プロローグ2『襲い掛かる未知』
――どうなってんだ?
彼は困惑している。視界の先に誰にも説明できない現象が広がっている。
つい先ほど訪れたばかりの異世界。異色の街並みに異色の人々。異世界の大衆が行きかう大通りの真ん中で、摩訶不思議な現象に見舞われている。
辺りを見渡して得られる情報を単純に言うと、世界にひびが入っているのだ。
上下左右前後、見渡す限りの辺り一面を世界を引き裂くひびが覆い尽くす。
――何がどうなってんだよ、これ・・・
困惑するのも無理はない。
なにせ、ガラスが割れるときのように世界が崩壊していく最中、周りの人々はそのことを気にも留めていないのだ。
平然と挨拶を交わす人々、露店で買い物をする人々、大衆を避けて通る荷車。
彼の周囲には、そこに普段からあるであろう平凡な日常の光景が広がっていた。
異世界にとって非常事態の現象が起こっているのにも関わらず、異世界の人々は何食わぬ顔で普段の日常を送っているのである。
そのような混沌とした状況に彼は理解できずにいた。
世界に入ったひびが全て一点の末端に集約したその刹那、世界は割れたガラスの欠片のように砕け散り、底の見えない深淵へと落ちていく。
それと同時に光が失われ、周囲の音も聞こえなくなり、視界は暗黒に包まれた。見渡す限りの真っ黒な世界に一人ぽっつんと突っ立っている。
何が起きたのか、脳内で整理し理解しようとするも、なかなか理解できない。それもそのはず、世界が割れる現象なんて見た事も聞いたことも無く、初めてその現象に襲われているのだから。
暗黒な視界の正面に一点の白い光が現れる。彼はその光を見つめる。何も見えない世界に出現した一筋の光はこちらに向かって迫りくる。徐々に視界が眩しくなっていく最中、彼を新たな未知が襲い掛かった。
「ようこそ、メシア」
優しそうな声。美しい声だ。しかし、誰の声なのかわからない。彼の右から知らない声が聞こえてきた。
話しかけてきたのは誰なのか、気になった彼は声がした方へ振り向こうとしたそのとき、いつの間にか彼のもとにたどり着いた眩しく明るい光に包まれた。
「うわっ」
あまりの眩しさに思わず声が漏れ出る。
刺激の強い光が弱まってようやく目を開けると、そこには見覚えのある光景が広がっていた。
これぞ中世ヨーロッパと言わんばかりの雰囲気を醸し出している石材や木材で建てられた街並みに、石や煉瓦で舗装された大通りの上を大衆が行き交い、街は活気に満ちている。
ここは、彼が初めて異世界に降り立った場所。
異世界に転移して初めて目にした風景は、あまりにも新鮮過ぎて忘れるはずもない。
「何だったんだ?今の……」
未知と未知と未知に襲われた彼は、見覚えのある街の中でただ独りボソッと呟いた。