94話 騎士狩祭最終戦
アゾン&エイリス戦以降も三回騎士との戦いがあったが、それはあの二人には及ばない実力の者だった。そして遂にお互いに一組になった。こんな特例は珍しいとして、全力で戦えるようにする為、試合は明日にお預けとなった。
最後の相手ーーマクルス兄妹。兄は正統派の回復魔法も使える万能騎士。妹ティーナは兄の補助に徹する戦いでは基本の型だ。故に、強敵なのだろう。
それにしてもーー
「凄いキラキラしているんだゾ! これがメイジスが泊まる宿屋ってやつなのかだゾ!」
キラキラした声を発したのは無論語尾からしてパロだ。いつも僕が泊まる宿屋からすると、部屋の明かりがやけに洒落ていると感じる。今はセレーナが取った部屋に皆が集まっているが、こんな良い部屋は初めてだ。これを三部屋も取ったというのだから改めて凄い人だなって感じる。
「守護騎士が泊まる部屋だとこれでも庶民的な方よ。でも、明日二人には頑張ってもらいたいし、これくらいはさせてね」
セレーナはニコッと僕に微笑みかける。
「ありがとうございます! この椅子、座っても良いですか?」
「許可なんて一々取らなくても良いのに。どうぞ」
「ありがとうございます!」
そして僕が座った瞬間だった。
「ーー扉を開けなさい。フラウ、セレーナ」
その言葉が部屋を凍り付かせた。それは何度も聞いたことがある声だったからだ。
「大伯!? 何故イヴォルに!?」
「扉を開きなさいと言ったのです。話はそれからにしましょう」
セレーナは全員と目を合わせ、頷く。
「はっ、畏まりました」
そして、扉を開く。目に映ったのは想定通りアメリアの姿だった。
「何故私がイヴォルにいるかと言いましたね。それは単純です。貴方達がイヴォルにいるからですよ。少し諜報をさせて見ればリューナの守護騎士がいるだの英雄という名の悪魔がいるだの簡単に突き止めましたよ。そもそも一番はーー」
アメリアはフラウを見て、
「魔法がイヴォル辺境伯に似ている騎士っぽい狩人がいて、それが辺境伯の娘なのではないかと噂まで立っているのです。一体貴方は何をしているのですか?」
と言葉を放った。フラウはグッと歯を食いしばって、
「私は強くなった事をお父様に伝える為に大会に参加しているの。お母様には関係ない!」
キッと強い目で返した。
「関係ないわけがありません。噂でもリオナの娘と明らかにされている以上、リオナの沽券に関わります。万一負けでもしたら貴方の将来にとってどれだけ傷がつくか」
「お母様は私の気持ちを考えてくれてない! いつもそう、体裁ばかり気にして、私がどうしたいかをいつも聞いてくれない! 私なんてリオナ家の長女としか見ていないくせに!」
「体裁を気にするのは当然の事です。それで汚い服を着なくて済むのですから。それに、リオナ家の長女をリオナ家の長女として見るのは当たり前の事です。さあ、帰る支度をしなさい。少しの間イヴォルに留まりますが、城で再教育をします」
「明日には決勝があるのに!? 出ないのは不戦敗なのに!?」
「事情が事情ですから。万一のことを考えたら当然の選択です」
「お母様は私が負けると思っているんだ! 私の事を信用出来ないって言うんだ!」
「当たり前です。言いつけを守れない娘をどうして信用できるのですか」
バチバチと火花が見えそうな言い合いで、誰も間に入れない。
「見せたかったのは、お父様だけじゃなかったのに……」
「そういう言い方をしても無駄です」
「うっ……」
「そこまでだ。勝てる試合も勝てなくなってしまう」
間に入ったのは、ここにはいないはずの師匠だった。
「城では顔を合わせましたが、何故ここに? まあ良いです。邪魔に入ってどういうつもりですか、ゼクシム。あなたには関係ないでしょう」
「関係なくない。ティマルスで命をかけて戦った仲間だ」
「だからと言ってーー」
「厳しいだけでそれは甘い。今後自らの力で解決しなくてはならない問題が起きた時の経験を積ませることも必要だーー頼りっきりだと、急にいなくなった時、何もできない自分しか残らないからな」
(ゼクシム……)
どうやら自分のことを話しているとサキもアメリアも気づいたらしい。バチバチしていた部屋が一瞬静かになった。
「…………貴方の言い分も一理程度はありますね。良いでしょう。それがフラウの決断だというのなら、勝ってみなさい。リオナ家の長女として、優勝以外はありませんからね!」
「明日出ても良いのですか?」
「勝つのなら良いと言ったのです。負けるかもしれないのなら、私のところに来なさい。出る以上、勝つ以外私は祈りませんからね」
そう言い残すと、アメリアは去っていった。
「大伯の弱い点がわかったかもしれないんだゾ。ゼクシム、よくわかったなだゾ」
「大伯の弱点……? そんなものがわかったのか。それより明日のマクルス兄妹の弱点の方が大事だと思うがな」
「お母様が私の勝利を祈ると言ってくださった! あのお母様が……!」
フラウはそう言ってとても喜んでいた。
「ゼクシム、勝手に抜け出したらまたシーザー様が困るから早く城に戻ろうね」
「大きな魔力が迫っていて危険が迫っていると思ったのが……」
「よく追い払ってくれたゾ。帰るんだゾ」
ゼクシムはセレーナとパロに言われて部屋から城に戻っていった。
その後、いろいろな作戦を考えたのだが……
次の日ーー
「狩人側! 今や狩人界の伝説の再現なるか? シロガネ&レノンだー!」
「噂は聞いていますので、全力を尽くして戦わせてください」
「全力を出し切って絶対に優勝します!」
フラウはそのように強気な言葉を口にした。
「対する二人はこの二人がいる限り狩人側に優勝はあり得ないと言われた二人、マクルス兄妹ーーエアード&ティーナだー!」
「正々堂々勝負といきましょう」
「お兄様がいる限り、貴方達に勝利はありません」
「両者闘志に燃えています! では充分に距離を取って……試合開始!」
開始直後からフラウがエアードに斬りかかると、
「何っ!? この私が押し負けているだと!?」
エアードはやる気に満ちたフラウに圧倒され、
「お兄様! 今手当を……!」
ティーナがそう言っている間には、背中を地面につけていた。
「降参、私の負けだ……」
「お兄様が負けてしまったなら私は戦えませんわ……」
そのようにして決勝戦の決着が簡単に着いてしまった。