大丈夫との考えは落とし穴
大丈夫と考えることは落とし穴になる。芥見下々『呪術廻戦 24』第212話「膿む」で虎杖悠仁は、伏黒津美紀が死滅回游から離脱すれば、もう伏黒恵は大丈夫と考える。さらに自分が死ぬことで五条先生が解放されれば「もっと大丈夫」と考える。
しかし、物語が進行するにつれて、虎杖の「大丈夫」という考えに根拠がないことが明らかになった。実際は全く大丈夫ではなかった。大丈夫は大抵の場合、大丈夫ではない。むしろ大丈夫と考えると大丈夫でなくなる。大丈夫だと思うことが逆に危険な場合が多い。大丈夫と言う考えが誤った方向に誘導させる。
虎杖は宿儺の悪辣さの考慮が不足していた。主人公の中に悪霊的な存在が共生する物語では悪霊的な存在が主人公に感化されて、憎まれ口を叩きながらも主人公に味方する展開が定番である。そのような読者の予想も裏切る展開になった。呪いは、あくまでも呪いである。虎杖が大丈夫と考えるシーンは読者のミスリーディングを誘うものである。物事は思わぬ方向に進展し、物語に新たな複雑さが生まれた。
大丈夫の悪用には他人のことを勝手に大丈夫と決めつける無責任がある。西尾維新原作、暁月あきら漫画『めだかボックス 11』(集英社、2011年)で球磨川禊が「大丈夫だと思います」と言ったら、人吉瞳に「球磨川くんは黙っていてもらえるかな」と言われた。
球磨川禊の言葉に対して人吉瞳が疑念を抱いた理由は、彼女が「大丈夫」という言葉に対して違和感を抱いているからである。人吉瞳は「大丈夫」という言葉が、実際には問題や困難があるにも関わらず、ただの形式的な言葉として使われていると感じている。それ故に彼女は球磨川禊が黙っていることを望んだ。
剣名舞作、加藤唯史画『ザ・シェフ 3』「二つのオードブル」では「大丈夫」の失礼な使い方が描かれる。支配人が「大丈夫でしょうな」と味沢に尋ねる。これに対して味沢は「大丈夫……とは私の腕が信用できないという事ですかね」と怒る。相手に「大丈夫」と言って、実際には不安や疑問があることを示唆する、失礼な使い方を批判している。
味沢は支配人を「邪魔」「目障り」と言う。支配人は潤滑なコミュニケーションをするくらいの気持ちで「大丈夫」と口にしたのだろうが、自己満足に過ぎない。相手にとって有害である。味沢の反撃は心地良い。
東京03のコント「大丈夫です」は相手の要望を「大丈夫です」と言って拒絶する。このコントは第6回東京03単独ライブ「無駄に哀愁のある背中」で披露された。角田さんの要望に豊本さんと飯塚さんが「大丈夫です」と言って拒絶する。それが笑いを引き起こす仕掛けとなっている。
「大丈夫です」は相手を安心させるために使われがちである。実際は大丈夫ではなくても「大丈夫です」と答えることも多い。それを悪用して保身第一の無能公務員体質は「大丈夫か」と質問して「大丈夫です」と答えさせて責任逃れをしようとする。
このコントでは逆に「大丈夫です」が相手に安心を与える言葉ではなく、相手の思い通りにしない抵抗の言葉として使われる。このシンプルで意外性のあるやり取りが、観客を驚かせ、笑いを誘う。このような逆転の発想とユーモアが、東京03のコントの魅力の一部である。




