この宇宙の成り立ち その4 『宇宙保安維持機構』
最初は何も変化はなかった。
『宇宙法典』には星族たちの権利と財産を守るための法律が制定されているが、星族たちは基本的には他の星族の権利と財産を侵害することはほとんどないので、『宇宙法典』があろうがなかろうが彼らの生活になんら支障はなかったのである。過去の地球人たちがある提案をするまでは。
過去の地球人たちは、この宇宙の平和と安全を守るために『宇宙法典』に従ってそれぞれの星族たちが生活しているか監視をして、もしそれがなされていない場合には弱い星族の権利と財産を守る組織が必要だと主張したのである。
ここでもコッパニオン星人をはじめとする他の星族たちは混乱してしまった。
地球人意外の星族たちは地球人と違って食物連鎖の鎖の外に存在する、つまり彼らは生き物を食べない。つまり彼らが摂取するのは無生物――その星に存在する元素そのもの――を直接摂取するので、星族たち自体に強い・弱いという概念自体がない。
他の惑星では食物連鎖というものが存在しないので、弱い星族というもの自体を理解できなかったので混乱したのである――地球では弱いものが強いものに食べられる食物連鎖が存在するが、それは地球独自のものである。
ここでも地球人たちの主張を他の星族たちは最初傍観した。しかし過去の地球人たちのしつこい要求に対して、しだいに彼らの言っていることが正しいのではないかと思う星族たちがあらわれ、それらを見たコッパニオン星人や他の星族たちも、過去の地球人の主張を認めることになった。
過去の地球人たちは、その組織『宇宙保安維持機構』の構成員はすべての星族たちから平等に選ばれるが、『宇宙保安維持機構』の決定権を持つリーダーには弱い星族が選ばれるべきだと主張した――弱い星族の権利と財産を守る組織なので、それらの決定権を握るのは弱い星族が担当するべきだと主張した。なぜなら強い星族には弱い星族の立場を理解することが出来ないので。
そこで弱い星族の中から『宇宙保安維持機構』のリーダーが選ばれることになったが、他の星族たちには弱いという概念がないので自分たちを弱いと主張する星族が地球人以外いなかった。
その結果『宇宙保安維持機構』のリーダーには地球人のみが選ばれることになった――彼ら過去の地球人は他の星族に較べて知能も体力も劣っていると主張した、実際にそのとおりではあるのだが。
『宇宙保安維持機構』の主要メンバーを地球人のみで構成し、その下に各星族たちからなるメンバーをあてた。
つまり、他の星族が事実上『宇宙保安維持機構』の運営の実務を担当するが、その指示と決定権のみを地球人が独占する――つまり、地球人の思いのままに他の星族たちがこき使われるという体勢を作り上げたのだ。
最初、『宇宙保安維持機構』の実務をまかされた他の星族たちはとまどっていた。『宇宙保安維持機構』の役割は弱い星族の権利と財産を守ることがその活動理念であったのだが――弱いという概念を知らず、他の星族の権利と財産を奪ったりしたことがなかった彼らには自分たちが何をすればよいのか分からなかった。
『宇宙保安維持機構』のリーダーたちを構成するのは地球人のすべての人間が担当することになった。
なぜなら地球人は滅亡に瀕している所をコッパニオン星人に救われたので数が少なかったのと、宇宙全体を管理するためには膨大な数のメンバーが必要だったという理由で、地球人のすべてが『宇宙保安維持機構』のリーダーになった――食物状態の病人や赤ん坊まで。