111話 四天王ルクレシウス
「くっ……俺は諦めないぞ!」
ラドは伸びてくる岩の棘を切り倒す。そして砂になった瞬間に炎で燃やした。
「無駄無駄! 全部地面に落ちた時に魔力として取り込まれるだけさ」
壁から手が伸びてきてそこから岩が飛んできた。僕はそれを自動障壁で弾く。
「くそ……何か良い方法があれば……!」
「攻撃は壁から出る分単調だが、引き返す事さえできない。しかも砦のどこに行っても変わらないという有様だ」
「私達がいないと本隊も、セレーナさんも厳しいですし!」
師匠にエイミーも焦って声を上げる。
「単調でも勝てないのであれば効果的だ。諦めた時に処理できるし、焦った時は過ちも起こす」
ルクレシウスは淡々と述べる。
「うるさい!」
「止めろラド。消耗戦だ。魔力の無駄遣いだ」
「わかっているが……!」
砦が戦うなら特に意味はないと思われたが、ルクレシウスを残すことに意味はあるのかもしれない。
「はぁ……はぁ……」
「ラドさん。大丈夫ですか……?」
「気にするな……これくらいどうってことない……!」
そうは言っているが、僕から見てもきつそうだ。
(レノンは大丈夫?)
(比較的には、ね。サキの魔力の分僕はまだ戦える……!)
腕や岩の棘などの行動を耐え続けてこっちも消耗してきた。
何度も切り落としているが、あちらは弾切れはなさそうだ。
そのとき、急に天井が迫ってきた。地下が潰れたのだ。
「新しい攻撃か!」
「防ぎます!」
「助力する!」
「私も!」
全員で壁を、作り受け止めて、押し戻した。
「どうすれば……!」
今度は吊り天井が落ちてくる。
「今度はそうくるか!」
僕はそれも防ぎ、少し経った後、元に戻っていった。
「レノン、助かった」
「はい! でもどうすれば……!」
壊しても全部魔力の砂になる。その魔力を再利用するから永遠に攻撃ができる。
「吸った魔力を再利用する! ここだ!」
(レノン! 何か閃いたのね!)
「何か分かったのか?」
全員が僕の方を向く。
「僕の帽子が魔力となった砂を吸います! そしたら再利用もできないはずです!」
「なるほどなんだゾ。じゃあ今まで通りぶっ壊すのみだゾ」
岩の棘が伸びてくる。それを風の刃で撃ち落とす。落ちた岩の棘は砂となる。
(吸って!)
帽子はゴミ掃除をするみたいに砂を吸い込んだ。
「なるほど。考えたな。こうなれば根比べか。戦術としては降参だーー」
ルクレシウスがそういう間にも砂は吸い込まれていく。途中から棘や腕ごとどころか吊り天井も吸えるとわかり、どんどん砦の魔力を吸っていった。
「それならレノン。お前を殺す」
ルクレシウスの中に砂が取り込まれていく。これで戦えるようになるようだ。
「させるか!」
風の剣で短剣を吹き飛ばし、突き刺す。
「ぐっ……!」
(吸って!)
そしてそのルクレシウスすらも砂となり、僕の帽子に吸われる。今度は、物凄い勢いで砂が集まり、僕の目の前に、砂の巨人が現れた。岩の戦士も地面から生み出され、僕達を囲む。
「そんな足掻きなど、敵ではない!」
ラドは、肩から腰にかけて斬りつけると、斬ったところが爆発した。
それでも巨人は倒れず、僕に向かって剣を振るう。
「レノンくん、避難するよ」
エイミーは僕を抱えて飛ぶと、剣の攻撃を回避しながら置き土産で巨人の足元を爆破させ、態勢を崩れさせた。
「とどめはささせてもらおう」
師匠がそう言って倒れ込んだ巨人の胸に風の剣で風穴を開けた。
「僕も応戦できます!」
岩の戦士達の攻撃は、自動障壁で防げるため、僕には届かない。
(サキ! 頼んだ!)
(放って!)
吸った砂の魔力を光線に換えて解き放った。
「うおおおおおおおおおお!!」
巨人は悲鳴をあげると、砂になっていった。
(吸って!)
「超風刃の竜巻で周りも大体片付けたんだゾ」
それらの砂も吸い込む。そしてついに砦は姿を消した。
「やりました!」
「四天王、ルクレシウスを倒したぞ!」
大きな声で僕達は喜びを分かち合った。
「ちょっと待ってください皆さん!」
エイミーがみんなを呼び止めた。
「ここに更に地下通路があります。ルクレシウスの拠点かもしれません。行ってみませんか?」
全員が頷き、地下通路を進んでいく。
「途中まで行って天井が落ちなければ良いんだゾ」
「十分体験したからもし起きても大丈夫だろう」
パロと師匠でそんな話をしながら、地下通路の奥に到着した。扉がある。
「入るぞ?」
ラドの言葉に全員が頷いた。そして部屋に入った。
「よく来たな北部の遊撃隊よーー」
そう言ったのは、骨と皮だけの老人で、坐禅を組んでいた。
「貴様、何者だ」
「何者とは気付いておらんかったのか。儂がルクレシウスじゃよ」
「貴方がルクレシウス……? というと……?」
「儂が本物のルクレシウス、今まで戦っていたルクレシウスは儂が若かった頃の人形じゃ」
本物、という言葉を聞いて僕達は武器を構える。
「落ち着きなされ。儂に戦う力はもうない。ただの老耄じゃ。最後に話を聞いて、答えてくれないかの」
「何故南部の者の話なんかーー」
「良いですよ」
僕はラドが言い終わる前に即答した。
「おお、そうか。聞き分けの良い者がいて儂は嬉しいぞーー」
ルクレシウスはそう言うとーー
「お主らは永遠についてどう思う? 暴君の時代がなく、正しく生きれれば、永遠に安定した生活を送れるというそんな世界を」
「理想的だが、理想論だ。必ず暴君が出る」
ラドは答えた。
「セルゲイ陛下は自らが君主となり、そんな永遠に安定した世界を作ろうと考えている」
「セルゲイが名君だと言うのか?」
師匠が聞く。
「私はそう考えている。人生を振り返るとな。だが、それを決めるのはお前達だ。自らの君主とセルゲイ陛下どちらが名君か、セルゲイ陛下は永遠を求め、永遠に拘り、やがて手にするだろう」
「アメリア陛下が理想だ。それで終わりだ」
「でもセルゲイが何を考えているかわかりました。そして貴方が何の為に戦っていたのかも」
「……ああ、その言葉だけで儂は満足だ。介錯してくれ」
「……はい」
こうして、四天王ルクレシウスは倒された。
◆
「ゴーギャンが砂になりましたね。ルクレシウスがやられたようです」
「……そうか。我が同志よ。よくぞ今まで共に戦ってくれたな。帝の影としても、四天王としてもだーーだがお陰で実現までまた一歩進んだぞ」
セルゲイは自分の身体を動かし、自分の手を見て言う。
「後は必ず、永遠を手に入れなければな」
セルゲイは力強く言った。




