表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/60

[二三 博雄道三] バカ者が

「常磐君。運用本部へ行く」

「かしこまりました」


 途中ではあったが、部屋を出た。

 通路を歩きながら考えた。なぜ、こうなったのか。


「仕様書を出せるかね?」

「共有いたします。お手は肩にどうぞ」


 視線を合わせ、空間を共有すると、仕様書が視界に広がった。

 道三の片手は、常磐の肩に置いた。仕様書を見ながら歩いているので、何かに掴まっていないと、前方不注意となり歩けない。

 空いた手で空間の映像を操作し、確認していく。相対表示をしていれば、道三の移動に合わせて、空間の映像はついてくるのだ。


「書いてないな。シナリオ設計か?」

「お出しします」


 視界に書面が次々と広がっていくと、ありそうな雰囲気だった。

 メインシナリオ。三日目。あった。

 滅亡とはっきり書かれてはいないが、モンスター軍の猛攻に耐えられず、民が逃げ出すことになっていた。

 モンスター軍を追い返すと認識していたが、実体は違った。


 結果まで確認しなかった自分が悪い。そうなる。だが、社長である自分が、隅から隅まで確認するというのも、情けない話だった。なんのために中間管理職を置いているのか。役職を置いているのか。


「知っていたのか、常磐君」

「いえ、詳細は存じませんでした」

「なんにせよ、知っておくべきことだった。助かるかどうかは、わからんが」


 どうしたものか。


「社長」


 運用本部の扉を開け、中の様子を見ると、状況確認会は続いていた。道三に気がついた者が反応している。

 ロールクエスト1時と、ほぼ同じ体制にしているので、人がそこそこいる。出入りもある。そして、放送業社もいる。


「状況確認会の続きを、二つ隣の会議室でおこなう。来たまえ。平手君、ここは頼んだぞ」

「はっ」


 今回は、本部の統括を運用部課長の平手に任せていた。能力のある男だった。


 移動後、常磐を室外で待機させようとしたが、最初から入ってくる気がなかったようで、振り返ると頭を下げていた。


 道三を含め、五人。他には誰もいない。

 立ったまま円をつくるように向き合う。座って落ち着くつもりはなかった。いつものことで、時間をかけるつもりがなければ、立ち会議の形式を取る。


「今回のテイル2で、ネバギブ王国が滅亡すると聞いたが、知っている者は?」

「滅亡というわけでは。クエスト2と3の間で、そのような雰囲気に」

「バカ者が!」


 開発部長の言葉を遮るように、道三は怒鳴った。

 皆一様に驚き、身体を硬くしている。それも仕方なかった。

 道三が怒鳴ることは珍しい。いくら立場が上でも、部下に対しては相応の態度と礼節が必要と、道三は考えている。だから、普段は怒りを感じようとも、顔にも出さないよう努める。

 しかし、今回は別だった。台無しにする気か。そういう怒りが湧いている。


「冒険者の苦労は無駄だった、とでも歴史に刻むつもりか?」


 やり方次第では、王国が滅亡する展開もありだろう。しかしロールクエスト2のクライマックスに相当する部分だ。悲劇にする方針でもない。プレイヤーや視聴者が歓迎できる結果でもない。


「ですが、延びるためには、一度膝をかがませる必要が」

「黙れ」


 間違いなく、ここにいる面々が考えた内容ではない。それは分かっていた。しかし、承認したはずだ。知っていたはずなのに問題提議しなかった。それは過ちだ、と道三は思っていた。今の今まで、気が付かなかった道三の過ちでもある。


「普通の家庭用ゲームではないのだぞ。家庭用ゲームならば、そこから話を広げることも、とり得る展開の一つだろう。だが、ロールクエストは、そこで一度終わるのだ。プレイヤーと、作品対一の関係でもない。視聴者がいる。その視聴者の視点になってみろ。終わった時点が滅亡では、次に何を期待すればいいんだ? 感想で、残念ながら滅亡してしまいましたが、次に期待したいと思います、とでも言わせるつもりか? スポンサーに、こっからよくなる、とでも言い訳するのか? メディアには? 株主には? なんとする!」


 室内を静寂が支配した。それぞれの緊張を感じた。室外からすら、緊張が漂ってきている気がした。


「も、申し訳ありません、社長」

「何のために役職を掲げているか、よく考えたまえ」


 今怒鳴ったところで、何も解決はしない。それでも、怒ってみせることは必要だ。笑って済ませては、危機感とならない。


 道三は壁と向き合った。その壁に頭突きをする。二度。三度。

 なんて自分は馬鹿だったのか。悔やんでも悔やみきれない。忙しさにかまけて、手を抜いてしまったに等しい。

 怒鳴られるべきは自分だ。もっと必死になるべきだった。


「しゃ、社長」


 血の味がした。額から出血し垂れてきたのだ。その額は、ジンジンとした痛みを訴えていた。


「立て直すぞ。明日の開場時間までがリミットだ」

「はっ」


 問題は、どう取り繕うか、だった。時間のかかる抜本的な対応は出来ない。

 モンスター軍が進軍してくる。ここまでは既定路線にする。プログラムに多く組み込んでいるであろう、冒険者による拠点襲撃も、イベントとして残す。

 また隣国からの援軍か。何度もやりたい方法ではない。しかし、クエスト1で経験済みなので、手慣れている対策ではあった。


「最悪の状況に備えて、隣国の援軍だけは、また用意しておこう。出来るか?」

「やります」

「それから冒険者による拠点の襲撃は、成功する見込みか?」

「三日目まで生存している冒険者であれば、まず間違いなく生き残ります」


 簡単すぎる問題がありそうだ。今はそれを活かすしかない。


「冒険者の砦襲撃成功後、戦場に急行するシナリオにしよう。それまでは、王国軍に耐えさせよ。いいか、王国軍を強化させる、などという安直な方法を採るなよ。工夫して潰れさせない。そういうアイデアだ。視聴者に観られていることを、念頭から外してはならんぞ」

「はっ」

「よし、なんとか乗り切ろう」


 一人ひとり、背中を叩き、室外に送り出した。最後に自分が退室すると、常磐から額に絆創膏を貼られた。




 お読み頂き、ありがとうございます。

 ブックマークすることで、いつでもお読み頂けます。

 是非、お願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ