ハンバーグプレート
桐田詩夜葉の足は自然とある店に向かっていた。その店の名はアルスという。大通りから一本入った路地裏にある小さな喫茶店だ。
店内に入ると、奥まった席で一人の男がコーヒーを飲みながら新聞を読んでいた。年齢は四十代後半くらいだろうか? 黒縁眼鏡をかけており、口ひげも生やしている。服装はスーツ姿だが、ネクタイではなくワイシャツの第一ボタンまで開けていた。
詩夜葉は男の前を通り過ぎて窓際のテーブル席に着いた。そしてメニューを手に取る。
「お決まりですか?」
店員らしき女性が近づいてきてそう言った。
「アイスティーを一つね」
「かしこまりました」
女性は一礼して去って行った。さて、何を食べようか? この店の名物はナポリタンである。しかし、ナポリタンは嫌いではないのだが、今日はあまり腹が減っていない。そこでハンバーグプレートを食べることにした。
しばらくして注文した料理が運ばれてきた。まずサラダが出てきた。レタス、トマト、キュウリなどの野菜の上にチーズが載ったシンプルなものだ。次にメインディッシュとなるハンバーグが登場した。ナイフを入れると肉汁があふれ出てくる。口に運ぶと濃厚なソースの味が広がる。うん、うまい! やはりここのハンバーグは最高だ。
最後にデザートとしてプリンアラモードが来た。プリンの上に乗ったバニラアイスが溶けかけている。スプーンですくうとプルリとした感触があった。それを舌の上で転がすように味わい、ゆっくりと飲み込む。ああ、幸せだぁ~。食後の紅茶を飲み終えると、席を立った。
会計を終えて外に出ようとすると、先ほどの男性客がまだ同じ場所に座っていた。男は詩夜葉に気づいて顔を上げた。
「やあ、こんにちわ」
男が声をかけてくる。
「どうも……」
何だろう? どこかで会ったことがあるような気がするけど思い出せない。
「君はよくここに来るのか?」
「ええ、まあ……たまに来ますね」
「ほう、そうなんだ」
「あなたもよくいらっしゃるんですか?」
「そうだねぇ……。週に一回くらいかな」
「へぇー、そうなんですか」
「ところで君はいつもここで食事をしているのか?」
「いえ、普段は外食はほとんどしませんよ。今日はたまたま近くに用事があって来ただけなので」
「ふむ、そうなんだ」
すると、男性は少し考え込んだ様子を見せた後、こう切り出した。
「実は私はある人を探してこの町に来たんだけど、なかなか見つからずにいるんだよ」
「それは大変ですね」
「それで君の意見を聞きたいのだけれど、もし私が探し求めている人が君の知り合いだった場合、私に協力してくれるかい?」
「どんな方を探しているんですか?」
「それがよく分からないんだよね。名前も性別も年齢も何もかも不明だから」
「えっ!? それじゃあ探しようがないじゃないですか!」
「でも、絶対に見つけなければならない。それだけは分かっている」
「……」
何だか妙な雰囲気になってきてしまった。
「あのぉ、そろそろいいですか? この後まだ予定があるので」
「ああ、引き留めて悪かったね。」
詩夜葉は軽く頭を下げてその場を離れた。




