110話 岩の砦
「あれが岩の砦か」
魔法で遠視をして師匠が言う。
「恐らく砦に沢山の岩の戦士が……岩の戦士には風刃の竜巻が効果的なんですよね?」
僕は師匠に尋ねる。
「ああ、首を落とすことに意味はなく、腕だけだとそれをくっつけるだけで復活するからな。風刃の竜巻は魔力を込めて撃てばバラバラにできる。ゆえに有効だ」
師匠は砦を見ながら答えた。
「それは前もってゼクシムから聞いていたので、本隊の方にも伝えてありますーーそれより、準備は良いですね?」
セレーナは真剣な顔つきで言い、全員が応えた。
「全軍! 岩の砦に向けて出陣!」
「「おおおおおおおおおおお!!」」
リューナ騎士と女帝騎士が一斉に剣を抜いて走り出す。
「「おおおおおおおおおおお!!」」
帝国騎士もそれを向かい受ける。そしてーー
「出てきた! 岩の戦士だ!」
岩の戦士が走り出し、こっちに向かってくる。
「任せたぞ! セレーナ!」
「そっちこそお願いね!」
セレーナとラドは言葉を交わすと、
「行くぞ! 岩の砦に!」
「わかりました!」
岩の戦士に風刃の竜巻を放ち、そして帝国騎士を倒しながら岩の砦に向かって走る。そして砦の入り口にまで辿り着いた。
「全員揃っているな。入るぞ!」
僕達は砦の中に入る。すると岩の壁で入口を塞がれた。
「退がれないか……!」
そこには岩の戦士がびっしりと並んでおり、一斉に動き出した。
「風刃の竜巻!」
僕が唱えると、二、三体は粉々になった。
「レノン! 後ろだ!」
後ろから無言で振り下ろされる剣を僕は自動障壁で受け止める。
「地下から湧いているのか……? 見た目に騙されたが、これは地下工場と呼んだ方が近いかもしれないな」
「言っている場合か! なんとかしないとキリがないぞ」
落ち着いた口調で処理をする師匠に対し、ラドは怒りの声を上げる。
「地下にルクレシウスがいるかもしれないなーー」
そう言った瞬間、師匠の足元から巨大な岩の棘が飛び出してきた。直撃は避けたが、右腕が貫かれた。
「ぐっ……! 何だ、これは……?」
「岩の柱……? どこかにルクレシウスがいるのかもしれません!」
僕の声にパロが飛び上がり、辺りを見渡す。
「岩の戦士以外いないんだゾ」
「パロ! 逃げて!」
パロがその場を離れると、直後に岩の棘が飛び出してきた。死角からだからいきなりに見えるが、予備動作や飛び出す速さは前戦った時と同じだ。
「今の僕なら、躱せる!」
僕に向かって伸びてきた岩の棘を完全に回避して見せた。
「私の攻撃を躱したな、少年」
床から声がすると、一人の男が床から姿を現した。
短剣を抜き僕に振りかざす。僕は光の壁を作り出して二、三度防ぐと、大きな岩を作り出し、飛ばして僕の障壁を突き破った。
「ぐはっ……! うっ……」
(レノン大丈夫!?)
僕は治癒魔法を使って受けた傷を癒す。その隙に男はーー
「砦よ! 壁を!」
そう言うと、巨大な壁で部屋を隔てて、僕と男だけの空間を作り出した。師匠かラドか、すぐに魔法がぶつかった大きな音が鳴ったが、ヒビもできなかった。
「この壁は私以外誰も開く事はできない。まずは貴様からだ。岩の柱を躱すとは面倒なやつだからな」
「お前、ルクレシウスだろ。僕は知っているぞ」
「大分昔に会った事があったなーーその時はまさか君が第二の器だとは知らなかったがね」
「僕が第二の器だって……?」
(そうよ。でも、情報を与えて動揺させる作戦かもしれないわ。乗せられてはダメよ)
第二の器、確か不完全だとレックに言われたがーー
「まあ三の器が器だけになり、中に入れるようになった今、ただ駆除すべき存在だがな」
短剣で攻めつつ、岩の棘を壁から伸ばし、攻撃してくる。
「どういう事だ!」
「器だが、もう貴様は不要ということだ」
今度は天井ギリギリの大きさの岩を転がしてきた。もう一度壁に魔法がぶつかった音がした。
「火炎竜!」
それを僕の持つ最大の魔法で打ち砕く。しかしーー
「ぐおわっ!?」
巨大な破片が僕を襲った。頭にぶつかり、ぐらぐらする。
「貴様の、貴様に憑依している魂はまた別だ。セルゲイ様に献上する価値がある。だから殺すまではする」
「くっ……! だけど……!」
僕は治癒魔法を使い、自らの手で傷を塞ぐ。まだ戦える。僕はしっかりと立ち上がる。
「不死身のリューナの化け物め!」
ルクレシウスは、短剣を僕の腹に突き刺そうとしてきている。障壁では近過ぎる。それならーー
「くたばれ! 第二の器!」
バキッというと音が鳴ると、短剣の刃の部分が宙を舞っていた。
「何!? 剣が折れただと……!」
ルクレシウスはすぐさま退がった。強化の魔法でローブを強化していたのだ。魔女の法衣は、鎧よりも堅い。そしてもう一度壁に魔法がぶつかる音がする。
「どういう事だ……!」
「お前の言う通りには、事が進まないということだーー火炎竜!」
僕は壁に向かって魔法を放つ。すると向こう側でも同時に魔法が放たれて壁が壊れた。そして全員が僕の元に駆け寄る。
正確に言えば、分身しているエイミー以外は、だが。
「もう岩の戦士は全員倒した。出てきた瞬間エイミーが倒している状態だ」
「何故同時に魔法を当てられた?」
「等間隔で撃っていたからな」
ルクレシウスの問いにゼクシムが答えた。
「なるほど。勉強になった」
「そうか、ならば死ね」
師匠が風の剣で、ルクレシウスを切り刻んだ。
「ぐおああああああああ!!」
ルクレシウスの胴体は二つに分かれて砂となり、消えていった。
「偽物か……!」
「メイジスは強くなればなるほど死から遠ざかろうとするものだ。これもルクレシウスの守り方なのだろう」
「これからどうする? 無限湧きする岩の戦士の処理はエイミーの分身に任せるとしてーー」
「地下に降りよう。そこにルクレシウスの本体もいるはずだ」
「ちょっと待ってください。ルクレシウスが妙なことを言っていたので、共有させてください」
「あの男。何を語った?」
師匠は尋ねる。
「僕が第二の器で、憑依しているサキの魂は献上する価値があると言っていました」
(絶対にさせないけどね!)
「なるほどな。それなら俺じゃなくレノンに憑依できた理由にもなるがーー今の戦況には関係ない話だな」
師匠は歩き始めながら言った。
そして僕達は地下に降りていった。地下に降りると広い空間がある部屋があった。
「素晴らしい。よく地上の激戦を抜けたな。だが今度は一味違うぞ。相手するのは砦本体。俺を倒しても砦さえあれば何回でも蘇る」
そう言うと、ルクレシウスの動きとは関係なく岩の棘が飛び出してきた。僕は治癒魔法で、岩の棘に当たった傷を癒す。
「俺はあくまでこの砦の擬人化、案内役と言っても良い存在だ」
「ふざけるな! これで死ね!」
ラドが炎を剣に纏わせて一撃を加えた。それを避けずに剣がルクレシウスに突き刺さる。しかし、砦の一部を砂として取り込み、再生した。
「何だと!?」
「だから言ったであろう。それでは、何の意味もないと。砂の魔力がある限り、貴様らは私を倒せない」
「再生する砦を壊す方法なんて一気に吹っ飛ばす以外わからないんだゾ」
壁から伸びてきた岩の棘を砕く。砕かれた岩の棘は砂となり、取り込まれていった。
「この砂は魔力だからな壊しても再利用できるのさ、ハハハハハハ!!」
ルクレシウスは余裕たっぷりに高笑いをした。




