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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章おまけ 日陰の向日葵
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5章おまけ 日陰の向日葵 後編

「エイミーくん。また君は剣を無くしたのかね」


 無くしたのではない。折られたのだ。


「エイミーのせいで仕事で怪我しちまったぜ」

「なんて可哀想な。それじゃあ同じようにしてやんないとな」


 何もしないで全部私に押しつけたから不意打ちを食らっただけだ。しかも暴力は治癒魔法で隠せるから、裏では平然と行われていた。


「いつも俺達に迷惑ばかりかけているくせに昇進とはな! 強いんだから片付けも俺達がするより速く終わるよな?」


 前は違う言い分だった。昇進しても妬まれるだけだった。


「お前実践で結果出すからうざい。人の見せ場取ってんじゃねえよ」


 先輩を立てなければ生きていけなかった。本当に嫌な記憶だ。だけど強く植えつけられたせいで忘れられない。


「エイミーちゃん大丈夫!? 今度は誰にやられたの? 後で言っておくからね」


 セレーナはまるで太陽だった。私のことを助けてくれたけど、本当に言っておくだけで、何の改善にもならなかった。でもこの光が唯一の光だから、私は縋るしかなかった。



 ◆



 エイミーが僕に接急近してくる。


(レノン! 被って!)


 僕はそれを帽子を盾とすることで防ぐ。


「足りなかった……足りなかった……足りなかった……! 私はもう虐められたくないし虐められている人を見たくもないーー」


 エイミーはそう言いながら何度も帽子に突き刺し続ける。


「なんでレノンくんは嫌なの?」

「騎士団の仲間を傷つけたら悪だからです。エイミーさんには悪者にならないでほしいからーー」

「……わかった」

「エイミーさん!」


 僕はエイミーが納得してくれたと思った。だが、


「わかっちゃった! その通りよ! レノンくんの言う通り! 私はレノンくんの為じゃなくて、正義の為じゃなくて、私の記憶の悪を思い出しているだけなんだ!」


 わかったの意味は僕の思っているものとは違った。


「エイミーさん……!」

(どうして……!)

「だって傷付ける時のやり口だって同じだもんね。でも悪くなくないかな? 私酷い目に遭ったもの。仕返しする権利はあると思うな! 別に悪でも良いからさ。そしてさーー」

「悪ならもっと大きく暴れても良いと思うんだよね! 貴方達は私の邪魔だから容赦なく潰す!」


 そう言ったエイミーは二人に分身し、急接近して二方向から僕に斬りかかってきた。光の壁を展開するが、一撃で砕かれてしまった。


「レノンはやらせないゾ」


 パロは風刃を混ぜた突風を巻き起こし、吹き飛ばそうとするがーー


「これなら届く!」


 自らが傷つくのを無視して僕に短剣を突き刺した。


「ぐわっ……!」

「邪魔!」


 僕に治癒魔法をかけようとしたパロに、分身したエイミーが、短剣を突き刺すとその先端が爆発した。


「ぐへーなんだゾ」


 パロは吹き飛ばされて倒れ込む。


(強化魔法の段階も上げている。爆発による強化攻撃まで。でもーー)

「今の雰囲気あまり効いていない……?」

「そんなことないんだゾ。さすが副医長だと感心したゾ」

「治癒する隙を与えない!」

(こっちも!)

「うん!」


 エイミーが僕を。分身エイミーが追撃をする為に倒れ込んだパロに近づく。

 僕は被害を受けること覚悟で障壁をもう一度使い、パロはもう一撃食らわせようとしたところを躱した。その後高く飛び上がった。


「流星を!」


 エイミーは、飛び上がったパロを撃ち落とす為に、大きな火炎弾をいくつも降らせた。


「こういう訓練はティマルスでもやるんだゾ」


 全ての流星を躱してみせた。そして、気づいたら僕の傷は癒やされていた。


「こういう上級魔法を使うのは、私の役目じゃないんだけどな!」


 巨大な氷の爪、不意に襲う雷撃、地割れと岩の棘と次々と僕を襲った。

 それを躱し、受けたとしても治癒し、魔女の法衣の力で浮いて乗り切った。


「こんなんじゃいつまで経っても決着がつかないーーでかいのを打ち込んで恐ろしい目にあわせるしかない!」


 エイミーは全ての分身を、光の球にして自分の中に取り込むと、魔力を集中させ始めた。


「エイミーさんの昔の話は、ロジムスさんから聞きましたし、これまでの戦いからも辛さは伝わってきました。まだ足りないのなら、全部それで吐き出してください。僕も全力でお相手します!」

「それならーーこの光線で終わりだあああ!!」

「火炎竜!」

(全力で!!)


 二つの魔法が激突する。魔女の法衣のお陰でサキの魔力も更に効率良く借りられた。そんな最強の一撃はエイミーの光線を押し込んでいき、打ち勝った。


「負けちゃった……私先輩なのに……」


 エイミーはそうは言うが、倒れているだけでもう直撃した傷は癒えている。


「エイミーさん、もう治癒してますよね。まだ全然平気なのに……」

「今の魔法で全部出し切っちゃった。まさか押し負けるなんて、レノンくんは強いね」


 倒れ込んだままエイミーは言った。


「何故魔法の一騎討ちを? エイミーさんはそれが得意なわけでもないのに、いくらでもやりようはあったのにーー」

「そう。分身を使って首を飛ばすくらいならできたんだけど、戦っているうちに、何で虐めのやり返しをレノンくんにしているんだってロジムスさんに言われたら、戦う気がなくなっちゃった。だから今の感情を思いっきりぶつけちゃえって。そしたら全部飛んでっちゃったみたい」

「エイミーさん……」

「もう今日は辻斬りしないから安心して良いよ」


 エイミーは手をひらひらさせて言った。


「これからはーー」

「大伯や偉い人に止められた時は何も知らないくせにって思った。私が守る側のレノンくんにこんなに反対されるとは思ってなかった。黙認されると思っていたから。それなのに、歳下の後輩に全力で止めに来られて、こんなに懇願されて、別に楽しんでいた訳じゃないのに何してるんだろうって」

「やっぱりエイミーさんは優しいですね。辻斬りを楽しんでいるわけじゃない。ただ他の方法を知らないだけじゃないですか」

「でも他の方法は甘いから……! セレーナさんに任せても裏で横行するし……」

「他の方法ならいくらでもあるはずだ。一つ一つ探していけば良い。私も手伝う」


 ロジムスが、エイミーに歩み寄りながら言った。


「僕もです」

「私も探します」


 それを聞くとエイミーは息を吸い込んで、


「ーーロジムスさん……それに、手伝ってくれるなんて、私は良い後輩をもったなぁ……」


 戦っている時とは違う安らいだ表情をして言った。


「辻斬りをするのは止めにする。だけど、レノンくんも一緒に代わりになるものを探してね。勿論ロジムスさんもミスティーリアさんも!」

「はい」

「時間を取る約束をしよう」

「力になって見せます」


 こうして、僕達とエイミーの戦いは終わりを告げた。



 ◆



「荷物くらい一回で運べよ。騎士の手伝いをするのが従騎士のしごとだろうが」


 騎士の男が従騎士に言う。


「申し訳ございません。無理なんです。どうしてもその荷物が重くて……」

「気合いが足りないやつだな。他のやつが従騎士なら良かったのに。言っても仕方ないか。おら、運べ!」


 騎士はいつまでも動かない屈んでいる従騎士の背中を蹴った。


「運んどけよ。お前は俺の従騎士なんだからな!」

「それは聞き捨てなりませんね。しかも暴力は良くありません」

「エ、エイミー副医長! これはーー」

「荷物くらい一緒に運べば良いじゃないですかーー」

「それより、その後の発言と暴力はいけませんね。夕食後にエイミー裁判所にまで来てください。選りすぐりの裁判員が貴方の罪を裁きますので」


 もう辻斬りは起きない。その男は結果、従騎士を失ったという。



 ◆



「陛下、レノンくんにロジムスさんにパロさん、ミスティーリアさんまで、時間を取ってくださりありがとうございます」


 玉座の間でエイミーは言った。


「辻斬りをするのは止めるのですね」

「はい。私が間違っていました。深く反省しています」


 エイミーは深々と頭を下げた。


「その行為の全部が間違っていた訳ではありません。反省して次に活かせそうですね」

「はい。今度はみんなで話し合って平和的に解決するようにしました」

「一部では処置が過激で改善の余地があると言われていますが、そこは任せましたよ」

「はい! お任せください!」

「エイミーは下がって良いですよ。他四人には話があります」

「はっ、では失礼致します」


 エイミーは玉座の間を後にした。


「三人共、よくやってくれましたね。褒美を取らせましょう」

(やったわね! 甘いものでもいただきましょうか!)

「話を聞いた時、解決しなくてはと自発的に思った為、褒美は僕はいらないです」


 僕はアメリアにそう話した。


「レノンと同じです。エイミー副医長の問題が解決された事が我々一番の褒美です」

「ロジムスさんと同じ考えです」

「リューナ=イヴォル王国を自由に移動できる通行証明書がほしいゾ」


 三人がそれぞれ言った。


「分かりました。パロはそのようにしましょう。騎士三人には借りですね。私は恩に報いる為、何か困った事があれば教えてください」

「承知致しました」

「ではこれで終了でよろしいですね?」

「はい。陛下」

「では退がって良いですよ」

「「「はっ」」」

「わかったゾ」


 僕達も玉座の間を後にした。するとエイミーが待っていた。


「ミスティーリアさんもう言ったの?」

「いえ、実はまだで……」

「では今言ってしまいましょう!」

「レノン!」

「はい!」

「私は貴方を見ると自分が惨めになると言ってしまいましたが、今では逆に思えます」

「逆……ですか?」

「私はエイミー副医長の辻斬りに頼ってしまっているところがありました。だけど貴方は違かったーー貴方はこの王国の従騎士の誇りです。エイミー副医長と戦っている姿を見て、実力と心の強さを感じました。私より優れていると素直に認め、目標にしたいと思います」


 ミスティーリアから手を差し出された。


「そんな大層なものではないですが、仲直りできるならーー」


 僕はミスティーリアと握手をした。


「良かったー!」


 エイミーは喜びの声を上げた。


「じゃあ、今日も訓練とお仕事、頑張りますよー!」


 僕達の日常の闇に潜んでいた不安はなくなった。このまま平和な日々が続けば良いと思った。

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