第十四話:戻って来ちゃった
ラズベリー伯の護衛任務で王都へ向かって3日目
今までのような襲撃も無く、夜の9時前になんとか王都に到着。
「みなさんお疲れ様。これが護衛の任務完了証書でこちらが
アルマのギルド長宛の推薦状よ」
「推薦状ですか?」
「アルマに帰ってからのお楽しみにしてね」
「ありがとうございます」
「私たちも4月には帰るから、屋敷に遊びに来てね」
「では皆様、今回はご苦労様でした」
「フレディさんとエミリーさんもお気を付けて」
やっと指名依頼も終わったか。
「ヒルダ姉様、早くしないと宿に泊まれなくなります」
「そうね」
街というより都市だが、アルマの5倍以上はありそうだな
1代でここまで都市を発展させるとは優秀な王様なのかな?
「ここがエミリーさんが勧めてくれた宿ね」
「何故、木造なんだろうな?」
「そうね」
「いらっしゃいませ」
「部屋は空いていますか?」
「2部屋で宜しいですか?」
「はい」
「では一泊、小金貨1枚と銀貨4枚になります」
王都で1部屋銀貨7枚とは安いな、それがお勧めの理由か?
「お部屋は302号室と503号室になります」
何で3階と5階なんだ?
「5階からは女性専用フロアーになります」
俺だけ別ということか。
「食事は出来ますか」
「すいません。厨房の火を落としてしまってお酒しか提供できません」
「わかりました」
もう10時過ぎだからな、まさか1時間もかかるとは思わなかったぜ。
「ツインルームか」
日本みたいに1人いくらじゃなくて、1部屋いくらだから
シングルルームにする利点がないよな。
「1人部屋は検査入院以来だな」
1人は寂しいもんだな。
朝の8時か、腹が減ったし食堂に行くか。
「みんなおはよう」
「もう食事は済ませちゃったわ」
「たまにはゆっくり頂くよ」
「それじゃ、私たちは部屋へ戻るわね」
「わかった」
「すいません、お勧めをおねがいします」
「はーい」
そうだった、何も言わないとパンになってしまうんだったな。
魚の塩焼きにサラダとオーク肉の炒め物にパンとスープか。
「わりといけるな」
食事も終わったし、みんなとどこかに出かけるか?
みんなは女性専用フロアーだったな、電話のないこの世界じゃ
宿の従業員にわざわざ呼び出しをお願いしないといけないのか。
1人でいける所となると。
「本日は閲覧でしょうか?」
「閲覧以外もあるんですか?」
「はい、部分的にですが、3日間の貸し出し業務もございます」
「それではお借りしたいのですが?」
「冒険者の方のようですが、ランクはいくつですか?」
「Eランクです」
「ギルド会員の方はCランク以上か青ランク以上ないと、お貸しできません」
「商業ギルドの青ランク証なら持っていますよ」
「それなら問題ありません。2冊までで料金は保証金の金貨2枚のみです
貸し出せる本は、このフロアーの本のみになります」
割引きと同じでギルドランクは信用に直結するんだな
Aランクを目指すヒルダの気持ちもわかるな。
全部で300冊程度か、使用料を取られないのはお得かも知れない。
クラス図鑑と道具図鑑にしておくか。
「この2冊をお願いします」
「返却日を過ぎると強制買い取りになるので気をつけてくださいね」
返却ボックスがないから、昼に来ないといけないな。
お、鰻が売っているのか。
「親父さん、この樽の中の黒いのは1匹いくら」
「銀貨1枚だな」
「緑色のやつは?」
「そっちは銀貨4枚だ」
アオはクロの4倍か。
「黒い方は随分いるね」
「あまり売れなくてな」
「黒いのを20匹だと負けてくれる」
「いいぞ、小金貨1枚と銀貨5枚にしてやるぞ」
かなり売れてないらしいな、春だしな。
「それじゃ樽ごと買うよ。負けてよね」
「よし、小金貨5枚で持ってけ」
「ありがとう」
「かなり大きいぞ。持てるのか?」
「アイテムボックスがあるから」
次元倉庫に入れると樽1,ウナギ100と表示される
半額まで割り引いてくれたか、品質も中級だしアオは品質が下級だったからな
かなりお買い得だったな。
「お帰りなさい。部屋は402号室に変更になっております」
マリアが部屋を変更してくれたのか。
みんな外出中のようだな。
細工道具師はこの世界には存在しないのか
それで道具師の熟練度70の製作道具で特級でそれ以上は王級として
扱われるのか、それだと熟練度が70以上のレシピの商品は安易に売れないな
密輸品と同等の扱いをされる可能性がある。
これだと他の生産クラスの70以上のレシピも同じだろうな。
「アベル帰ってたのね」
「部屋を変えてくれたんだな。助かったよ」
「1人じゃ大変でしょう」
「どこへ行ってたんだ?」
「王都の物価を調べるために市場を見て回っていたの」
「アベル兄さん、私たちが持っているHP回復薬が1個100万イリスで
売ってたのよ。売ったら大金持ちよ」
「もし知らない人が高価な宝石を売っていたら、シータは買うのか?」
「買わないわ」
「そうね。この世界で私たちの持ち物は異質なのね」
「それで、3姉妹はどうしたんだ?」
「美容院みたいな店があったから、そこで髪を切ってくるそうよ」
「2人は切らなくて良いのか?」
「折角、長い髪を手に入れたのに、切るなんてあり得ないわ」
入院中は薬の副作用で髪が抜けてしまって、いつも帽子を被っていたからな。
「みんな帰ってきたのね。その髪似合っているわよ」
「ありがとう」
「それで、いつまで王都にいる予定なんだ?」
「そうね、テーマパークがあるわけじゃ無いし。街は大きいけどアルマで十分ね」
「依頼を受けて失敗したら、折角のAランク昇格がダメになってしまう可能性が
ありますしね」
「それじゃ帰る事で決定だな」
「そうなると馬車ね」
「ちょっと馬車屋に行って聞いて来ましょう」
馬車屋さんか? 車がないんだから当たり前なのかも知れないな。
「すいません、アルマまで行く馬車はありませんか?」
「嬢ちゃん達は運がいいな、緊急の運搬依頼が入って、今から出発する所
だったんだ。あと3人乗れるぞ」
「3人ですか」
「ヒルダ達が乗っていけよ。俺達は明日探すから」
「でも……」
「Aランクの昇格の結果を早く聞きたいんだろう」
「そうよ、私たちは村馬車で帰るわ」
「ではお言葉に甘えさせて頂きます」
「それじゃ、カンガルー亭で会おう」
「必ず戻ってきてくださいね。待ってますよ」
「行っちゃったね」
「俺達もアルマに帰るか」
「もう1時過ぎですよ。他の馬車が見つからないんじゃないの?」
「誰が馬車で帰るって言ったんだ。走って帰るんだよ」
「500キロ位あるんだよ!」
「『魔法創造』で『速力倍速』と『スタミナ3倍』と『検索君』を作りました」
「微妙ね」
「折角作るなら、速力100倍とスタミナ100倍とかにしてくれればいいのに」
「そういうチートなスキルを作ろうとすると右手が痛むんだよ
これでも頑張って作ったんだぞ」
「右手が痛むのは赤信号なんだっけ?」
「たぶんそうだな」
「他には?」
「この程度の魔法でも、1個作ると半月位は作れないみたいなんだ」
「名前負けしているスキルなのね」
他の転移者はきっと、無理をして作ったんだろうが、俺が無理をする理由は
今の所ないしな、しかし試行錯誤して作ったのにえらい言われようだな。
「それじゃ伝授して」
「どうやら『検索君』で調べた結果、スキルを得ると、何か技か魔法を
生け贄に捧げないといけないみたいなんだ」
「辞めておこうかな」
「俺達には『速力増加』があるから『速力倍速』だけでも覚えて欲しいな」
「生け贄の技か魔法ね」
「俺は『ウォーターアロー』と『ウォーターストーム』と『ウォーターブリッツ』
を生け贄にしたぞ」
「見事に水系魔法ばかりね。炎属性の敵が来たらどうするの?」
「炎鳥でわかったけど、氷系の魔法でなんとかなるさ」
「それじゃ、『ウォーターストーム』と『ウォーターブリッツ』で『検索君』
以外を伝授してもらうわ」
俺が創造するのに一番苦労した検索系のスキルの人気が悪いのは
何故なんだろう?
「『検索君』はなかなかお勧めだぞ」
「なんか名前が怪しいわ」
「よし伝授方法はキスだ」
「え――」
「ちょっとそれは……でも、どうしよう」
「それ以外だと心臓を近づけるという方法もあるぞ」
「アベル兄さん、自分に都合がいいようにお話を作っていませんか?」
「心臓なら背中合わせでも効果は同じなんじゃない」
「それならありかもですね」
「なんとか習得出来たわ」
「どのくらいの効果があるのかな?」
「俺は図書館に本を返しに行くから、30分後に東門で合流しよう」
東門は図書館の逆方向だったな。
「悪い。5分遅刻だな」
「バカにしてごめんね。このスキル凄いよ」
「やっと俺の偉大さが理解出来たか」
「私は街中で使う危険性が問題だと思うけど」
「いいじゃない。お姉ちゃん競争ね」
「【速力倍速】、【スタミナ3倍】」
◇
「凄かったね。アルマまで6時間で帰って来ちゃったよ」
「そうね。自動車よりちょっと遅いくらいね」
「軽自動車だったら、良い勝負だったよ」
俺達はまさに鳥のような速さでアルマまで戻ってきた
レベル100になったクラスのステータスは半端じゃなかったようだ。
「これならクラスを暗殺者にすれば、更にパワーアップするね」
「どうかしら」
「疲れたし、とりあえず宿に行こう」
「女将さん、戻りました」
「あら、3人だけ」
「みんなは用があるそうで、1週間くらいで帰ってきます」
「これが鍵ね」
だいぶ疲れたな、これは『スタミナ3倍』の副作用か
『魔法創造』で作った魔法にはみんな副作用ともいえる欠点があるんだよな
『速力倍速』には雨の日だと速力が一気に落ちる欠点があるしな。
あのまま寝てしまったのか、想像以上に体は疲れていたんだな。
「マリア、起きろ」
「え、もう朝なの?」
「どうも昨日使ったスキルの副作用らしい」
「私がアベルに起こされるなんてひさしぶりね」
「マリアは早起きだからな」
マリアは毎晩日記を書いているせいで、俺より寝るのが遅いのに
何故か朝は早いんだよな。
「もう朝食の時間を過ぎちゃったわね」
「こっちの世界は昼食の習慣がないからな」
「ギルドで依頼を受ける?」
「辞めておこう、昨日のスキルの副作用がどの程度の時間で
解消できるか検証しておきたい」
「3人だし、みんなが帰ってくるまでお休みにしましょう」
「そうだな」
お読み頂きありがとうございます。




