表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/65

プロローグ

お読み頂ければ幸いです。



 ふと、窓の外を見ると僅かだが雪が降っている

中庭のベンチに座っている人達も何人かは首に

マフラーを巻いているのが見える。


「もう冬か? 今年も終わりなんだな」


「真一君、もう12月24日よ。冬に決まっているじゃないの!」

「真理は風情を知らないな、そこからだと外が見えないから

僻んでるんだろう?」


「そんな事ないわ! 私は毎日ちゃんと日記をつけているから

日付には敏感なのよ」


「そうなのか?」

「それにクリスマスイブを忘れるなんてあり得ないわ」


「クリスマスイブか……」

   

 

 真理が毎晩、寝る前に1時間くらいかけて日記を書いているのは知っている

その時だけは日中に使っているパソコンでは無く、何故か可愛いピンクの

日記帳にむかって熱心に書き込んでいるようだ。

   

 

 ◇


「みんな検温の時間よ」

「祥子さん、今日は早くありませんか?」

「そうだよ、いつもはお昼前じゃないですか?」


「さっき事故のニュースが入ったの、かなり大規模な事故みたいで

うちの病院にも患者さんが運ばれてくる可能性があるのよ」


 ネットで速報を流していた東京湾内での船舶事故の事か?

 フェリーと輸送船の衝突とあった、かなりの民間人が近辺の病院に

運び込まれるとテロップで流れていたし、ここは救急指定病院だからな。


 

「だからね、早めに終わらせちゃって……」

「コンプリート!」


「どうしたの絵理ちゃん?」

「つ、ついにCBOで勇者の称号を手に入れたのよ!」

「何、それ?」

「祥子さん、俺たちがやっているオンラインゲームの略称ですよ」


    

CBOクラスバトルオンライン、俺が入院前の5年前に初めて

3年前に入院した時に既に入院していた真理と絵理の姉妹に始めさせた

オンラインゲームだ。



「絵理はやっと勇者になったのね!」

「あと3ヶ月もあれば、お姉ちゃんみたいに英雄の称号を手に

いれてみせるわ」

「3ヶ月か……」


 真理が言いたいのは、俺たちが3ヶ月後にゲームが出来る力が残って

いるかという自分への問いかけに聞こえる。


 俺たちが同室なのは家族だからという訳ではない

すでに3人とも癌の症状は末期に入り、終末医療に入っているからだ。


「絵理なら俺と同じように魔王にだってなれるさ」

「え――、魔王はちょっと嫌」


「魔王と言っても、魔道士の頂点という意味あいが強いんだけどな」

「だって、魔王の称号を手に入れるには生産スキルも上限まで上げないと

いけないんでしょう?」


「確かに、戦闘メインの絵理ちゃんにはちょっときついか?」

     

 CBOは各クラスにレベルの他に熟練度というパラメーターが存在しており

度重なるアップデートの結果、熟練度の上限は100となり

慣れていないと熟練度が70からは1つ上げるだけでも

1週間はかかるという鬼畜仕様だ。


 クラスの数は200以上存在しており、それぞれの試練を乗り越えると

上位クラスに転職できるシステムだ。

  

 最上位クラスは、戦闘クラスが15、生産クラスが8の合計23クラスが

存在し、その熟練度を上げきった時に得られる称号が魔王だ

俺も5年の経験と病院暮らしという

環境がなければ魔王の称号には届かなかっただろう。

             

「絵理、残りの3つのクラスは何?」

「夢魔道士と爆裂魔道士と愛魔道士なの……」


「また面倒なのが残ったわね。3年弱で12のクラスが上限に達しただけでも

十分だと思うわ」

  

「お姉ちゃんは19クラスも制覇したんでしょう?」

「やり始めた頃に睡眠時間を削ってプレイしたからね。でももうお終いね」

      

 戦闘クラスを12クラス制覇で勇者、15クラス制覇で英雄だ

真理も人生最後の記念と言って頑張っていたが、俺たちにはもう時間がない。



「はい、みんなおしゃべりはそこまで。体温計を出して頂戴」

「「「はーい」」」


「真理ちゃんと絵理ちゃんは38度を超えているわね。今日は安静にしていてね」

     

「「わかりました」」


 二人は熱があったのか?

 俺も一昨日まで熱が39度近くあったから辛さはわかる。

 

 ◇


もう消灯時間か。

 午後の2時過ぎにどうやら事故の怪我人が病院に運ばれてきたようで

午後は医師は勿論、看護師さんも誰も来なかった。

 俺の両親は入院費用を稼ぐためにクリスマスイブも仕事だ

弟は絵理ちゃんと同じ12才、来年は私立の中学に通うらしい

自宅で最後の追い込みをかけている頃だろう。

 

 俺の入院費用がなくなれば、中学の学費程度なんとでもなるだろう

弟は健康で優しい、良い人生を送ってもらいたい。


 

  

「真理、日記を書くなら部屋を明るくして良いぞ?」

  

こんな非常灯の光しか無い部屋で日記を抱きしめて何をしてるんだ?

 

「まさか!」


 俺は老人のように痩せ細った足を引きずって真理のベッドへ近寄って体を

揺すったが反応が無い、すぐにナースコールのボタンを押したが返事もない。


「そうだ、絵理ちゃんは?」

    

 絵理ちゃんは凄い熱だが、意識はあるようだ

しかし、絵理ちゃんのベッドに備え付けのナースコールのボタンを押しても

反応がない、まさか看護師が出払っているのか?


「とにかく看護師の人を呼ばないと」


 廊下に出て、ナースステーションを目指す

しかし誰もいない、仕方が無いので階段を降りて4階に向かう。


「階段を一人で使うなんて2年ぶり位か?」


 遠回りでもエレベーターを使うべきだった、冷静さを完全に失っていた

俺の足は階段を3段降りただけで悲鳴を上げて痙攣を起こしてしまった

そしてそのまま階段を転げ落ちる。


  

 意識がもうろうとする、こんな所で死ぬのか?

 

「最後に母さんのおせち料理が食べたかったな」


 

 そして俺は意識を失った。

 

 ◇



「姫様、ご指示通り、極上の魂の持ち主を連れてきました」

「ミケありがとう、これで守護神幹部研修のノルマも達成できるわ」

「これで姫様もガイア様の元にお戻りになれますね」

「最初から日本という地域を担当すれば苦労せずに済んだのに!」


「しかし、良かったんですか? 医療班の人間を眠らせてしまうような

干渉をしてしまって」

「問題ないわ、連れてくる順番さえ間違わなければ」



 俺は先ほど意識が戻って、耳を澄まして会話だけを聞いているが

体は痛くないし、魂と言っていたので、あのまま死んだんだろう?


 しかし、看護師が居なかったのは、この姫様というやつの仕業だったのか

少し苛つくが、死んだら後悔しないと誓っていたし

苦しみも無く死ねたのなら、これもありかなと思う。



「極上の魂が3に、上級の魂が150ね、極上は上級の30倍だから

合計で上級の魂が240で200のノルマ達成だわ」        

      

「おめでとうございます」

「ミケありがとう、10日で上級の魂200は無理かと思ったけど

最後に一気に集まったわね」

 

「では報告書を飛ばして宜しいでしょうか?」

「ええ、構わないわ」


 

         

「姫様……」

「どうしたの?」

「ホストに接続した所、姫様の担当地域の本日の魂の総量は210個

と言われました」


「私が30人も多く連れてきてしまったと言うの?」

「それは無いかと」


「そうすると極上の人間が原因? 死亡時間は、絵理11時47分

真理11時57分、真一11時58分で良いのよね?」


「姫様申し上げにくいのですが、ホストとの照合では

真理という少女が亡くなるのは0時1分となっております」


                    

「ミケ!」

「ご理解頂けたでしょうか?」


「ま、さ、か。私が間違ったというの?」

      

「ご愁傷さまです」


「あり得ないわ……」


 誤字、脱字はチェックしておりますが

ございましたら申し訳ありません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ