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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
6章 皇位継承戦争
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116話 合成神セルゲイ

 次の日、念の為に軍隊を準備したが、本当に宰相派の軍はいなかった。


「では行ってくる」


 師匠は手短にそう言った。


「任せたよ。上手くいかなかったら、撤退しても良い。それを忘れないでおいてくれ」


 シーザーがそう言って師匠の手を掴んだ。


「パロ、準備できているか? 神殿の場所はラドが知っている」

「全員乗せるのは大変だけど、大丈夫なんだゾ。任せるんだゾ」


 そして、パロは全員を乗せて飛び上がった。セレーナが障壁の準備をしていたが、妨害されることもなく、神殿に着いた。


「何だかここまで何も起きないと気味悪いですね」


 僕がそう言うと、


「余程自信があるのだろう。本当の勝負はここからだ」


 師匠は答えた。


「神殿の中に入るぞ。準備は整っているか?」


 ラドがそう言うと、僕、フラウ、師匠、セレーナ、エイミー、パロ。全員が大丈夫だと頷いた。


「よし、入るぞ」


 ラドの号令で全員が階段を降りた。その先にはだだっ広い部屋があり、一人の男が豪華な椅子に座っていた。


「セルゲイ……? 何だその姿は! それはまるでーー」

「レックが大人になった姿みたいだと言いたいのだろう。その通りだーー」


 大人になったレックの姿をしたセルゲイは立ち上がり、


「この姿が皇帝、後に神となる存在に相応しいと思ってな」

「皇帝でも神でも、貴様がその座に就くのは許せない」


 ラドは武器を構える。


「そう熱くなるな。まず我が何をして神と名乗る力を手に入れたのか、何のために神になったのかを説明しよう。その後で戦うかどうか決めれば良い」

「何のために神になったのかだって? 私欲のためじゃないとでも言いたいのか」


 僕はセルゲイを見て言った。


「そう焦るな。まずは何をして神となったのかだが、それは簡単だ。陵墓に安置されていた全ての皇帝の力を取り込み、不老不死となったからだ」

「全ての皇帝の力を、だと……?」


 師匠は聞き返す。


「合成機器だ。帝国は何でも作れるのだよ。普通は魔物同士で行うものだが、人体実験も行い、人も行えるように作り変えた。それで取り込んだのだよ。賢帝ルシヴ三世を始めとした皇帝は魂も保管していたからそれも取り込んだ」

「墓荒らし何て罰当たりな……!」


 セレーナの言葉に、


「陵墓の皇帝達も永遠を求めた。我々は晴れて成し遂げたのだ。皇帝達も文句はあるまい」


 セルゲイは淡々と答えた。


「私達とは感覚が違うようですね」


 セレーナも険しい目をして、軽蔑の言葉を述べた。


「それは最初からそうだ。我々は見ているものが違うからなーー」


 セルゲイは動じずにそう言うと、


「次に何のために神となったのかだが、それはメイジスを守る為だ。これなら君達も共感してくれるだろう」

「メイジスを守る? 自らにとって都合の良いメイジスだけ守って、他は制裁するの間違いではないのか?」


 ラドは剣を構えたまま言った。


「半分は当たっているがね。我は世界、この帝国の秩序を脅かすメイジス、例えば戦争をしようとするメイジスには天罰を与えるが、北部南部構わず善良なメイジスを法で管理して守る。それを行える者が他にいないから我が神となり、永遠を生きるのだ」

「できるとは思えない。途中で腐り、暴君となるだろう」

「今よりは良い世界にする自信はあるのだが」

「今よりも良い世界ーーメイジス以外の人達は?」

「無論無闇には殺さない。ただメイジスの為に生きてもらう」

「セルゲイ! 僕達はアムドガルドでの惨状を見てきた。それを認めると言うのであれば、お前と戦うしかなくなる」


 僕は杖を構えて言う。


「認める。メイジスを中心に考えると正しい在り方だーー」

「許すもんか!」


 竜を象った炎が余裕ぶっているセルゲイを襲う。


「氷の盾よ」


 氷の盾が火炎竜と激突した。竜は氷を溶かし、セルゲイに食らいついた。


「その杖、第一の器の魂を使用しているのか。それならこの氷の盾を打ち破るのも当然だな」

「傷がない……!?」


 セルゲイは火炎竜を受けたはずが、無傷で立っていた。


「貴様達のことはよく知っているぞ、レノン、サキよーー」

「サキは第一の器として神となるはずだった。逃げられてしまったがな。第二の器はそれが暴走したとき止めることに特化した器だ。これも魂の調整の前に研究所ごと爆破されて持ち去られてしまったがな」

「何だと……?」


 師匠は思わず出たという風に言った。


「何故知っているかといえば、第一の器の魂も含め、全て帝国で作り出した産物だからだ。どうやって作ったかわかるか?」

「ベラベラ喋るな!」


 嫌な予感がした僕は火炎竜を放つ。しかし避けられてしまった。


「神となる人間を作り出す実験で、優秀なメイジス達に創造魔法を変化させた、無から魔力で創り出すのではなく、材料から変異させる魔法を使わせた。材料には皇帝のものを使ってね。何百回も失敗を重ねて、その成功例が第一の器、第二の器だ。最後に携わった優秀なメイジスを材料に心臓を作れば中身のある第一の器の出来上がりだ」


(私はそんな変な魔法から作られたの……? それにこの魂は何人もを犠牲にして……)

(今は気にすることはないよ。僕も同じだし、僕達は僕達だ)

(そ、そうよね。ありがとう)


 サキは動揺していたようで、レノンにお礼を言った。


「元々第一の器に調整と教育を施し、神となるはずだった。憎き悪魔王ヴィロさえいなければな」

(私が神になる予定だった……?)

(動揺しちゃダメだ。ただ情報として受け取るんだ)

「ベラベラ喋るほど余裕か! その余裕すぐに無くさせてやる!」


 ラドが炎の槍を三本セルゲイを囲むように置き、何度もセルゲイの元に瞬間移動する。何度も剣をぶつけ合った。


「くそっ……剣は達人の域か」


 ラドが去った後、三本の槍が燃え上がった。


「追撃する」


 その後師匠が風神の竜巻を起こし、炎を巻き込んで更に巨大な竜巻となった。


「うおお……! これは熱い! 剥がれてしまう」


 セルゲイはそう言うと、退いて治癒魔法を使った。


「こちらからもいくとしよう」


 氷の刃を何十本も出し、それを飛ばした。


「躱しきれない!」


 セレーナは盾を出すが、氷の刃はその盾を突き破った。


(吸って!)


 僕は魔女の帽子で氷の刃を吸い込む。しかし急だった為、これだけの人数は守りきれない。


「くっ……!」

「凍れ」


 セレーナは氷の刃に加え、セルゲイの持つ氷の剣で刺されて氷漬けになり、動かなくなった。


「セレーナさん! 今助けます!」


 自分を中心に炎を撃って全員の氷を溶かす。火傷はすぐさま癒された。


「ありがとう! レノンくん」

「仲間との連携も取れている。厄介な相手だ」


 セルゲイは浮かび上がり撤退したが、


「空中で俺と戦うか」


 セルゲイはすぐに氷の刃を飛ばすが、全て躱し、風を纏った剣で斬りつけた。


「空中でも我は戦えるぞ」

「俺よりも強いか試してみるか」


 何度も剣が弾かれる音が響き渡り、セルゲイが逆の手で氷の刃を突き刺そうとしたとき、


「遅い!」


 怯んだ隙に風の剣を胸に突き刺し、そのまま地上にまで落下した。


「ぐわあ!」

「貫いた!」


 セルゲイの胸が赤くなっているのが確認できた。


「ゼクシムさん! エイミーが治癒します! だからセルゲイを逃がさないで!」

「わかった」


 セルゲイは抵抗して氷の刃を飛ばすが、受けてもすぐに元に戻る状態が整っていた為、効果を示さなかった。そして何度もセルゲイを突き刺すと、


「これで終わりだ」

「火炎竜!」


 僕は魔法を唱え、サキの魔力を僕の容量最大限に詰めた一撃を放った。


「ぐわああああああああ!!」


 セルゲイの身体は真っ赤に染まった。


「……これで終わりな訳がない」

「如何にも」


 師匠がそう言うと、全員がセルゲイを見る。真っ赤になったのは血ではなく、上乗せの皮を剥ぎ、その真の姿を晒していただけであった。


「これは……!」

「この姿は晒したくなかったのだがな」


 それは赤く、形は球体に近く、脈打つ毎に膨張するもの。巨大な心臓であった。

 セルゲイの真の姿である巨大な赤き心臓は、ゆっくりと浮かび上がる。


「我が真の姿をみせることになろうとはな。流石は四天王……我が友を倒した者達だーー」


 そして口ではなく部屋全体から声が聞こえてきて、


「そんな貴様らは特別だ。真の力を見せてやろう」


 想像していた通りの厳かな声で喋り出した。


「そんな姿になってまで力を手に入れたかったのか!」


 僕の言葉に対し、


「無論だ。神になる為ならあらゆる手を使うとも」


 セルゲイは悠々と答えた。


「でかくなって当てやすくなったな。全力で叩き込む!」


 師匠は先陣を切って風の剣を叩き込んだ。


「何……? 効いていないだと?」

「その程度の攻撃元々通用していなかったのだ」


 セルゲイはそう言うと、


「食らえ」


 心臓から手が伸びて光線を放った。


「何だそれは!?」

「師匠! くっ……吸って!」


 僕は魔女の帽子に光線を吸い込ませた。相手は取り込んだ皇帝の魔法を使えるらしい。


「なるほど。光線系はダメか」


 セルゲイは呟く。


「純粋に攻撃してもダメか」


 師匠は呟く。


「あの、みんな、聞いて!」


 フラウが声を上げて言った。全員がフラウの方を向く。


「あの心臓の上部に魂の鎖が見えるの! あれを全部断ち切れば倒せるかも!」

「魂の鎖って、レノンにサキがくっついているような状態か。それが皇帝の魂が複数とは、帝国の技術は恐ろしいな」


 師匠が驚いた様子で答える。


(合成生物は単なる死体を混ぜただけで生物じゃない。それを……魂を鎖で繋ぎ止めて動かしているんだわーーつまり、奴は憑魔よ!)

「セルゲイは今憑魔となっていて、鎖を切り離して魂を解放すれば倒せるかもってサキも言っています!」

「隙だらけだぞ」


 僕が言った時、巨大化した手で潰そうとしてきた。みんな散らばって避けた。


「俺には見えないが、そうなのだろう。だが、あの外皮を、どう突き破るかだが……」


 師匠の言葉に僕が答える。


「僕が強化の魔法をかけます!」

「わかった。頼む」


 そして師匠は僕の魔法を受けて強化される。


(ゼクシム、お願いね!)


 僕は師匠に強化の魔法をかけると、


「これで……どうだ!」


 師匠は心臓の上部を風の剣で薙ぎ払った。


「ぐっ……!」

「効いている!」


 セルゲイは声を漏らした。


「舐めるな! ルシヴ七世奥義ーー時操針」


 何本もの針が飛び出し、師匠を貫いた。間もなくエイミーが治癒魔法をかけるが、


「止まっている……?」


 師匠は動き出すことなくずっと止まったままだった。


「メイジステン家の者は時間を止める力を持っている。我はその術を複数持っているのだ。このようになーールシヴ三世奥義ーー停止波動」


 三重の波動がセルゲイを中心に襲いかかる。耐性のある僕とすばしっこく避け切ったエイミーを除いて皆の時が止まってしまった。


「当たるだけで時が止まるこの技我が必殺の一撃!」


 セルゲイは声高々にそう言った。


「セレーナさん! しっかりしてください! セレーナさん!」


 エイミーはセレーナをゆすろうとするが、微動だにしない。


(どうすれば……もしかしたら……でも……)

(サキ、何か良い方法を思いついたのなら、教えてよ)

(あなたの身が傷つくわ……)

(それでも構わないよ)

「しぶといな小娘め!」


 エイミーは上手く分身を使いこなして停止波動を避け続けている。時間を稼いでくれているようだ。


「サキ! 何でも良い言ってくれ!」


 僕は声に出してお願いする。サキも決心がついたようで、話し始める。


(簡単な話よ。あなたの血を、メイジステンの血が流れている私達の血を触れさせるの。危険だけど、効果はあると思うわ!)

(わかった。やってみる!)


 僕は小刀を取り出し、指に傷をつける。

 近くにいるラドに血を付ける。するとラドは動き出した。


「レノン……? 俺は止まっていたのか?」

「はい。次に行きます」

「俺にも強化の魔法をかけてくれ。奴の魂の鎖とやらを断ち切ってみせる」

(残念だけど、見えない人には断ち切れないわ。私かフラウちゃんじゃないと……)

「魂の鎖を視認できない人には断ち切れないみたいです」


 サキが残念そうに言ったのを僕は伝えた。


「分かった。それなら炎の槍で外皮を貫いてみせ、何とか逃げ延びてみせる」

「わかりました」


 するとエイミーが近づいてきて、


「レノンくん。私がレノンくんを担いで運びます! そっちの方が速く動けるので!」

「わかりました!」


 僕はエイミーに担がれてエイミーが走る。全員に血を触れさせた時、


「停止波動ーー発射」

「またきた!」


 迫り来る三重波動をラドもエイミーも避け切ってみせた。


「それを使った後、お前は少しの間反動で動けない! これを食らえ!」

「ぐおおおおっ!」


 外皮が切り裂かれ、青く燃える魂が露出した。


「これが魂!」


 その様子を見て僕が言う。


「停止波動」

「懲りずにやるな!」


 もう一度避け切ってラドが言う。


「もう一撃ーー」

「停止波動」

「なん……だと……?」


 連続で使用され、ラドとエイミーは停止してしまった。エイミーはすぐ僕の血によって再度動けるようになったが、


「反動があるのは嘘だったのか……」

「勝手にそっちが読み違えただけだーーだが時間停止に耐性があるのは厄介だな」


 僕の言葉に対してセルゲイはそう答えた。


「この後我は時間が止まった貴様の仲間を殺す」

「止めろ! それだけは!」

「それなら我と一騎討ちをせよ」

(レノン……)


 どうあっても受けるしかない内容だった。だってそうしないと自分の命より大切な仲間が死ぬ。


「わかった。受けて立つーーエイミーさんは下がっていてください」

「レノンくん……でも……」


 エイミーは心配そうに僕を見る。


「勝ち目はあります。それに一騎打ちなら他の皆を戻させてください」

「了承と捉えて良いのだな?」

「はい」


 そして僕は皆に自分の血を触れさせて時間停止を解除する。


「レノン、ありがとう」


 師匠はそう言ってくれてセルゲイを見る。


「師匠! というより皆! このままでは勝ち目なく皆が時間停止させられて殺されてしまいます。だから僕はセルゲイの要求を飲んで一騎打ちをします! 皆は僕を見守っていてください」

「レノン! そんな事できないよ! 行っちゃダメだよ!」


 僕の言葉に対してフラウが叫ぶ。駆けつけようとしたのを師匠が止める。


「ゼクシムさん!? なんで!? レノン死んじゃうかもしれないんだよ!?」

「俺達のことはいつでも殺せる。レノンに全てを託すしかない」

「フラウ、分かってくれ」

「レノン……」


 そして僕はセルゲイの前に立つ。


「では始めようーールシヴ十四世奥義、時空斬」


 衝撃波でもなく、斬撃が急に僕の目の前に現れる。


「被って!」


 帽子を巨大化させて防ごうとするが、斬撃は帽子の中にも入ってきて胸を抉られた。


「くっ……今までの戦い方が通用しない……!」


 すぐ治癒魔法で自分の傷を塞ぐ。そして僕が最も信頼している魔法、サキの杖の魔力を借りた火炎竜をデカブツに向かって放つ。


「遠い」


 巨大な手に塞がれるも、手は燃え尽きた。それだけでは止まらず、セルゲイの上部へ襲いかかる。


「噛み砕く!」


 杖を左手に持ち替えて、右手で握りつぶす仕草をする。


 元通りになっていた外皮を燃やし尽くし、魂を露出させた。


「もう一発当てられれば……!」


 地面から棘が生えてきたので前に飛ぶ。


「獅子三頭分の頭、火炎竜は連射できないと見た! この勝負もらった!」


(サキ!)

(放って! そして薙ぎ払って!)

「そしてーー火炎竜!」


 僕の帽子から放つ光線は、迫り来る三頭の獅子の頭を撃ち抜いた。


「帽子から光線だと!? ぐわあああああ!!」


 その火炎竜はサキとその杖の魔力を全力で込めた一撃。普通であれば触れれば対象は消滅する一撃。そして火炎竜は、的確にセルゲイの魂に当たり、魂の鎖を砕いた。しかしーー


「うわあああああ!!」


 さっき顔を出したのはただの獅子ではなく、マンティコアのものだった。マンティコアの尾、即ち蠍の尾。その毒は僕には治癒できない。痺れさせる為、身体が言う事を聞かなくなるだ。セルゲイは最上級の魔物まで取り込んでいたのだ。


「これで決着だ!」


 セルゲイのかけ声と共に巨大な手が迫ってくる。押しつぶされて終わりだろう。


「レノン! レノオオオオオオン!」


 フラウが他の人が止めるのを振り払って、僕の元に走ってくる。僕は声も出せず、上手く動かない顔の筋肉を動かして笑顔を作ってみせた。

 ーーああ、僕の負けだ。せめて最後は、笑顔で。

 そして巨大な手は勢いよく僕の事を押し潰した。

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