第3話(これからの仮住まい)
二日後の土曜日、授業が終わり、メースン先生から風紀委員の事で呼び出しを受けた。なぜか、職員室ではなくて美術室へだった。
スズメ千夏を誘って、美術室がある第三校舎に向かう。
お互いにコミュニケーションが取れていない事に俺は気にしていたので、この機会に積極的に質問でもしてみよう考えた。
まぁ、タイミング的には申し分ないな。
話題は恋愛について聞いてみようと思う。
「特定の異性と付き合うと言うのは恋愛だよな?」
「そうよ、何か問題でもある?」
そこは、理解していたのか。
「男女恋愛禁止と言っておきながら、俺たちと言うか、生徒会本部の男子となら、いいと言うのは矛盾していないか?」
千夏が歩くのを止めた。俺も足を止める。
腕組みを始めると眉をへの字に眉間にしわを寄せて口をとがらせたスズメ千夏が強い口調で言ってきた。
「あたしは、恋愛をする気はないわ!!」
「はぁ?」
千夏の意外な答えに驚きを覚える。あれだけクラスメートに彼氏募集を宣言し、しかも何十名の男を、すでに彼氏にしている事実を、この女は『恋愛しない』と言い放つ神経。 マジで俺、わかんない!
「だから、恋愛をする気はないわ!」
「・・・・・俺の耳が変なのか?恋愛をする気がないって聞こえたけど・・・・?」
「だから!・・・」
そう強く言った後に千夏は再び歩き出す。一歩遅れて歩き出して肩が並ぶ距離まで来ると、また、話し出した。
「付き合うと言うのは、お見合いと一緒よ。最初は好きだから付き合うのでないでしょ。
相手の良いところ悪いところを分析して、この人はあたしにプラスになるのかマイナスなのか、浮気するのか、しないのか。結婚生活はうまくいくのか。あたしを幸せにしてくれるのか・・・」
さらに、矢継ぎ早に、俺に言葉をぶつける。
「幸せになるには、客観的な分析が欠かせないのよ。経済力でしょ。誠実で尊敬できる性格、価値観、金銭感覚、子育てや家事を手伝ってくれる人なのか。人生設計ができる人か。
もし本当にお見合いならば沈着冷静で優しさが顔からにじみ出るような人を探したいわ!」
唖然とした。
女の子は、ここまで考えているのか。誰かから聞いた話を俺にしただけだよなぁ?
まさか、この歳で結婚まで考えているようには思えないのだが・・・。
「だから人類のビックデータを解析するには、多くの正しいデータとデータマイニングの分析精度が課題なのよね」
ん?何だって?人類?ビックデータ?
言っていることが全く分からない!
「ん?・・・」
俺が理解できていない事を察した千夏は、話を言い直した。
「ああ、いや、つまりー、理想の相手を見つけるには、多くの方々との交流が必要ってこと。色々と大変なので恋愛は後回しなわけ!わかる?」
まー色々と理屈を並べてみたが、結論はそこかい。
「ようするに、今は男を品定め中で、風紀委員との仕事は無関係に、理想の男を見つけているということか?」
「・・・・・」
おい、何かいえよ。図星か?
「あなたが、どうの、こうのって恋愛のことを聞くから、結論がぶれたじゃない!」
「だから、恋愛する気はないわ!」
そうかい。これ以上、聞いたとしても考えがまとまっていない以上、答えがあるようには見えなかった。
目の前にいるスズメ千夏は、男と付き合う彼女になると言う事を安易に考えすぎだと思う。
あーあ、不満だ。非常に不満だ。
結局、何を聞いて何を答えてもらえたのか、コミュニケーションとしての点数は赤点を食らった感じで失敗した思いをした。余計に溝が広がったみたい。
そんな感情を胸に納め、俺は歩く速度を千夏に合わせて腕がぶつからないように故意に近づいて歩くようにしていると呼吸をする度に、千夏の方からほんのり甘い香りが漂い鼻の中を充満して何だか落ち着く気持ちになれるのだが、会話を交わすとその思いも忘れるくらい気付かなくなるのが不思議に思えた
。
一年一組のクラスがある第二校舎の教室棟から数分は互いにつばぜり合いのような口げんかの会話が続いていたが、第一校舎本棟の職員室の前の廊下に来る頃には、お互いに沈黙するようになり、第三校舎西棟の建物に着く頃には完全に沈黙する。
この建物には、美術室と美術準備室、音楽室などがあり、長い沈黙の後にやっと美術室の前まで来れた。
この学校の美術室は、主に実技を行う、水彩画や彫刻、粘土細工などの為に利用される教室となっている。この美術室は、長く大きな平らなテーブルが6つほど配置され、それぞれのテーブルには8つほどのイスが周りを取り囲む。
手前には見覚えのある少女が一人、テーブルに向かって真剣な眼差しで何か作業をしていた。
目を細め見つめ直すと記憶の中から少女の名前を搾り出す。
「青葉?青葉つぐみ?」
俺の声に気付くとその少女は手を休めて、こちらを見ると席を立って近づいてきた。
「あっ!ユウキくん!何でこんなところに?どうして?私を探しに来てくれたの?」
青葉の嬉しそうな笑顔に親しい素振りに気付く千夏が反応する。
「誰よ?知り合い?」
近づいた青葉の両肩を千夏が正面から掴み上げると、馴れ馴れしく問い掛ける。
「可愛いわね。あなた誰?」
「青葉つぐみです・・・」
千夏よりやや背が低い青葉であるが、顎を引いて上目づかいに相手を見ている様子は照れている感じが伝わる。
「ここは美術室だよねー。こんな所で何をしているの?書道?」
拘束していた青葉の体を開放すと肩に掛けていたカバンを『バン!』と荒々しく近くのテーブルに置いた。
「そこの二人!うるさいわよ!」
この部屋には青葉しかいないと思っていたら、もう一人、奥から声が聞こえた。
「一年生ね?この美術室は書道部の部室として使われているのよ?わかる?入ってくるときは静かにして!」
「はい!ごめんなさい!」
俺は深くお辞儀をすると、こちらの方に歩みよる女子生徒が見えた。姿は大人の女性に変化の兆しを感じるくらい年上の顔立ちと細く伸びたおみ足、身長は俺と変わらないくらいあるが、全体的に細い体型なので、遠くから見ると大きく見える。
俺たちの前まで来ると自己紹介を始める。
「私が部長の例幣使まい!あと二年生が二人いるけど、まだ来ていないので紹介は後にするわ」
先ほどの言い方と別人のように穏やかな顔だが、ちょっと苦手な印象を受けた。
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