勇者と名乗る男
思いつきで書いただけの駄文。
「もう、貴様にはついていけない。」
鎧を着た女騎士がそう怒鳴りつけた。
「わしもじゃ、助けたはずの人たちに侮蔑の目を向けられるのはもうたくさんじゃ。」
ローブをまとった年寄りの男は絞り出すように疲れ果てた表情で言った。
「俺ももう着いていくことはできねぇ、お前は変わっちまった。」
無表情に体験を背負った戦士はそう言い放った。
「あなた勇者としての本分を忘れてしまったようですね。その聖剣は渡してもらいます。今のあなたには相応しくありません。」
修道服を着た女は冷ややかな目を向けながらそう言った。
「おいおい、俺のどこに問題があるってんだよ。魔族どもはちゃんと殺して回ってるじゃねぇか。」
立派な鎧に一目で一級品とわかる剣を携えた男は心外そうな顔で対立するように立っている4人を見据えた。
「確かに貴様は魔族を退治している。しかし、それと同じくらい人間も殺しているではないか。」
女騎士は男を今にも斬り殺さんばかりの勢いで詰め寄る。
「何を言うかと思えばそんなことかよ。俺は勇者様だぜ。俺が助けてやった命だどうしようが俺の勝手だろうが。だいたいに女寝取ったくらいでこの俺に歯向かってくるやつらが悪いんだよ。それにこの俺に代金を払わせようとする宿屋や飯屋が悪い。助けてやった恩を忘れてやがるからしつけてやってるんだろうが感謝して欲しいくらいだぜ。」
はっはっはと勇者と名乗る男は心外そうに笑う。
「もういい、貴様にような男はここで斬り殺す。それがこれまで貴様の凶行を止めることのできなかった私たちの贖罪であり、貴様への手向けだ。」
女騎士はそう言うと勇者と名乗る男へと剣を向けた。
女騎士に合わせるようにほかのものたちも臨戦態勢をとる。
「お前ら俺に武器を向けたな。」
先ほどまでヘラヘラと軽薄な笑みを浮かべていた。勇者は雰囲気を一変させ、剣へと手をかけた。
前へと出ていた女騎士や戦士は気圧されたように一歩後ろに下がる。
「相手は1人です。数はこちらが上なのですから勝機は十分にあります。」
そう言いながら修道服の女は身体強化の魔法を戦士と女騎士にかける準備を始める。
「そうじゃ、油断せねば勝てぬ相手ではないはずじゃ。」
ローブをまとった老人は言いながらも勇者めがけて炎を放った。
炎は勇者に当たるとその全てを燃やし尽くすように燃え広がった。
「バカが」
その声は修道服を着た女の側から聞こえてきた。
ほかの3人が声の方を振り向くと修道服の女は力なく倒れ伏していた。
「魔法で自分たちの視界を塞ぐとはお前らはアホなのか?それに、回復役が一番に狙われるのは常識だろうがそんなこともわからないくらいの素人集団なのか?こんな奴らが勇者の仲間だったとは聞いて呆れるぜ。」
勇者は心底呆れたように言い放つ。
それからは早かった。ローブを着た老人、戦士、女騎士の順番で流れるように打ち倒した。
勇者は倒れ伏した元仲間たちを一瞥すると魔王城がある方角へと歩いて行ったのだった。