恋人
対面コミュニケーション強要は苦痛である。会話しているだけでも気が苛立ってくるし、少し長く話を聞かされると頭痛や腹痛が生じる。
「ちょっと待ってくれ! 俺の話を聞けよ」
「………………」
「おい、無視すんなよ。聞いてくれってば」
「……」
「おーい、聞こえてるのか? もしもし? もしもぉ~し?……ったく、何回呼んでんだよ」
「うるさいなぁ。なんですか? 私、忙しいんですよ」
「だから、話を聞いて欲しいって言ってるだろ?」
「嫌です。聞きたくないです」
「そんな事言うなってぇ~。頼むよぉ」
「しつこいですね。いい加減にして下さいよ」
「じゃあ聞くけどさ、お前、今どこにいるんだ?」
「えっ!??……そ、それは……その……」
「もしかして家にいるんじゃないのか?」
「ち、違います!」
「そうか……。なら良かったぜ」
「……」
「俺は今から出かけるところなんだが、ついでにスーパーで買い物をしようと思ってたんだけど、冷蔵庫の中が何もない事に気付いてさ。それで電話したわけだけど、まさか家にいないとは思わなかったよ」
「うぅ……」
「それにしても驚いたよ。だって急に『助けて欲しい』なんて言い出すんだもんな。一体どうしたっていうんだ?」
「……」
「まあいいか。とりあえずこれからすぐに行くから、大人しくしててくれよ」
「えっ!??」
「それじゃまた後でな」
ガチャッ ツー・ツー・ツー……………… ピンポーン♪
「はい」
「あっ、こんにちは。突然すみません」
「いえ、大丈夫ですよ。それより上がってください」
「はい。失礼しますね」
「お茶でも出しましょうか?」
「ありがとうございます。ではお願いできますか?」
「分かりました」
(ふ、危なかったわなんとか誤魔化せたみたいね)
「ところで今日は何を買いに来たんですか?」
「はい。実は夕飯の材料が無くなっていたのを思い出しまして、買い足しに来たところだったんですよ」
「そうなんですか。わざわざ買ってきて頂いて申し訳ありません」
「気にしないで下さい。私が勝手に来ただけですから」
「それでも助かります」
「いえいえ、とんでもないです」
「あの、一つ質問があるのですがよろしいでしょうか?」
「はい。構いませんよ」
「いつ頃からここに居たんですか?」
「はい。大体30分くらい前からになりますかね」
「そうだったんですか。全然気付かなかったので驚きました」
「そうでしょうねぇ。何しろ隠れていましたからね」
「えっ!??……どういう意味ですか?」
「そのままの意味ですよ。つまり私はずっとこの部屋に隠れていたってことなんです」
「ど、どうしてそんな事をする必要がありますか?」
「それはもちろん、あなたを監視するためです」
「監視?……一体何を言っているんですか?」
「言葉通りの意味ですが何か問題でもありましたか?」
「ありますよ! 問題だらけじゃないですか!!」
「例えばどんなところがですか?」
「まず第一に、私を監視したところで何にもならないと思います!」
「確かにそうかもしれませんが、万一の事を考えると心配で仕方がないんですよ」
「だからといって見張る必要は無いと思うんですけど!」
「そんな事はありませんよ。もし仮にあなたに恋人が出来たら、その時に邪魔が入るかもしれないではありませんか」
「こっ、恋人だなんて!!……そっ、そんなもの出来るわけないじゃ無いですか!」
「そうかなぁ? 案外近くにいたりして」
「いっ、いるわけないでしょ!」
「本当にそう言い切れますか? よく考えてみてください」
「……」
「どうやら心当たりがありそうですね」
「そっ、それは……」
「やっぱり居るんじゃないですか」
「うっ……」
「ほぉーら図星だぁ。やっぱりそうなんですね」
「うぅ……」
「まあ別にいいんじゃ無いですか? 恋をするのも自由だと思いますし」
「えっ!?……そ、そうなん……ですか?」
「もちろんですとも。ただ、あまり度が過ぎるような事があれば話は別ですけどね」
「そっ、それは……」
(うぅぅぅ……)
「おっ? 今度は黙り込んでしまいましたね。もしかして思い当たる節でもあるのかな?」
「うぅぅ……」
「おぉっと、これは怪しいですね。是非聞かせてもらいたいものです」
「わ、分かりました……」
「素直でいい子です。それで、相手は誰なんです?」
「……さんに……です」(ボソッ)
「えぇ?聞こえませんよ?」
「うぅぅ……」
「もう一度大きな声で言って下さい」
「えっと……、さ、桜井君にです」
(な、なんて恥ずかしいセリフを言わなくちゃいけないのかしら……。でも、もうこうなった以上は言うしかないわよね……)
「ふむ、なるほど。桜井さんの事が好きなんですね?」
「は、はい……」
「ふふふ。やっと白状してくれましたね。これで安心できます」
(ふふ、まさかこんな展開になるとは思ってなかったわ。でも好都合ね。このまま既成事実を作ってしまえば、きっと彼を手に入れる事ができるはず)
(くっくっく。今はまだ私の方が強い立場にいるわ。だからこそチャンスなのよ。ここで一気に距離を縮める事さえできれば、後は私が主導権を握れるわ。ふふ、待ってなさい。絶対に私の物にしてみせるんだから!)
(よし、とりあえずは順調みたいだな。あとはあいつらが上手くやってくれるかどうかだが、それは俺には関係ない話だし気にしなくても大丈夫だろうな。それよりも今は目の前の問題に集中しないとな。俺はこの先の事を考えていると不安になってくるから、早く帰って寝るとするか)
こうして二人の思惑は交錯していく。




