第十五話:Cランク冒険者
あれから数日が経ち、王都で別れた3姉妹もアルマに帰ってきて
今は期待に胸を膨らませてギルドに向かっている最中だ。
「今日からヒルダ姉様もAランクの冒険者ですね」
「凄いです」
「判らないわよ、評価次第だから」
「ラズベリー伯なら確実にA評価にしてくれていますよ」
みんな浮かれてるな、これでダメだったら
どうするつもりなんだ?
「すいません、指名依頼の達成報告に来ました」
「ラズベリー伯の依頼ですね」
「そうです。完了証書の他にギルド長宛に推薦状も預かっています」
「それとオーガの素材を持ってきました」
この素材取りが一番大変だった、ヒルダの指導の下、なんとか解体に
成功したが、俺達は精神的にボロボロになったな。
「推薦状ですか? しばらくお待ちください」
「みなさん、ギルドカードを預かっておきましょう」
「わかりました」
見かけない受付嬢だな、誰だろう?
ギルド長が手紙を見ているんだから、待たされるのは覚悟していても
どうも待つのは俺の性には合わないようだな。
「大変お待たせしました」
待たせすぎだ、2時間も待ったぞ。
「審査の結果。ヒルダさんがAランクに昇格で他の5名の方がCランクに
昇格という結果になりました」
「私たちがCランクですか?」
「推薦状にオーガロードとその集団を殲滅したとありましたので
その成果を考慮しての昇格です」
「ヒルダ姉様、念願のAランクおめでとうございます」
「ありがとう」
嬉しそうだな、この上にSランクがあるらしいが
普通の冒険者では昇格は無理のようだしな。
「みなさん、護衛依頼の報酬が残ってますよ」
そうだったな。
「護衛の報酬が黒金貨6枚」
前にやった護衛の20倍か、さすがは伯爵家だな。
「オーガキャプテンの魔石が82個で黒金貨8枚と金貨2枚
オーガロードの魔石が星金貨3枚で83体の素材を合わせて
黒金貨6枚と金貨8枚で合計が星金貨4枚と黒金貨5枚です」
魔物は魔石が一番価値があるというが、結構高値がついたな
オーガロードは星金貨3枚とは凄いな。
「やったね。合計で星金貨5枚を超えちゃったよ」
「そうね」
「Aランクの昇格の記念に何か依頼を受けるか?」
「そうね、だいぶ遊んで過ごしちゃったからね」
「Aランクの依頼は3階ですよ」
「3階に行きましょ」
2階と3階で随分、雰囲気が違うんだな。
「沢山ありますね」
「そうだな。それにどれも報酬がいい」
報酬が最低でも金貨10枚以上だな
低ランクの冒険者を軽視する風潮はギルドのシステムにも問題があるのか。
「これなんてどう?」
「オークの巣の殲滅で報酬が黒金貨4枚か」
「オークはオーガと違って、肉も売れるし
肩慣らしには丁度いいんじゃないかしら」
「みなさん、数は不明とありますよ」
「オークってオーガよりかなり弱いんでしょう」
「それはそうですが……」
「ヒルダ、受けてきてくれる」
「わかりました」
「待って、ヒルダ姉様」
「シータ、どうしたんだ?」
「ここは慎重を期して、調査にしましょう」
「シータがそう言うなら、構わないけど」
ヒルダは昇格したばかりだし、失敗したらバカな冒険者に陰口を
叩かれるから、ありかも知れないな。
「西の森のオークの巣の調査依頼を受けてきました」
「それじゃ行きましょう」
「アベルもいいですね」
最近、ヒルダは君付けで呼ばなくなってきたな、悪いことじゃないが。
◇
結構、森の奥なんだな?
「もう2時間も歩いているが、まだ着かないのか?」
「報告では、楓の木の周辺とありましたから、あと少しです」
参ったな、こんなに歩くとは思わなかった。
「あれは楓じゃないかしら」
「そうですね」
「落葉樹じゃないのね」
「この丘の下にオークがいるって」
「あれって全部オークなのかしら?」
「違う種族がいたら殺し合いになるだろう」
「ルークがオークが6560に上位種が980とオークキングが1体
居るって言ってる」
「上位種の種類はわからないの?」
「多すぎて無理だって」
「これは討伐依頼を引き受けなくて正解だったわね」
「そうですよ」
「こんなにいたら、傷付けないように持って帰れないからな」
なんかシータの俺を見る目が冷たく感じられるが?
「(引き返しますよ)」
ここで戻るという事は、また来なければならないという事か。
「あそこに人が倒れていますよ」
「女の子だな」
「冒険者? 違うわね。武器を持っていないし、ドレスを着ている冒険者
なんていないわね」
「ミリアは最初、着てたけどな」
「とにかく危険地帯での人員の救助は、冒険者の務めの1つです」
野蛮な冒険者なら身ぐるみ剥いでしまえとか言いそうだけど。
「もうここまで来れば、大丈夫だろう。川の水をぶっかけるか?」
「アベル兄さん、酷い」
「考えてみろ。こんな小さな子供が1人で森に入るとは思えない
きっと大人と一緒だったはずだし、最悪は友達と一緒という事もありえるぞ」
「そうね、オークの集団に見つかったら助からないわね」
「起きて、起きないと怖いお兄ちゃんに水をかけられちゃうよ」
「やはり、水を」
「ダメ!」
「仕方ないな」
マリアとベスは小さな子に甘すぎると思うんだが。
「か、可愛い。小さな犬ですよ」
「あ、あれは……」
「ち、チャーミーチワワだ。街まで全速力で撤退だ」
「どうしたんですか? あんなにかわいい犬なのに」
「俺がこの子を運ぶから、みんなも早く逃げろ」
「アベルさん、なにをそんなに怯えているんですか?」
「残りたければ残れ、墓は俺達が建ててやる」
「「「【速力倍速】」」」
チャーミーシリーズを間近で見て生き残るとは、俺の運も
まんざらでもないな。
「危なかったわね」
「前にみかけた時はマリアに殺されたからな」
「あの時のお姉ちゃんは修羅の化身みたいだったもんね」
「チャーミーシリーズの範囲魅了魔法は、そんなに凄いの」
「かかったマリアはわからないだろうが、夢魔法の比じゃないな
それに魅了中はステータスも上がるみたいだしな」
「そうだよ。お姉ちゃんは『灼熱演舞』を3秒くらいで詠唱してたよ」
「でもいいの、あの姉妹を置いて来ちゃって」
「最悪なのは俺達が魅了状態になる事だからな」
「そうだよ、ここは異世界。油断したら死んじゃうんだよ」
ベスもやっと、心身ともに冒険者になったようだな。
「とにかくギルドへ報告に行こう」
まだ昼過ぎだから、人は少ないな。
「報告が3つあります」
「お早いお帰りですね」
「この子は西の森で倒れていたので救助しました」
「こんな小さな子が、可愛そうに」
「それとオークの巣の調査依頼ですが、えっと何体だっけ?」
「オークが6560体にその上位種が980体にオークキングが1体いました」
「そう、それです」
「見間違えじゃありませんか?」
「ベスの召喚獣の子龍の報告ですから」
「そうですか。愛されている子龍の索敵能力は人間の100倍以上と
言われていますしね。それが本当だとすると一大事ですね」
「それと」
「ギルド長に報告してアルマの街の冒険者に強制依頼を出すように
お願いして」
「わかりました。オークが7500以上ですか」
「何か言いかけたけど、他にもオークの巣があったの?」
「いえ、チャーミーチワワが3体もいたんです」
「チワワっていうのは、あの可愛い小型犬よね」
「それとは別です。チャーミーシリーズの魔物は広域魅了魔法を
使うのである意味、オークの巣より危険です」
「オークの巣と聞いて来てみたら、チワワが危険だとよ」
「あんなにかわいい犬が怖いなんて、臆病者もいいとこね」
こちらの世界では認知されていないのか?
「あなたが何を恐れているかよくわからないけど
文書にして注意喚起しておいてあげるわ」
CBOではチャーミーラビット5体で都市が1つ滅びたというのに
言っても無駄か、残念だがあの見た目では仕方ないか。
「アベル、文書にしてくれると言うし、危機意識の低い冒険者の
生存率は低いと言うわ」
「そうだな。後の世のための生け贄になってもらうか」
「あの、救助された女の子がこんな物を身につけていました」
「随分綺麗なペンダントね」
あれはレッド・ダイヤモンドか、だとすると大商会の娘か、あとは貴族か?
「オークの大集団が発見されたというのは本当か?」
「ギルド長、オークが6560に上位種が980に、オークキングまで
いるそうです」
「それでは魔物大暴走がすぐにでも起こるな」
「ギルド長、チワワを恐れている冒険者の言う事なんか信じる必要
ないんじゃないか?」
「それはいえるな」
「チワワとは、何の事だ?」
「グラン・シャリオの方が言うには、魅了魔法を使う強力な魔物と
報告がありましたが」
「そうか、とりあえず注意だけしておいてくれ」
「すでに緊急強制依頼を出す旨の書類を携帯させた職員を各方面に
派遣しました」
「そうだな、8千近い魔物の魔物大暴走が起これば、街へ来る迄に
その規模は10倍近くになる可能性がある」
「ギルド長、そんな大規模な事になるんですか?」
「そうだ、理性を失った魔物の暴走は、他の種族の暴走も招く
昔、それで滅びた街を見たことがあるが、何も残ってはいなかったよ」
人間もパニックになると周りの人間も不安になると言うしな。
「アベル、置いていくなんて酷いじゃないですか?」
「みんな生きていたか。折角大きい墓を建ててやろうと思っていたのに」
「可愛い犬でしたよ」
「それが最大の落とし穴なんだよ。少しでも気に触る事が起こると
魅了魔法を使ってくるんだ」
「それなら、可愛そうですが倒してしまえばいいじゃないですか」
「攻撃魔法を使う素振りを見せればアウト、防御力は普通の聖騎士の
30倍以上という厄介な相手なんだ」
「なんですか、その異様なステータスは?」
「とにかく生きてて何よりだ。生きていれば美味い飯にもありつけるからな
死んだら飯も食えないぞ」
「当たり前の事を言って、誤魔化さないでください」
「オークと少女の事は報告した。明日冒険者を集めて山狩りをするそうだ」
「あの、調査依頼の報酬の金貨10枚です」
「すっかり忘れていたわ。ありがとうございます」
「すいません、あの少女の事ですが、非常に希少な宝石を身につけていたので
たぶん大商会か貴族様のご令嬢だと思いますよ」
「そうでしたか、救急班の人間に伝えておきますわ」
3カラット位はあったからオークションで購入出来たとしても20億以上は
するだろう。
「みんな帰りましょう」
「そうですね」
「最後の晩餐かも知れない、今日はご馳走にしよう」
さてオークはいいとして、チャーミーチワワが3頭だけだと
良いんだが?
お読み頂きありがとうございます。




