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天才魔女との憑依同盟  作者: アサオニシサル
5章 リューナ=イヴォルの女王
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96話 イヴォルデート大作戦(前編)

 シーザーとフラウとの話を終えた僕は、自分の部屋に向かって歩いていた。そして僕の部屋の前でまるで僕を待っているかのように時間を潰していた少年がいた。


「あっ、レック殿下! どうなさいましたか?」


 僕が声をかけると不満そうな顔をして、


「遅いぞ。俺を待たせるなんて、なんて不敬なやつだ」

(偉そうに……)


 実際偉いのだから仕方ない。僕はできるだけ礼を尽くそうと言葉を並べる。


「申し訳ございません。それで、僕に何か御用でしょうか?」

「そうじゃなきゃこんなところで待っているわけないだろ」

「ですよね、申し訳ございません」

(さっきから謝ってばかりじゃない! ガツンと言ってやれば良いのよ!)

(そんなわけにはいかないよ……)


 このお方は南側とはいえとんでもなく偉い方なのだから、丁重に接しなければならない。


「ふん! まあいい……俺の言うことさえ聞いてくれればな」

「何かお力になれることがあるでしょうか?」

「お前はフラウの召使いかなんかか?」

「え、えーっと……」


 よくよく考えるとフラウとの関係を聞かれた時の外向けの答えを用意していなかったことに気づく。仲間と言うのもなと思うし、友達だなんてもっての外だ。そう考えると召使いというのもあながち間違いではないのかもしれない。


「はい。そのようなものです」

「そうか。それなら話は早い」


 レックは気分良さそうに言うと、


「あらゆる手段を用いて明日の朝、フラウを俺の元へ連れて来い。勿論アメリアは連れてくるなよ?」

(何か嫌な流れになってきたわね)

「大伯がお許しにならないかと思いますが……」


 帰ったらフラウも怒られるし中々気が進まない。


「連れて来なければ、退屈過ぎて作戦の日まで待てずに帰ってしまうかもしれないぞ? 怨恨の憑魔を止められるのは俺だけなのにな。フラウも殺されるかもしれないぞ」

「それは……困ります……!」


 僕が原因で作戦が行えなくなるなんてあってはならないことだ。しかも怨恨の憑魔だ。これ以上犠牲を出す前に何とかしたいという気持ちもある。


「だったらなんとかしろ。なに、ちょっと遊びに行くだけだ。上手くいったら俺が擁護してやる。あとこのことは大人には誰にも漏らすなよ?」

「……分かりました」

(レノン! 引き受けちゃうの!? ダメよ! 危険過ぎるわ!)


 サキが警告する。危険なのは分かっている。だがーー


(でも、そうしないと作戦が……)

(それは何とかならないのかしら?)

(それに、フラウも僕なんかじゃなくて他の男の子と遊ぶ機会があった方が良いよ)

(もう、拗らせているわね……)


 サキは何かよく分からないことをブツブツ呟いていた。


「あとイヴォルなんて街のどこに面白い場所があるかを事前に調べておけ。まだ夕方にもなっていないから時間ならあるだろ」

「畏まりました」


 僕はそう言うと、フラウの部屋に向かう。


(作戦はあるの?)

(作戦か……確かに普通に誘うだけだと断られちゃうかもしれないよね)


『お母様が……』と言って断る様子が容易に想像できる。


(まずは楽しい場所を見つけてどうしても行きたいって思わせなきゃだよね)

(それも良い手かもしれないわね)


 でも村育ちの僕に、大きな街の遊ぶ場所なんて、更に女の子が喜びそうな場所なんて分からない。他の人の力を頼るしかない。


(女の人か……)


 僕は誰がいたかなと思い返してみる。大伯と陛下は……ダメだ。聞いた時点で首が繋がっている未来が見えない。セレーナさんは……大人だからな。上手く立ち回らないとバレてしまう。でも他となるとサキしかいない。サキはダメだ。遊びに行くことになっても食べることしか考えていない。


(ちょっと、今失礼なこと考えていたでしょ?)

(失礼じゃない。事実だと思うから。それともサキはそういうところよく通っていたの? そもそもそういうことする仲の人……つまり恋人っていたの?)


 そういう話は普段していなかったなと思い出す。


(好きな人は……いたわ。恋人にはなれなかったけど)

(意外だな。サキなら第二皇女だし凄い魔法使えるしでモテると思っていたのに)

(身分が高ければ良いなんてものじゃないのよ。あと私、凄い魔法が使え過ぎて恐れられていたし。そういうの気にしない人だったから好きだったんだけど……って何言わせているのよ!)


 サキは結構促せば喋ってくれるから楽で良いのに。流石に大事なところは伏せているらしいけど。


(告白する前にサキが……もしかして好きな人って師匠?)

(はあ? なんでゼクシムなんか……! なんかなんて言っちゃダメだったわね。でも違うわ。あくまでゼクシムは弟子! それだけよ。それより話を戻しましょうよ。あんまり時間ないわよ)

(本当だ……! じゃあセレーナさんに聞きに行こう! それしか選択肢が思いつかないや!)

(そうしましょう!)


 急がなければと思い、早歩きでセレーナの部屋へ向かった。ノックをした後に、声をかける。


「失礼します。レノンです」

「あら、レノンくん? どうかしたの?」

「少しお願いがありまして……」

「分かったわ。取り敢えず入って」


 そうしてセレーナの部屋に入る。すると師匠も一緒にいた。


「あっ、師匠もこちらに居たんですね」

「守護騎士に監視されているからな」


 そう言えば悪魔だから監視がいるんだった。イヴォルはかなり緩い対応で許されているが。


「セレーナさん、今日この後予定はありますか?」

「お嬢様の訓練相手はラドがしているし、ゼクシムの監視の任務があるけど、辺境伯が寛大な措置を取ってくれているから結構自由に動けるわ。でも訓練はちょっと目を離せないから……ごめんね?」


 セレーナはいつもの僕の調子から先回りして言葉を用意する。


「いえ、今日はちょっと聞きたいことがありまして……」

「何かあったのか。俺にできることは少ないとは思うが……」


 ゼクシムはすまないと加える。


「いえ! そんな事ないです! それでその、内容なのですが……セレーナさんはイヴォルで男の人と遊びに行くならどんなところに行きますか? 女性目線の意見が聞きたくて……」

「レノンくん……! もしかして! いえ、言わなくて大丈夫よ。うーん、でもイヴォルに私詳しくないし……」


 セレーナがそう言って悩んでいるとーー


「俺はイヴォルにそれなり詳しいつもりでいる。街案内くらいならできるが?」

(そうよ! セレーナだけじゃなくて、ゼクシムが居たじゃない!)


 サキは大きな声で言った。自分はどうなんだと聞きたいが、サキは地図が読めないのを思い出した。


「ゼクシム、イヴォル案内してよ! 私達二人のお願い!」


 セレーナは手を合わせて目を閉じてからチラッとゼクシムを見る。


「断る理由はない。むしろ助けになるのならこちらからお願いしたい程だ」

「それならよし! 行きましょう!」

「あの、セレーナさん。外出許可取らなくて良いのですか……?」

「問題ありませんでしたって報告すれば大丈夫よ! それよりほら、どこに行く?」

(セレーナってゼクシムが関わるとワルになるわよね)

(うん、やっぱりそうだよね)


 僕達は静かに賛同した。


「だが女の子が喜ぶ場所と来たか。俺は女じゃないからな。実はよく分からない。武器屋はダメだとサキから教わった」

(サキ、分かっているじゃん)

(ふふん、これくらい常識よ)

「確かに武器屋はちょっとね……イヴォルってそれだけじゃないでしょ? それだけって言ったら辺境伯が泣くわよ?」

「ああ、だが俺は良い場所を知っている。魔物館とかどうだ?」


 ゼクシムは今度は自信あり気に言った。


「魔物館……? 魔物が出そうな……」


 僕が話そうとすると、師匠がそれを手で制す。


「色々な魔物が展示されていて、それを鑑賞する場所だ。最上階では魔物も飼えるぞ」

「時々私達みたいに魔物を連れて歩いている人を見かけたけど、そういうことだったのね」


 セレーナはなるほどねーと言っていた。


「それでどの展示室がセレーナに響いたかで当日見る場所を決めれば良いんじゃないか」

「ゼクシム凄い! 因みに他にはあるの?」

「美術品や音楽の鑑賞があるが、正直俺にはよく分からん」


 ゼクシムは首を振りながら言う。


「そうね……正直私も分からないし、魔物館行こっか!」

「はい!」


 そうして立ち上がるとセレーナが近寄って来て、


「明日の訓練担当、私だからお嬢様が時間取れるようにしておくね」

「そんなことまで……良いんですか? 流石にセレーナさんも危ないんじゃ……」

「朝は大伯忙しいから大丈夫よ。そうならないように立ち回っておくわーーあっ、でもお昼までには戻ってきてね! 多分観にくると思うから!」

「は、はい!」


 そう決まったので、僕達は魔物館に向かった。入館料をセレーナに払ってもらって申し訳ない気持ちになりながらも、まずは溶岩館に向かった。


「凄い溶岩だらけなのに暑くないのね。どうなっているのかしら?」


 そう、それは僕も驚いた。気温の管理がしてあり、透明な壁の内側と外側の温度が違うらしい。師匠曰く遠隔で障壁が張られているらしく、魔力反応的にも大魔術師が職員にいるのだろうと言っていた。魔物が溶岩に飛び込んでも、好戦的な魔物がぶつかっても割れないのは流石だと思った。騎士に所属していない魔法使いがここまで凄い魔法を張るのはイヴォルならではだと思った。


「あっ! ゼクシム見て! 凄い! 爆走蜥蜴が溶岩の上を走っているわ!」

「何だか襲われる心配がないと思うとそれも面白いな」

「蜥蜴を可愛いと思ったの初めてかも!」

(セレーナ凄いはしゃいでいるわね)

(うん……でもさこれって……)


 僕は周りの声に耳を傾けてみる。絶対気づかれるだろうと思っていたが、周りは全く気づいていないようだった。


「俺達を認知できないように遮断する魔法を使っている。普段使い慣れているから穴はないはずだ」

「流石師匠!」


 僕は感動しながら進んで行った。


「竜はいないのね……」

「流石に抑えるのが難しいということだろう」

「ゆっくり見たかったのに、残念。ヨウガンナミマとかはいたけど……それで、次はどこに行くの?」

「森は……もう散々見ただろうからな……水族館はどうだ?」


 師匠はそう言うと館内図を見ながら言う。


「魚がたくさんいる場所なのね。大きい魔物がたくさんいるらしいから、迫力あるかも! 行ってみましょう!」

「走らなくても良いだろう。レノンの前だぞ」

「あっ、そうだった……レノンくん、今日の私は忘れてね?」

「ハイ、ワスレマス」

(いやいや無理だって! あのいつも優しくて冷静なセレーナさんがまるで子どもみたいに……! いや今も優しいけどさ!)

(そうねー、まさかあのゼクシムを引っ張る側だったなんてね)


 サキならこんな感じだろうという想像がつくが、セレーナのそういう姿は意外だった。師匠といると自分を抑えている何かが壊れるのだろうか。


「レノンくんも忘れるって言うし、行きましょう!」


 そして僕達は背中を押されて水族館に向かった。


「規模が大きいわねー! 広いし、展示の障壁も大きいし、何より大きな魚がいるわね!」

「もし戦うことになったら苦戦しそうだな」

「いや、師匠が苦戦するくらい強い魔物は展示できないと思いますよ」

「サメってこんなに大きかったのねー」


 セレーナはサメの展示場の前に立っている。確かにみたことがない大きさの魚だ。他の展示されている魚と分けられているのは食べてしまうからだろうか。人食い魚と呼ばれているだけある。


「セレーナ、デカい魚だけでなく、小さな魚も中々愛嬌があるぞ」

「あっ、そうね。群れで動いていて一生懸命泳いでいて確かに可愛いわ」

(なんか微笑ましいわねー)


 サキが二人を見て和やかな雰囲気で言う。年上の人を見て微笑ましいなんて言ってはいけない気がするが、普段の激務を考えると伸び伸びとしていてこっちも嬉しくなる。


「師匠、セレーナさん。時間的に最後だと思います。次行きましょう!」


 僕は少し申し訳ないが二人に声をかける。


「あっ、レノンくん。それなんだけど……」


 セレーナは少し残念そうな顔をしてこっちを見る。会話の邪魔をしてしまったからだろうか。


「全然怒っていないんだよ? だけど安全策を取るにはそろそろ帰らなくちゃだし……」


 そう言った後、僕の耳元にまで顔を近づけて、


「一番楽しい場所はお嬢様と行ってきて」


 と囁いた。


「分かった?」

「はい! ありがとうございます!」


 これだけの場所なら殿下もきっと喜んでくれるはずだ。僕にできることは最大限やっただろう。


「ゼクシム、残念だけど時間ね。大伯に気づかれたら明日のレノンくんの時間が台無しになっちゃうわ」

「……そうか。本来の目的はそうだったな」


 そう言って僕達はイヴォル城に戻る。認識遮断されているため門番も気づかないで城に入っていくが、これはこれでどうなのだろうか。

 そしてセレーナの部屋に戻る。


「レノンくん、今日はありがとう。とても楽しかったわ」

「俺からも礼を言おうと思っていた。久しぶりに余暇を満喫できたと思う」

「余暇じゃないですけどね……」


 小声で僕は言う。そしたらセレーナが、


「はい、これお礼。明日のお小遣い」

「いえいえ! 今日もらって明日もなんて受け取れませんよ!」

「でもレノンくんあんまりお金持っていないでしょ?」

「ですが……」

「お嬢様も自由に使えるお金持っていないから仲間よ」

「ではそっちに回してください。僕は従騎士の分、お金あるので」

「でも、まだ初任給出ていないでしょ?」


 セレーナは痛いところをついてくる。


「き、騎士見習いの蓄えがあるので……!」

「そう? 大丈夫なら良いんだけど……」


 心配そうに僕を見る。だがここでもらっては養ってもらっているのと同義な気がした。


「大丈夫です!」

(まあお金は自分で稼いでこそよね。私もそう思えるようになったわ)


 意外にもサキも意見は同じで僕達はセレーナからお金をもらうのは何とか回避できた。

 そして夕食後、自分の部屋に戻ろうとした時に殿下に会った。


「あっ! 殿下! もしかして、お待たせしてしまいましたか?」

「まあそんなことは些事だ。明日、どこ行くか決まったんだろうな?」


 少し高圧的に殿下は聞いてくる。僕は大丈夫だが、少し嫌な予感が頭をよぎった。


「はい。明日は三人で魔物館に行こうと思います」

「魔物館? まあいい。フラウはそれで喜ぶんだろうな?」

「はい。喜んでくれると思います」

「分かった。建物の前だ。そこにフラウに来るように伝えておけ」

「場所は僕が知っているので問題ありません」

「あのなあ……」


 殿下は少し気分を害したと言った様子で一歩僕に近づいて、


「明日お前はいらないんだよ」


 さも当然といった口調で言った。

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