第十話:物は一人じゃ作れない
魔法鞄を作ろうとした所、図書館で新情報を発見
今はみんなでカンガルー亭の部屋で各自のクラス熟練度の確認だ。
「それでは緊急対策会議を開始します」
「アベル兄さん、頑張って」
「マリアが数えてくれ」
「わかったわ」
「注目! では生産クラスを持っている人は手を上げて」
「私とベスにヒルダみたいね」
「生産クラスの熟練度が80以上の人は?」
「私とベスね」
「そんな! 生産クラスの熟練度は70が上限のはずなのに」
「今は先へ進めるよ。あとで色々お答えします
ベス、そのクラスは?」
この異世界では常識になっている事だからな、でも仲間内なら
隠す必要はないだろう。
「錬金術師です」
「マリアは?」
「裁縫師と彫金師と鍛冶師に細工道具師ね」
マリアはかなりの数のクラスが上限に達しているはずだがCBOの
生産クラスについては戦闘クラスと違いがあり
最上位クラスのみが熟練度100であり、その下位クラスは熟練度の上限
が下がっていき、中位クラスの道具師で熟練度の上限が70だ。
「次に時魔法、聖魔法、闇魔法のいずれかの熟練度が80を超えてる人は?」
「全員みたいね」
「みんな自己申告をお願いします。シータから」
「時が95,聖が85です」
「時が100,聖が100、闇が100」
「凄い」
「聖が92、闇が100」
「聖が95」
「私はベスと同じで100よ」
これはいけるか、協力出来ればいけるはずだ。
「では発表します。ベスが錬金術師、シータが時魔道士
ミリアが聖騎士、ヒルダが暗黒魔道士で、マリアは裁縫師で俺が細工道具師」
「ご主人さま、それでクラスを変えて何をするんですか?」
「ヒルダ、ご主人様は禁止したはずだぞ」
「すいません、ア、アベル君」
学生は君ずけで呼び合うと言うし、1才しか違わないが
君ずけでもいいか。
「今の質問ですが、高性能の魔法鞄の作成に挑戦しようと思います」
「材料は?」
「あります。足りないのは強いて言葉にするなら信頼関係のみです」
「どういう事ですか?」
「ヒルダの話と本の情報によると、技術が未熟だと相方も魔法が
使えなくなるという事態に陥るそうです」
「それは怖いですね」
「これは個人によって感じ方の差がありますが、我々なら最低でも
熟練度が95あります。これで失敗するならもはや他のパーティでも
高性能の魔法鞄を作る事は不可能だろう」
「いつ作るんですか?」
「みんなが本心から納得するまで。それまでは俺とマリアとベスでレベルの
低い物を作って練習するよ」
さて3人で作るとなると、最初の技術本に載っていた方法でいくか
でもサポートクラスで補助できる所は補助するとなると
俺が時魔道士でサポートに細工道具師、マリアが裁縫師で暗黒魔道士を
つけて、ベスが錬金術師で聖魔道士をつけるか?
「みなさんお食事の時間が終わってしまいますよ」
「そうだったな、3の鐘までだったな」
「みんな行きましょう」
朝の10時まで食事を出してくれるというのは、日本に比べれば長いが
最後の客が食べ終わればそこで終了なのだから、ギリギリは失礼だ。
今日は朝から刺身か。
「みなさんからご要望のあった、赤マグロの脂身の部分です」
「美味しそう!」
「料金は銀貨2枚で結構ですよ」
「随分、安いんだな?」
「脂身の部分は人気がないんですよ」
もったいないな、大トロ信者が聞いたら買い占めが起こるな。
「今日も美味でした!」
「私たちはやはり赤マグロは赤身部分のステーキが一番ですね」
「味覚というのは子供の間に決まるっていうからな」
「それじゃあ、今日はベスとマリアの2人だけ水晶に触ってくれるか」
「例の小遣い稼ぎの水晶ですね」
ベスが5千レオンでマリアと俺が4千レオンか
俺とマリアの金額は毎回同じだな、味覚が似てるのか?
「アベルさん、今のでどの程度のお金になったんですか?」
「1万3千レオンだな。部屋代程度だよ」
「美味しい物を食べた幸福感でそれだけ稼げるなら、綺麗な服とか
買った時なら、もっと稼げそうですね」
「そうか、それは考えてなかったな」
「アベル兄さん、今日もギルドで依頼を受けますか」
「仕事はしないとな」
「アベル君、生産物を売るつもりなら商業ギルドに登録して
おかないと、クレームをつけられた時に騒動に巻き込まれるわ」
商業ギルドか、利権団体とは関わり合いになりたくないが
バカを取り締まる機関が存在しない以上、仕方ないか。
「では今日は、みんなで商業ギルドの登録に行って
その後は殲滅系の依頼を受けよう」
「登録するなら、5万イリス以上の商品をギルドに売った方がお得ですよ」
「登録だけではダメなのか?」
「商業ギルドにもランクがあって、白、黄、緑、青、赤、黒、金色と7つの
ランクがあるんですが、白は冒険者ギルドでいうHやGランクと同じで
かなり制限がかかって、入会するメリットが無いんですよ」
ギルドでステップアップチャンスとか言っていたが、誰にでも行っていた
サービスだったのか? 5万イリスの売値がつく物となると。
「ヒルダは何を売ったんだ?」
「私は安いときに市場で銀を購入して値が上がった時に登録に行きました」
転売か? 悪くないが面倒だな。
「お勧めの商品はあるか?」
「そうですね、昔は砂糖なども高値だったんですが、今は南の国から入荷する
ので上質な胡椒や希少金属に希少な魔道具辺りが揃えられれば一気に
ランクアップが可能ですね」
みんな持ってるが、あまり希少な物を売っても目立つんだよな
やはり胡椒は高値がつくんだな、こちらのステーキはソースで上手く
誤魔化しているが、やはり風味が違うからな。
「それでは胡椒と白金とクラスチェンジの書を売るか」
「お持ちなんですか?」
「持ってるよ」
◇
ここが商業ギルドか、建物は7階建てで頑丈そうだし
倉庫が4つと規模も冒険者ギルドより大きいが。
「何で建物が金色なんだ?」
「商業ギルドは設立以来、錬金術師の作った金色の塗料で外壁を
染めるのが普通ですよ」
金が有り余っていると建物で宣伝するとは趣味が悪いな。
「すいません、新規登録を5人分と平行して商品の売却を
お願いしたいのですが」
「わかりました。登録料は1人金貨3枚になりますが」
「わかっております」
「ではこの用紙にご記入下さい。売却品リストはこちらになります」
商業ギルドでは品質によって、下級、中級、上級、特級、王級、伝説級
神話級に分けられるのか、通常のギルドより繊細だな。
俺は全部書くわけにはいかないから、細工道具師と錬金術師でいいか。
「(私は裁縫師と鍛冶師にしておくわ)」
さすがマリアはよく分かってるな。
「書き終わりました」
「問題ないようですね。では売却品をトレーに置いて頂けますか?」
「みんなそれぞれ置いていってくれよ」
「わかってるわ」
「胡椒500グラムに白金1キロにクラスチェンジの書を2個です」
「みなさん同じ物をお持ち込みですか?」
「はい」
「し、しばらくお待ちください」
どうしたんだ? この程度の商品で。
また長い待ち時間にはいってしまったか、どうにもこちらの世界の
人間は時計を身につけていないせいか、時間にルーズだ。
「おまたせしました」
「査定の結果、アベルさんは青ランク、他の方は緑ランクという事に
なりました」
「何故、俺だけ青ランクなんですか?」
「クラスチェンジの書を調べた結果、制作者がアベルさんだったからです」
ギルドを舐めてたな。制作者が判るのか。
「売買金額ですが、全ての品質は特級でしたので。胡椒が3キロで
黒金貨6枚、白金が6キロで星金貨90枚、クラスチェンジの書が12個で
星金貨9枚と黒金貨6枚で合計が星金貨100枚と黒金貨2枚になります」
星金貨ってなんだ、黒金貨の上なのは確かだよな。
「アベル君、すごいです! 星金貨100枚ですよ」
「そうなのか?」
「通貨はレオンとイリスのどちらにしますか?」
「レオンでお願いします」
「こちらが金貨とギルドカードになります」
「マリア、金を渡しておくぞ」
「いえ。今回はアベルがアイテムボックスから全部出したんだし
アベルが持っていた方がいいわ」
「それじゃ半分だけもらっておこう」
「半分でも凄い金額ですよ」
ヒルダは先ほどから機嫌が良いようだな。
「【幸福貯蓄】」
『(レオン)本日の為替レート:対イリス:1、2』
大丈夫かイリス通貨は? それともレオン通過が強すぎるのか?
「とりあえず半額で星金貨60枚に黒金貨1枚と金貨2枚だ」
「星金貨という硬貨の価値は?」
「どうやら金貨100枚分らしい」
「よく偽硬貨がでないわね」
「まったくだ」
空に雲が多いな、まさかあれだけ天気が良かったのに
雨になるのか?
「雨が降りそうね」
「そうだな」
「お姉ちゃん、お金も入ったし今日はお休みにしない?」
「そうね、お休みにしようか」
「やったー!」
さて健康になったはいいが、趣味がないから暇になっても
する事がないんだよな。
「みんなはどうする?」
「わたしは図書館通いね。広いんでしょう」
「広いが、蔵書数は病院内の図書室の3倍程度だったぞ」
「それだけあれば十分よ」
図書館の利用でも保証金が金貨2枚かかったな。
「みんなに緊急時用にお金を渡しておくから
マリアに相談する暇が無い時は、そこから使ってくれ」
「幾らくれるにゃ」
ミリアは猫言葉がマイブームなのか?
「そうだな、1人1千万イリス渡しておこう」
「やったにゃー」
「多少は使ってもいいが、大きい物を買った時は夜に報告する事が条件だぞ」
ミリアは使い切ってしまいそうだが、その時はもうお小遣いもなしだな。
「これからどうしますか?」
「それじゃ、夕飯まで好きに過ごしてくれ」
雨が本当にふってきたか。
「アベル、洒落た喫茶店があるわ。あそこにはいりましょう」
「了解」
「ちょっと濡れたわね」
「やむまで雨宿りだな」
「2名様ですか?」
「はい」
「テーブル席へどうぞ」
さて何にするかな、異世界で喫茶店に入るのは初めてだな。
「ご注文はお決まりですか?」
「俺はコーヒーにするよ」
「私はレモンティーにするわ」
「かしこまりました、少々お待ちください」
「しかし、レモンティーが銀貨1枚よ。ほんとに高いわね」
「エールが一杯、大銅貨2枚だったからな」
「きっとジュースを飲みながらくつろぐ余裕がないのね」
「そうかも知れないな」
洒落た外観に丁寧な接客、楽師の演奏つきとは
かなり現代人の好みの喫茶店だな。
「それで冒険者ギルドに俺達のような奴らは居たか?」
「ああ、男が6人に女が2人のパーティだった」
「やはり8人パーティを組んでいたか」
「あたいらは5人だけど、勝てるの?」
「心配無用だ。俺の全属性攻撃魔法無効にお前の魔法創造があれば
8人揃って油断している連中なんてすぐに殺せる」
「(アベル、あちらの方々は当たりみたいね)」
「(そのようだ)」
俺も早めに8人パーティを作ろうと考えた事もあったが
8人パーティを集中的に狙う奴もいるんだな。
マリアとベスは金髪で俺は何故か紫だ、顔も名前も欧米風だ
マリアはロングの髪でベスはツインテールだし日本人
転移者だとバレる事はないだろう
危ない点と言えばパーティ名くらいだ。
「(どうするの?)」
「(俺達はベスを入れても3人だぞ)」
しかし、狙う方が5人で狙われる方が8人だ
狙われていると教えてやりたいが、8人揃えているという事は
そいつらも転移者狩りをしている可能性があるので危険だな。
「それじゃ俺達が出した依頼を受けたんだな?」
「地元の狩人を装って依頼を出しましたし、報酬に金貨50枚に
松茸50個で条件に生産クラスの熟練度が75以上と出しました」
「現地人の生産クラスの熟練度の上限が70だというのを知っているのは
余程の本好きな奴くらいだからな。松茸が好きな奴なんて日本人確定だ」
俺も食べ物を注文する時は気をつけないとな。




