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時代小説

久部緑郎作、河合単画『ラーメン発見伝 2 塩の秘密』(小学館、2000年)「大衆料理の味」は値段と味が比例しないことを指摘する。低価格で提供するから、不味くても仕方ないとする発想は思い上がりである。

フランス料理が全て高級ぶっているとの発想も誤りである。フランスにも低所得者向けの食堂がある。そこでは安くて美味しい料理を工夫して出している。日本人のフランス料理人もフランス修行中には助けられた。

シェフの修行時代を描いたノンフィクションでは少ない給料で高級レストランに行って舌を肥やしたという描写がされることがある。しかし、実際は本作品のシェフのように大衆食堂の日常グルメで舌を肥やす方が多いだろう。

現実に日本ではビストロはお洒落なレストランのイメージがあるが、フランス語ではで「家庭的なお食事処」である。「ビストロ」は高級レストランではない。


価格と味や品質、価値が比例するという価格信仰の拝金主義は昭和の発想である。昭和の発想は時代遅れであるが、昭和時代が異常であった。時代小説でも否定されている。

柴田錬三郎『御家人斬九郎』(新潮文庫、1984年)第四話「柳生但馬守に見せてやりてえ」は値段だけの高級料理をこき下ろす。「料亭の名だけで、もったいめかした、子猫の餌ほどの小鯛二尾、それも一向に味らしい味もせぬ」(40頁)。


山本一力『おたふく』(文春文庫、2013年)はリーズナブルな商品への価値が顕著である。これは江戸時代の寛政年間を舞台とした時代小説である。主人公は高級品店の次男。店を出て夫婦で弁当屋を始める。庶民にリーズナブルな価格で弁当を提供する商人の心意気が描かれる。

「安くてうめえモンを食ってのんでこそ、生きてる甲斐がある」「安くて美味いものは、ひとに生きる元気を与えることができる」(204頁)

「安心して口に入れることができて、ほどよい値で売られ、しかもその品が美味い時、初めて大きな儲けを生み出してくれる」(301頁)

「なるほど、そういうことか」と納得する部分もあるし、「そんなの当たり前だろ」とも思うが、面白い作品であることは間違いない。


山本一力『千両かんばん』(新潮文庫、2016年)の看板職人は「格式の高い料亭になど行きたくはなかった」(207頁)。それよりは「安くて美味い酒と肴が楽しめる」店がよい。これは堅実な消費者感覚である。

この手の主張は、主人公が庶民的な感覚を持っていることが前提となる。だから、主人公には金持ちや権力者に対する偏見があることが多い。しかし、面白いことに日本橋室町の大商人も料亭に出入りする姿を見られることを嫌った(207頁)。「あの店の旦那は、また今日も浜町(の料亭)においでのようだ」と評判になると商売に支障が出るためである。これも健全なビジネス感覚がある。

山本一力『つばき』(光文社、2017年)でも江戸の大店は贅沢を禁止していたとする。「無駄な金遣いを省いてこそ、身代の大きさを保っていられる」(136頁)。


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