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[六 美杉長政] 脅迫状じゃなかった

 怪我がまだ治ってなかった。顔は腫れているし、アザも残っている。

 学校では、喧嘩をしたとは言いづらく、階段から転げ落ちた、と言った。こんな言い訳を真に受ける大人がいるわけなかった。つまり、察してくれ、の意である。


 この怪我では、ロールミステリーに出ても、見苦しさがある。仕方なく、渋々、参加を辞退した。

 冒険ものではない。だから、出なくても構わない。そう納得した。


 謎の暴行を受けたあの日を、長政はしばしば思い起こしていた。どう思い出そうとしても、知人は一人もいなかった。接点があったと思えない。


 怪我が治り切る前に、あの日の現場に出かけていった。あの日の男達は、あの辺りに住んでいるのだろうと思えたからだ。

 周辺を歩き、まず一人見つけた。顔は全員覚えている。

 見つけた一人を路地裏へ連れ込み、減らず口を叩かなくなるまで殴った。一人ずつ相手にするなら怖くはない。


「なぜ、俺らを狙った?」

「こんなことをして、タダで済むと思うなよ」

「好きにしろよ。そんときゃ、また来るけどな。お前の住所も見たし」


 目先には、原付免許証が落ちていた。長政が奪い取ったものである。


「くそっ」

「答えろ。なぜ、俺らを狙った?」

「知らねえよ。俺は何も知らない」


 指を掴み、手の甲側に曲げていった。


「俺は、よくやりすぎちまう。良い話を聞けなかった時だ」


 男の悲鳴が響いた。思った時には、やってしまっていたようだ。折れる一歩手前。


「本当だよ。もう勘弁してくれ。金をもらっただけなんだ」


 殴打し、同じことを再度訊いた。答えは同じだった。


 他の奴の居場所も訊き、一人か二人ずつ、同様に始末をつけていった。

 二人が相手の時は、即座に一人をノックアウトする。それで一人だけを相手にすることが出来る。


 金を払った九人目がいる。それが判明したが、会う方法を誰も知らない。前金で依頼されたらしく、手紙での脅迫状のことも知らないようだった。

 たどる糸が切れている。そんな感じだった。

 大元を断っていないので、また同じことが続く可能性はあった。それでも、もうどうしようもない。これ以上、どうにかする手段が思いつかなかった。


 解決を諦めた。

 とりあえず、八人への報復はしたので、多少の溜飲は下がったと思えた。


 数日後、ロールミステリーが始まった。長政の知人では、公平、遊々、羽瑠が参加している。

 ロールクエスト同様に、参加者の視界を自らの視界として、視聴することが可能だった。アイシステムがあれば、それが出来る。だから、三人の視界を中心に、長政は観ていた。他に知人は参加していない。


 観ていると、楽しそうだなあ、といった羨ましさがある。

 公平はただの乗船客で、やる気なく、最後まで傍観者の一人だった。

 羽瑠は被害者で、早々に殺害されている。

 ひどかったのは遊々で、犯人役のひとりだったが、犯行を犯す前に見つかり、何も出来ずにお縄を頂戴していた。


 自分だったら。考えようとしたが、思考を途中でやめた。細かく考えるのは得手ではない。ミステリーゲームや、ミステリー小説を読むこともなかった。

 しかし、そんな長政でも、ロールミステリーは、なかなか面白みがあった。視聴者コメントを確認する限り、盛り上がってもいるようだ。


 ロールミステリーが終わってからも、のんびりした日々が続いた。部活は辞めてしまったので、放課後も暇である。怪我がいくらか痛々しく、不要な外出も控えていた。


 トレーニングは続けていた。朝か夜にランニングをし、筋力トレーニングや柔軟体操をこなす。時には、サッカーボールを蹴ることもある。壁に向けてボールを蹴り、跳ね返ってきたボールをダイレクトで蹴り返したり、片手で受け止めたりする。

 サッカー部を辞めても、運動能力が落ちているとは思えなかった。個人トレーニングの効果が活きている。


 あれから数日。登校しても、学校生活に変わりはなかった。新たな脅迫状は届かないし、羽瑠にも特に異変はない。


 さらに数日経過したある日、登校すると、下駄箱に手紙が入っていた。

 構えるような気持ちで、内容を読んだ。


『初めて出会ったその日から、ずっと美杉君を目で追っていました。今では、好きで好きで仕方がありません。付き合って欲しいです。是非、お返事を聞かせて下さい。放課後、屋上で待っています。都合が悪かったら、明日でも、明後日でも待っています』


 斬新な文面の脅迫状だ。意訳してみよう。

 ハナから気に食わなかったから、いつかシメてやろうと思っていた。その我慢も、もう限界だ。放課後、屋上でど突き合ってやるから、なんとか都合をつけろやコノヤロウ。都合がつくまで、明日も明後日も待ち続けるからなコノヤロウ。

 こんなところだろうか。


 脅迫ではないな。果たし状といった方がしっくりくる。女の子が書いたかのような、柔らかな筆跡を見て、長政は思った。


 放課後、屋上に行くと、女の子が待っていた。上履きの色からして同学年だろうが、名前は知らなかった。


「美杉君、来てくれてありがとう」

「お、おう」


 ど突き合いが出来るような風体に見えないなあ。


「あの、手紙でも書きましたけど、好きです。付き合って下さい」


 意訳すると、気に食わねえ、だが、どうも意訳する必要はなさそうだ。


「わかった」


 こうして、長政に彼女が出来た。


 その日の夜、眠い目をこすっていたら、嬉しいメールが届いた。

 ロールクエスト2参加のご依頼。

 公式のウェブページでも、情報が公開されていた。間違いなくロールクエスト2が始動している。

 覚醒した頭で、情報を漁った。

 ロールクエスト1のあとのストーリーが、次作の世界では展開されるようだ。軸となるそのストーリーは、ワールドBのものだった。つまり、長政がクリアした世界だ。


 燃えてきた。準備に頭を巡らせる。

 値は張ったが、プロの剣術家の視界映像を購入した。これがあれば、プロの剣術家の視界で学ぶことができる。間合いや刃筋、軌道など、勉強になる。


 電話がかかってきた。アイシステムは装用していたので、即座に受話できる。

 恋人からの架電だった。


「別れよう。じゃ」


 で、盾の使い方だけは、なかなか良い教材が見つからなかった。

 盾を使用している競技がなく、特殊部隊くらいしか使っていない。その特殊部隊も、冒険で使うような盾を使用してはいない。アイシステムで出来る家庭用ゲームで、それらしいゲームがあるくらいだった。それとて、ゲームらしさが優先されており、リアルさが違う。

 もういっそ、盾を使わない武器を考えてみるべきか。

 考えが巡り始め、落ち着かなかった。止まっていた血が、突然巡り始めた。そんな気がしたほどだ。


 何かしていたい。そうでないと落ち着かない。

 剣術の視界を見ながら、懸命に腕の動きを真似し続けた。




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