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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章 リューナ=イヴォルの女王
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99話 ギンとハクの隠れ家

 扉を渡った先は見覚えのある城みたいな家の風景だった。ただイヴォル城とは違い、清掃されていない黒ずんだジメジメとした雰囲気の場所だった。


「イヴォルの横にこんな城みたいな建物が……? あり得ない。やっぱりギンさんの言う通り、転移魔法か」


 シーザーは辺りを見回して言った。


「そこは生き残れたことに安心してもらって、あまり詮索しないでほしいなー」

「わかりました。場所の詮索はしないこととします。ただ、ここはレック殿下が簡単に来れない場所なんですね? 匿った貴方の命にも関わる事ですから」


 アメリアが尋ねる。


「そこは安心してほしい。まず見つからないよ。じゃないと私から呼ばないさ」

「そう考えると合理的ですね」

(一安心ってことね)


 ギンの言葉をアメリアは素直に受け止めた。助けてくれた恩義には厚い人のようだ。


 怪訝そうに辺りを見回していたアンナが口を開く。


(あっ、ハクちゃんだ! 休憩中だったのね)


 サキが嬉しそうに言ったその時、


「それよりそこの剣族、使用人か何か? 鼠に見えましたわ。見繕う服をキチンとしないと主人の品格も問われますわよ?」


 アンナはハクを見て言った。


「如何なる家よりも栄え、如何なる者よりも新しい物で揃えている陛下からすれば庶民の装いなどそのように見えてしまっても仕方ないでしょう。ほら、ハク。自己紹介を」


 ギンは上手く躱しながらも驚き終わって嫌そうな顔をしているハクに促す。


「ハク……? 君ってもしかして……」


 シーザーが言うも、ハクは無視をして


「私のことよりやんごとなき方々を早く休めるところにお連れした方が宜しいかと。部屋なんて腐る程余ってますし」

「腐るだなんて下品な言葉……まったくこれだから剣族は……」

「ハクさん、お久しぶりです! 帽子ありがとうございます!」

(ハクちゃん! 会いたかったわ!)


「ハクにみんなの意識が集中し過ぎているな……ハクのことは私の方から説明するとして」


 ギンは呟くように言うと、


「さあさあ陛下。私自慢のお部屋にご招待致しましょう。客人を招く予定がなかったため、多少埃が溜まっているかも知れませんが、部屋自体は中々のものですよ」

「使用人に全ての部屋を掃除させないなんて! 何故そんな家に住むことができるのでしょうか……!」

「ほら、他の皆々様もどうかこちらへーー」


 そうしてギンに部屋を案内してもらった。部屋の数はたくさんあったみたいで、僕達一人一部屋あった。少し掃除する必要はあったが、直ぐ眠れる状態にはなった。


「レノン」


 僕を呼ぶ声がする。その声にはゾッとした。何故なら声の主はアメリアだったからだ。


「はっ! はい! 何でしょうか大伯!」

「今はリューナ=イヴォルの女王です。この有様ですが、呼び間違えないように」

「はっ、失礼しましたアメリア陛下。それで……あっ、部屋の掃除とかですか! 今すぐ行きますね」

「それはセレーナの魔法で済ませてもらいました」

(羨ましいわ……お願いしちゃだめかしら?)

(上司だからなぁ……セレーナさんの方から来てくれたら嬉しいんだけど)


 僕達が心の中で会話していると、アメリアが話す。


「ハクという方についてなのですが、気軽に話しかけているように見えましたが、知り合いなのですか?」

(そりゃあ勿論大親友だもん)


 それはサキの話であって、僕はそこまではいかない。


「はい。一度お話する機会があったんです。そして、僕のためにってわざわざこの帽子を作ってくれたんです」

「これ程のものを作ることができる技術を持っていると……?」


 アメリアは僕の帽子を指して声を上げて驚いた。やはりこの帽子、僕専用に作ってくれたもので、市場には出回っていない程のものらしい。


「ハクちゃんは私の売り物を作ってくれる自慢の仲間だよ」

「新聞も作っていますし」

「なるほどだゾ。採取と加工も含めて一貫して良質だから、あんな態度でも商売が成功するっていうことだったんだゾ」


 いつの間にか全員が部屋に集まっていた。


「ハクちゃんは直接売り子なんてしていないから私に対してのことだよね? うーん、辛辣だ」


 ギンはパロの言葉に天を仰ぐ。


「あれほどの道具を作ることが可能でしたら、殿下……いえ、レックに対抗する道具も作っていただくことは可能ですか?」

(あっ、確かに! ハクちゃんに作ってもらいましょう!)

「私からもお願いしてみましょうーー機嫌取るの難しいんだよなぁ……」

(ギンの日頃の行いが試されるわね)


 ギンは珍しく弱音を吐いた。どうやら日頃の行いは良くないようだ。


「そんな事よりもっと話すべきことがありますわよね。何故レックなんて危険人物を城に入れたのか、アメリア、貴女の考えでしたよね。どう責任を取るのでしょうか」

「こうなることは想定していませんでした。怨恨の憑魔は駆除した方が良いと考えたからです」

「責任ですよ。このあとどうやってくれるのでしょうかね? 早くこんなところから出たいのですからどうにかしてくださいよ」

(今更そんなこと話してもしょうがないのに!)


 サキは不機嫌そうに言う。


「ですからハクさんにお願いして打開策を練り始めようとーー」

「あなたがーー」

「この話はこれで終わりにしましょう。この城の住人権限です。さあ、一回全員部屋に戻ってください」


 ギンは強制的に話を終わらせて皆を部屋に帰した。


「レノンくんも戻りなよってーーここだっけ」


 ギンからは多少の苛立ちを感じているように見えた。


「先程の件、すみません」

「レノンくんが謝っても意味ないんだけどね」

「はい、それでも……」

「それよりさ。帽子の話なんだけどーーいつ払える?」


 空気を読まないギンの商談が始まった。


「金貨50枚なら今すぐにでも払えます」

「あれっ? 賞金は100枚じゃなかったっけ?」


 ギンはしっかりとそこを突いてくる。


「二人で勝ち取った優勝なので、山分けにしました。なので50枚です」

「金貨50枚なんてリオナ=ダグラスからすれば端金何だから、丸々貰っちゃえば良かったのに」

「そうもいきませんよ」

「そうもいかなかったかー」


 ギンは残念そうに言葉を返した。


「フラウちゃんにも聞いてみるかなー、レノンくんの名前を出せば、もう半分の賞金も貰えるかもしれないし」


 そしてギンは立ち上がった。


(レノン)

(分かっているよ)

「その、フラウの件なのですが……」

「うん? フラウちゃんがどうかしたのかい?」

「今はそっとしてもらえると嬉しいです。冗談とか雑談とかそういうことができる状態ではないので」


 僕はあのギンにもできるだけ真剣に聞こえるように話した。


「うん? 分かったよ。レックさえ倒せれば良いのかと思っていたけど、そうもいかない問題を抱えているんだね」

「はい」

「それは君達で解決するんだよ? 私達はレックを倒すために君達を匿ったのだからね」

「分かっています」


 僕は責任を背負う覚悟でハッキリと答える。


「それじゃあハクの元に行こうか。レノンくんもついてきてくれるよね?」


 ギンはチラッと僕を見る。


(またろくでもないことしたせいで仲悪いのね。まったくこれだから……)

(僕よりはマシだけどね……)


 フラウ……何があったって言うんだ。あの短い時間で。いや、考えてもしょうがない。僕は一緒にいる資格はないのだから。


(あーもー辛気臭い! ハクちゃん元気にしてるかしら? 早く会いに行きましょう!)

「レノンくん? 聞いているかい?」

「あっ、はい。少しサキと話していました」

「サキもちゃんといるなら尚更だ。私だけより効果的かもしれないし、レノンくんにも同行をお願いしたいのだけど……」

「こちらからもお願いします。ハクさんと会わせてください」

「よし! そうと決まれば行こう!」

「はい!」


 ギンは立ち上がるとハクの部屋に向かって歩き出した。僕もそれについていった。

 扉を叩くと返事を待たずに部屋に入った。ハクは何か作業をしていたが、止めてこちらを見る。


「ハク、君にお客さんだよ」

(久しぶり! ハクちゃん!)

「ハクさん、お久しぶりです! 急に押しかけてしまってごめんなさい。あと、みんなを泊めてくれてありがとうございます!」


 僕はハクにお礼を言う。


「別にそういうの決める権利は、ギンが握っているし、別に私は関わらなければ良いと思っているわ」

「そうですか……あっ、そう言えばシーザーさんのファンでしたよね? サインもらいに行きましょう。あるいは僕がもらってきます」

(前に会った時の話でしょ? よくそんなの覚えていたわね)

「いらないわ。どうせギンにでも聞いたのでしょうけど、嘘だから。それより一番の目的は?」


 ハクは本当に興味なさそうに言うと、僕の目を見て聞いてきた。


「はい。要件をまとめて単刀直入に話します。僕達、セルゲイ四天王のレックと戦っているんですけど、どうか協力してもらえませんか?」

「本当に突然ね。レックと協力するなんて物騒な話はギンから聞いていたけど、結局戦うことになったのね」


 ハクは少し驚いたような、頭にはてなを浮かべたような表現が難しい顔をした。


「何故とは聞かないわ。興味がないしーーそれで?」

「今の僕達ではレックと戦えません。協力してもらえませんか?」

「嫌だと言ったら?」

(ハクちゃん……)


 サキは困ったように名前を呼ぶ。そしたらギンが口を開く。


「私からもお願いするよ」

「本気で?」


 確認するようにハクは聞く。


「本気で」


 ギンはいつにもなく真剣な顔でそう答えた。


「……それなら仕方ないわ。あなたが仕事をしてくれないと、私は生きていけないもの。だから対レック用の魔法器具を作ってあげる」

「魔法器具……ですか?」

「誰かが使った魔法を読み込ませて再現する道具とだけ知っておけば良いわーーこの前作ったあれを一旦返してくれれば同じような物を材料が足りるだけ作るけど、それで良い?」

「その、あれってなんですか?」


 僕はハクに尋ねる。どうやらギンが持っているみたいだ。


「これさ。これは炎の珠。起動している間に氷に覆われたら、その氷を脆くしてくれる代物ーーこれからは魔法も売る時代さ」

「ですが! レックの凍結魔法はメイジステン家が持つの時間停止魔法が加わっています。単なる氷の強度を下げるだけでは……!」


 僕はレックの時間停止魔法について言及する。


「レノン、あなたは私を馬鹿にしているのかしら? それともギンを間抜けと言っているの?」

「いえ! そんなつもりで言ったんじゃ……」

「これを私が作った理由。ギンがこれを作らなきゃ怖くてイヴォルになんか行きたくないと言ったからなのよ」


 ハクが強い言葉で言うので、僕も少し驚いた。


「言い方きつくてごめんよ。つまりはそこまで織り込み済みということさ。この珠の燃料にメイジステン由来の魔力を流すことで、時間停止にほんの少しだけ抗うことができるというわけさ。どこから魔力を得ているかは企業秘密だけどね」

「おお! そんな物を作るなんて、流石ハクさんですね!」


 やっぱりハクさんは凄い。これならレックとの戦いにも希望が見えるかもしれない。


「その手にはもう乗らないわ」

「その手……ですか?」

「嬉しくて帽子作っちゃったんだよね?」

「……サキの気持ちを汲んだだけよ。仲良さそうだから、一緒に戦いたいって言うかと思ったから用意したの」


 僕には照れ隠しに言っているように見えた。


「この帽子も凄いです! こんな僕なんかでも、フラウと一緒に騎士狩祭で優勝できましたし」

「別に感謝されたくて作ったわけじゃないわ。商売道具よ。運が良かった程度にでも考えておけば良いのに」

「ハク、そういう感謝は素直に受け取っておくものだよ」


 それに対してハクは黙ってしまった。


「あっ、早速この珠のをみんなに知らせて作戦練ってきます! ありがとうございます!」


 僕はハクが協力してくれるというのを皆に知らせる為、走って部屋を後にした。


「まったく他人の家なのに騒がしいね。彼女もーーあの娘もこんな感じだったね」

「帽子、使ってくれたのね。ところで、その騎士狩祭ではどちらが勝ったの?」

「二人組だからどちらも優勝だよ」

「そう、あの子に勝てるように作らないとーー」


 僕はすぐにアメリアにハクの協力の件ーーつまり炎の珠の事を伝えたつもりだった。


「確かにそれがあれば相手の絶対性を打ち消すことができますね。それでーーそのメイジステン家の魔力はどれくらいの量をどこからどのように調達するのですか?」

「あっ、そこは……企業秘密と言われて詳しく聞くことができていないです」

「その企業秘密とやらは私達ももらえるのですか? アンナ陛下からもらえる可能性は低いと思われますが」

「それは……わからないです」


 いきなりアメリアに突っ込まれ、答えられなかった。


「それだけではありません。どれだけの効力を魔力を注いだ後どれくらい機能するのか。その珠を一つ作るのにどれくらいの時間がかかり、滞在期間中に何個までなら作成できるのか。作成の見返りとしてこちらは何を渡せば宜しいのですか?」

「まあそう焦っても仕方ないさ」


 これは僕の声ではない。ギンの声だ。


「貴女は優れた行動力を持つ方なので、もう次に向けて活動できるようだけど、皆死地から逃げてきたばかり。そんなに詰めても良い結果は得られないと思うけどね」


 その言葉を聞き、


「その通りですね。私も責任を感じています。焦っているのかもしれません」

「因みにメイジステンの魔力については気にすることはないさ」

「当てがあるのですか?」

「レノンくんの血からサキの魔力が得られるので彼が毎日採血に応じてさえくれれば問題ないかな」


 アメリアはレノンの方を向く。


「そっか、サキはメイジステンの第二皇女でーー大丈夫です。それくらいいくらでも協力します!」

(バレたくなかったのになー)


 サキは口を尖らせているだろう。だが僕がそう言うと、


「少し安心しました。ありがとうございます。最後に一つだけ頼み事をしても良いですか?」

「勿論です」

「以降朝に一堂を集めて会議を開こうと思うのですが、問題ないですか?」

「僕は大丈夫です」

「ではーーいえ、それで問題ないです。レノンも負担をかけましたね。今日は特別に後で会議を開きますから、それまで部屋で休んで良いですよ」


 アメリアはそう言って戻るように促した。


「あの、アメリア陛下……一つ、よろしいですか?」

「フラウのことですか?」

「はい……僕のせいで……」

「襲撃時の態度からして、レックが何か言ったのでしょう。責任を感じているのであれば行動で示し、解決するのを手伝いなさい」


 アメリアは僕に行動で示せと言った。それはつまりーー


「フラウと話してもよろしいのですか?」

「私も同席の上でその間なら許可します。フラウとともにここまで良い関係を築いて行動したのであれば、今回も解決してみせなさい」


 フラウと話しても良いと、アメリア陛下が言った。それがとても嬉しかった。


「ありがとうございます。それでは失礼します」

「待ちなさい」

「はっ」

「今からフラウの部屋に向かいますよ」

「ですが会議の準備は……?」

「どうとでもなります。私を誰だと思っているのですか?」

(やっぱり、フラウちゃんのことが心配なのね。言葉にしても良いと思うけど)


 僕の口から下手なことは言えない。そしてアメリアと部屋を出て、フラウの部屋に向かった。

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