きっと大丈夫」


 セレーナは目を閉じて祈る仕草をしながら言った。


「ラドさんとパロは……」

「ラドは前線に出て今も戦っているはずよ。パロはリューナで捕虜になって大人しくしているらしいわ。会えないから分からないけど……」


 その後僕達はここまで起きたことをお互いに話した。

 リューナに飛ばされた側は、急にアムドガルドとティマルスから攻めてきた、強力な強化の魔法がかかっており、セレーナがいるにも関わらず戦線が崩壊したという内容だった。


「それなのでクーリィの元に行って作戦を立てなきゃ!」

「レノンくん。クーリィは今アメリア陛下と話しているわ。一旦落ち着いて、心配している身にもなって、ね?」


 僕はセレーナの顔を見た後、その目線の先にいるフラウを見た。フラウの目には涙が今にも溢れそうになっていた。


「はい……」

「じゃあそういう事だから。レノンくん。勝手に行っちゃダメよ?」


 そんな事を言ってセレーナは去って行ってしまった。


「レノン、本当に大丈夫? どこか悪いところない?」

「大丈夫だよ。でも……あっ、そうだーーよく考えたら全然食べてなかったや。お昼ってもう食べた?」

「うん。食べちゃったけど、一緒に行こう。お城の食堂になら行けるんだよね? 今日は私が出すから」

「大丈夫だよ。お昼代くらい自分で出せるし」

「わかった。ねえ、レノンーー」


 フラウは改まって僕の顔を見て、


「……絶対にサキさんとまた会って仲直りしようね」


 優しくそう言ってくれた。


「うん……!」


 そうして昼ごはんを食べに行った。そこでは日常を取り戻したかのような他愛もない話をした。



 ◆



「それでねー、そこで私の魔力が大活躍して倒せたのよ」


 サキは胸を張って得意気に語る。


「なるほど……だが、血を見る羽目にあったという事だな」


 ヴィロは険しい目をして言った。


「あっ、それは……慣れないけど、仕方ない事だから……」

「仕方ないなんてことはない。ずっとここに居ればもう争いなんて、血なんて見なくて良いんだ」

「あ、ありがとう。ヴィロ。ヴィロは優しいね。いつも、いつもーー」


 サキは少し寂し気にそう言った。ヴィロと話し終えた後、怨恨の憑魔が近寄ってきた。


「何よ」


 サキは不機嫌そうに言う。


「忠告だ。ヴィロの言う事を全て鵜呑みにするな。言う通りに動いていると理想同盟は崩壊するぞ」

「何よ知ったようなこと言って。それは私が決める事よ」

「忠告はしたからな」


 そう言い残すと、怨恨の憑魔は去って行った。

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