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第三十一話:東へ


 アルマの街で暴動が起きて、食料が奪われてから3週間

冒険者や狩人は食肉の確保、漁師は沖合まで連日に渡って漁に出ているが

食糧不足の解消には至っていない状況だ。


「こんな事は言いたくないけど、この国も危ないわね」

「そうだな、暴徒は20万人以上だというし。もう内乱だな」

「それに西では戦争だよ」

 

「私たちも格安の食肉の依頼を随分やりましたが

冒険者の4割以上は街を離れてしまいましたね」

「お米もあまり取れなかったみたいだし

それも貴族に取り上げられちゃったもんね」

「春蒔きの小麦も、ほとんどダメらしいですね」


   

「私、思うんだけど。ヒルダ達さえ良ければ街を出ようと思うの」

「行く当てはあるんですか?」

「ないわ」

     

「お姉ちゃん、どこへ行くの?」

「西は穀物の被害がこの国以上らしいから、行くとすれば山を越えて北か

1度東の帝国領を通過して更に北ね」


 ここが静岡県と考えると北陸か東北か

山越えか? 東北だと5千キロ位になるな。


「ヒルダ姉様、どうします?」

「無理にとは言わないわ。嫌ならパーティ資金も半分渡すわ」

   

「この屋敷はどうするんですか?」

「そうね、今はみんなお金を節約しているし

みんなが残るなら使って頂戴」


「少し時間を頂けますか?」

「そうね、3日待つわ。日が経つと出立が厳しくなるから」



 

「お姉ちゃん、みんなと離れていいの?」

「さっきは言わなかったけど、この国はもうダメね」

「内側では内乱。西は王都近郊まで攻め込まれているらしいぞ」


「でも、王様が変わっても私たちには関係ないんじゃないの」

「私たちが伯爵家の専属冒険者でなければ関係ないんだけど」

「公爵にAランクに昇格させてもらっているしな」


「シータ達はどうするかな?」

「お母さんのお墓があるし、街に愛着もあるだろうし

私たちと違って親戚もいるしね」


「親戚か? 私たちはもう戻れないんだよね」

「一度死んでるし、今、生きてること自体が奇跡だからね」

   

「具体的にどこに行くか決まってるのか」

「北陸に行くには一度、西へ抜けないといけないから

実際問題は厳しいわね」


「そうすると東北方面か?」

「東京から仙台でも新幹線で350キロ以上って聞いた事あるよ」

「ここからだと10倍にして6千キロ以上だな」

 

「アメリカ横断出来ちゃうよ」

 

「私たちはお金と食料を沢山持っていると知られているから

ここに居るのはかなり危険なの」    

「随分売ったからな」

「こんなお屋敷に住んでいるもんね」

          

「折角だから、記念に一緒にお風呂に入ろうか?」

「エッチ」                     


 お風呂も当分はお預けなのに?


 ◇



 また雨か、困ったもんだな

さて今日は結果を聞けるかな?


「マリア、何してるんだ?」

「私たちの持ち物を鞄に詰めているのよ」

「いつ旅に出るか、決まったのか?」

「ヒルダ達の意見がどうあれ、今日出発するわ」

「そうか、昨日も怪しい連中が外にいたからな」


「お姉ちゃんおはよう」

「「おはよう」」


「そういえば、ラズベリー伯への挨拶はどうする?」

「引き留められても断れないから、昨日バッジを預かったでしょう」

「それで」

「マリン商会の方に昨日の晩に手紙と一緒に明後日に届けてくれる

ように頼んでおいたわ」

「お姉ちゃん、策士です」


「貴族のお屋敷に行くのも、今は危険だしね」

     

 確かに、貴族は物資を集めているせいで

反乱軍に見張られていると噂が流れているしな。


「でも門番に見つかって報告されるんじゃないのか?」

「誰が陸路で行くって言ったかしら」

「海路で行くのか」

「馬車1台じゃ9人以上乗れないじゃない」

「お姉ちゃん、私たちは6人パーティだよ」

  

「ニーナ達次第だけど、できれば安定した国までは連れて行ってあげたいわ」

「お姉ちゃん、さすがです」

「6人は身寄りがなくて、北国から出てきたと言っていたな」

「それに猫族にお金だけ渡して、『はい、さよなら』というのはね」

「俺達に関わらなければ転移者に狙われる心配はなくなるけどな」


「それもあるから、帝国あたりまで連れて行ってお金を渡すのがいいと思うの」

           

 外食だと1日に5万イリス以上食費に使う猫族だと

お金はいくらあっても足りないな。


「今更言いにくいが、一応ライトニングホーンと馬車は買ってあるぞ」

「アベル兄さん、そういう事は始めに言うんだよ」

「ごめん」


「それなら旅の選択肢が増えて助かるわ」

       



 みんな緊張しているようだな、ヒルダ達は残留かも知れないな

ニーナさん達もそわそわしているし、動揺が隠せないようだな。


「それでは会議を始めます。会議の結果はどうあれ

私たち3人は会議終了後すぐにここを発ちます」

    

「すぐですか?」

「もうここは危険ですから」

  

「あの私たちは?」

「ニーナさん達に用意できる選択肢は3つです

お金を星金貨で50枚渡すので、自由に生きる

この屋敷に残る、私たちと共に東の国へ行くかのどれかです」

    

「北の国へ行くという話はなくなったんですか?」

「王都の西側は激戦の戦場よ。危険過ぎるわ」

「山越えは?」

「道にかなり詳しい人がいないと無理ね」

    

「みんな決断してくれ。パーティの解散を選んでも誰も文句は言わないぞ」

  

「では私たち6人はマリアさんと一緒に東の国へご一緒させて頂きます」

「東の国には寄るけど、目的地はその先の北の国よ」


「それなら、私どもの故郷ですので問題ありません」


「ヒルダ達はどうする?」

    

「私たちは……」


「マリア達がいなかったら、ヒルダ姉様もミリア姉様も奴隷として

売られて今頃は戦場だったのよ」


「ヒルダ、無理をする必要はないのよ

まずは自分達の家族の事を第一に考えてね」


「ここで言っておくが、俺達は特定の集団に狙われているから

顔はバレていないが危険もあるという事は理解しておいてくれ」


「どこかの国に狙われてるの?」

「ミナちゃん違うよ。同じ村に住んでいた人達だから

400人位かな」

「そうなんですか」


「ヒルダ姉様が行かないなら、ここでお別れです

健康には気をつけて下さい」


「シータ……」

 シータはシビアだな、よく状況がわかってる。


「ミリアは?」

「ヒルダ姉様、お別れなのです」

      

「それじゃ11人ね」

「みんな荷物の整理をしてくれ。すぐ出立するぞ」

「「「はい」」」


  

 だいたい片づいたか、半年も住んでやれなかったが

次の主人には大事にしてもらうんだな。


「表に人が集まっています」

「みんな裏口から逃げるわよ」

「シカさんは?」

「倉庫にいれてある」

  

「ヒルダも一旦逃げなさい」


「少し追いかけてくるよ」

「【黒色爆裂波】」


   

     

「逃げ切ったみたいね」

「それにしてもニーナさん達は足が速いんですね」

「私たちも食堂を開く前は冒険者だったので」

「そうだったの」

「食堂をやりながら、依頼を受けた方がご飯が一杯食べれるから」

                 

仕入れ値で食べれれば食費を大幅に削減できるな

とくに猫族はエンゲル係数がべらぼうに高そうだし。


  

「屋敷の方で火事ですよ」

「反乱軍が高ランクの冒険者を狙っているという噂は本当だったみたいね」

「暴動鎮圧に加わったからな」

   

 屋敷は燃える運命だったか、マリアが決断してくれて助かったな。

「マリアさんが決めてくれていなかったら、今頃は奴隷でしたね」

「ここからだと東門が遠くなりましたね」


「港から船で行くんだよ」

「そうだったんですか」


     

 もう昼過ぎだが、街に留まる方が危ないな。


「それじゃヒルダ、星金貨40枚渡すわ

大事に使ってね」

「ヒルダ、さよなら」

「「ヒルダ姉様、お元気で」」

「もう奴隷に落ちるなよ」


「みなさん、私は行かないなんて一回も言っていません!」

       


 

「良い風向きね」

「ヒルダはダメダメさんだったんですね」

「ぎりぎりまで意思表示を明確にしないのは卑怯だな」

「ヒルダ姉様はダメダメさんじゃなくて、臆病者なだけです」

「慎重と言ってあげてください」

     

 ヒルダは何を言われても言い返さないな、俺も残ると思っていたし

自業自得だな。

  

「みんな、船から降りたくなったら正直に言ってね

ストレスが溜まると健康にも関わるから」


「ストレスって何ですか?」

「心の病の原因ね」


「南に向かってるようだが、どこまで行くんだ」

「とりあえず、東の半島を迂回してから

あとは風次第ね」


「東の半島を迂回すると、かなり遠回りになりますよ」

「東の国境の橋はまだ復旧されていないみたいなの

また川で足止めを食らうわよ」


「国境沿いの川だと自分達の船では渡れませんね」

 

「ニーナ達は帝国を通ってきたんでしょう

どんな所かわかる?」


「帝国は西はミーティアと領土を争っていて、東は川を境にトラン王国と

紛争中で北は帝都より馬で10日程行った山の辺りまで支配していて

王都はアルマの街の10倍以上と聞いています」

   

             

 神奈川と東京と埼玉を支配しているのか、帝都は江戸よりは広いようだし

平野部分が多いから、農耕面積も広そうだな。

 


 ◇


 

「だいぶ東に流されましたね」

「もう1ヶ月位経ちましたか?」

「25日ね」

「そろそろ陸につけて、情報を集めないか?」

「危険だけど、情報は必要ね」

        


 

半島が北東に向かって伸びていて、山が少ないという事はトラン王国の

可能性が高いな。


「みんな上陸するわよ」

「綺麗な砂浜ですね」

  

「久しぶりに凝った料理が食べたいわね」

「でも最後にアルマの食堂で見た定食は、小さいパンが2個にスープ

と小さいお肉で小金貨2枚でしたよ」


「ニーナ達だけで、黒金貨が飛びそうね」

「私たちも普段の半分くらいで我慢致します」

「でもね、食べないと病気になりやすくなるんでしょう」


「とにかく行ってみないか」

 1食100万はちょっときついな。


 

「焼き串が1本、銅貨10枚で売ってますよ」

「すいません、焼き串を18本下さい」

「はいよ」


「美味しそうです」

「それにめちゃくちゃ安いです」


「おお、俺の店は安いが美味いぞ

ほれ、全部で大銅貨8枚でいいぞ」


「ありがとう」

「おい、嬢ちゃんこの通貨は何だ?」

「イリス通貨は使えませんか?」

「こんな見たことない金じゃ、売れねえぞ」


「アルト通貨でよろしいですか?」

「アルトなら問題ないぞ」

          

「姉様、イリス通貨はダメだって」

「店主さん、今ある通貨を見せて頂いてよろしいですか?」

「変わったヤツだな。構わねえぞ」


 イミル通貨にミルト通貨か。      

 

「ありがとうございます。ところでトラン王国で普段使われているのは

どちらの通貨ですか?」

      

「イミル通貨がトラン王国の発行通貨だぞ、ミルトは北の国の通貨だな」

 

「「美味しかったです」」 

「どこかお勧めの宿はこの辺にありますか?」


「それなら、この先を左に曲がった所に3階建ての宿屋があるぞ」

「ありがとう」


     

「ここみたいですね」

「アベル、一時的にお金を借りるわ」

「気にするな」


「すいません、お部屋は空いてますか?」

「6人部屋を2つでいいかい」

「はい」

「2部屋で一泊小金貨1枚で朝食が大銅貨2枚で夕飯が大銅貨3枚だよ」

「では小金貨2枚と銀貨2枚ですね」

「確かにもらったよ。猫族ならお替わりは4杯目から銅貨7枚だよ」

「わかりました」



「手狭だけど、いい趣味の部屋ね」

「ヒルダとアベルにはちょっとベッドが小さいわね」

「この位なら、船に比べれば天国だよ」

「狭かったもんね」

「少し情報を集めてくるよ」

「私も行くわ」


 さてトラン王国はどういう国かな?

  


お読み頂きありがとうございます。


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