115話 決戦前の想い
僕達はセルゲイの言葉を聞き、すぐにイヴォルの城に戻った。
「遊撃隊のみんな、無事だったか?」
戻ってすぐシーザーの方から会いにきてくれた。後ろにはラドとエイミーが控えている。
「はい。全員無事です。四天王ベイリーに勝利致しました」
セレーナはそう報告した。
「そうか! それは良かったーーところでセルゲイの話はもう聞いたかい?」
「こちらも聞きました。遊撃隊に明日来るようにと。私は遊撃隊のみで向かう方が良いと考えています。シーザー様はどうお考えでしょうか」
「実は私もそう考えていたんだ。私や普通の騎士では太刀打ちできないと思うし、陵墓に入ることすら許されないかもしれないーーセレーナ、ラド、エイミー、ゼクシム、フラウ、レノン、パロ。セルゲイとの戦いは君達にお願いしたい」
「それで問題ないよね?」
四天王と戦ってきた僕達全員が頷いた。
「それでは君達にお願いしよう。申し訳ない気持ちがあるけどーー」
「そこは気にしないでください。セルゲイは神になったと言いました。四天王を超える何かを持っているはずです。私達にしかできないと思っています」
「その通りだ。そこは自信を持って良いと思うよ」
「ありがとうございます」
「では各自明日の朝まで自由に過ごして良いよ。思い残しがないようにね」
「「はい」」
僕達はその言葉で解散となった。各自部屋を用意してもらい、僕は部屋の中に入った。
「どうやって過ごそうかな」
僕はポツリと呟いた。魔法の確認、誰かと話す。どうすれば思い残しがなくなるだろうか。
(ねえ、レノンーー)
(どうしたの? サキ)
(少し話しても良い?)
(良いよ)
(明日の戦い、やっぱり止めにしない?)
「今更何を言っているのさ!」
驚きのあまり僕は声を出してしまった。
(私は戦いたくないな。セルゲイが怖いわけじゃないんだけど……)
(でも、セルゲイに世界を支配されたくないよ)
(それは私もそう……なんだけど……)
(何か理由があるなら話してみてよ)
いつものサキとちょっと違うなと思い、聞いてみる。
(明日の戦いが終わったら、何もかもが終わっちゃう。ううん、ちょっと違う。そうじゃなくてーー)
(ゆっくりで良いよ)
僕はサキを落ち着かせる為に言葉をかける。
(ありがとう。ただなんか今みたいに幸せな状態じゃなくなっちゃう気がするの)
(それは……そうかもしれないね。でもそれは戦わなくても同じだよ。だから、今を守る為に戦うんだ)
(ギンに言ってハクちゃんと一緒に暮らしましょう! そうすればーー)
(それなら生きられるかもしれない。でも、僕は自分の使命を果たしたいんだ)
(使命を果たす……?)
(そう。これは僕達にしかできないことだから。それができなかった多くの人の想いを背負っているんだ。だから、僕は明日戦うよ)
(わかった。やっぱり使命から逃げちゃ駄目よねーー)
(……わかったわ。私も覚悟を決めた。もうそんなこと言わないわ)
何かを恐れていたサキは吹っ切れたようだった。
(サキーー最後まで一緒に戦ってくれてありがとう)
(レノンこそ、我儘な私と一緒にいてくれてありがとう。私はもう大丈夫よ。そうね……他の人のところに行って話をしてみましょう。みんなの声も聞きたいし)
(そうだね。そうしてみようかな)
まずはフラウから探してみることにした。訓練所に行ってみると、パロとラドがいた。
「レノンもこんな時まで訓練しにきたんだゾ?」
「いえ、今日はもうみんなと話そうかと思いまして」
「邪魔だ。他の人のところに行け」
ラドはパロの爪を受け止め、距離を取ると言った。
「ラドさんは決戦の前日まで訓練を続けるんですね」
「一日じゃ変わらないと言いたいのか?」
「言い方が悪いんだゾ。ラドはゼクシムやセレーナに勝てるように訓練するんだゾ。明日がどんな日であってもただ一日と言うことだゾ」
「俺はゼクシムやセレーナに負ける自分が許せない。今日も明日も訓練を怠る事はない」
「パロさんも一緒に訓練するんですね」
「一人だと寂しいと思うから付き合ってやっているんだゾ」
「俺は別にいらない。他所に行けと言っているんだが」
ラドは手を止めずに言った。
「まあまあ魔物でも良くしてもらっているお礼だゾ。好きでいるから気にしなくて良いんだゾ」
「……勝手にしろ」
ラドはそう言うと炎の魔法を放った。
(これ以上は邪魔になるわ)
「僕はこれで失礼します」
あの二人は大丈夫そうだ。僕はフラウ探しを続ける事にした。
(あっ、そう言えばフラウの部屋に行ってないや)
(そう言えばそうね)
僕はフラウの部屋に行ったが、
(部屋の鍵、開いてないね)
「レノンだけど、フラウ、いる?」
(返事がないわね。外に出ているみたいね)
(セレーナさんの部屋に行ってみよう)
僕はセレーナの部屋に向かった。
「レノンです。入ってもよろしいでしょうか」
「レノンくん? どうぞ入って」
僕はセレーナの部屋に入ると、師匠も一緒にいた。
(あっ、邪魔しちゃったわね)
「フラウ見かけませんでしたか?」
「うーん、お嬢様は見てないわね」
(じゃあさっさと出るわよ)
「そうですか……ありがとうございます。僕はこれでーー」
「まあせっかく来たんだ。明日のこともある。少し話していくのも悪くないだろう」
師匠がそう言った。
「明日絶対勝とうねって話をゼクシムとしていたところなの」
「どのような準備をしているか知らないが、全員の力を合わせればセルゲイを倒せるはずだ」
「ありがとうございます。師匠と話していると勇気をもらえますね」
「そうなの。ゼクシムが絶対勝てるって言うと本当に勝てちゃうから、前に旅をしていた時からね」
「その話も聞きたいですが、フラウを探してきます。失礼しました」
僕はセレーナの部屋を後にした。すると、ギンの姿が見えた。
「ギンさん! さっきはありがとうございます! お陰でベイリー、不死鳥に勝てました」
「勝てて良かった。私も身を投げ出して支援した甲斐があったよ」
ギンは誇らしげに胸を張って言った。
「どうやって時を止めたんですか? あと今僕が持っているサキの杖もです。アゲートに取られたはずなのに……」
「それは企業努力だから企業秘密さ。色々あるのさ」
「そうはぐらかさないで教えてくださいよ」
僕はギンにそう言うと、
「ダメなものはダメさ。これをあげるから勘弁してくれないかな」
そう言ってギンは僕に帽子をくれた。
「これって魔女の帽子じゃないですか!」
「いつかの戦いでなくしたんだろう? ハクが予備を用意しておいてくれたのさ。一度作れば作成時間は短くできるしね」
「あ、ありがとうございます! これっていくらになるのでしょうか?」
「今回は無料で良いよ。保証期間内だったということにして特別サービスさ」
(それだけセルゲイを倒してほしいってことなのね)
(そっかーー)
僕は改めて使命の難しさを再確認して、
「絶対にセルゲイに勝ってみせますから!」
とギンの目を見て言った。
「ああ、頼んだよ」
ギンは後ろを向いて呟くように言った。
「見つけたのです! 後輩くん」
よく通る高い声がして、振り向くとエイミーがこっちに向かって走ってきた。
「エイミーさん。すみません。僕に何か用がありましたか?」
「フラウちゃんにお願いされたのと……レノンくんが明日に向けて元気か知りたかった事かな!」
「エイミーさんは元気そうですね。明日、一緒に頑張りましょう!」
「うん! レノンくんも特に気負っている様子もなさそうだね。さすがこれまで色々冒険してきた事はあるね」
「エイミーさんも長く騎士団にいるだけあって覚悟が決まってますね」
「勿論先輩ですもの。フラウちゃんはレノンくんの部屋の前で待つって言っていたよ。行っておいで」
「ありがとうございます! エイミーさん!」
僕はお礼を言って自分の部屋に向かった。
「あっ、レノン!」
「フラウ、ごめんお待たせ。僕も探しているつもりだったんだけど」
フラウは大袈裟に首を横に張り、
「全然そんな事ないよ。探してくれていたならむしろ嬉しいくらい!」
少しうわずった声で言った。
「とりあえず部屋の中に入ろうか。そこで話そう」
「うん!」
そして二人はレノンの部屋に入った。フラウは緊張しているように見えた。
「大丈夫だよ。僕がサキの力を借りてでも絶対に倒すから」
「サキさん……」
フラウは小さく呟くと震えながら言った。
「そ、そうだよね。サキさんは、私なんかよりも全然強いし、頼りになるもんね……」
「そんな事ないよ。僕もフラウに助けられているし、勇気をもらっているから」
「本当?」
「本当だよ。それにこういうものって比べるものじゃないからさ。どっちにも助けられて本当におんぶに抱っこって感じ」
「レノンの助けになれているなら良かった。うん、私はそれだけで満足なんだよ」
フラウは言葉を押し殺すように言っているように見えた。
「そんな大袈裟なーー」
「大袈裟じゃないよ。これが私の気持ちなんだ」
(フラウちゃん、本当にそれで良いの?)
フラウはもう一度言った。二度も言うならそうなのだろう。追求してもギンのようにはぐらかされることはないだろうが、言いたくない事なのかもしれない。
「ありがとう、フラウ。話せて良かった。明日も力を合わせて頑張ろう」
「うん、一緒に頑張ろう。そろそろ明日に備えて寝た方が良いかな」
「そうだね。おやすみ、フラウ」
「おやすみ、レノン」
そしてフラウは僕の部屋を後にした。
「みんなと話せたのは嬉しいけど、疲れたな」
欠伸をしながら声に出して言った。
(不死鳥を倒した後だったし、体力良く保ったわね)
(それだけみんなと話しておきたかったんだよ。でももう満足したからすごい眠いや)
(明日は早いしゆっくり休んだ方が良いわ。おやすみ、レノン)
(おやすみ、サキ)
そして僕は明日に向けて眠りについた。




