第十二話:ラズベリー伯と護衛
転移者同士の殺し合いを見て、異世界で生きる難しさを実感した
俺達だったが、気分を切り替えて冒険者ギルドで依頼をこなしていった
そして、アルマ到着から2週間でヒルダに貴族から指名依頼が入ったので
渋々受ける事になった。
「また護衛依頼を受ける羽目になるとは」
「でもヒルダはこの依頼の結果次第で、Aランクに昇格でしょう」
「Aランクになると、何か良いことでもあるのか?」
「まず受けれる依頼が増えて、ギルド割引きも大きくなるにゃ」
「ミリア、それはランクが上がれば当然の結果じゃないのか」
「Aランクになるには実力だけではなく、運も必要なんですよ」
「シータ、運が悪いと昇格できないのか?」
「はい。お姉ちゃんが実力があるのにBランク止まりだった原因は
良いパーティに出会えなかったからです」
「俺達はEランクだぞ」
「実力はAランクにも劣りませんよ」
「そんなもんか」
「そして今回の指名依頼ですね」
「貴族様からだろう」
「ギルドは中立を唄ってますが、やはり権力者に逆らうような真似は
しません。こんなチャンスは1年に1回あれば良い方です」
「そうですね。王都へ行くチャンスですし」
「王都までだと、馬車で10日以上かかるのか?」
「今回は定期便の村馬車を使うので5日以内に到着できます」
湖まで500キロはあるはずだが、そうすると冬なのに1日に100キロも
進むのか。
「随分、速い馬車なんだな」
「各街と村に馬を待機させておいて、疲れたら馬を交代させて
休憩時間を極力取らないで走らせます」
「しかし、伯爵家のご当主なら、使用人に護衛が沢山いるんじゃないのか?」
「ラズベリー伯爵家は子爵家から陞爵したばかりなので護衛も少ないそうです」
「それに伯爵夫人が直接、ヒルダ姉様を指名してくれたみたいですよ」
元々辺境伯のご令嬢みたいだし、わがままなお嬢様でなければ良いんだが。
「アベルさんは暗黒魔道士で護衛依頼を受けるんですか?」
「伯爵家を襲った相手はどうせ死刑だろう。それなら火力型の方が
良いと思ってな」
「私もそう思って暗黒魔道士にしたの」
今回は俺もマリアも暗黒魔道士だ、転移者との戦いで得た経験値で
俺は勇者、英雄、爆裂魔道士、聖騎士、時魔道士がレベル100に
マリアはそれに加えて愛魔道士と夢魔道士の7クラスがレベル100になった。
しかし俺はレベル100だったジンを魔王クラスで心臓にナイフを
突き刺したのだが、レベルは30止まりだったので、サポートクラスは魔王だ。
本当なら魔王をメインクラスにしたかったが、鑑定を持っているマリアに
見えてしまうと言われて、見ることが出来ないサポートを魔王にしている。
「前衛が神竜騎士が2人、後衛が召喚士、夢魔道士に暗黒魔道士が2人
ですと、多人数に対しての戦いでは有利ですが、強敵だと厳しいですね」
「大丈夫よ、クラスチェンジの書があるから」
「そうですよ、ヒルダ姉様」
「ミリアも聖騎士のレベル100なんだから、戦闘の幅を広げる為に
他のクラスを経験させないとな」
俺達は転移者から2人とも神様スキルの『速力増加』のスキルと『魔法創造』
で作られた『ハイファースト』の2つのスキルを手に入れたので
高速移動と詠唱時間95パーセント減少の効果のお陰で
高機動力と高火力を手に入れた魔道士となってしまっている。
「さあ、晩ご飯を食べに行こう」
「そうね。10日はカンガルー亭には戻ってこれないからね」
「宿泊代がもったいないですね」
「ミリア、その代わり部屋をキープしておいてくれる約束じゃない」
今日は鰻か、蒲焼きは正義だな。
「みなさん鰻が好きなんですよね」
「リーゼちゃん、よく覚えていてくれたね」
「今日はアイテムボックス持ちの方が船で寄ってくれたんですよ」
「リーゼちゃん、チップね」
「ありがとうございます」
リーゼちゃんは可愛いな。
「マリアさん達は時間停止で大容量のアイテムボックスをお持ちなら
王都へ行けば鰻なら沢山売ってますよ」
「そうだね」
「私たちが努力してやっと熟練度を100にしたのに、その10倍入る
アイテムボックスをお持ちとは、羨ましいです」
どうやらこちらでは時魔法の熟練度40で容量50キロで80で100キロ
熟練度100でようやく容量200キロのアイテムボックスが手に入るらしい
俺達は2トンで時間遅延だけだが、次元倉庫の事を言えないので
アイテムボックスに時間停止機能があると説明している。
「鰻は美味しいな」
「そうね」
「白焼きも美味です」
「そんなに美味しいですか?」
「パンだと、この美味しさは理解できないだろうな」
「そうね、ミリアとヒルダに暗黒魔法を使わせた位の差があるわね」
「美味しかった」
「そうだね」
「ではすぐに就寝ですね」
「ほんとに1の鐘の前に行くのか?」
「ほんとです」
「約束は2の鐘なんだろう」
「遅れたら、冒険者として終わってしまいます」
シータは細かいな、俺達は寝れるから問題ないけど。
「アベルさん、起きてください」
「どうしたんだ?」
「朝ですよ」
まだ4時38分じゃないか、俺的には、これは朝とは言わないぞ
俺達3人はCBOと同じ仕様なのでシステム時計が常に見えるので時計を
確認する必要がない、腕時計も持っているが3人共に次元倉庫の中だ。
「アベル兄さん、おはよう」
「ベスは早いな」
「私も10分前に起こされた所だよ」
シータは姉の晴れ舞台という事で熱が入っているな。
5時36分か、朝が早い異世界でもさすがに人が少ないな
病院でも冬にこんなに早く起きる人は希だったな
それに3月もまだ中旬だから寒いな。
「あら皆さんお早いのね」
「伯爵夫人、おはようございます」
この美人さんが伯爵夫人なのか?
それよりも5時55分だと、何を考えてるんだ。
「伯爵夫人、確かお約束は2の鐘だったと記憶しておりますが」
「先に来て驚かせようと思っていたのに、残念だわ」
もしかして冒険者キラーなのか?
普通は冒険者でも2時間以上前には来ないぞ。
「それで伯爵は2の鐘にいらっしゃるんでしょうか?」
「いえ、もうすぐ来るはずよ。それと私の事はアイラと呼んでね」
やはり冒険者キラーだったか。
「(天真爛漫な女性ね)」
「聞こえたわよ、あなたがマリアさんね」
「申し訳ありません」
「いいのよ。小さい頃から自然の中で遊び回ったから耳は良い方なの」
「アイラ、悪い遅れてしまったね」
「あなた、残念な事にヒルダ達は先に来ていたのよ」
「そうだったのか、噂通り優秀だね」
「ラズベリー伯、本日からよろしくお願いします」
「私の事はギルバートと呼んでくれたまえ」
時間は6時5分、夫婦揃って、冒険者キラーだったか。
「使用人の方はお二人だけですか?」
「紹介するよ、父の代から勤めてくれているフレディと
幼少の頃から妻と友人だったエミリーだ。二人とも優秀な護衛だよ」
「道中よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いします」
二十歳前の伯爵夫妻に二十五才前後の使用人が二人か
御者や執事やメイド等が大勢同行すると思っていたが、結局俺達と同じで
馬車が1台か、軽いフットワークの家だな。
だいぶ暖かくなってきたな、本当にこの辺は冬でもそんなに気温が
下がらないんだな。
「シータありがとう」
「ヒルダ姉様、どうしたんですか?」
「私だけだったら、1の鐘で宿を出ていたわ」
「そんな事ですか、若いご夫妻だと聞いていましたから。もしかしてと
思っただけです」
「でも若いご夫婦ね」
「確か伯爵様が18才で奥様が16才のはずです」
「ヒルダと同じじゃない」
「そうなんですよ」
俺達は伯爵の馬車に先行しているが、距離は僅かに10メートル弱だ
ゆっくり寝る事も出来ない。
「ねえシータ、伯爵様は優しいから狙われたりしないの?」
「ベス、辺境伯には敵が多いから、逆に狙われている可能性は高いですね」
「長女じゃないんだろう」
「もちろんです。確か私達と同じで3姉妹の末娘だったはずですよ」
「護衛の方針はどうします?」
「ヒルダとフレディさんはご夫妻から離れられないから
魔物は即殲滅、怪しいヤツには先制攻撃だな。囲まれたら俺達3人は
一定時間なら馬車並みの速さで走れるから、シータ達は逃げてくれ」
「そうね、そんな所ね」
「先制攻撃しちゃっていいの?」
「ミリア、あれでも伯爵様だ。道を塞ぐだけでも不敬罪を適用できる」
そもそも伯爵夫妻の護衛が御者を含めて8名というのが少なすぎる。
そろそろ次の村だな。
「魔物が来たよ」
「全部で30位かな」
「ルークがオークが30にオーガが6だって言ってる」
「珍しいですね。オークとオーガがグループを組むなんて」
「見えた、あれじゃないですか?」
「「【灼熱演舞】」」
「まだ確認できていませんよ」
「あ~あ、着弾しちゃった。全滅ですね」
「なんでそんなに早く詠唱出来るんですか?」
「英雄クラスのスキルの影響かな」
「止まらなくていいんですか?」
「多分、誰かの差し金だと思うぞ」
「そうね、普通は先に村を襲うわね」
村といっても、さすがに王都へ続く街道にあるだけあって
2千人程度は住んでいそうだ。
「参ったな。折角だから僕も戦闘に参加しようと思ったのに
一瞬でケリがついてしまったね」
「そうね。残念だったわ」
「姫様、それよりも夜間の警備体制はどう致しましょう?」
「ヒルダはどうしたら良いと思う」
ここでヒルダに振るか。
「そうですね、建物は3階建てですし、フレディさんとエミリーさんは
部屋の前の警備で私たちが屋内と屋外を警備致します」
「わかったわ」
警備体制には文句はつけないようで助かったな。
「さて私たちもご飯を食べにいきましょう」
「ミリア姉様、私たちは携帯食ですよ」
「どうして?」
「毒ならわかりますが、眠り薬などを混ぜられたら伯爵ご夫妻が危険です」
「つまんないわね」
「それじゃ、まだ早いがシータとベスは先に休んでくれ」
「4人体制で警備するんですか?」
「日付が変わった辺りでヒルダとミリアの2人と交代だ」
「アベルさんとマリアは?」
「俺達は移動中にゆっくりさせてもらうよ」
食事も問題ないようだったし、襲ってくるとすれば村の連中が寝てからか?
「アベル兄さん、様子はどうですか?」
「交代してきたんだな。まだ動きはないな」
「2人とも爆裂魔道士にクラス変更しているんですね」
「夜間に広域攻撃魔法を使ったら、みんな起きてしまうからな」
もう3時過ぎか、襲撃は村の中だと問題あるんだろうか?
「敵が来たみたい」
「何人だ?」
「全部で12人。北から8人で西から4人だよ」
神竜騎士を分けて休憩させて正解だったな、召喚獣の索敵能力は異常だ。
「お姉ちゃんに知らせる?」
「マリアとシータには部屋の警備を続けてもらおう
俺は8人の方を倒してくる」
「わたしは?」
「このまま階段で待機していてくれ」
ベスに暗殺まがいの事はさせられないしな。
お読み頂きありがとうございます。




