第十九話:お屋敷購入
クライン公に屋敷を1つ貰えるという事で俺達は
色々な案を出し合った結果、徹夜になってしまったが
商業ギルドに意気揚々と向かっている所だ。
「どんな家かな?」
「昨日さんざん話し合ったでしょう」
「そうよ、個室が3部屋にキッチンとリビングと作業部屋が1つに
花を植えられる小さな庭ね」
「お庭付きの家なんて、もらえるかな?」
「交渉はマリアに任せるわ」
今日は人が若干少ないな、外で用事でもあるのか?
「ようこそ」
「すいません、ギルド長に紹介状を見て頂きたいんですが?」
「どちら様の紹介でしょうか?」
「領主様です」
「かしこまりました、しばらくお待ちください」
こういう時に本があればな、でも安い本でも30万イリスは
するんだよな。
「みなさん、ギルド長が直接お会いになるそうです」
領主様効果というやつか。
「初めまして、グラン・シャリオと申します」
「閣下に屋敷を手配するようにと指示があったが、間違いはないかね」
「はい」
「君、バイオレットの中から物件を何件か紹介してあげてくれ」
「バイオレットの物件をよろしいのですか?」
「構わん」
「わかりました」
「君がアベル・ロイス君だね」
「はい」
「髪が紫で、目の色が金と銀のオッドアイか
ロイス家の遺児で間違いないようだね」
「紹介状に書かれていましたか?」
「私は記憶にないと思うが、君が生まれたときに一度会っているんだよ」
「そうでしたか」
「確かに、ロイス家の人間を宿屋暮らしさせてはおけないな
担当の人間とゆっくり屋敷を選びたまえ」
「それでは失礼致します」
3才で誘拐されていて助かったな、昔の事を聞かれたらアウトだ。
「みなさん、担当のギルド職員のユッテと申します
今回ご用意させて頂いた物件は全部で12件ありますよ」
「お庭はついていますか?」
「もちろん、街で家の売買を行っている者では用意できない
最高の家ばかりです」
「最高だって」
「楽しみね」
「部屋が4つ以上、お庭が欲しいです」
「その程度の条件は全ての物件が満たしておりますし
全部の物件の説明をしますと日が暮れてしまいますので
ご希望をお聞きして、こちらでお勧めを紹介いたしましょう」
「それでは部屋数が10部屋以上、作業部屋が3つ以上で庭があって
ラズベリー伯のお屋敷に近い物件をお願いします」
「あとお風呂です」
「それは重要ですね」
「そうなると東側の物件になりますので2件ですね
貴族エリアにある物件と丘の上の物件のどちらにしますか?」
「丘の上の物件でおねがいします」
妥当な線だな、お隣さんが貴族だったら大変だ。
「それでは魔法錠と地図をお渡しするので、みなさんで見てきてください
お気に召さなかったら、明日にでもまた他の物件を見に行くといいでしょう」
「ところで今日は職員の数が少ないようですが?」
「秋蒔きの小麦を収穫前に視察して、予想収穫高を査定に行ってるんですよ」
「ちなみに税率はどのくらいですか?」
「農民は収穫高の7割で、商人は売り上げの1割ですね」
7割も持っていってしまうのか? それに利益じゃなくて売り上げの1割か
この世界の税率は高いんだな。
地図によると、東の14番地とあるな
こちらの世界にも番地があるとは驚きだ。
「この辺は広い家ばかりね」
「見てください、あの家」
「ギルドと同じ金色ね。ちょっとああいうのだったら嫌ね」
「この辺だと思うんだけど、見当たらないわね」
「あのお屋敷で道を聞いてみよう」
「え――、あれは絶対に貴族様のお屋敷よ
道なんて教えてくれるかな」
「あそこに衛兵さんがいるよ」
「聞いてみましょう」
「すいません、東の14番地の家を探しているんですが」
「嬢ちゃん、それなら目の前のこの屋敷がそうだよ」
「ありがとうございました」
「この邸宅だったのか」
「庭が広すぎて、家がよく見えないわね」
「とにかく中へ入ってみましょう」
「門が開かないわよ」
「魔法錠を渡されていたじゃない」
「そういえば、どうやって使うんだろう」
「名前からして魔力を込めればいいんじゃないの」
「ほんとだ、開いたわ」
「ベス、走らないで」
「私もダッシュです」
ベスはいいとしてミリアも子供だな。
「こんな所に案内板があるわ」
「正面がお屋敷で左側が使用人用の建物で奥に厩舎があると書いてあるわ」
「使用人用の建物だけでも、私たちの住んでた家より大きいね」
「プールがあるわ」
「庭も広いわね」
「中へ入ってみましょう」
「寝室にキッチンにリビング、掃除をしてくれているようね」
「お風呂発見!」
風呂か、もう4月だから風呂は格別だな。
「ベス、何部屋あった?」
「寝室が6部屋に普通の部屋が6つで大きい部屋が2つにリビングと
食堂とキッチンとそれにお風呂が2つかな」
「それに屋根裏部屋もありました」
部屋数が14以上か、俺達だけで掃除は無理だとすると、人を雇わないと
管理できないか。
「みんなはどうだ?」
「いいお屋敷ですね」
「私たちにはもったいない家ですよ」
「3階から見える風景はさすがに丘の上というだけはありますよ」
「それじゃ、この家で決定でいいんだな」
「そうね、最低限の家具があるのも魅力だわ」
マリアも気に入ったみたいだな。
「そうなると、あとは使用人ですね」
「アベルさんに秘密があるとなると、やはり奴隷ですか」
「奴隷ってどうやって探すの?」
「奴隷商の所に買いに行くか、奴隷市ですね」
「アベルはいくら位持ってる?」
「星金貨62枚程度だな」
「私は星金貨58枚くらいで、パーティ資金は黒金貨6枚程度ね」
「そういえば、姉様の装備を買ってから、そんなに依頼を受けていませんね」
「家具を買ったら、奴隷に回す費用はありませんね」
「今回は私が出すとして、奴隷商の所へ行く?」
「奴隷商だと高いので、そろそろ春の奴隷市が開かれる頃なので
そちらで調達しましょう」
「奴隷商だと高いのか?」
「かかる経費は同じですから、高い奴隷が多いんですよ」
なるほど、衣食住の費用は同じだからな
薄利多売なんてやったら、税が大変な事になるしな、そもそもまともに税を
納める人間が何割いるのかわからないが。
「とにかくギルドに戻って正式に契約してしまいましょう」
「そうですよ。他の人に取られたら大変です」
ギルドまではかなりあったな、街の反対側になるのか。
「到着!」
「ベスは嬉しそうだな」
「だって、ついに念願のお風呂だよ」
「【幸福貯蓄】、ベス、手を出して」
「はーい」
3万レオンか、それほど嬉しいという事か
俺の3千レオンの10倍か、俺はそれほど望んでいた訳じゃないという事か。
「すいません、ユッテさんはいますか?」
「みなさんお帰りでしたか」
「あの物件に決めます」
「では別室で手続き致しましょう」
「それでは屋敷の持ち主は如何なさいますか?」
「アベルさんでいいんじゃないですか?」
「そうね」
「ギルド長からはアベルさんの名前はなるべく出さないようにと
伺っておりますが」
「そうね、ロイス邸になってしまうものね」
「マリアでいいんじゃないか」
「それではマリアさんが持ち主という事で、アスター邸になりますね」
「マリアさんって名字持ちだったの?」
「言わなかったっけ?」
「聞いてないよ」
「それでは正規の魔法錠をお渡しします」
「これは偽物だったんですか?」
「有効期限が1日だけの模造品ですね」
確かに持ち逃げされたら大変だからな。
「この魔法錠はマリアさんにしか複製出来ません
マリアさんが死亡すると、家の権利も失われますのでご注意下さい」
「権利の委譲は可能なんでしょうか?」
「我が国の法では購入してから1年経てば、可能となっております」
当主が死ぬと、大金を払って買った家の権利が失われるのか
土地の転売防止なんだろうが、よく考えられたシステムだ。
「ユッテさん、奴隷市はいつ頃開かれますか?」
「それなら10日後ですね。今回は春の税が払えなかった人間が多いので
アルマの街だけでも6千人規模の奴隷市になると思いますよ」
「他に何かございますか?」
「大丈夫です」
「それでは失礼しますね。頑張ってくださいね」
「ありがとうございました」
「もう8時か、戻ってもミリアが納得する量は残ってないだろうな」
「あの温厚な女将さんですら、ミリア姉様のお替わりは別料金に
しましたからね」
「パンを15個以上食べれば、自業自得ですね」
「夕飯は何にする?」
「ステーキ!」
やはりそうなるか。
「近いし、ステーキハウスに行くか」
「頑張って食べます」
「姉様、食事は頑張る物じゃありませんよ」
ここは酒の種類が多いから、夜遅くまで開いてるんだよな。
「ステーキのAセットを5人前とDセットを1人前お願いします」
「ちょっと待っててね」
相変わらずフレンドリーな店員だな。
「私、今日ならDセットを2人前はいけそうだよ」
「Dセットは600グラムあるんだぞ」
「ミリア、Aセットの3倍よ」
「今日は沢山歩いたから、お腹減っちゃった」
「それで何人くらい、雇いますか?」
「シータのような働き者なら5人いれば、なんとかなるな」
「シータみたいなのは、なかなかいないにゃ」
「ミリア姉様、また猫言葉になってますよ」
「ごめん、昔の習慣でね」
「お待たせしました、熱々ですよ」
「いただきます」
「言い慣れてきたようだな」
「言わないと、お替わり禁止になるので当然です」
マリアの提案で食事を食べる前に『いただきます』を3姉妹にも教えたが
納得してくれて良かった、マリアは食事の作法にだけはうるさいからな。
「美味しかった」
「ほんとにお替わりしたな」
「お代は小金貨9枚です」
ミリアが俺達と同じなら6枚で済んだんだが。
◇
「だいたい家具は揃ったわね」
「でも星金貨2枚も使っちゃいましたね」
「パーティ資金はゼロになっちゃいましたね」
「ミリア姉様、ゼロじゃなくてマイナスですよ」
「マイナスって何?」
「姉様は気にしなくていい事でした」
随分使ったんだな、買い物は任せっきりだからな
星金貨2枚あれば高級車が買えたな、この発想が間違っているのか
工房が出来れば、服とかは作れるし経費は落ちるか。
「働いてくれる人達の分も10人分用意したのよ」
「10人は雇わないと思うけどな」
「仕事はどうする?」
「奴隷市が終わったら再開でいいんじゃない」
カンガルー亭ともお別れか?
お読み頂きありがとうございます。




