第二十四話:竜の肉
ラズベリー伯の依頼の竜の肝の獲得の為に
山まで遠征して炎竜を退治したが、ヒルダが12体も持っていくと
驚くと言うので3体だけ解体して、アルマに帰還した。
「竜の肉はどの程度の値段で売れるんだ?」
「そうですね、1キロで小金貨1枚程度でしょうか」
「眠り羊の1割か」
「美味しい牛に負けるのね」
「それでも12体分あれば、肉だけでも1体から3千キロ程度取れるから
星金貨で36枚近くいくわね」
「炎竜は体内の肉の一部が、かなり焼かれていて、可食部分が少ないからな」
「そうね、龍だったら1キロで金貨30枚は行きそうなんだけどね」
「龍の肉は最高だからな。金貨20枚以下だったら
自分達で消費した方がいいな」
「みなさんは龍の肉を食べたことがあるんですか?」
「勿論」
「凄いです、凄すぎです」
龍は個体数が少ない上に、辺境にいるから
当分は相手にする事はないと思うけど。
「こんにちは、ラズベリー伯はいらっしゃいますか?」
「テラスで少々お待ちください」
「みなさん、まだアルマにいたんですか」
「いえ、竜を退治に行って参りましたよ」
「みなさんでも、竜は退治できませんでしたか?」
「赤竜はいなかったので、炎竜を2体退治してきました」
「それでは、竜の肝は取れたんですね」
「はい、ここにあります」
「これほど新鮮な状態で運んでくるとは。アイラ様、確かに竜の肝です」
「ジン、急いでクライン公の所に届けて頂戴」
「かしこまりました」
今回の依頼主はクライン家だったのか。
「みなさんの活躍で、クライン家の御曹司もきっと持ち直すわ」
「ご病気だったんですか?」
「ええ、元宮廷薬師をやっていた人間が言うには、特効薬の作成には
竜の肝が絶対に必要ということで
兵士5千人に討伐に行かせたんだけど、誰も取ってこれなくて
急遽、冒険者にも依頼しようという事になったの」
俺達はオマケという事か、兵士というのは魔物戦が苦手なんだろうか?
「報酬はそうね、1頭で星金貨30枚で2頭で60枚出しましょう」
「そんなに頂いて宜しいのですか?」
「竜を倒せる人間は貴重だわ。その程度安い物よ
ご子息が回復すればクライン公からも褒美が出ると思うわ」
5千人の兵士を動員することで動く金を考えれば妥当なのかも知れないな。
「では竜の肉やその他の部位も置いていきますね」
「竜の心臓はとても滋養効果が高いと言います。ご病気の回復には
丁度宜しいかと思われます」
「そうね、ありがとう。これが完了証書よ」
「では失礼致します」
「喜んで頂けて、良かったわね」
「そうだな、しかし竜ごときにみんなは、何を苦労してるんだろうな」
「やっぱり、新鮮な状態で運べないんじゃないかしら」
「それもありますが、竜と互角に戦うにはAランクパーティ
が2つはいないと無理です」
「俺達はCランクパーティだぞ」
「みなさんが異常なんです」
「ヒルダ、そもそもパーティのランクってどうやって決めるの?」
「パーティランクはA~Dまであるんですが、Aランクが10点
Bが4点、Cが2点、Dが1点で、パーティの合計点数が40点以上で
Aランクパーティ、25点以上でB、15点以上でCで10点以上でDです」
「つまりパーティは8人編成だから、Aランクが2人は必要という訳ね」
「俺達だと8人いても、ぎりぎりBランクパーティには届かないな」
「それだと全員Dランクでも、Dランクパーティを名乗れないのね
変わったシステムなのね」
「パーティを組むときはクラスに偏りがないように組みますから
みんな同一ランクというのは、かなり希ですね」
「でも他のAランクパーティは取れなかったみたいね」
「アルマにはAランクパーティは2つしかありませんから」
「そうなの」
これだけの都市で、そんなに少ないという事はAランクの人間は
本当に少ないんだな。
「Aランクの人間は低ランクの人間と組むのを極端に嫌いますし
そして、同じAランクと組むのも嫌がりますので」
「お山の大将はリーダーじゃないと気が済まないのね」
「そこは、さすがヒルダ姉様といった所ですね」
「すいません、完了証書を持ってきました」
「おつかれさま。竜の肝の入手がやっと終わったのね
これでギルド長の首も飛ばすに済むわね」
「そんな騒動になっていたんですか?」
「クライン公の使者のヘルス子爵が殴り込んできて、大変だったのよ」
「ギルドも災難ですね」
「本当に困ったもんだわ。はい、これが報酬の星金貨60枚ね」
「ありがとう」
「竜を一体持ってきたんですが、素材を買い取って頂けますか?」
「いいわよ」
「全部で星金貨1枚と黒金貨5枚ね」
そんなに高くないんだな。
「そんなにしないんですね」
「みんなは肉をよく持ってくるからいうけど
(お肉は懇意にしているお肉屋さんに売った方が高いわよ)」
「ありがとうございます」
ギルドは素材はちゃんと買い取ってくれるが、肉は賞味期限があるから
肉屋に卸すだけのようだな。
「今日は帰るか」
「わたしはミリア姉様の装備を取りに行ってきますね」
「頼むよ」
「ミリア姉様、行きますよ」
「わたしも行くの」
「調整が必要かもしれないじゃないですか」
「わかったわ」
やはり家に帰ってくると落ち着くな。
「おかえりなさい」
「ノーラも今、帰って来たのか」
「はい、食料を仕入れてきました」
「そうだ、お勧めの肉屋とかあるか?」
「そうですね、キング精肉店がお勧めですね
店の規模も大きいですし、品数も多いですよ」
「ありがとう」
俺達の肉の消費量は半端じゃないから、お得意様だろうな。
「さて、竜を解体するぞ」
「明日にしようよ」
「まだ日が高いじゃないか」
「仕方ないわね」
1体解体するのに、1時間かかったか
ヒルダは30分もかからないというのに。
「ただいま」
「帰って来たか、2人とも竜の解体を手伝ってくれ」
「はい」
「面倒ですね」
「旦那様、解体ならお手伝い致します」
「それじゃ、お願いするよ」
終わったか、ニーナ達はヒルダより早かったな
今度から、解体は任せてしまうか。
「明日、2体分だけ残して売ってしまおう
俺とヒルダが精肉店で、みんなは肉以外をギルドに売ってきてくれ」
「はい」
「馴染みの肉屋に行くなら、慣れている者についてきてもらった方が
高く買い取ってもらえると思いますが」
「そうか、それじゃ誰かお願いできるかな」
「私が行きます」
「(名前は何だっけ?)」
「ミナちゃんよ)」
「ではミナにお願いするか」
「わかりました」
名前を覚えるのは苦手なんだよな。
「では今夜は竜の肉を使った料理にしますね」
「頼むよ」
「アベル、名前を覚えるのが苦手なのは知ってるけど
身近な人間だけでも覚えて頂戴」
「わかったよ」
「ミナとリナがニーナさんの娘で、ノンとランがノーラさんの娘よ」
「随分と日本人の名前に近い名前なんだな」
「みんな北国の出身らしくて、名前も日本的な名前が多いみたい」
「そうか、寒いのを嫌ってミーティアに来たのか」
「その辺の事情はわからないわね」
◇
よく寝たな、随分食べたからな。
「マリア、朝から訓練してるのか?」
「訓練しないと、勘が鈍っちゃうから」
「でも斧を使うなら、聖戦士の方がいいんじゃないか」
「クラスチェンジできないのよ。知らなかった?」
「そんな、【シェルシェ・クラスチェンジ】」
「ほんとだ、出来ないな」
「私も一通り検証したんだけど、最上位クラスでチェンジ出来るのは
魔法職は、聖、夢、愛、時、爆裂魔道士と召喚士で攻撃職は剣聖、聖騎士
神竜騎士、革命家の10クラスね。生産クラスはいけそうだけど」
「それだと聖戦士は勿論、侍、狙撃手、暗殺者、賢者にもなれないのか?」
「そうなるわ。この世界の人は革命家になれないけど精霊魔道士になれるわ」
「だから、街の危機だというのに神竜騎士ばかりだったんだな」
「そうね、剣聖は熟練度を上げるのが大変だし、攻撃力重視だと
神竜騎士の一択になるわね」
神も制限をかけていたんだな。
「それだと斧や短剣や刀やライフルは使えないんだな」
「ライフルはそれ自体がこの世界では脅威になるし
私たちはエクストラクラスの勇者と英雄になれるから十分に使いこなせるわ」
そうだな、俺は魔王にもなれるからな。
「ベスが英雄クラスを取れるかは、運次第という事か?」
「そうなるわね。私の魔王への挑戦も運という事よ」
「それで重戦士で斧の訓練という訳か」
「熟練度80だけど適正が高いから、斧に限って言えば剣聖で斧を
使うのと、ほとんど遜色はないわよ」
「マリアの残りの生産クラスは錬金術師、料理人、大工、調合師か」
「料理人は2週間前に達成したし、錬金術も95を超えているわ」
「この屋敷程度の広さがあれば、他のクラスでの作業も問題ないんじゃないか」
「だから、コツコツやっているわ」
「朝飯を食ったら、素材を売りに行くか」
「そうね」
随分と繁盛している店だな。
「混雑していますね」
俺の知ってる肉屋と違って、ほとんどスーバーだな
これだけ大きくて、売っているのは肉だけなのか?
「これが肉屋なのか?」
「はい、野菜は冬場に供給が落ちますし、魚は市場がありますから
肉屋は収入が安定していて人気があるんですよ」
こちらでは、魚はほとんど仲卸を通さずに、市場に買いに行くからな。
「ミナちゃんじゃないか、今日も美味しい肉が沢山あるぞ」
「おじさん、今日は肉を売りに来たの、買ってくれる?」
「いいとも。奥の倉庫にきてくれ」
さすが常連の少女に交渉させるというのはいい案だな、シータは策士だな。
「ミナちゃん、何の肉を持ってきたんだ」
「炎竜のお肉よ」
「そいつは凄いな。それで量はどのくらいだ?」
「買ってくれるだけ売れると思うの」
「そうだな、竜の肉は筋力上昇の効果があるし、今から熟成すれば
春祭りに間に合うし、あるだけ買おうじゃないか」
「アベル、ヒルダ、お肉を出して頂戴」
「かしこまりました」
「炎竜の肉が21トンと内臓です」
「鮮度も品質も問題ないな。これなら1キロ小金貨1枚と銀貨6枚は出せるな
内臓はまとめて黒金貨7枚といった所だな」
「それで結構です」
「代金は……星金貨34枚と黒金貨3枚だな」
「ありがとう」
「ではお嬢様、屋敷に戻りましょう」
最初に12体を売ったら、いくらになると話し合ったが
みんなで言っていた位の金額になったな。
「アベル、このまま戻る」
「そうだな、雲がだいぶ厚いし雨が振るんじゃないか」
「みなさん、生意気な口をきいてすいませんでした」
「気にしないで、お願いしたのはこっちだから」
「しかし、まさかミナ達がお嬢様扱いされていたとは知らなかったな」
「屋敷に荷物を運んでくれた人が、勝手にお嬢様だと言い出して
それが街のみなさんに広まってしまったんです」
「あのでかい屋敷に住んでいて、いい服着てれば
そう思われても当然ね」
そうなるとニーナが奥様といった感じになるのか。
「みんな帰っていたんだ」
「素材は1体分で黒金貨9枚で売れたわ」
「なんだ、肉は星金貨6枚だったのか。かなり買いたたかれたんだな」
「お肉はいくらになったの?」
「7体分で星金貨34枚になったぞ」
「つまり今回の利益は報酬の星金貨60枚と合わせて
星金貨で百枚を超えたわね」
「それに2体はアベル兄様が持っているし」
「それでは、半分だけでも今すぐ分配しませんか?」
「「「ダメ」」」
ミリアは懲りないな。
お読み頂きありがとうございます。




