[二 一枚公平] 全てお任せ下さい
午後からは予定があるが、午前中は時間があった。溜まっていた書類作業を済ませ、事務や課長に提出する。
開発の遅れているプロジェクトがあったので、再計画の話を進めたりもした。
「ロールクエスト2に出店したい、ですか?」
十一時を過ぎた頃、取引先の電気メーカーから電話があった。最初、何を言われているか、理解が追いつかなかった。
「ええ、そうなんですよ」
「それでしたら、ドゥエッジ社の方に、ご連絡を入れて頂いた方が」
うちに連絡を入れられても困る。ドゥエッジ社の窓口をしているわけではない。
「それはそれで、はい、そうなんですが。ちょっと複雑でして」
「何か出店できるものが、あるんですか?」
そもそも家電メーカーだ。掃除機とか空気洗浄機でも売るのだろうか。プレイヤーに使ってもらうのか。それをドゥエッジ社が許容しているかどうかは、公平は知らない。
「実はですね、うちじゃなくて、専務のお知り合いが取引をしている靴屋でして」
「靴ですか」
ちょっと待て。専務だと。
役職に反応して変な声が出そうになったが、知人が取引している、ということは、最低でも二つは離れた関係か。
公平は、ひどくどうでもいい話な気がしてきた。
「優勝パーティのリーダーに、商品を使って頂きたいって話でして」
「はあ」
面倒な話の予感がする。
「リーダーの美杉長政さんでしたっけ。一枚さん、ご存知ですよね?」
「そう、ですね」
「それは良かったです。ちょっとですね。まぁまぁ、はっきり申し上げるとですね、スポンサー提携を結びたい、という話でして。要は、その橋渡しを、一枚さんにお願いできないかなって話なんですよ」
いまいち、自社の得が見えない話である。ロールクエスト1では、スポンサー提携を、長政が嫌がっていたことも知っている。話す前から無理な話なのだ。
骨折り損のくたびれ儲けになる率が高い。断りたい。
どうせその専務に、良い顔をしたいだけだろう。やるわけねーだろボケー、という気持ちをオブラートに包んで伝えたい。
「実はですね、彼のことを存じては、いなくはないのですが、急場凌ぎの関係でしたので、ビジネス的には、すれ違っただけの関係みたいなものなんですよね……」
なんとか遠回しにぐるっと回して、ああそういうことね、と諦めて頂きたい。
「さすが一枚さん。考え方が他の人とは違ってユニークですね。その発想が、その発想がですよ。パーティを助けたんでしょうね。いやまぁ、言わば大名を密接に補佐する軍師のようなものですよね?」
どういう論理展開だ。意味がわからない。
「いや、あの、違うんですよ。有能な人というのは、実は他にいまして、僕はなんていうんですかね。くじ引き的な感じで、ちょっと意見的なことを、天に向かってつぶやく機会があっただけなんですよ。なので、えー、偶発的に発生した事象なんですよ」
いよいよもって、自分でも意味がわからない。
「なるほどー。偶然を類稀な才能で活かされた、と。素晴らしいですね。しかも、天に向かってつぶやけば優勝。これはもう、一枚さんだからこその神業で、それこそリーダーのご意見番として、これ以上ないくらい、ふさわしい関係を築かれていると。そういうことですね?」
なんと言い返しても、リーダーとの関係に紐づけてくる。意地でも引き受けさせる気のようだ。
困った。課長を通してもらおうか、と公平は考え始めていた。課長から訊かれた時に断れば、一言で終わる。課長が断るのに苦労すればいい。
よし、そうしよう。
「一枚さん、次の発注で融通を利かせますので。良い案件もあるんですよ」
「全てお任せ下さい。これから彼と話してきます」
引き受けた。
さらに許容できる条件を詰め、結果をお待ち下さい、という運びになった。
さっそく美杉長政に連絡を入れると、程なくして返事があった。学校帰りなら構わないとのことだった。
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