第四十二話:ギルド襲撃
「今のは夢か。いや」
「マリア、入るぞ」
意識が。
『ようこそ、僕の遊具の諸君。約束通りプレゼントのスキルか好きな物を
選ばせてあげよう。今、君らの頭に念波を送ったから10秒以内に好きな
スキルか物を選んで念じれば君たちの物になるぞ』
「強いスキルを選んじゃいけないんなら、これでいいか」
『時間だ。それを使って頑張って最後の8人に残ってくれたまえ』
「また夢か」
ちがう、ヘルセーとヘルメスのセットの夢なんて見るわけがない。
「マリア、入るぞ」
「アベル」
「何を選んだ」
「えっと……」
「聞こえないぞ」
「それが言葉にしようとすると、声にならないの」
「それじゃ書いてみてくれ」
「か、書けない」
「ヘルメスの遊びか」
「ヘルセーは夢に出てきたか?」
「出てきたわ」
「約束は守ったんだな」
「もちろんよ」
「ベスは」
「私も守ったよ」
「ひとまず、一安心だな」
「くそ、本当に言葉に出せないのか」
「アベル兄さん、サクラさん達も危ないね」
「そうなるな」
しかし、一瞬で数千のスキルや物の情報を数百人の頭に送り込むとは
さすが神様だ、遊びにも全力だな。
「私がヘルセーの言ってた1年後の約束を忘れるなんて」
「わたしもだよ」
「俺も忘れていたし、そういうシステムだったんだろう」
「いきなり現れて、10秒は卑怯だよね」
「それも遊びの1つなんだろう」
「言いたくても言えないって、こんなにイライラする物なのね」
「お姉ちゃん、さすがにもう寝れないね」
「仕方ないから、起きて仕事でもしましょうか」
「マリア、俺に金を預けてくれないか?」
「そうね、みんなの手前預けられなかったけど
それじゃ約半分の1兆5千億メルを渡すわ」
「鞄だけで3兆5千億メルも得た割には少ないんだな」
「アベルがいない間にもいろいろな物件を買い取ったり、店を買収
したりしたのよ。それに賄賂の額が大きいわね」
設備投資に金をかけていたのか。
「また人員を増やすらしいが、次の奴隷市までだいぶあるんじゃないのか」
「アベルがいない間に、アン国主が政権安定の為に隣国へ攻め込んで
大量の物資と奴隷を獲得したの。今頃奴隷をこの国へ搬送中ね」
「占領しなかったのか?」
「どうも、1国が大きくなるのを嫌う傾向が各国にあるみたいで
1つの国が危なくなると救援の為に軍を派遣してくるのよ」
「アベル兄さん、もう泥沼みたいな状態ですよ」
国王に成れないから自分の国だけを守って、大国には連合軍で当たるか
まるで日本の戦国時代の大名みたいだな。
「アベル、お願いがあるんだけど」
「悪い、用事があるんだ。頑張ってくれよ」
「アベル」
マリアの用事は面倒事が多いからな、逃げるが勝ちだな。
「タスク、いるか」
「なんだい」
「神に干渉されたんだが、答えられるか」
「神様関係は秘匿事項だね」
「やはりそうなるか」
「あまり神に関わると、面倒事に巻き込まれるよ」
「そうだな。それで時空魔道士って何なんだ?」
「やっとステータスに反映されたんだね。簡単に言えば時間と空間を
操れる通常のクラスの更に上の存在だよ」
「時魔道士と同じようなクラスか?」
「全然違うよ。時魔法は精々、時間を一時的に停止するのが限界だけど
時空魔道士は流れる時を遡れるし、慣れれば空間を自由に操れるんだよ」
「時魔法にも『時間逆行波』があるぞ」
「あれは、高速で流れる時間を一時的に止めるだけで、過去にはいけないよ」
「もしかして過去へ行けるのか」
「あまり遠い過去は無理だけどね。空間魔法の熟練度次第だね」
「それじゃ、ちょっと過去へ行ってくるぞ」
「時間軸の概念をしっかり持ってない状態で過去へ行ったら
戻ってこれないよ」
「どうやればいいんだ?」
「時間操作を繰り返せば、自分がどの時間軸とどの空間に存在してるのか
自然にわかるようになるよ」
「結局、訓練は必要という事か」
「アベルさん、朝ですよ」
狐とおしゃべりして時間を忘れるとは。
「ランちゃん、おはよう」
「アベルさん、今日は働いてもらいますよ」
「ランちゃん、遊んでいたわけじゃないんだよ」
「言い訳無用です」
1ヶ月以上遊んでいたと思われているのか。
「アベル、起こしに行こうと思ってましたよ」
「ヒルダさん、連行してきました」
「ランちゃん、ありがとう」
「またロイター商会がちょっかい出して来たのか?」
「今日は要人警護ですよ」
「そんな業務にまで手を出してるのか」
「マリアが言うには、初心忘るべからずだそうです」
「そうだな、俺達は冒険者だからな」
「行くのは、あとはミリアと狸族と鷹族と天狗族です」
「全部で15名か」
ギルドで待ち合わせか、誰だ護衛対象は?
「エリーゼさん、お待たせしました」
「今日はよろしくね」
「我ら月の狼にお任せ下さい」
月の狼って誰が考えたんだ
確かにグラン・シャリオの名前は使えないが。
「緊張するわね」
「ギルド長がそんな弱気でどうするんですか」
「そうね」
「ヒルダ、ギルド長って何なんだ?」
「聞いてなかったんですか? 1週間前に暗殺されたギルド長に変わって
今日からエリーゼさんがギルド長で。今日は任命式なんですよ」
ギルドでも暗殺があるのか? 腕の良い冒険者は他にもいるだろうに
しかし任命式なんてあるんだな、この国はよくわからんな。
「エリーゼ様、準備が整いました」
「アテナ神の名において、エリーゼ・アーリントンをギルド長に任命する
これより明日迄に神罰が下らなければ承認されたものとする」
これで終わりか、丸1日護衛するのか。
「さあ、仕事するわよ」
「いいんですか」
「殺される運命なら、もう逃れられないわ」
「アベルさん、暇っすね」
「ドウマル、昼間はギルドも人間が多いからな」
「でもギルド長も昼間にBランクの冒険者に殺されたって聞いてますよ」
犯人は冒険者だったのか、それで俺達に依頼がきたわけか。
「リキマルも昼飯にしよう。朝飯食べてないから空腹だよ」
このでこぼこのおにぎりは、ランちゃんのお手製かな
味は悪くないな、手が小さいからこの大きさなら10個は行けるな。
ここのギルドで依頼をゆっくり見るのは初めてだが
黒金貨の依頼がゴロゴロしてるな、これなら冒険者もかなり多いだろうな。
「ドウマル、寝るな」
「暇すぎて、眠いっす」
「お前の睡眠時間は夜の8時から12時までだ」
「わかりました」
俺なんて、睡眠時間なしだぞ。
もう4時か、営業時間が5時から夜の10時までだから、警護も終わりだな
しかし24時間営業かと思ったら地域によって営業時間が異なるとはな。
「アベル、敵だよ」
「来やがったのか、何人だ」
「8人だね」
「タスクも手伝ってくれよ」
「報酬は眠り羊のステーキでいいよ」
しかしヒルダ達がいるのに、無謀な暗殺者だな。
「リキマル、ドウマル、起きろ。敵襲だぞ」
全員寝てるだと。
「ほう、俺様のスキルを食らって、起きていられる愚か者がいたか」
ヒルダまで眠らされているとは、かなりの手練れか。
「死ね」
クラスを変える暇がないな、時空魔道士のままで大丈夫か?
「【4連撃ち】、【身体拘束】」
「体が動かん。貴様何をした」
確かに時魔道士とは威力の桁が違うらしいな
これなら捕獲可能だが、道を踏み外した転移者だけは
引き渡す訳にはいかない。
「お仲間は捕まえたぞ。貴様は迷い人というやつだろう?」
「俺達の事を知ってるのか」
「お前の特殊スキルを言え」
「貴様などに言えるか」
「お前、その桜の紋章のバッジをつけてるという事は、桜組の手下なのか」
「私は偉大な八賢者だぞ。手下などではない」
こいつが八賢者か。
「何故、高名な八賢者がわざわざギルド長を暗殺に来たんだ」
「私を解放すれば、虫けらのお前を帝国兵として推挙してやるぞ」
この状況でこの態度では、仲間にはなり得ないな。
「運のないやつだ。せめて一撃で殺してやるよ」
「やめろ、わたしは偉大なる……」
超広範囲強制催眠か、これは2回目のスキル取得で得たスキルだな
他にも12個も持っていやがったか、10人殺してきたという事だな
金銀財宝がものすごい数だな、これだけ持っているという事は八賢者と
名乗っていたのは本当のようだな、ありがたく頂いておこう。
「タスク、この催眠状態を解く方法は?」
「しょうがないな、ステータスのスキル欄をタップすれば使い方が
頭にイメージで流れ込んでくるはずだよ」
「本当だ、職員がくるまで寝かせておいてやるか」
しかし、レベル100の愛魔道士を殺したのに経験値上昇率1万倍で
レベルが30までしか上がらないとは、魔王クラスと同じか
上げるのに苦労しそうだな。
もう7時40分だぞ、なんで職員が来ないんだ
仕方ない、神官もどきが来たら面倒だ。
「【範囲覚醒】」
「え、もう朝」
「ヒルダ、賊は一人を残して捕獲しておいたぞ」
「襲撃を受けたんですか?」
「そうだ」
「私まで眠らされるとは、どこの集団でしょうか」
「それはわかりません。一人は強敵だったので殺してしまいましたが
残りの7人はギルドで尋問して下さい」
一応賢者を名乗っているんだ、知ってて殺したとわかったら
面倒事になるからな。
「8時ですね、護衛任務完了です」
「俺は寝てないんで先に戻らせてもらうよ。みんなは3時間以上寝てたから
大丈夫だろう」
「アベル、助かりました」
「それじゃ」
マリアはもう出かけてしまったか、まあ転移者がそんなに沢山いるとも
思えないし大丈夫だろう。
お、イミル通貨が強く点滅してる、これはトラン王国が帝国に
攻め込まれたという事かな?
「タスク起きてるか」
「なんだい」
「トラン王国で戦争かな」
「よくわかるな。数万人の殺意が絡み合ってるんだ
これだけ大規模なら、1万キロ離れていてもわかるよ、形勢は
東の側の軍の方がかなり優勢だよ。それよりお肉」
東の軍というとトラン王国の軍か? つまりこれはイミル通貨が上がる
合図の点滅か、よし先物取引を試すか。
「【幸福貯蓄】
『(メル)本日の為替レート:対イミル:0.5』
だいぶ押されていたんだな、5兆イミルほど買っておくか
手持ちの金額以上の取引はできないのか? 仕方ない3兆イミルでいいか
支払いは5日ごとで3か月までだな、最低支払期限の5日でいいだろう。
「はいよ、八角牛のステーキを3枚だ」
「アベル、よい心がけだよ」
戦争の状況を教えてくれる代償が肉3枚で済むとは、なんて経済的なんだ
これは先物取引のスキルが進化したのか? 物を架空取引で任意の場所で
売買出来るようになっているな。
「タスク、商品が売買出来るようになってるんだが、機動馬車倉庫の中で
売買するのか?」
「アベルの『空間創造』で作る異空間で物の収納と搬出が出来るんだよ
未熟な状態でもこの国の1年分の小麦程度の出し入れは出来るはずだよ」
価格の落ちてる砂糖も安く買い放題という事か。
お読み頂きありがとうございます。




