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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章おまけ 日陰の向日葵
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5章おまけ 日陰の向日葵 中編

 外が暗くなった頃、騎士の宿舎のとある部屋。

 今日も一日働いた騎士が眠ろうとした瞬間。鍵をかけたはずの扉が開いた。


「何者……って! 貴女は!」

「貴方を罰しにきました」


 そして短剣を抜く。


「あれは……先程言った通り叱咤激励の類でして……ってぐわあああ!」


 話終わる前に目に見えない手捌きで斬りつける。血が噴き出した。


「そう言えば全て許されると未だに思っているんですね」

「ぎゃああああ!!」


 騎士は、上手く逃げようとするも、もう一度斬りつけられる。


「私が間違っていました。私が間違ぐわぁ……!」


 また斬りつけられる。そして、


「へっ……?」


 その傷は塞がっていく。


「殺そうとは思っていません。最後には傷一つない状態で帰します。ですがーー」


 短剣を持った騎士は唇を噛み締め、鬼のような形相で、


「これで終わりではないですよ」


 と言った。



 ◆



「それにしても、どうすれば良いんだろう? 戦えばどうにかなるというわけではないし……」


 これを言っているのはエイミーだ。つまり仲直り大作戦の件だ。


「やっぱり時間を取って話し合いの方が良いかもしれないね。と、おーい!」

「エイミーさん! ちょっと!」


 早速見つけたようで手を振った。するとミスティーリア側のエイミーが先輩の手を引いてやってきた。


「あっ、ミスティーリア先輩……」

「なんですか?」

「お、おはようございます」

「後から来た優秀な貴方がいるせいで、今でも努力しているつもりの私が惨めになる。近寄らないでください」


 ミスティーリアがそう言うと、


「そんなこと言っちゃダメですよ! レノンくんは折角仲良くしようと思っているのに、そんなのはあんまりです!」

「そうですよ。いるだけでってもうどうしようもないじゃないですか。言われる側はどうすれば良いのですか?」


 二人のエイミーは言う。


「見るだけで上手くいかない自分を思い出すので、どうしようもないんですよ! だから目を合わさないのが一番です!」


 ミスティーリアがそう言うと、


「レノンくんが可哀想だと思わないんですか?」

「彼の事を考える余裕なんてありません……!」

「そんなの……酷すぎますよ……私の時と同じじゃないですか」


 そう言い残して、ミスティーリアと一緒にいたエイミーが去っていった。


「エイミーさん待ってーー」


 僕は呼び止めるも、エイミーは応える事なくそのまま去っていった。


「ミスティーリアさん……」

「やってしまいました……! エイミー副医長のトラウマを……! ざまあみろとでも思ってください!」


 ミスティーリアは走っていってしまった。


「レノンくん、大丈夫? 辛くない?」

「辛いですが、大丈夫です。エイミーさん。僕よりミスティーリア先輩をお願いできますか? 心配ですけど、僕じゃ多分ダメなので……」

「わかった。だってーーあれとそれとでは話は違うもんね」


 するとエイミーはミスティーリアを追いかけていった。


「心配だけど……!」

(なにもできないわ。それよりエイミーがどっか行ったわよ)

「ロジムスさんのところに行こう」


 僕達はその足でロジムスのところへ向かった。そして先程起きた出来事を話した。


「話の内容は理解した。辻斬りを止めるなら、必ず戦いになる。レノン、オウム、私、ミスティーリアくん。この状態でエイミーくんと戦って勝率は三割と言っても良いだろう」

「やはりそれ程までに強いのですか」

「強い。エイミーくんは六歳の頃から騎士団に入って十年になるが、七、八歳の時点で私を上回る魔力と実戦経験を備えていた」

「そんな……!」

「だがやると決めたならもう仕方がない。私もエイミーくんに辻斬りなど、もう一度もしてほしくはない」

「ありがとうございます。とても助かります」


 そして僕達は夜を迎えた。

 騎士の宿舎のミスティーリアの部屋。辻斬りを止める為だと言う目的をミスティーリアにも話した。


「何でレノンくん達がここにいるの? ロジムスさんまで!」

「辻斬りからミスティーリア先輩を守る為です」


 ミスティーリアの前に立ち、僕は言う。


「知っていたんだ。でもこれはレノンくんの為なんだよ?」

「僕はエイミーさんにそんな事してほしいとは思いません」

「そうなんだ。でも止める気はないけどね」


 僕はキッパリと言うが、エイミーも同じように答えた。


「みんな同じです。今更行動は変えられない。今夜僕は、エイミーさんを止めます」

「悪の敵は正義、正義の敵は悪。よってレノンくんも悪。それで良いの?」

「僕はエイミーさんを正義とは思えません」

「私は間違っていない。悪い事を言うから仕方なくやるだけ。本来の趣旨とは違うけど、こんなに人数がいるなら外で戦おう。私が正しいってしっかり教えてあげるからね」


 そして僕達は外に出た。ここならば広く、大人数でも戦いやすい。


「エイミーさん。もう一度言いますね。僕は辻斬りなんて望んでいません。こんな事止めましょう。セレーナさんだって望まないですよ」

「そうでしょうね。セレーナさんはしてくれなかった。だから私がやるの」

「レノン! 後ろだ!」


 ロジムスの声に反応して後ろを向き、


「被って!」


 帽子を被り、阻止しようとするが、短剣による一閃の方が早かった。僕と話しているエイミーとは別の彼女による一撃。血は出たものの浅い。この程度なら魔女の法衣の力で自然に完治できるが、パロが何も言わずに治癒魔法をかけてくれた。


「これを……凝縮して……!」


 僕は小さな魔法陣を自分の目の前に浮かび上がらせ、風刃の竜巻を応用して、師匠が使う風の剣みたいに展開する。それで何回か打ち合って、真後ろにいたエイミーに距離を取らせる。


(私の魔力の細かな調整も上手くできているわね。さすがハクちゃんが作った法衣だわ!)


「話の途中に攻撃とは卑怯なんだゾ。騎士にあるまじき行為だゾ」

「その通りかもしれないね。私は騎士として相応しくない存在かもーーでもさすがだね。ちゃんと警戒している。同じ手は通用しないね」


 そう言うと、エイミーは人差し指で一、ニ、三と虚空に触れる。するとエイミーから魔力が流れて黄色の球体ができて、やがて三人のエイミーの分身ができあがった。


「これを待つのを騎士道というならこの先の戦いに向けて考えを改めた方が良いよ」

「どうせ魔力を暴発させる手もある。迂闊に近寄ることはできん」

「さすがロジムスさん! 私の事、よくわかってくれますね」


 そして三人のエイミーがロジムスに襲いかかる。

 一人目の短剣の一撃を払って仰け反らせ、二人目は受け止める。そして三人目はーー


「お守りします!」


 僕の光の壁で受け止めた。


「もらった!」


 受け止めている短剣を払うと、二つの氷の剣を作り出し、二人のエイミーに突き刺した。


「五人じゃ力が足りていないみたいですね」


 そう言ってロジムスにやられた二人を自分の元に戻して魔力を吸収した。


「私が直々にロジムスさんの相手をしますーー火炎竜!」


 魔法を唱えるとエイミーはロジムスの元に走る。


「なるほどなっ……くっ……!」

「一先ずこれしか……!」

(レノンそれじゃあーー)


 僕の障壁とロジムスの障壁で火炎竜を防ぐ。しかしエイミーは壁も竜も軽く飛び越えてロジムスを斬りつけた。


「ぐっ……本当に容赦がなしか……!」

「今助けます!」


 僕はロジムスの方に手を伸ばし、傷を癒す。


「助かる!」


 だが逆方向から声がした。


「さらに追撃しちゃうもんね!」


 パロが作り出した竜巻を避けながらもエイミーは、ロジムスに電撃を放った。


「ぐおっ!?」

「癒やすんだゾ」


 パロが治癒魔法で即座にロジムスの傷を塞ぐ。


「エイミーさん! 止めましょう! みんな痛いだけで何も得られませんよ!」

「何も得られない? 得られるもん! 貴方達を倒せばミスティーリアさんにも指導できるもん!」

「言葉で注意すれば良いじゃないですか!」

「そんなんじゃ直らないからこれがいるんだよ!」


 本体のエイミーは、今度は僕に向けて火炎竜を放つ。


「火炎竜!」

(負けないんだから!)


 僕も応えるように火炎竜を放った。それぞれがぶつかり拮抗する。


「レノン! 聞こえるか! 本体はお前とパロに任せる。上手く説得してくれ! 他は、私で抑える!」

「わかりました!」


 火炎竜同士の激突は、さすがに僕が優勢で、エイミーは、途中で止めて飛び跳ねて回避した。


 辺りを見渡すと、ミスティーリアは残った最後の一人のエイミーと戦っていた。少し優勢でこのまま任せられそうだ。


「これなら一人に集中できるゾ」

「ようやくね。私も話したい事あるし」

「何でも聞きますよ」


 僕が言うと、エイミーは笑った。


「こんな状態でも話を優先してくれるんだね。途中でまた斬りつけちゃうかもしれないのに」

「僕はその為に来たので」

「じゃあーー貴方が今怪我もなく暮らせているのは誰のおかげだと思っているの?」

「昔は体罰が酷かったと聞きます。ですが、今はむしろエイミーさんが体罰をしているじゃないですか!」

「私のこの活動のお陰でなくなったの! 私が正義なの! 感謝は求めないから、邪魔だけはしないでよ!」


 エイミーは急接近すると僕は障壁を張る。そしてその障壁にヒビが入った。目にも止まらぬ速さで短剣を突き刺したのだろう。


「大伯も、セレーナさんも平和的にそうなるように努力しています!」

「その平和的って言うのが弱いんだよ!」


 障壁を貫いて短剣が僕を襲う。


「そうはさせないんだゾ」


 パロがエイミーに強い向かい風を起こし、吹き飛ばした。


「平和的なんて言っているから、私は、バレないように虐められたんだもん!」

「エイミーさんが虐めに……! あっ……」


 僕はティマルスで聞いたロジムスの話を思い出す。あの時受けた心の傷が、何年も経った今も治っていないということだ。


「僕が……エイミーさんを治します!」

「昔のことを知らないくせに、生ぬるいこと言ってんじゃねーよ!」


 エイミーは僕の言葉に対して声を荒げた。

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