第三十八話:店舗確保
オークションも無事に終わり、多額の利益を得た俺達はナツミさんの
勧めもありお金を受け取った翌日に早速、店舗用の物件を見学中だ。
「3件目と6件目はまあまあでしたが、他はあまり良くありませんね」
「次は?」
「例のナツミさんの超お勧め物件ですね」
「あの人のお勧めか、大丈夫なのか」
「ここですね」
「大通りから道1本外れてますが、店を開くにはかなりいい場所ですね」
「4階建てのレンガ造りで倉庫が4つに厩舎が2つで庭も随分広いわね」
「1階は大きく仕切られているから店舗としても最適ですね」
「マリン商会より大きいな」
「ここなら15人居ても、普通に住めるわね」
「お姉ちゃん、ここにしようよ」
「お値段も星金貨で800枚ですよ」
「安すぎる気もしますね」
80億で安すぎるとう発言が出るとは、俺達の感覚もだいぶ狂って
いるような気もするが。
「3番目の庭付きで部屋数が40のお屋敷でも星金貨千8百枚だったよね」
「あそこは店舗として使うには大通りから離れすぎているわね」
「こっちの方が庭が広いし、倉庫と厩舎があるわね」
「ここにしませんか」
「ヒルダも押すなら、ここにしましょう」
「ナツミメモに書いてありますよ。裏の屋敷も含むとあります」
「え――」
「このお屋敷も含めて800枚なの」
「貴族のお屋敷かと思いましたよ」
「そうと決まれば、探検しましょう」
「なんか綺麗ですね」
「掃除してあるわね」
「7階建てのレンガ造りで建物が本館と別館と使用人用の建物と倉庫と厩舎ね」
「さすがにこれは、ちょっと安すぎませんか」
「本館の探検完了。寝室が32部屋、大部屋が20部屋
普通の部屋が40部屋とリビングが7つに食堂が3つにキッチン3つ
そしてお風呂が12個の大豪邸だよ」
「それに庭は店舗の建物と続いていますし、別館の1階は大広間のようです」
「部屋自体もミーティアの屋敷の時より広いですね」
「広いお庭にはプールもあるよ」
優良物件、いや良すぎる、部屋数100以上に更に別館と使用人部屋だと。
「ナツミメモには男の人は中に入ると呪われるとありますね」
「そういう事は早く言えよ」
「でもお店を開けて、住める場所もあるのはここだけですよ」
「これだけ広いと、管理できるかしら」
「なんでこれだけの優良物件が売れ残っているんだろうね」
「ナツミさんに聞いてみるしかないんじゃありませんか」
もう夕方か、さすがに帰ってしまったかな。
「遅い。ナツミさんは待ちくたびれたよ」
「待っていてくれたんですか」
「勿論、それで決まった?」
「はい、大通りから1本外れた建物がいいかなと」
「そうでしょう、あれ以上の物件はアクシス広しといえど
そうはないわよ」
「少々値段が安すぎなのが不安です」
「お金持ちはいう事が違うわね。実はあそこは私の祖父の別邸だったの
だから定期的に掃除もしてるのよ」
「ナツミさんは貴族なんですか?」
「たとえ貴族だとしても、今は実力が全てよ
ギルドも冒険者ギルド以外は滅んじゃったし」
「何故、滅んだんですか?」
「その辺りは宿屋で聞いて頂戴
それじゃ、契約をしちゃうぞ」
「わかりました」
「ここにサインしてね」
「もう私たちの事が書いてあるじゃありませんか?」
「だって、私の担当の子があそこ以外を選ぶとは思えないもん」
担当というのは、ここまで世話を焼いてくれる物なのか?
「毎度あり。これでアスター商会始動ね」
「何から何までありがとうございます」
「そうだ、人を雇わないといけないわね」
「既に猫族の人が6人いるので」
「それじゃ無理無理、私も掃除する時は18人位雇って
丸1日かかるわよ。それに店番や荷物の運搬に倉庫と厩舎の管理
50人以上いないと回らないわね」
「どうするアベル」
「お勧めは奴隷だけど。こっちで見繕う事も出来るわよ」
「それではお願いできますか」
「わかったわ。10日後に奴隷市があるから、こちらで用意した
人間も含めて教育して2週間後には受け渡しするわ」
「女性を多めにお願いしたいんですが」
「わかったわ。星金貨で500枚だけ先に頂いておいていいかしら」
「はい」
「期待していてね、真の会の実力を見せてあげるわ」
結局、全て任せてしまったな。
「到着。今日のご飯はなーにかな」
「この季節はお肉がお勧めですね」
「もうすぐ冬だもんね」
「野菜が取れなくなって動物が減ると、また食費が上がりますね」
「でもお米も小麦も豊作だったみたいだし」
どうもミーティアの食糧問題で苦労した分、食べ物に敏感になってるな。
「今日は羊のお肉だね」
「子羊を残して親は冬の前に潰してしまうんでしょう」
「そうね、羊は労働力にはならないからね」
「今日も食べたわね」
「今度はまた自炊なのね」
「ミリア、私はあなたが料理している所を見たことがないんだけど」
「気分の問題ですよ」
「今日の料理は如何でしたか?」
「いつも美味しいよ」
「ありがとう」
「エリーゼさん、聞きたい事があるんだけど」
「ええ、構いませんよ」
「先代の国王の死の後の事ですが?」
「図書館の本には曖昧にしか載ってないし、記述もバラバラなのよ」
「わかりました、お話ししましょう」
「ありがとう」
「国王陛下が病死されたのが2年と8ヶ月前で病が重くなった辺りから
軍の内部では色々な動きがあったんですが、崩御の3日後に軍がクーデタを
起こして、貴族やギルドを始め有力商会などは、ほとんど潰されました」
「貴族やギルドはどうなったんです?」
「事前に情報を掴んでいた人間は、ほとんど逃げましたが、そのほかの
貴族やギルドは、ほとんどが私財没収となりアクシスも一時は荒廃しました
しかし、半月で軍が分裂を起こして内乱に突入して今に至る訳です」
「ジェネシス国王になる人はいなかったんですか?」
「8人が国王を名乗ったのですが、みんな暗殺されて今は12の国に
分割して統治している状況です」
王を名乗ると暗殺されるというのは真実だったのか?
「よく南のホルン王国に攻め込まれないわね」
「南にはアカツキが守るトール要塞がありますから」
「来る途中に見えた巨大な城壁の事ね。アカツキって何なの?」
「軍の一派だったという事しかわかりませんね
真の会も国王崩御の3ヶ月程前に出来たんですよ」
「しかし、兵士がほとんどいないのに他の国に攻め込まれない
というのは凄い事ですよ」
「食費も安いし物価も安く獣人差別もない。理想的な国です」
「食費が安いのは農民や漁師の負担が大きいからなんですよ」
「税の負担が大きいんですか」
「商人と違って収入が丸わかりですから、通常で収穫物の7割
不作の場合は収穫物の8割以上と場合によっては労役を課します」
「何でそんなに一方的に搾取されて黙っているんですか?」
「ジェネシスの貴族制度は他国に比べれば優れていたんですよ
良い領主の領民は安定した生活を送れていましたし、徴税官が
商人や職人からもきちんと税を徴収していましたから」
「優秀な王様だったんですね」
「はい、国王陛下は賢王とも呼ばれる程の政治手腕で国を切り盛りして
いましたが、ご子息の誘拐さえなければと今でも悔やんでいる国民は
大勢居ます。このまま続けば一斉蜂起もあり得るかも知れません」
ここも一斉蜂起の芽を抱えているのか。
「色々ありがとうございます。宿屋の経営とギルドの副ギルド長の
兼業なんて凄い事です」
「ここの経営は兄夫妻がやっているんですよ
私はお手伝い程度しかしていません」
「重い話だったね」
「あのお茶目なナツミさんですら、話してくれない訳ね」
「商人になった私がいうのも変だけど、この国は商人が優遇されているのね」
「そのせいで金回りが良くなって、景気も良い方向に流れているわけだし」
「豊作、好漁の間は大丈夫だと思いますよ」
「不作、不漁になったらミーティアの数倍の規模の暴動になるけどな」
「難しい話をしていても良くはならないのです。私たちは自分の奴隷だけでも
安定した生活を送らせてあげましょう」
「ミリア姉様はいい事を言いますね」
「照れるのです」
「そうね、まずは力をつけないとね」
「うちも他の商会のように護衛を多く雇いますか?」
「私たちだけで何とかなるわよ。Aランク冒険者なんだから」
「引っ越しはいつにしますか?」
「あと10日で契約が切れるから、そこで引っ越ししましょう」
昨日は嫌な話を聞いてしまったから、よく眠れなかったな。
「おはよう」
「アベル、私は1年以内にアスター商会をアクシスで最大の商会に
育ててみせるわ」
「そうか」
「その為には、悪事にも手を染めるつもりよ」
マリアなりの決心がついたようだな。
「……少し抱きしめてくれる」
「マリアならできるさ。頑張ろう」
「うん」
マリアの体が震えてるとは、かなり強い覚悟があるんだろうな
俺も覚悟を決めないとな。
さて買い物だな。
「アベル、マリアとシータは買い物と有力者への顔つなぎに行きました」
「俺達は?」
「訓練でもしていてと言ってましたよ」
「アベル兄さん、どうします」
「訓練か? そうなるとミリアを魔道士として鍛えるのが一番効果的だな」
「ミリアはもう強いのです」
「あの弱々しい『アイスアロー』でそんな事を言えるのか?」
「これから努力するのです」
「ヒルダ、一番効率のいい攻撃魔法のクラスは何なんだ?」
「それは精霊魔道士ですね」
「それじゃ、精霊魔道士になろう」
「でも精霊魔道士になるには適正と多額の寄付が必要ですよ」
「行ってみてダメなら諦めるさ」
どんな職業だろうな? CBOにはなかったから俺も初心者か。
「ヒルダ、こんな所に指導してくれる人がいるのか?」
「だいたいは教会でエルフが指導しています」
「こんにちは」
「ようこそ、アクシス教会へ」
「精霊魔道士になる試練を受けたいのですが」
「それは良い心がけです。試練には星金貨2枚ですがよろしいですか」
「はい」
試練だけで星金貨2枚を強制徴収するのか? これじゃ庶民には無理だな。
「アテナ神よ、強き意思を持つ者に祝福を与えたまえ」
神に祈るなら金取るなよ、何事も神事に見せて責任回避か。
「神の恩恵をみなさまに与えても良いとお告げがありました
みなさんは試練を通過しました。その水晶に手をかざしてください」
結局、クラスを与える水晶があるのか、恐るべしエルフの知恵。
「やった、これで精霊魔道士よ」
「精霊魔法を極めましょう」
「ありがとうございました」
「みなさんにはアテナ神の祝福があるでしょう」
さてどうするかな、適当に狩りをしてみるか?
「ベスはもうすぐ愛魔道士のレベルが上限になるんだろう」
「今92よ」
「じゃベスは愛魔道士で俺が爆裂魔道士で2人は精霊魔道士で狩りをするか」
「ミリア、普通のオークも倒せないのか?」
「だって」
「【天界崩壊】」
「「【4連撃ち】、【ダークアロー】」」
「【4連撃ち】、【精神拘束】」
精霊魔法といっても、魔法の系統自体はほとんど同じなんだな。
「次はオーガで行くぞ。精霊魔法の熟練度が50を超えるまでは
帰れると思うなよ」
「そんな……」
熟練度70迄は適正な相手と戦って、魔法を連打すれば
普通にあがるはずだ。
お読み頂きありがとうございます。




