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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章 リューナ=イヴォルの女王
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104話 氷の皇子

 僕達はリューナ城に走る。レックから城を取り戻す為に。

 裏道ではあるが、リューナ城に近い場所に扉はあった。故にーー


「いたぞ、リューナの者どもだ! レック皇子はお前らを排除しろと言っている。やれ!」

(騎士。やっぱりいるのね……!)


 騎士が武器を構えたその時ーー


「ここは私が引き受けますーーリューナ=イヴォルの女王であれば相手に不足なしでしょう!」

「アメリア陛下。お願いします」

「女王陛下直々だと!? 聞いていないぞ!」

「だがここで、止められなかったら俺達も……やるしかないんだ!」


 アメリアは牽制に氷の槍をいくつも飛ばし、こちらに目を向けさせる。


 僕達は先を急ぐ為、アメリアにお願いする。


「見つけたぞ!」

「見つけたゾ」


 そう叫んだ騎士を風の上級魔法、風刃の竜巻で吹っ飛ばす。


「作戦通りなんだゾ。城まではオレが戦うんだゾ」


 そう言ってまた上級魔法をぶっ放す。さすがは上級魔物と分類されるだけのことはある。

 そう言いながら城の前に着いた。結界には僕達が通れるくらいの穴が空いていた。やはり待ち構えているのだろう。


「行きますよ。みんな準備は良い?」


 セレーナの言葉に全員頷く。


「では、行きます!」

「後は頼んだんだゾ」


 セレーナの号令のもと、僕達は城の中に入っていった。中に入ると結界の穴は埋まってしまった。

 入ってからも騎士が待ち構えているかと思えばそんな事はなく、ロビーにレックが一人で立っていた。


「ようこそリューナ城に。アメリアはいないのか。リューナ城も氷漬けでらしくなっただろうと言うつもりだったんだけどーー」


 レックは得意気に言う。


「ああ、なんでここに騎士を配備しなかったのかを教えてあげようか。そもそも騎士を各地に配置していたのは、ただ見つけさせる為なのさ。君たちを殺すのは俺の役割、だからこの城には騎士はいない」


 余裕たっぷりにレックは話し続けた。


「いきなり襲いかかってきては勝手にリューナ城まで。覚悟はできているんでしょうね」

「フラウが欲しいだけさ……と言いたかったんだけど、そこの少年には僕の姉上、サキまでいるらしいじゃないか。それももらっていくよ」

(生意気な……お断りよ!)


 師匠も気に障ったらしい。サキがそう言ったと同時に風の剣でレックを斬りつける。レックは、それを剣で防いで構える。


「そう焦るなよ。訓練所を僕の戦いの場にしたんだ。そっちでやろうよ」


 そう言うとレックは消えてしまった。


「全面氷なのはここも変わりません。訓練所はこっちです。罠かもしれませんが、向かいましょう」


 そして僕達は警戒しつつも訓練所に向かった。

 訓練所は散々な悪趣味な場所だった。床壁全面が凍っているのは当たり前だが、凍った若い騎士が何人も隅に飾りのように置かれていた。


「こ、これは……!」


 その有様を見て全員が同じ反応をした。


「落ち着け。この状態の騎士は氷で死んでいるか時間停止で凍死を免れているかのどちらかだ。とにかく、今は助けられない」

(酷い……けど作戦の時にも話したもんね。今は我慢よ)


 サキは僕を落ち着かせるように言った。


「なんだ残念。そんなに驚いてくれないのか。あのむかつくチビ騎士も加えられたら少しは違う反応が得られたかもしれないのに……」


 まあ良いかレックは言うと、


「最終通告だ。フラウとそこの少年を置いていけば、ここでの顔合わせは無かったことにしよう」

「意味のわからないことを! 城や騎士達をこんな状態にしたのは、なかったことにはできない! ここで落とし前をつけてもらう」


 怒りを交えた声でラドが答えた。


「良いだろうーー最強の攻撃に最強の防御を持つ俺に、勝つ事ができるならな!」


 そう言うとレックは師匠の風の剣を避け、氷の剣を僕達全員が及ぶ範囲十数本を発射した。


「サキ!」

(吸って!)


 巨大化させた三つの帽子を出現させ、氷の剣を全て吸い込んだ。そしてその内の一つを被り、吸収した魔法の魔力を回収する。


「な、何だと……!? 俺の魔法にも耐え切れるのか。何だその奇妙な帽子は!」


 僕を攻撃することが陣形攻略の鍵と見たのか、僕に向かって飛び掛かってくる。師匠がそこに割って入り、風の剣で受け止めた。


「白兵戦はお前の役目というわけだ。ゼクシム」

「そうだとも。誰も凍らせはしない」


 ーー作戦その一、ゼクシムを前衛に置くこと。距離を詰めるのが得意で、武器が風で作り出した剣なので、凍らない。


 師匠は刃を大きく振ってレックを吹き飛ばすと、レックを僕から離す。


「なら凍ってしまえ!」

(レノン! 吸って!)


 向かってくる師匠に向けて氷の光線を放つ。師匠の前に帽子を出現させ、魔法を吸い尽くす。そして光線を撃ち終わった隙を狙って師匠が斬りつける。それを自動氷盾で防ぐ。


「今の一撃を無意識で防ぐとは……!」


 盾に弾かれて仰け反って驚く師匠に対し、


「もらったね」


 盾から氷の棘を出現させ、師匠を貫こうとする。


「こっちの方が早い!」


 ラドが気を逸らすために炎の槍を放ち、瞬間移動する。そして剣を振るう。それは自動氷盾に防がれるが、フラウが攻撃するタイミングをずらして盾の合間を縫って輝く剣を差し込む。


「チッ……!」


 レックは舌打ちをしながらそれを氷の剣で受け止める。


「凍らない……!? その剣の輝き……! 何故だ?」

「私の剣は私を万全な状態にしてくれる。氷なんか効かない!」

「お前は精神の状態を崩しているはずだ! そんな状態で、剣に輝きが宿るわけが……!」


 レックは驚き師匠から目を離した。盾から飛び出した棘に貫かれた師匠の治癒も終わらせた。


「あなたがかけた呪いを、皆が解いてくれた! もう私は惑わされない!」

「クソッ……邪魔が入らなければゼクシムを仕留められたはずだったのに……!」


 レックは苦虫を噛み潰したような顔をする。


 ーー作戦そのニ、ラドとフラウを補助攻撃要員に置くこと。ゼクシムの隙を埋めるかレックの隙を詰めるかに徹すること。


「またゼクシムをぶっ潰すところからやり直しかよ! これでもーー食らっていろ!」


 魔法陣が展開されると、そこから巨大な氷の槍が出現する。それを僕に向かって投げつけてくる。これは帽子で吸えない。そう判断して僕とセレーナ、二人で二重の盾を作り出す。片方の盾を打ち破ってきたが、もう片方の盾に阻まれて床に落ちる。


「セレーナさん! これを!」

「ありがとう! レノンくん!」


 僕はセレーナに帽子を一つ渡す。セレーナはそれを被って魔力を補充する。


「攻撃してこない雑魚が! 盾ばっかり出しやがって!」

「勝手になんとでも言っていなさい。事実あなたは防がれているのなら、なんの問題もない!」


 ーー作戦その三、セレーナを陣形の中心に置き、防御治癒に徹させること。誰に向けた攻撃でも助けられるようにしていること。


「それならーーおらあああ!」


 剣を巨大化させると、軽々とセレーナの盾を粉砕し、風の剣すら真っ二つにして師匠を斬りつけた。


「ぐふっ……!」

(レノン、回復を!)

「師匠!」

「はああああああ!!」


 僕は師匠の傷を癒やし、師匠は強く大きく振ってレックの剣の追撃を防いだ。


「くそっ、今のも回復が入ったか。だが凍っ……ていないだと!?」


 師匠は下がり、僕の元に駆け寄る。


「出力を上げたい。レノン、頼む」

(ゼクシムにも帽子を!)

「分かりました!」


 僕は帽子を師匠に被せ、魔力を補充させる。これで一撃に力を込めれば、自動氷盾を貫けるかもしれない。

 凍らなかったというレックの一瞬の焦りがフラウに好機を与えたが、それも自動氷盾で防がれてしまった。


 師匠は前線に復帰し、レックに風の剣を向ける。


「クソクソクソッ! まずは一番弱いのからだ!」


 氷の剣を再度巨大化させ、僕に向かって叩きつける。


「レノン! 掴まれ!」


 僕は師匠に抱えられ間一髪で剣による攻撃を逃れる。


「これじゃあ埒があかねぇじゃねえかゴミどもが! メイジステン皇族の僕に傷一つつけられない癖に小技でちょこまかと防ぎやがって! おまけに凍りさえもしねえ!」


 その言葉には誰も返さない。隙ができるかしか見ていない。


「無視かよ……! それなら防ぎきれない程大きいのを放ってやるよ。これでみんなお陀仏だ……!」


 前方、後方、床、壁、天井から次々と棘を伸ばす。棘と呼ぶには細過ぎる。これは氷の剣だ。


「串刺しだ! 雑魚ども!」

「レノン! 頼んだ!」


 氷の剣は派生して伸びていきながら僕達に迫ってくる。それで僕達を刺す、或いは潰そうとしてくる。


「はい! ふぅ……はっ!」

(いっけええええええええ!!)


 ーー作戦その四、敵の広範囲の攻撃は、サキの魔法の力を存分に借りた僕の一撃で切り抜ける。

 炎の竜は派生しながらどんどん大きくなる氷を溶かしていった。溶けたところは即ち熱い。だから氷も派生し辛い。


「姉上の力……一発の威力だけならあるし、時間停止の氷すらメイジステンの力で溶かしてしまう……クソッ、僕の方が優れているはずなのに」

「氷は溶ける。それだけの事だよ」

「舐めるなあああああ!!」


 極太の氷の光線を部屋全体に薙ぎ払うように放った。


「集まって!」

(被って!)


 全員がセレーナの元に集まってセレーナの盾と僕の帽子で防ぎきった。


(戻ってーーよし、私達の帽子だけで防ぎ切れているわ)

「くそっ……くそっ……だけどまだ慌てる場面じゃない。だってあいつらは、僕に傷をつけられていないじゃないかーー」


 レックは項垂れてそう呟くと大声で言った。


「それならさ……もっと火力を上げれば良いだけだよなあ!」


 その声と共にレックの身体が光りだした。

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