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第二十八話:アスター1号


 急遽、船を自分達で作ることになり、2日前より西の森でマツを

伐採して船の建造中だ。


「竜骨は出来たけど、後に付けるんじゃないの?」

「西洋では先に竜骨からでいいと思ったぞ」


「本当に帆は大麻を使うの?」

「別に乾燥させて売るわけじゃないのよ」


 野生の麻を見つけたので、帆を作るのに採取しておいた物だ

最初は綿でいいかと思ったが、ある物を利用する方がお得だ。


「しかし、森の中で船を作るというのは効率的ですね」

「アベルさんのアイテムボックスがあれば、収納できますからね」


「全長10メートルでいいの? 50メートル位の方が良くない?」

「ミリアは軍艦でも作るつもり」

「でも、このミスリル製の大工セットは素晴らしい切れ味ですね」

            

 ミスリル製の大工セットはCBOのゲーム内で1億ラルという高値だったが

船でも作れるというキャッチフレーズもあって購入

マツの木もサクサク、野菜でも切るように切れる。


「切り出した木は順次、時魔法で乾燥させてね」

「誰だ、この焼き曲げをしたのは?」

「それ、ミリアだよ」

「これじゃ、10メートル以上になるじゃないか」

「木は無尽蔵にあるんだし、長くてもいいんじゃないですか」


 ゲームの中ではドッグがあり、放っておけば勝手に出来たが

時魔法、炎魔法、風魔法を駆使しても細かい所は手作業だ。


「ジマツラの長さが微妙に違うけど」

「ちょっと位なら、いいんじゃない」

        

「帆柱立てはこの辺でいいかな?」

「そうね」

    

「カールさんが釘を安く分けてくれて、助かったわね」

「風魔法で木くずを吹き飛ばして」

    

 

「なんか変わった形になったわね」

「平たい樽といった感じでしょうか」

「焼き曲げの担当はミリアだったからね」

「私は一生懸命やりましたよ」


「マリン商会で買った、風を吹き出す魔道具を付けて完成ですね」


「帆もあるし、風魔法で穴が空いてないのは確認済みだし

たぶん浮くと思うわ」


「櫂もあるし、危なかったら戻ってこれるだろう」


 全長15メートルで全幅が8メートル位か

不格好な船だが、なんとかなるだろう。


「船の名前は何にする?」

「グラン・シャリオは」

「沈む可能性があるし、他の名前がいいんじゃない」

             

「タイタニックは」

「沈むの前提で言ってるだろう」

  

「アスター1号でいいんじゃない」

「そうだな、改良を重ねれば、良い物が出来るだろう」

  

「網はお姉ちゃんが作ったし、釣り竿は買ってきたし

このまま海に行こうよ」

「そうだな、行ってみるか」




  

 ずいぶん人が少ないな。

  

「見てください、イサキが小金貨3枚ですよ」

「スズキが金貨4枚だって」

「赤マグロに至っては小ぶりなのが黒金貨15枚よ」

   

「これじゃ、売れませんね」

「買い物客をバカにしてる値段設定ね」

  

 ついこの前、みんなが魚を食べてるのに

こんな高額で売れると思っていたのか?


「マリン商会が漁業ギルドで手続きをしてくれた筈なので

海で漁をしても問題ないですよ」


「行くか」

     


「浮いたよ!」

「沈む心配はないみたいね」

  

「私が艦長!」

「じゃ、わたしが操舵手ね」

「それじゃ、俺とミリアで漕ぐか」

   

「マリアが魔道具の管理で、ヒルダが釣り担当だな」

 


「風が弱いです。アベル兄さん、ミリア、頑張って漕いでください」

「お姉ちゃん、微速前進」

「言われなくても微速しか出ないわよ」


「シータ、南南西に向かって転進です」


 ベスは船長気分でご機嫌だな、しかし思ったより前に進むな。


    


「艦長、街よりかなり離れました」

「ここで、投錨して網を投げ入れて漁を開始します」

  

「艦長、錨がありません」

「網を投げ込めば、速度は落ちるでしょう」

  

「網投げ開始」

 


 

 良い天気だ、最高の昼寝日よりだな

小型だから揺れると思ったが、船体の幅が広いのがいいのか、それほど揺れないし。

  

「もう3時間経ちましたよ、網を引き上げませんか?」

「巻き上げ開始です」

  


「大漁よ。クロダイ、イサキ、スズキ、カンパチ、赤マグロも1匹いるわ」

「全部で200匹くらいですね」

  

「確か近海で不漁の為の値上げって言ってなかった」

「漁船が大幅に増えた訳じゃあるまいし、そう簡単にいなくなる訳ないじゃない」

「漁師さん達の嘘という事なの?」

「ちょっと減ったというのが本音じゃないかしら」

   

「とりあえず、アベルの鞄に投げ込んで」

   

「しかし、アベル君の鞄はよく入りますね」

「特級ってそんなに入ったっけ?」

「もしかして王級ですか?」

   

「それに近いな?」

伝説級だけど。

   

「今なら王級を友情価格で星金貨150枚で売るぞ」

「そんなにお金がありません」


「よし、キス1回で王級をプレゼントしようじゃないか」

「へ、へんたいがここにいました。ミリアピンチです」

 

「星金貨300枚くらいで売れるぞ」

「そうですね、それなら1回位なら……」


「ミリア姉様、男の人は1回したら、何度も求めてくると聞いています」

「シータはけちんぼさんだな」

「アベルさんも、悪ふざけは辞めてください」


「わかったよ。お詫びに特級の鞄をプレゼントしようじゃないか」

「特級ですか」

「これでもシータの全財産の2倍以上だろう」


「アベル君いいの?」

「構わないよ。気にせず使ってくれ」

   

「ヒルダ姉様、これでお金持ちですよ」

「ミリア、もらったんだから自分達で使いましょうよ」

  

「全艦帰港せよ」

 他に船はいないが。


 

             

 戻ってきたか、どうやら桟橋もないし、適当に港にロープで固定

しているだけのようだな、嵐がきたらどうするんだろうな?

俺は持って帰るか。


「どうする魚?」

「ギルドの人に御裾(おすそ)分けしようか?」

「それもいいわね」

「そうですね、いくら保存しておけると言っても

獲れたてですからね」



    

「こんばんわ」

「あら、珍しい時間に来るのね」

「今日は海に魚を捕りに行ったんですが、大漁だったのでみなさんにも

どうかと思いまして」


「それは有り難いわ。3日前から5倍以上に値上がりして

困っていたのよ」


「お好きな魚をどうぞ、何匹でもいいですよ」

      

「鮮度がいいわね。私はスズキと鯛をもらおうかしら」

「わたしはイサキとアカハタを頂くわ」

「わたしはメバルとマアジをもらうわ」

  

「お、タコもいるのか? 俺はタコを3匹頂くよ」

        

「そうだ、タコといえば   

船があるなら、キリング・オクトバスの討伐依頼を受けてみない?」

「タコの魔物ですか?」

  

「そうよ、みんなは実力的にはAランクパーティだし

互角に戦えると思うのよ」


「そうね、被害も結構出てるわね」

 俺達で互角ってどんな魔物だよ。


「聞いて驚け! 報酬はなんと星金貨8枚よ」

「どうして、他のパーティが受けないんですか」


「実力があって魔道士が多く、それでいて船を持っているパーティは

いないのよ」

         

「困っているなら、受けてあげようよ」

「仕方ないわね。それでは受けます」


「助かるわ。港から船で南西に半日行った辺りでの目撃例が多いわね」

   

 海での討伐依頼か、あの船でできるのか?




「マリア、よく受ける気になったな」

「なんとかなるんじゃない」

「あの船だぞ」

「それが最大の難点ね」


「みんな聞いておきたいんだが、この中で泳げる人はいるか?」

 

「ミリアだけか」

「もしかして、受けたのは不味かったかな?」

「マリアだって、実際に泳いだのは何年前だ」


「実際って何ですか?」

「海で泳いだのはという事だ」


「そうね、8年前くらい」

「もう浜遊びじゃないか」

「……なんとかなるわよ」


 適当だな、敵の強さもわからないのに。

 

「今回は特別に期限はないですし、気楽にいきましょう」




「ミリア起きろ」

「もうご飯の時間ですか?」

「昼の交代の時間だ」

    

「でも、もう3日目ですよ。本当にタコはいるんですか?」

「受けてしまったからには、探すしかないだろう」

 

「またお昼は魚料理なんですね」

「この船じゃ、凝った料理は作れないからな」

    

「アベル兄さん、ほんとにいるのかな?」

「あと2日探して、ダメなら諦めよう」

「グラン・シャリオ、初の依頼未達成ですか?」

「次からは討伐対象の情報をきちんと集めるようにしよう」

   

  

「また船の上で野営だね」

「今夜は肉料理にしようか?」

「やったー!」


   

「ステーキにパンだけだね」

「そういえば、パンの価格はどうなっているのかしら」

「カンガルー亭でもお替わり自由はなくなっただろうな」

「猫族は路頭に迷わなければいいんだけど」

「よく食べるものね」


 

「あそこ、なんか光ってるよ」

「漁船かしら?」


「なんか、こっちに向かってくるよ」

「晩飯は中断だな」

「総員、戦闘準備」

   

「ベスも戦うんだぞ。船の淵へ寄るなよ」

「わかってるよ、泳いだ事ないもん」


「随分、高速で移動するわね」

「サメかしら」

「それにしては大きすぎない」

           

「きゃあ――」

「振り落とされないように、しっかり捕まってろ」

  

「なんか手が一杯ありましたね」

「きっと、あれがキリング・オクトバスだと思うわ」

   

「あれが足なの? 10本以上あったみたいだったよ」

 

 海の上で夜間か、想定外な悪条件だ

速いし、あれに魔法を撃ち込むのは一苦労だな。


「「【サンダーアロー】」」

「「【ファイアーアロー】」」

「【クイックサークル】」

「【フラッシュ】」

  

 こうなると、攻撃面でミリアとシータが攻撃魔法を使えないのが痛い

敵の速度は80キロ程度か。


「【天界崩壊】」

 今度は寄ってこないか。

   

「なかなか賢いタコさんですね」

  

「【黒色爆裂波】」

「【灼熱演舞】」

「ウイン、コールドブレス」

  

「当たらないね」

「アベルさん、革命家で倒してしまっては?」

   

「防御力は高くないし、速度もそんなには速くないから逆効果だな」


「ゆ、揺れる」

「みんな柱から手を離すなよ」

   

「またぶつかってきたよ」

「攻撃が止むと、攻撃を仕掛けてくるようね」

「タコの分際で賢すぎです」


「「【ウインドカッター】」」

    

「足を2本切り落としたわ」


  

「「【サンダーアロー】」」

「あれ、切れた足が元に戻ってる」

「どうやら、すぐに生えるらしいわね」

「凄い生命力です」


 困ったな、こちらから近寄れないのが痛い。


「シータ、あいつに『時間逆行波』を撃ち込んでくれ」

「そんなスキルはありませんよ。時魔法の最高のスキルは『時間短停止』ですが

ほんの一瞬しか効果はありませんよ。  

   

 特殊スキルも俺達と同じ物もあれば、違う物もあるのか。


「マリアがやってくれ」

「わかったわ。【シェルシェ・クラスチェンジ】」


「行くわよ、【時間逆行波】」


「死ね、【原子爆裂波】」


 時魔法と爆裂魔法の必殺スキルで何とかなったといった感じか

確かにAランクじゃないと、死ぬな。


「引き寄せて、回収しよう」

「なんなんですか、今の2人のスキルは?」

「爆裂魔法と時魔法のスキルだぞ」

「そんなスキル聞いた事がありません」

       

「きっと習得した地方によって、スキルが違うんじゃないのか」

「子供でも分かります。そんな事ありえません」


「勇者クラスを取得した時に変化したスキルなんだよ」

「そうなんですか?」

 嘘だが、説明できないしな。


   

「近くで見ると凄くでかいですね」

「そうね、竜よりちょっと大きいわね」

「機動馬車倉庫に入れて、街へ戻ろう」


 この大きさであれだけ速く泳げるとは、強い魔物だったな。

           

お読み頂きありがとうございます。


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