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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
6章 皇位継承戦争
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114話 商人が持つ勝利の鍵

「セレーナは全力で防いで時間を稼ぐんだゾ!」

「わかった!」


 早速不死鳥の口から炎が放たれて、それが僕達に襲いかかる。それをセレーナが盾に全力の魔力を注ぎ込んで防ぐ。


「レノン、大丈夫か」

「大丈夫です……治癒が届いているので」

「みんな! 不死鳥が突っ込んでくる! 避けて!」


 その声を聞いた師匠は僕を掴んで回避する。


「そう上手くはいきませんかーーですが帽子がなくなった今、打ち放題ですね」


 不死鳥は、上空から火炎弾を落としてきた。その火炎弾は爆発して僕はまた吹っ飛ばされた。


「レノン!」


 フラウの声だ。僕は応答することもできない。帽子がない中どうこの攻撃を防ぎ切れば良いのか。


「くそ、帽子がないと役立たずじゃないか!」


 そう言ってゲホゲホと咳き込む。誰かの治癒魔法が僕を癒してくれる。でも、僕じゃ役に立てない。


「中々死なないですね!」


 僕めがけて不死鳥は突っ込んでくる。フラウが飛び込んできて僕を押した。


「ぐううううわああああ!」


 フラウが突進の直撃を受けて叫び声を上げる。


「フラウ? フラウー!」

「なんて無茶を……今すぐ癒すから!」

「違うよ……レノン……」

「違うって何がさ? フラウを助けなきゃ」

「今私にできるのはこんな事だけだもん」

「こんな事って、そんな無茶しちゃダメじゃないか!」

「レノンだってボロボロ……じゃなくて、レノンにはレノンにしかできない事があるから……」

「僕にしかできない事……」


 そんなこと言われたって目の前でフラウが傷ついているのにーー


(そうよレノン、違うわ)

(だから違うって何さ!?)

(今貴方が使うべきなのは帽子じゃないのよ)

(帽子じゃない……じゃあなんだよ! 何をどう使えば良いのさ! まず当たらないし……)

(それがわかれば苦労しないんだけどね……ごめんなさい)


 僕はサキに謝られて冷静になった。


(ごめんサキ。どうすれば良いか考えなくちゃ)

(うん、まずは周りを見ましょう)


 すると師匠が駆け寄ってきた。


「レノン、聞こえるか」

「師匠……? はい、聞こえます」

「もう一度治癒魔法をかけるぞ」

「ありがとうございますーー帽子がなくなっても法衣の助けがあります。これで相手に傷を負わせることができます」

「この怪我の中、認めたくはないが、その通りだ。離れていると遠距離の炎攻撃を中心に仕掛けてくるはずだ。だから近づかないといけない。飛び火するやつの攻撃と自分含めて治癒はしなくて良い。飛んで戦ってくれないか。こっちの決め手は今のところ見えない。俺も補助で前線に加わるからサキの魔力でもう一度大きいのを撃ってくれないか?」

「はい!」


 僕と師匠は浮かび上がる。


「もう立ち直りましたか。そちらの不死も噂だけではないですね」

「俺達は不死身だ」


 そう言って師匠は、近づいてから右翼を狙って巨大な風刃を放つ。それに対して、振り払うかのように羽ばたいて火炎弾をいくつも放つ。それを相殺、いや、突き破る氷柱を放つ。


「くっ……何と言う魔力なのでしょう。下級魔法でもこの威力とはーーやはり貴方から倒すのが正解みたいですね!」


 口から炎を吹き出し、僕の移動に合わせて上を向く。その後、雷が何度も不死鳥を襲った。


「下の奴らですか!」


 上を向いていたが、薙ぎ払うように下に炎を放つ。


「これでしばらく大丈夫でしょう」


 安心している不死鳥に向けて氷柱を飛ばす。炎を吐き終わった後に命中した。


「くうう……」

(効いているわ!)


 不死鳥は目を瞑り、


「こうなれば……転生の鳥の真髄、見せて差し上げましょう!」


 その目を開いて叫んだ。上を向いて、炎を吐き、自分に降りかかってくる。炎を浴びて身体が少しずつ大きくなっていく。


「流水竜!」


 僕は火炎竜の属性だけを変えた魔法を放つ。しかし、力が足りなかった。不死鳥はみるみるうちに大きくなり、やがて元の大きさに戻った。


「くそっ……やり直しか……!」


 師匠は地面を蹴飛ばす。


「こっちの魔力も十分には残っていないぞ。もう一度やられたら……それを阻止するしかない」

「でもどうやって……」

「悠長に考えさせるとお思いですか?」


 不死鳥は僕に向かって何発もの火炎弾を放つ。


「セレーナ!」


 セレーナは言われた通り盾を張るが、三発目で突破されてしまった。


「うわあああああ!?」

「かなり魔力を込めたものですからね。さあ、これでとどめです」


 不死鳥は他の人の攻撃を全く気にかけず、僕の事を足で掴んだ。


「終わりです!」


 パン、という大きな音と共に不死鳥は自らの身体を爆発させ、僕はそのまま落ちていった。


「レノンから離れて!」


 フラウが雷を纏った剣を振り回す。不死鳥はそれをみると離れた。


「これでも食らって!」


 魔法陣を展開させると、雷を落とした。


「避ける必要もないですね」


 不死鳥は残酷にそう言うと、僕に向けて炎を放った。


「レノンくん!」


 セレーナは大きな盾を出し、その炎を防ぐ。


「貴方達も魔力をかなり使っている。私も使い過ぎました。もう一度炎を浴びれば元通りですがね」


 不死鳥にとっては炎自体が命、そして魔力。浴びるだけで両方回復してしまう。そして不死鳥はもう一度炎を浴び始めた。

 そのときーー


「レノンくん、これを!」


 聞いたことがある、でもここにいるはずのない人の声がした。


「ギン……さん……?」

(なんであんたがここに?幻覚の類かしら!)

「そうだよ。私だよ、会えて嬉しいかい?」


 目の前にいたのは間違いなく銀髪の商人、ギンだった。


「なんでこんなところにいるんですか……じゃなかった! 危ないです! 逃げてください」

「大丈夫さ。みんな止まっているし」

「えっ?」


 辺りを見回してみると、不死鳥も仲間もみんな止まっていて、僕とギンだけが動いていた。


「それよりレノンくん。あんまり時間がないんだ。これを受け取ってくれるかな?」

「これって、サキの杖じゃないですか! どうやって手に入れたんですか!? しかもどうやって今時を止めてーー」

「難しいとこは考えなくて良い。今は勝つ事だけを考えるんだ。じゃあ私は戦わないからさよならだね」

「待ってーー」


 そう言おうとしたとき、


(今は勝つことだけを考えましょう。杖から魔力は引き出せるから、魔力の管理は任せて!)


 サキは言った。身体を動かす僕も切り替えなくては。杖から魔力を取り戻し、傷も完全に癒した。魔女の法衣のお陰か、全身に痛みが走るようなことはなかった。


「よし! 調整バッチリだ! これで一緒に戦おう、サキ!」

(うん!)


 そして時は動き出した。


「流水竜!」


 さっきのとは比べ物にならないくらいの大きな竜が、不死鳥に食らいついた。


 僕の魔法は不死鳥に直撃する。不死鳥はサキの杖で強化された魔法を受け、巨大な身体が一目瞭然に小さくなった。


「何が起きているんだ!? あの不死鳥が小さくなる方が速い!」

「どういうことですか!? この私が押されるなんて、何が起きているんです?」


「この勝機を逃さない!」


 僕は続けて氷柱を放ち続ける。不死鳥はそれを避け、


「何度も立ち上がって……やはり、やはり貴方が邪魔ですね!」


 そう言いながら僕に飛びかかってきた。しかし、小さくなっているし、空中だと逃げ道が多い。僕はそれを躱すと部屋の隅まで降りた不死鳥に流水竜を放った。


「それだけは当たりません!」


 狭い角の部分で充分に翼を広げられず、前に飛び出す形になり、倒れ込んだ。


「なんと!」


 魔法陣が展開され、雷が何発も襲う。そして遠くから巨大な風刃が飛んできて、それも命中した。


「くわああああああああ!!」


 思いっきり怯み、隙を見せる。


「流水竜!」


 もう一撃受けた不死鳥はさらに小さくなり、巨大化したパロよりは小さいくらいの大きさになった。そして再び飛び上がる。実体と炎を使い分けられるらしく、今は実体がない状態だから濡れて飛べないなんてことはないらしい。


「まだまだこれからですよ!」


 魔力を込めた火炎弾を放つ。


「今の僕なら、これくらい!」


 光の壁で、完全に火炎弾を防ぎ切った。


「遠距離は通用しませんか……!」


 もう一度僕に向かって飛びかかってくる。僕よりも速い。僕はそのまま掴まれる。


「捕まえた! 爆破します!」


 僕はそのまま爆破攻撃を受ける。


「流水竜!」


 痛みを感じながら魔法を唱える。しかし、小さくなった影響が出て、爆破した際に不死鳥も飛ばされており、距離を取られていた為、当たらなかった。


(氷柱なら当たっていたかもしれないのに……! 間違えたか……!)

(レノン、勝ちを急いではダメよ)

(うん……そうだね)


 治癒魔法を受けながら僕はまた立ち上がる。敵も小さくなって身軽になっている。お陰で隙間まで小さくなっており、あと一、二発流水竜を当てられれば倒せるはずなのに当てられない。


「もう一度!」


 不死鳥は、僕に向かって突っ込んでくる。僕が避けると、直線移動だけではなく、曲がって追いかけてきた。


「嘘だろ!」


 僕は再度捕まり、爆破されると思った瞬間、


「ぎょえええええええ!!」


 不死鳥の悲鳴がする。見るとフラウが雷の魔法で作った剣が突き刺さっていた。


「動きが止まった! 今だよ!」

「流水竜!」

「ぎょえええええええええええ!!」


 込められるだけ魔力を込めて放った。それを受けるとみるみる小さくなり、パロより小さいくらいになった。不死鳥は直立し、白旗を上げるように翼を広げた。


「ぐふっ……私の、負けを、認めましょう……! これ以上小さくなると、喋れなくなるので」


 小さくなった不死鳥は威厳なくそう言った。


「不死鳥は転生すると言ったな。今代は終わりにする。それで問題ないな」


 師匠はまだ油断ならないという様子で尋ねる。


「最期まで、いや、永遠を同志セルゲイと生きたかったです。私の考えは最期まで変わりません。邪魔をされたくなければ、ここで仕留めてください。因みに次代に記憶は引き継ぎません。ご安心を。次代が育つまで守ってくれれば幸いです」

「わかった。レノンーー」


 意思の疎通がとれて無抵抗な者に撃つのは躊躇われるがーー


「わかりましたーー氷柱」


 そう唱えると氷柱が飛んでいき、不死鳥の炎を消し去った。そして核となっていた部分に手のひらで握ることができる石となった。


「終わったなーー」


 師匠がそう言った時ーー急に大きな地震が起きた。


「地震だ!」


 大地が揺れる中、声が聞こえてきた。


「聞こえているか諸君。我はセルゲイ。世界を支配する皇帝である」


 声の男はセルゲイと名乗った。その割に声は若かった。


「何が世界を支配するだーー」

「レノン、今は静かに聞こう」


 フラウが僕が叫ぶのを止めてくれた。


「我は永遠を手に入れた。我は神となった。我が全世界を一つの帝国として統べる。よって戦争は不要である。直ちに終戦をせよ」

「永遠を……手に入れた……?」


 呟くように師匠は言った。


「勿論不満がある者もいるだろう。特に北部の者にな。元陵墓、現神殿となった地に、四天王を倒した勇者どもよ。明日我に挑みにくると良い。そこで決着をつけようではないか」

「決着……!」


 僕は思わず口に出してしまった。


「北部の最後の抵抗に期待しているぞ」


 セルゲイの声が聞こえなくなったと同時に地震も治まった。


「今のは……?」

「一旦城に戻りましょう。城でも聞こえているはずよ」


 そして僕達はパロに乗ってイヴォル城に飛んで戻った。

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