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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章 リューナ=イヴォルの女王
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105話 猛攻の果て

「俺はメイジステンの力を継ぐ最強の存在だ……その力を出力の面でも使ってやるよ」


 そう言った途端持っていた剣が更に青く光り始め、先程の両手剣のように大きくなる。


「来いよゼクシム。白兵戦はお前の役割なんだろ?」

「その通りだとも」


 無理には突っ込まず、フラウとラドがついてきているのを確認しながら向かっていく。


「はあああああ!」


 師匠の声と共に師匠の風の剣が大きくなったレックの剣とぶつかる。なんとか軌道を逸らすが余りにも重い一撃に隙が生じる。

 しかしーー


「くたばれ雑魚!」


 なんとレックはあれだけの大振りをしたにも関わらず、先程ーーつまり剣の大きさが変わる前と同じ速度で師匠に斬りかかった。

 そして師匠の前に現れたセレーナの壁を粉砕した。


「ぐっ……」


 フラウがそれを受け止める。


「でも、負けない! えっ!?」


 上手く受けながそうとしたが、そのまま潰されて倒されてしまった。レックはフラウを踏みつける。


「今が好機……受けてみよ!」


 風の力を溜めた一閃をレックに命中させる。しかしそれすらもレックの自動氷盾に防がれてしまった。


「完全に防がれているか……!」


 師匠の言葉に反応するように、レックは言う。


「勝負になど最初からなっていなかったんだよ。俺がやり方を間違えただけでな。お前達の攻撃は俺には届かない。今はなんとか抑え込んでいるが、時間の問題だよ。これは狩りだ。騎士や騎士もどきを狩る祭ーーそうだね。俺が騎士狩祭の王者になってしまうなあ!!」


 わざわざ時間をかけて何度もフラウを踏みつけながら喋る。相当余裕がある。例えあの時間に攻撃しても自動氷盾で防がれていただろう。

 レックは剣で横に薙ぎ払う。師匠は風の剣で受け止めようとするが、逆に飛ばされる。


「セレーナ! フラウだ!」


 師匠の声。レックは剣を踏みつけているフラウに向けて突き刺そうとする。


「守ってーー二重光壁!」


 フラウの前に二重で光の壁を作り出すが、紙のように簡単に壊されてしまった。そしてーー


「あああああ!!」


 腹部に剣を突き刺した。それは鎧を貫通していた。


「次は首といきたいところだがーーフラウを殺したら意味ねえな」

「火炎翼竜!」

「くっ……! わざわざ受けてやる必要もないか」


 僕はレック目がけて魔法を唱える。防ぐのは困難と判断してか、退いてくれた。ギリギリでフラウの上を通り過ぎつつ、レックを追尾する。


「しつこいんだよ!」


 手から氷の棘を伸ばして竜の首を断ち切る。


「ラド!」

「分かっている!」


 フラウを回収してセレーナの元へ連れていった。セレーナは一瞬で傷を治す。


「一旦お嬢様は後衛へ」

「大丈夫! まだ私は戦える!」


 セレーナの言葉にフラウは反発する。


「分かりました。陣形を維持してください」

「うん!」


 フラウは痛かっただろうに嬉しそうに頷いた。


「面倒だ。仕掛けておいた魔法を使ってやる。さあ、何人狩れるかな!」


 レックは地面に剣を突き刺して魔法陣を展開させる。すると大きな波が僕達に向かってきた。


「集まって!」


 セレーナは、号令をかけてみんなの前で盾を張る。だがーー


「高さが……足りない……!」


 盾の形を壁から半円に変える。


(被って!)


 僕も帽子を展開させる。波は迫るだけでなく、上から覆いかぶさるような形で襲い掛かってきた。


「くっ……ぐぅ……ああああ!!」


 帽子まで貫通させた一撃。僕達はそれぞれ端まで流されてしまった。更に非情なことにレックは、


「この魔法陣には魔力を流すだけで使えるんだ。もう一回やってやるよ」


 と二波が襲ってきた。


「レノンくん! 無事?」

「はい!」


 火炎竜で僕達の部分だけでも穴を開けようと試みたが、失敗に終わった。故にーー


(被って……でも! レノンしか……!)

「ぐっ……ぐわあああ!!」


 即興で作られた半円の壁も崩され、僕達は波に流された。


「僕は……なんとか大丈夫だけど……」


 僕はこの法衣と帽子の防御が頑丈なお陰で痛みだけで済んでいるが、見た景色は惨憺たるものだった。


「凍っている……? そんな馬鹿なーー」


 レックのあまりにも強い氷の魔法が炎の珠の効力を上回ってしまったようだ。


「凍るには凍るみたいだな。下半身だけなのはいまだに不可解だがーーまずはお前からだセレーナ。散々邪魔ばかりしてくれたからな」


 レックが巨大な氷の剣を持ち上げたときーー


「火炎弾」


 僕は敢えて魔法名を唱えて火の弾を放つ。


「そんな雑魚技効かねーー」

「セレーナさん、前!」


 レックが剣を振るったとき、セレーナは凍っていたはずの足で体勢を整えて剣の一撃を剣で受けた。吹っ飛ばされるも即座に立ち上がった。


「あのまま当たれば殺せた……味方に魔法を撃ったのか!? 小細工ばかり用意しやがって!」


 僕の魔法はセレーナに向けた魔法。セレーナの氷を溶かす為だ。


「皆にも!」


 僕はみんなの氷を溶かすために放つ。レックが剣を振り終わった頃には全員の氷は溶けていた。

(大丈夫。炎の珠も、私達の魔法も、時間停止の力に対しては上手く機能できている)


 僕はセレーナに治癒魔法を使った。本人でもできるだろうが、弱っていると魔法をかけるのにも時間がかかると思ったからだ。


「クソガキが……だが今はセレーナだ。もう一度波を発動させて今度こそ仕留める。この波で!」


 そして後ろに退く。そしてもう一度魔法陣を起動する。


「業火の一撃を、受けろ!」


 ラドの炎の槍がレックの背後に投げられており、ラドはそこまで瞬間移動していた。そして隙だらけの背中に全力の一撃で突いた。勿論自動氷盾が彼を守るのだが……


「ぐふっ……な、なんだとおおおあお!!」


 さっきまで半身凍っていたはずのラドが動いている事、ラドが後ろに居た事、絶対貫かれまいと信じていた自分の自動氷盾が貫かれた事。


「ふざけんなああああああ!!」


 そして、振った剣が空を切ったこと。ラドは既に自分がいるべき場所に戻っていた。そして手傷を負いながらも全員の氷は溶けている。この間にも僕とセレーナで回復魔法をかけている。


「さっきまでは舐めていた。今度は俺自身との合わせ技でーー」

「今度はもうない」


 師匠が魔法陣を削りながらレックを貫いた。


「ぐうううう……!」


 もう一度斬り合いをして、鍔迫り合いになる。


「効いているようだな。最強の防御ではなかったのか?」

「最強の防御は奥の手さ。あんな自動氷盾をそれと勘違いしていたのか? 少し魔力が減ったから回す量が減っただけさ」

「それは良かった」

「何に対してだ!」


 依然大きさと光の量が変わらない剣を慣れたとばかりに受け流す。


「貴様……!」

「この剣は相手の剣を受け流す事に特化している。多少強くとも、想定できていれば対処できる。それよりも大丈夫か。魔力が減ったのであれば、剣の維持も難しいのではないか?」


 師匠は淡々と言葉を述べた。その話し方は純粋に相手の神経を逆撫でする。


「第三の器の俺のことを馬鹿にしやがって! ゼクシム、お前だけは絶対に許さないぞおおおお!」


 レックは片手で剣を振り回し、師匠はそれを受け流す。しかし戦いはそれだけではない。空いている方の手で魔法が放たれており、レックはセレーナの盾で防いでいたあの氷の光線をゼロ距離から放つ。師匠も風を暴発させ、後ろに退き、セレーナの盾が出される間を作る。


「「はああああああ!」」


 ラドとフラウがガラ空きの背中に一撃を加える。自動氷盾はラドの一撃で貫かれ、フラウの一撃が背中に刻まれた。


「ぐはっ……!」


 痛みに反応して氷の棘が二人を覆い、ラドは時間があった為避けられたが、


「うわっ!」


 フラウは吹っ飛ばされる。僕は彼女に魔法を唱える。フラウの傷も癒えたが、その頃にはレックの傷も完全に癒えていた。


「あり得ない。この俺が生傷を負うなどあり得ない……仕方がない。最強の防御をつかってやろう」

「何!?」

(何が起きるの!?)


 魔法陣が展開され、レックを中心に吹雪のように氷の剣が放たれる。


「くそっ……これじゃあ近づけないぞ!」


 ラドに、何も言うことはない。打開策がない。


「隙間もなく、僕だけが存在できる空間。絶対に壊されない氷。これを使う魔力だけは、残しておいたのさ」


 レックの側に四枚の巨大な氷が展開される。


「僕は回復に専念すれば三十分もあれば傷も魔力も全快する。壊してみようとも、逃げようとも好きにすれば良いさ。ただ、次は確実にお前達を殺す準備をしてやる。覚悟しておけよ……!」

「このままじゃ閉まっちゃう……! 何か手は!?」


 僕も言うが、剣の吹雪が止むまで何もできず、四枚の氷はわずかな繋ぎ目すらもなく菱形の氷となっていた。


「全力で、撃つ!」


 ゼクシムの風の力を溜めて放った一撃を氷にぶつける。


「はああああああああああ!」


 ラドも炎を剣に纏い、一撃を食らわせる。


「はあああああああ!!」


 フラウも雷の一撃を与える。

 ーーこれだけして傷一つつかなかった。


「折角魔力を減らす作戦までは上手くいったのに」


 セレーナは項垂れて言った。


「どうする? 一旦退くか? 都合良くギンもいない。当てなどないが……」


 師匠の言葉に反応した言葉が一つ。


「いやいや君達、項垂れる必要も一旦退く必要もないさーー」


 ギンの声だ。全員が振り向く。


「作戦は成功したのだからね」


 ギンは笑顔で僕達に向けて言った。

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