第五話 実力
【古の森林】第一層
アリサに連れられて俺は【古の森林】の1階層に来ていた。
そして目の前には【古の森林】の代表的なモンスター、「ウルフ」の最下種、「ローウルフ」の集団がいた。
「で、どうしろと?」
「機構の墓標18階層踏破の冒険者さんならこのくらい余裕でしょ?ヒロト君のちょっと良いとこ見てみたーいっ」
「(…うざ)」
「漏れてる、心の声漏れてるよー」
まあ、実際問題このくらいのモンスターなら何体いようが問題にはならない。
敵は三体、こっちに気付いているのは真ん中の一頭だけだ。
俺は一瞬で真ん中のやつに近づき、顎を蹴り上げる。
「ギャンッ」
舌ごと頭を打ち抜かれた狼の断末魔でようやく左右の二頭が敵の存在に気がつくが、しかしもう遅い。
左の狼の腹を数発殴りひるませた後、噛みつこうと向かってきた右の狼の顎を蹴り上げる。
右を処理した後、左の狼がひるみから立ち直りこちらに向かってくるが、これまた顎を蹴り上げてノックアウト。
「良い動きだね」
「三層冒険者に言われてもな」
「でも以外、ヒロが格闘士だったなんて。てっきり盗賊とかの短剣使いだと思ってた」
「あ?俺は短剣使いの盗賊で合ってるよ」
「………え?」
俺はアリサに経緯を説明する。
「と、言うわけで、相棒の短剣も持って行かれた俺は素手で戦うしかなかったってワケ」
「先に行ってよ!そしたら短剣買いに行くぐらい付き合ってあげたのに」
「言おうとしたけど「言い訳するな!」って無理矢理連れてきたのお前だろ…」
「そうだっけ?アハハハハ…」
もし俺が格闘の技術を持っていなくてローウルフに勝てなかったらどうしてたんだろうかこいつ。
「にしても、本来の武器じゃないのにあそこまでの動きが出来るなんて凄いね、ヒロ」
「そうか?まあ短剣は体の動きが基本だしな。剣もってるのは基本片手だから反対の手で殴ったり、動作に蹴り入れたりはしてるから、そんなもんじゃないか?」
「そうなのかな?私の知ってる盗賊の人とは違うみたい」
「まあ、スタイルは人それぞれだろ」
実際、俺の型はちょっと特殊だ。
普通の盗賊が体術を組み込むのとは原理がちょっと違う。
「まあ、そんなことは置いといて」
「そんなこと…」
「余裕そうだし、次の階層、行ってみようか!」
第二層
俺の前には大きな猪の魔物が構えている。
「二層のメインモンスター、ヒュージボアだよ!がんばってー」
またもや俺はモンスターと戦わされるハメになっていた。
「がんばってー、ってこいつ普通に強そうだぞ」
ヒュージボアは体を縮めて大きくためを作っている。
そして一気に踏み込み、凄い勢いでこちらに突進してくる。
早めに横にステップを入れたが、以外にもこちらに合わせて左右を少し修正してきた。
(あぶねっ。まあその見た目ならそういう攻撃だろうとは思っていたけれど、思ったより早いしついてくるな)
単純に早いだけなら余裕だが、少しだが追尾してくるとなると話は変わる。
俺は周りを見渡す。
(あれだな)
近くに大きな木があったので、それを背にしてヒュージボアと距離を取る。
「ブルル」
「こいよ」
「ブルルルルルッッ!」
雄叫びを上げてヒュージボアは突進してくる。
俺は左右に避けるのではなく、後ろ、木の方へと向き直り、同方向へ走り出す。
先に木のもとへたどり着いたのは俺だった。
勢いのまま俺は木の側面を駆け上がり、反転、跳躍、走り込んでくるヒュージボアの眉間めがけてサマーソルトをたたき込む。
ヒュージボアと俺の勢い、重力、これらを掛け合わせた俺の蹴りがヒュージボアの頭につきささる。
ドサリ、と勢いを完全に失ったイノシシが転がり、灰となる。
「体術だけでヒュージボアを一撃で倒すなんて、やるじゃん、ヒロ」
「丁度いい木があったおかげだな。正直あれがなかったら威力が足りなくて困ってた」
「環境を使いこなすのも冒険者の実力よ。にしても思ったより余裕あるのね、流石18階層ってとこかしら?」
「そりゃどうも」
「じゃあどんどん行こうか!次は3階層!」
(だから剣、無いんだって)
「……はぁ」