第四話 ダンジョン
「へえー、ヒロ、冒険者だったんだー」
カフェで紅茶を飲みながら、俺はアリサと話していた。
「あー、うん、一応ね・・・」
「いやー、でもびっくり!ヒロも私と同じ冒険者だったなんて」
なんだか少しうれしそうにアリサが言う。
「私と、同じ?」
「そうよ、私も冒険者なの。【古の森林】ってとこを探索してるの」
【古の森林】。
それは、この国の地下に広がるフィールド型ダンジョンだ。
僕の探索していた【機構の墓標】は迷宮型と呼ばれる構造で、これは細い通路といくつかの大きな部屋によって構成されている。階層の数は多く、一つ一つの階層が迷路のようになっている。また階層の奥にはフロアボスと呼ばれるモンスターがいて、フロアボスを倒すことで次の階層に進むことができる。
対して【古の森林】はフィールド型と呼ばれる構造で、この型の特徴はとにかく一つの階層が広いことと、自然な地形で構成されている事だ。海、山、沼、砂漠など、自然な地形で構成されているため、環境その物が脅威となること事も多い。一つの階層が広い代わりに階層の数は少なく、階層のどこかにある階段を見つけ出すことで次の階層に進むことができる。
しかし、今重要なのは、【古の森林】は国指定のダンジョンだと言うことだ。
国指定。この言葉の持つ意味は大きい。
個人で行う探索は、結局のところダンジョン内で価値あるドロップ品を拾えなければ稼ぎにならない。もちろん奥へ行けば行くほどドロップ品の質も良くなり、敵も強くなるため、冒険者には強さが必要となる。
一方で、国指定のダンジョンで行う探索は国からの正式な依頼であり、探索の進捗によって、きちんとした報酬が設定されている。もちろん冒険者という職業柄、完全に安定とは言えないが、一般的な冒険者に比べれば遙かに安定して収入を得ることができる。
つまり、国指定のダンジョンで高階層に潜っている冒険者とはすなわち、冒険者の中でも優秀な者、いわゆるA級冒険者であることの証明でもある。
たしか【古の森林】の最高到達階層は4階層だったはず。
「今は何階層まで行ってるんだ?」
「んー、最近は主に三階層で活動してるかなー」
現在【古の森林】の最高到達階層は4階層。つまりアリサはこの国では相当上位の
パーティーに属する冒険者だと言うことだ。
「ほとんど最前線なんてすごいじゃないか」
「あはは、照れるなー。でもヒロもそっちのダンジョンでは18階層まで行ってたんでしょ?十分凄いと思うけどなあー」
言われてみれば、一応俺も18階層まで行ってたんだったな。
【機構の墓標】の最高到達階層は19階層、その一歩手前まで行くパーティーに属していたなんて、なんだか、とても昔のことのように感じる。
「周りのみんなが強かっただけさ。実際俺は18階層ではまともな戦力にならなかった」
「ふーん」
つまらなそうにアリサがつぶやく。
「ふーんて」
「ねえ、せっかくだから今からダンジョン行こうよ!」
「せっかくだからの意味が分からん・・・」
いきなり何を言い出すんだこの幼なじみは。
しかし思い返せば昔からこいつは思いついたら即行動、で周りを巻き込む天才だった。
「特にやることもないんでしょ?なら別に行ってもいいじゃない」
「いや、でももう俺は」
(俺はもう、冒険者は引退したって言うのに)
「カフェの奢り代、頼みの一つくらい聞いてくれるわよね?」
(いや、始めにおごるって言ったのはアリサだろ)
しかしこの幼なじみはこうなるともう人の話を聞かない。
「いいから、いーくーの!ね、ヒロ、いくよ」
昔からそうだ。
いつでもアリサは自分の好奇心のままにみんなを引っ張っていく。
でも、先頭に立って、みんなを導いてくれる姿はかっこよくて。
そのまぶしい生き方に、どこか俺は憧れていた。
「さっさと立つ!置いてくわよ!」
「はいはい」
「はいは一回!」
「・・・」
(めんっっ、どくせぇーー!)
(けどまあ、こういう風にダンジョンに行くなんて、久しぶりだな)
そうして俺は、幼なじみに連れられて、ダンジョンに行くことになった。