[十三 美杉長政] っしゃー
パーティの元に戻った。羽瑠もトースケも疲れて座り込んで脱力していたが、もう問題はなかった。追撃は遊々達に任せてしまえばいい。
羽瑠にトースケ、それとモーンを労った。よく頑張ったと思う。
「もう、歌わなくていいよね?」
羽瑠に頷きを返した。わりと平静な表情をしている。
「今回は泣いてないんだな」
「怖いは怖いけど、前回と比べたら……ねえ?」
羽瑠が言わんとしていることは、なんとなくわかった。ドラゴン戦と比べたら、安全に感じただろう。なんせ地上で歌っただけだ。上空で歌うわけではない。落ちることもないし、どでかいドラゴンに食われるでもない。迫りくるオークは、むさい観客とでも思えばいいのだ。
平原に取り残されたまま、しばらく休んでいると、冒険者が何組かやってきた。長政の顔を見て、なにかビビったようだった。きっと、歌舞伎顔にビビったに違いない。
「あれ、戦はどうしたの?」
「もう終わった」
「おっそいのよ、来るのが。ま、あんたら、いらなかったけれどね」
遠くには、戻ってくる遊々と公平が見えた。向こうのま行姉妹は、五人全員生き残っているようだ。
ふいにモンが出現した。心なしか、表情が暗い。
「長政、ゲームがクリアとなりました。ネバギブ城へ凱旋願います」
視界の先には、喜んでいるパーティがいた。最後の実績を獲得したようだ。その様子を、深い溜息をつきながら、羽瑠が見つめていた。メイド姿の羽瑠は、裕福層を羨む下働きのようにも見えた。
羽瑠の背中を叩いた。
「帰っぞ」
城下町まで、揃って帰ると、死んだま行姉妹が待っていた。モーンが駆け寄っている。長政は拳を突き合わせて、それぞれを労った。
城下町は、凱旋歓迎のムードだった。
優勝ではないが、クリアはした。やりきったという充足感はある。馬車に揺られながら城に向かい、立ち並ぶ人々に手を振った。
トースケと遊々は、笑顔を見せていた。それに対して、羽瑠は暗い表情を続けている。公平は、微笑といった感じだった。
論功行賞は、前回と同じように行われた。活躍に応じて表彰される会である。
実績値が三十ポイントの長政達にとっては、見ているだけの集会である。とはいえ、長政達は四位のようだった。理由は、生き残った他のパーティが、三パーティしかいなかったからだ。
最初、五百人はいたはずなので、六十パーティ以上はいたとも考えられる。随分とリタイアしたものだ。そんな中で生きていた。自分を褒めてもいい。そう思えた。
論功行賞は、滞りなく終わった。
E&E付近に到着し、解散の時がきた。
「みんな、おつかれ」
仲間を見回し、少しだけ、目を細めた。自然と頬が緩んでしまう。若干一名を除き、清々しさに満ちていた。ま行姉妹の十人もだ。
ゲームと関係ないところで、色々と問題はあった。でも、終わってみれば、見知ったメンバーに支えられていた。そのメンバーにトースケが加わっただけだ。そのトースケも、前回の顔見知りである。
良い仲間に恵まれた。
「ん~、今回も楽しかったね~」
「ひどい一日だったわ」
「確かに、疲れる一日でしたね」
「はあ……」
反応はそれぞれだった。でも、顔を見なくとも、誰が何を言ったか分かる。
「よし、最後にカメラ役をやってやる。視聴者は、俺のとこ来いよ。加入順にいくぞ」
視聴者数は、いっきに二百万を越えた。それを伝えると、トースケが髪型を整え始めた。整えても変わってない。
「んじゃ、トースケから。仲間になってくれて、助かったよ」
とびっきりの笑顔で、トースケはポージングをした。胸を強調するような姿勢で、グラビアアイドルのようにも見える。
何か勘違いしてないか。いや、いいのか。視聴者向けだ。アイドルって大変なんだなー。営業スマイルすげーよ。営業スマイルって確信できるのが、駄目なところだけどな。
「うふ。あたしも美杉君と一緒できて、とっても嬉しかったわ。また、よろしくね。あと、観てくれたみんな、愛してるわ」
そう言って、投げキスを飛ばしてきた。
こいつ、キャラまで作り直しやがった。手遅れなんだよ。
『事務所仕事しろ』
『あざとい』
『最後かっこよかったのになあ』
そうなるよなあ、と苦笑いするしかない。
最後のトースケの格好良さを称える声は、意外に多かった。
「次、羽瑠。ありがとな。なんやかんや仕事してたな」
「うん、頑張ったよ。足手まといだけじゃ悲しいから。優勝も出来たら、もっとよかったんだけどね。応援してくれた皆さん、ありがとうございました」
羽瑠は、手を前で組み、メイドらしいお辞儀をした。気落ちした様子は隠している。
『羽瑠殿、お疲れ様でござる』
『結構活躍してたよね』
『もげることもなく』
一切戦わないが、なんやかんやで仕事をしていた。前回より落ち着いていたし、貢献もしていた。
「んで、遊々。なんつーか、今回は派手だったなー」
イメージ低下で苦境に立たされていた長政のパーティに、途中から入ってきた。思惑はなく、ただ単に、ゲームを楽しみたいがゆえだった。そこに外連はなく、それがまた遊々らしい。
「ん、今回もメイカーに感謝だよ。また、創ってくれるといいなあ。だって、楽しかったでしょ? ね?」
視聴者を迎えるように、両手を広げる遊々。ご満悦の様子は伺える。
『ユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユ』
『かわいい』
『おっぱい揉みたい。俺の』
『ユユユユ……ってなんか移りそうだわ』
バニー姿がよく目立つんだよなあ。歌舞伎とどっちが目立っているかなあ。
「公平。最後、来てくれて助かったよ」
勢いに水を指すこと、にわか雨の如し。そのイメージは、長政の中で定着していた。とはいえ、突っ走りがちな長政にとっては、良いブレーキだ。
「最後だけで、申し訳ない気持ちです。特に役にも立っていませんでしたしね。最後のご挨拶として、ゲイラクシステムを、よろしくお願いします」
公平が頭を下げる。
戦闘で役立っていたとは言えないが、勝ち目を見出だせたのは、公平のおかげだった。それに、剣と盾がなければ、もっと苦戦していたはずだ。
『他の人の視界にはない面白さがあった』
『コメも落ち着いてて良かったよね』
『休みの日まで、お疲れ様でした』
人によって、ついてる視聴者層も違いがある。長政としては、落ち着いた視聴者がついている公平が羨ましかった。
「そして、ま行姉妹。今回もありがとな」
十人、並んでいる。ヤー、と応答があるだけだが、皆がにこやかにしており、満足そうにも見えた。
「あとは、モン」
呼ぶと、モンが姿を現した。
「はい、長政」
「今回もサポートをありがとう」
「恐縮です。皆様のサポートが、わたしの役目です」
視聴者へのコメントがないあたり、いかにもモンらしい、という気がした。
「モン、映像コピーを出してくれ」
「はい、映像コピーをお出しします」
眼の前に、自分自身が現れた。その周囲に、みんなが集まってきたので、集合写真みたいになった。
「で、最後に俺。なんか始まる前から色々あったけれど、冒険は出来たし、充実した時間が楽しかった。最後、盛り上げてくれた視聴者のツレ共も、ありがとな」
『いえーい』
『傾いたまま、綺麗なことを言わないでくれよ』
『最後だけとか、マジないわー』
『ユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユユ』
『最後しか観てないけど、面白かったよ』
『お礼はもうやめときやー』
『長政様ーーー』
ノイアーな。
「じゃ、終わろう。解散だ。っしゃーうらああああ」
『っしゃーうらーーーーー』
「まったね~」
「これからも観てよね」
「さようなら」
「お疲れ様です」
E&Eに一人ずつ消えていく。
長政は最後、ライブカメラの位置をスキルで確認し、拳を掲げた。
「じゃーな」
それから胸を張り、E&Eに入っていった。
こうして、長政の二回目の冒険は終わった。
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