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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章 リューナ=イヴォルの女王
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97話 イヴォルデート大作戦(後編)

「せ、セレーナ! どどど、どうしよう! レノンとおでかけなんて、何着ていけば良いんだろう? 鎧は預けちゃっているし……でも代わりのやつがあったよね!?」


 フラウは慌てて鎧を手に取る。セレーナはその手を止めて、


「デートの時に鎧を着ていくのは流石に失礼かと……」


 と忠言した。


「で!? デートじゃないもん! それで……じゃ、じゃあドレス!? ど、どれが一番良いと思う?」

「今回はレノンくんとですから、相手に合わせた衣装を選んだ方がよろしいかと。ドレスを着てしまってはレノンくんが浮いてしまいます。それに、今日は歩く時間が長いと思うので、そういう意味でも適していないと思います」

「じゃあローブだよね!? それならいつものをーー」

「ここはいつものとは違うやつで行きましょう」

「えっ? どうして!?」


 フラウは混乱してきたといった様子で聞いてくる。


「過度に着飾ってしまえば相手と合わず浮いてしまいますが、いつもと違うねって気づいてもらう絶好の機会です。なのでこちらの服がよろしいかと」

「ありがとうセレーナ! これにする!」


 フラウがそう言うと、セレーナは部屋から出て着替え終わるのを待つ。


「着替えた! じゃあ急いで行かなきゃ!」

「お金は持ちましたか?」

「うん! ありがとう!」


 そう言うと、走ってレノンの部屋に向かった。


「そんなに急がなくても良いはずなのにーー」


 セレーナはクスッと笑った後、


「レノンくん、あとは任せましたよ」


 走っていく少女を見送り、そう呟いた。



 ◆



「こんな感じで大丈夫かな」


 僕は敢えて門番の前をうろついてみる。しかし誰からも声をかけられることはない。認識遮断の魔法の習得をなんとか間に合わせたのだ。これがないとフラウが見つかって即アウトだ。当日師匠に手伝ってもらうというのもありだったが、何だか格好悪い気がして教わって必死に練習したのだ。最終確認が終わったので、自室に戻る。丁度フラウが走ってきた。


「そんなに急がなくても。僕は先には行かないよ」

「レノンとおでかけできるって聞いたらじっとしていられなくて」

(あらあら健気ね)


 そこは生真面目ねだろう。


「フラウ、いつもと違うローブなんだね。よく似合っているよ」


 それを聞いたフラウは少し頬を染めて、ありがとうと言った。


「レノンだっていつもの緑じゃなくて、黒いローブだね。その……格好良いと思う」

「ありがとう。この帽子、黒以外に色変えられるけど、黒が一番似合うからローブもそれに合わせろってサキがね」

「ああそっかサキさん……じゃなくて殿下もいらっしゃるのでしたよね。失礼しました」

(そういうの気にしないで良いから! というか何でそこで私の名前を出すのよ! レノンのバカ!)

「サキは殿下って呼ばれるの好きじゃないらしいから気軽に呼んであげてね」

「そ、そうなんだ。分かったーーサキさんも今日はよろしくお願いします」

(今日のこの時間だけ私の存在を無にすればもっと良かったけどね)


 怒られた。でも自己主張強いサキがそんなこと言うなんて珍しいな。今日は雨が降るかもしれない。


「話すのはこれくらいにして、それじゃあ行こうか」

「うん! でもどうやってお城を出るの?」

「これを使うのさーー遮断!」


 僕はフラウの手を取って使う。一見何も変わらないが、これで門番に気づかれずに出られるはずだ。


「その……手……」

「ごめん。他の人に気づかれないようになる魔法なんだけど、僕の習熟度じゃ身体に触れていないと効果を共有できないんだ」

「そ、それなら仕方ないよね! このまま行こう!」


 少し嬉しそうな少女を見る。隠密活動のドキドキ感があるのだろうか。僕達はそのままゆっくりと歩き出した。


「今日楽しみだね! どこ行くの?」


 そこはセレーナからは聞いていなかったらしい。


「魔物館だよ。展示されている魔物を見るところなんだ」

「そうなんだ。でも、何だかちょっと怖そう……」


 不安そうな顔を覗かせる。魔物、やっぱり話を聞いたらそんな印象を持つよな。


「怖い魔物は……あんまりいないよ。それより最上階では可愛くて飼える魔物もいるって話だよ」

「それなら、安心できるかも」

「おい」


 その時僕は声をかけられた。魔法を見破られた。誰かと思って相手を見る。そこには殿下の姿があった。


「レック殿下。お待たせしました。フラウお嬢様を連れて参りました」

「殿下? どういうこと……?」


 フラウはサッと僕の後ろに隠れて様子を伺う。


「それより召使いが主人と手を繋いでいるとはどういうことだ」

「これは僕の魔法が至らず、こうしなければ魔法が効果を発揮できなかったためです」

「ふん、口ではどうとでも言えるよな。未熟者め。なら俺がかけてやる」


 殿下は僕とフラウにも認識遮断の魔法をかけてくれた。それを確認すると僕はフラウと繋いでいた手を離した。


「あっ……」


 少女は小さく声を漏らした。


「代わりにこの俺が繋いでやろう。人混みで迷子になったら困るからな」


 そうやってフラウの手を取るために手を伸ばすも、驚いたのだろう。少女は手を引いた。しかしその手を掴んだ。


「えっ!? 止めっ……! レノン!? どういうこと……?」

「殿下がお嬢様と楽しい時間をお過ごしになりたいと仰ったので、この場を用意させていただきました」

「私聞いてないよ! レノン! どうしてそんなよそよそしい話し方をするの? 私はーー」

「身分が下の者としか外出していなかったから緊張しているのか? 気にするな。じきに慣れる。それに、高貴な者同士でしか通じ合わないものもあるさ。さあフラウ、もう召使いはいらないだろう? 帰っていただこう」

「嫌だ! 私はレノンと行きたいからここまで来たんです」


 フラウは手を振り解こうとするが、殿下はガッチリと掴んでおり、離そうとしない。


「お嬢様は急に殿下とお会いしたので混乱しているのです。落ち着くまで僕の同行も許可していただけないでしょうか」


 殿下は苦い顔をして僕を見ると、


「そうしないとフラウが行きたくないというのなら仕方ない。特別に許可してやる」

「ありがとうございます」


 僕は一礼をすると、


「それでは行きましょうか」


 と言って二人が魔物館に入るのを促した。


「どこ行く?」


 魔物館に入ってフラウは僕に聞く。僕は予習してきた通りに答える。


「溶岩館がお勧めでございます。お嬢様。そして殿下」

「貴様に決められるのは癪だ。フラウはどこに行きたいんだ?」

(どこまでも偉そうなやつね)

(実際に偉いからね……)


 殿下がフラウに尋ねる。まあこうなるのは何となく分かっていた。


「レノンがお勧めしてくれているから、溶岩館に行ってみたいです」

「……まあいい。行くぞ」


 そう言って歩き出す。僕はフラウの一歩後ろを歩く。


「レノン! 爆走蜥蜴だって! 懐かしいね!」

「懐かしいですね、お嬢様。溶岩を走るらしいですよ」

(セレーナにフラウ。そっちの師弟もそこが目に入るのね。中々面白いわ)


 正直それは僕も思ったが、ある意味思い出だ。騎士見習い初依頼の時にフラウと一緒に戦った魔物だからだ。


「レノン、その喋り方止めてほしい。いつも通りがいいよ……」

「僕はいつも通り接しておりますよ」

「……嘘つき」


 フラウはボソッと呟いた。だが殿下がいる手前、いつもタメ口だなんて言えない。


「それにしても大した魔物はいないな。それよりこの溶岩館。俺なら一瞬で凍り付かせることができるぞ? やってみせようか?」


 殿下はフラウにそう話しかける。


「流石です殿下。しかしそしたら魔物がみんな死んじゃうからいけないと思います」

「ここがどうなったって俺には関係ないからな。だがフラウが言うのなら止めておくかーーおい、次はどこに行くんだ」

「水族館がお勧めです」

「ではそこに行くとしよう。他にお勧めはあるか?」

「最後になりますが、飼育できる魔物と触れ合える場所が最上階にあります」

「そうかーーおい、ちょっとこっちに来い」


 殿下はそう言って僕を引っ張っていく。


「どうされましたか?」

「お前、ちょっと迷子になれ」

「しかし、それでは案内がーー」

「不要だ。俺達だけでゆっくり見物したい。最上階で待っていろ」


 殿下は小さい声で話していたが、その圧は物凄いものに感じた。


「畏まりました。それでは屋上で待っています」

(大丈夫なの? そんなことして何かあったら……)

(ここで問題を起こされても困るから。言うことを聞いていれば大丈夫だと思う)

(うーん、ちょっと心配ね……)


 サキはそう言うが、目の前で殿下が言ったら断れるわけない。僕は人の流れに身を任せて二人と距離を取る。そして見えなくなった頃、最上階へと向かった。



 ◆




 人が多くて疲れてきた。でも殿下は手を離してくれない。レノンなら上手くやってくれるかもしれない。私はそして少年の姿を探す。しかし少年の姿はどこにも見当たらなかった。


「殿下! レノンが……!」

「はぐれてしまったのだろう。まだここら辺に居るはずだ。見物しながら探せばその内見つかるだろう」

「は、はい……」


 レノン早く戻ってきてと心の中で祈りながら私は歩き続ける。すると、殿下が私に話しかけてきた。


「フラウ、レノンという男のこと、好きなのか?」


 いきなり放たれた言葉。上手く返さなければ、大事になりかねない。こういうときレノンが居れば良いのに。だけど居ないのだから私が上手く答えるしかない。


「し、私的な事は、たとえ殿下でも話しかねます……」

「まあ、どっちでも良い。だがあの男は平民だぞ」

「それは……身分が高い人が誰とお付き合いしようと関係ないと、思います……」

「政略結婚という言葉もあるほどだ。関係なくはない。実際フラウの母親もそうだったではないか」

「それは……」


 聞いた事なかったから分からない。長い間お母様とお父様は会っていなかったとも聞くし。政略結婚だったのかもしれない。


「まあそれも、フラウがレノンという男に好かれていればの話だがな。あの男、誰に対しても優しく接する人間だぞ? それに騙されているだけにも思えるがな」

「うう……」


 そうかもしれない。セレーナにも、私には全然だったあのハクさんとも上手く話していたのだ。意識しないでも、レノンは他の人にも優しいのだ。


「俺ならフラウを特別に扱う。俺は皇帝を約束された男だ。あいつと違ってできない事はない」

「殿下に特別扱いしてもらう必要は……」


 そこまで言って思う。私はレノンに特別扱いされたいのだろうか。皆に優しいからレノンが好き? それでも時々胸が辛くなることなんてないと言い切れるだろうか。


「相当レノンという男を特別視しているように見える。これを言うかは悩んだのだが、フラウのためにも言ってやろうーー」


 私はもう言い返す余裕も気力もなかった。ただ紡がれる言葉を待つ。


「あの男は諦めろ。何故なら、あの男には姉上がいる」


 殿下の姉上、サキさんのこと、一番聞きたくなかった言葉だ。ずっと目を逸らしていた事実だ。


「姉上は実力も、魅力も、一緒にいた期間もフラウを上回る。あの男は、間違いなく姉上のことが好きだ」

「あっ、ああ……」

「魔法で何でもできる姉上と、一人では何もできないフラウ。レノンはどちらに惹かれると思う?」


 残酷な質問。分かりきっている答え。体が震えてきて、呼吸がうまくできなくて、立っているのも辛くなる。


「何もできないのを手伝ってやるのも、俺は悪くないと思うがな。それは高貴なる者だからだ。自分のことを自分でこなさなければならない平民は、フラウを見てどう思うかな?」


 涙で目の前が霞む。そうだ。一緒に居て、優しくしてもらって浮かれていただけで、私はレノンといる資格なんてないんだ。サキさんに譲るべきなんだ。


「俺と来い、フラウ。全てを失ったとしても全てを与えてやる」


 何も言うことができない。反発しないといけないのに、したいのに、言葉が出てこない。


「答えを急がなくても良い。少し経った後、もう一度聞いてやる」


 殿下はそう言って私の頭を撫でる。何もできない。何もする気にならない。


「もうそろそろ行こうか。これだけ見ても居ないとなると、最上階で先に待っているかもしれない」


 そして手を取って私を連れていく。そして最上階に着いた。



 ◆



(フラウと殿下、遅いなあ。楽しんでいるからなのかな?)

(私は何か嫌な予感がするんだけど……)


 そんな中、二人の姿を目が捉えた。フラウは、泣いていた。


「何があったのですか!? お嬢様! 大丈夫ですか!?」

(フラウちゃん!? 何をされたの!?)


 僕が駆け寄るとフラウはただ頷くだけで、何があったかは話してくれない。


「君がいなくて話が上手くできなくてね。気まずくなりすぎて泣かせてしまった。俺の判断が間違っていた。今日は帰らせてあげた方が良い」

「当然です。ここまで連れてきてくださり、ありがとうございましたーー遮断!」


 僕はそう言って他の人に気づかれないように魔法をかけると、フラウの手を取ってゆっくりと歩幅を合わせて歩く。


「大丈夫。僕がついているからね」


 僕が声をかけると更に泣き出してしまった。


「どうして!? どうすれば!?」

(寂しかったんでしょ! あなたのせいよ! 抱きしめるくらいしてあげなさい!)


 確かに泣いている時はそうすると安心するかもしれない。僕は泣きじゃくる少女の背中に手を回した。


「もう大丈夫。これからは一緒だからね」

「ごめんなさい……ごめんなさい……!」

「何が? フラウは何も悪くないよ?」

「何もできなくてごめんなさい……! こんな私でごめんなさい!」

「何で謝るのさ? それに、フラウは何もできなくなんかないよ」


 僕は動くことなくただ、抱きしめ続ける。しかしフラウは首を振って、


「あなたと一緒にいる資格なんてないの!」


 そう言うと僕を突き飛ばして走って行ってしまった。

 一緒にいる資格がない、か。ずっと考えてきたことだが、言葉にされるときついな。


(レノン! 今はボーッとしていないでフラウちゃんを!)

「そうだ! フラウ! フラウー!」


 僕は呼び止めようとして追いかけるも、強化の魔法を使ったフラウについていくことはできなかった。

 そして僕はイヴォル城に戻った。僕が戻ってきた時には、フラウは一人で部屋に篭っていた。両親が扉の前で声をかけており、僕は二人の守護騎士に連れていかれた。


「レノンくん! 何があったの!?」

「申し訳ございません! 僕も何があったかよく分からなくて……」

「お前が何かしなければ、お嬢様がこうなるわけがないだろ!」


 ラドが怒鳴りつける。当然だ。あんな姿を見せられたら僕だって糾弾するだろう。


「ラド、落ち着いて。レノンくんがお嬢様を泣かせるわけないじゃない」

「事実今泣いているだろうが! それに無断で外出だと!? セレーナ、お前も管理責任が問われる。擁護している余裕なんてないんだぞ!」

「私はどんな罰でも受けます。だから今はレノンくんとお嬢様のことを……!」

「僕もどんな罰でも受けます。フラウのためにできることをーー」

「お嬢様のことを軽々しく呼び捨てにするな! 除隊で済むと思うなよ? リューナ=イヴォルに二度と足を踏み入られなくしてやる!」


 その時、扉にノックの音がする。


「俺だ。入って良いか?」

「良い訳ないだろうが! お前は一番の部外者だろ!」

「そうか……殺すなよ」


 ラドの怒り具合に諦めたのか、そう言い残して師匠は去っていった。

 事情聴取もこの調子では進まず、後日大伯主催で行われることになった。

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