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第三話 追放

そんなこんなで俺のパーティー脱退が決定した次の日。


「今までありがとう、ヒロ。僕らはたまたま別々の道を歩むことになったけれど、心はいつまでも仲間だよ。お互い、自分に合った場所で頑張ろうじゃないか」


・・・もはやツッコむまい。


「・・・今まで一年間、世話になった」

「はあ?お荷物のヒロを18階層まで連れて行ってあげたんだから『ありがとうございます。リーフさんのおかげです』くらい言えない訳ぇ?」

「彼だって彼なりに頑張ってたんだ。そう怒ってやるなよミーナ。それに、そんな怒っている顔は君に似合わないよ、ミーナ」


 ・・・ツッコんでなるものか。


「もう、リーフったら・・・・。そんなこと言っても何も出ないんだからねっ」

「・・・なあ、もういいからさっさと追い出そうぜ。こんなふぬけの面なんざもう見たくもねえ」


 カームが至極めんどくさそうに言う。


 まさかここへきて引き留めるなんてそんな事はないだろう。

 邪魔者はさっさと出て行くことだ。


「じゃあな」

「待てよ、ヒロ」


 え?

 リーフは俺が出て行くのを止める。


 「何だよ、リーフ」

 「いやいや、冗談だろヒロ?なんで人の武器を持っていこうとしてるんだい?」


 は?

 ・・・何を言っているんだこいつは。


 「いや、これは俺の武器「違うよ」

 「は?」

 「それは僕たち『夜明けの狼』のものさ。昨日まではたまたま君が僕らのパーティーに所属していたから貸し与えていただけ。今日から君は『夜明けの狼』ではない。ならば貸していたものは返却するのが道理だろう?」


 こいつの中で一年間一緒に冒険してきた俺はただの傭兵みたいな扱いらしい。


 「・・・本気で言ってんのか?」

 「ぼくが一度だって嘘をついたことがあるかい?」

 

 普通についてる気がするが・・・もういいや。


 「わかったよ。武器はここに置いていく」


 そうして俺は身につけていた短剣といくつかの飛び道具を机においた。


 「おいおい、誰が武器だけで良いと言ったんだい?当然、防具とアクセサリーもだ。ダンジョンで見つけた装備は全部おいていってくれ」

 「はあ!?」


 ふざけんな、それじゃあただの一文無しじゃねえか。


 「そもそも君がいなければ半年も同階層にとどまって資金難に陥ることもなかったんだ。ああ、そうだ。ついでに、半年も僕らを停滞させていたお詫びに君が大事そうにしていたそのそこそこ良さそうなペンダントもおいていくといい。せめてもの資金にでもしてあげるよ」


 そもそも資金難は調子に乗って散財しまくるミーナのせいだ。

 あいつが毎日のようにブランド品やら香水やらを買ったりしなければもっと良い武器だって買えた。

 そして、パーティーリーダーであるリーフも、それを知っているにもかかわらず、一度だってミーナに注意した事なんて無かった。


 それに、このペンダントを渡せだと?

 村のみんなが成人のお祝いとダンジョンのお守りにくれた、このペンダントを金に変えるだと?


 「ふざけるのも大概にしろよ」

 「はあ?アンタ何切れてるわけ?」

 「あ?雑魚は黙ってろ」


 俺がにらむとミーナはひるんでリーフの後ろに隠れる。


「おいおい、宿で喧嘩はよしてくれよ」


 宿主のおっさんが出てくる。


 「あ、おじさーん。あのねー、こいつが全部悪いくせにだだこねてるのー」


 ミーナがこれ見よがしに上目遣いの猫なで声で店主のおっさんに言う。


 「おうおう、そうかそうか。オイ坊主、男ならそんな見苦しいまねすんな。そんなんじゃ、良い女にはもてねえぜ」

 「さっすがおじさん、頼りになるー!」


 ・・・今すぐにでもミーナをぶっ飛ばしたいが、店主がああな今、立場が悪くなるのは俺の方だ。

 ここで喧嘩でもしたら、冒険者の俺が一般人のおっさんを巻き込んだって理由で国に捕まりかねない。


 そしてそもそもの話、俺がパーティーの足を引っ張っていた、それは事実だ。

 そんなことは俺が一番よく分かっているし、そこに関しては、弁明はできない。


 「・・・ペンダントだけはやめてくれ」

 「まったく、君はなんて恥知らずなんだい。まあいいさ、ぼくも鬼じゃない。ペンダントだけは許してあげるよ。まあ正直そんなぼろいペンダントもらってもしょうがないしね」


 パキン。

 俺の中で、何かが崩れる音がした。


 人は、怒りが大きくなりすぎたとき、逆に冷静になるらしい。

 大きすぎる感情は、収まりきらず、器にひびが入って、漏れ出て行ってしまうらしい。。


 俺の中の感情は、怒りを通り越して、まるでどこかへいったかのように消えてしまった。


 もういいか・・・。

 もう疲れた・・・。

 『夜明けの狼』に入って、一年。

 英雄になるんだと、この一年間本気で頑張ってきた。


 その結果がこれだ。


 努力はした。

 少しでもパーティーの力になるために、できることは何だってやった。


 だが、それでも、俺の力では足りなかった。


 あんなにみんなに期待された力は、何でもできると言いつつ、実際はただの器用貧乏にしかなれなかった。


 もう・・・疲れた。

 みんなの期待を背負って。

 自分の夢を背負って。

 国の未来を背負って。


 そんなに現実は甘くなかったんだ。

 俺は強くなかったんだ。


 今、目の前にいる奴らは紛れもない天才たちだ。

 嫌なやつもいるが、こいつらの力は本物だ。


 俺なんかが・・・出しゃばるべきじゃなかったんだ。


 「・・・分かった。武器と防具、アクセサリーはここに置いていくよ」

 「分かってくれてうれしいよ」


 分かったよ。分かったんだ。

 もうここに俺の居場所はないし、それに、俺の心はもう折れてしまった。


 「ひ、ヒロさん!」

 「シエル?」

 「い、いえ、その・・・やっぱり、まだみんなでパーティーを組みませんか?」

 「はあ!?なに言ってんのシエル!?」


 ミーナがキャンキャン騒ぐ。

 一体なぜそんなことを言うんだ?

 でも、もう、折れているから。


 「ありがとな、シエル。俺なんかのために気を遣ってくれて。でも、やっぱり俺はこのパーティーを辞めるよ・・・。俺の力じゃ、ここから先は無理だ」

 「そんな・・事は・・・」


 シエルはまだ何か言いたげだった、けど、


 「やっと場違いだってことに気付いたの?ハッ、気付くのすら遅いのよ。せっかく気付いたんならさっさと出て行きなさいよ」


 俺の心は、すでに折れているから。


 「今まで、お世話になりました」


 そうだ、良い機会だし、そろそろ冒険者も潮時かな・・・。

 自分の限界は思い知った。

 これ以上やっても危険が増すだけだ。


 村のみんなには言いづらいけれど、きっとみんな分かってくれるだろう・・・。


 これから何しよう。

 ずっとダンジョンだったからな、他の仕事って何があるんだろう・・・。

 ずっとダンジョンに潜りっぱなしだったから、観光だってしたことないな。


 この国にいたら、どこにいてもダンジョンのことを思い出してしまう。

 とりあえず、隣国にでも行って気分転換でもして、それから今後のことでも考えるか・・・。


 そうして一月後、僕は隣国で、運命の再会をした。


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