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[二二 博雄道三] 立ち上げ説明会

 最近の忙しさは、尋常でなかった。

 元々、詰めたスケジュールを計画していたが、割り込みスケジュールが多い。秘書なしでは、時間管理を出来る気がしなかった。


「社長。このあと、第一会議室で、開発部の会議がございます」


 今ではすっかり、常磐頼りになってしまっていた。もう出席も代わりにしてくれたらいいのではないか、と思うことすらある。

 歩きながら、常磐と話す。


「なんの会議だったか」

「ロールクエスト三作目の、シナリオの立ち上げ説明会です」


 なぜ、ロールクエスト2の最中にやるのか。疑問に思ったが、計画済みのスケジュールから逆算すると、やむを得なかったのだろう、とも想像できた。


「いや待て。今動いているクエスト2の状況確認会があっただろう?」


 ロールクエスト1の時と比べて、ある程度状況は落ち着いている。それでも、あくまで比べたら、である。ロールクエスト1は、問題が多すぎた。

 いつまでも社長が、現場指揮をしているわけにもいかない。出来るだけ任せようと意識しているが、心配はしていた。やっと走り出した夢の途上で、失敗したくはない。


「はい、ございます」

「では、状況確認会に出たい。問題が起きていないか、不安なのだよ」


 常磐にしては珍しく、道三の優先順位を読み違えている。


「立ち上げ説明会に、お出になられた方が、よろしいかと存じます」


 意見してくるのも珍しい。

 歩みを止め、常磐を見据えた。常磐も向かい合ってくる。

 なぜか、とは訊かなかった。ゆらぎのない視線。なにか確信があるのか。


 状況確認会は、あとで話を聞いてもいい。そう思うことにした。


「わかった。そうしよう」


 常磐がお辞儀をした。その肩に軽く叩き、再び移動を始める。

 会議室に入ると、驚いた顔をされた。来るはずの人物ではない。そういう顔だった。あとから入ってくる社員も、目を丸くしている。


 常磐と共に座り、会議の開始を待った。

 室内を見回すと、一般社員が多い。十人くらいか。現場にいるはずの開発部長は当然いないし、課長もいないようだ。主任はいる。会社の将来を担う若手開発者が中心。そんな感じだ。わりとありふれた会議の参加者だろう。そこに社長と秘書が混ざっている。緊張する空気が流れているとは思った。


 社長がなぜいるのか、とは訊かれなかった。道三が神出鬼没なのは、周知の事実である。


「は、始めてよろしいでしょうか、社長」

「始めたまえ」


 会議が始まった。据え置き型のアイシステムの映像を、皆が見る形で進行された。アジェンダが表示されている。


 ロールクエスト3のシナリオは、道三はまだ何も聞いていない。今回のような会議やレビューを重ね、承認の通ったものが、いずれ道三に回されてくる。

 連続シナリオなので、当然ロールクエスト2の世界の続きのはずだ。軸となるメインシナリオの概要が決まれば、開発や運用の方針も決まり、色々なものが動き始めることになる。通常とは異なる開発となっていた。


 現在開催中のロールクエスト2では、クエスト1の反省を多く取り込んでいた。失敗があるのは、仕方がなかった。これまで作ってきた普通のゲームではなく、不慣れなエンターテインメント性も取り込もうとしているのだ。誰もが手探りをしている。


 一つの課題として、多くのプレイヤーをクリアまで導けない、というものがあった。

 厳密には、クリア出来ずとも良い。そこにドラマがあり、プレイヤーと視聴者が楽しめるのならば、だ。それは難しい。あえて狙う必要もない。だから、現実的な落とし所は、ゲームクリアとなる。ゲームクリアという結果があれば、当然物語は区切りがついているので、消化不良とはならず、一定以上の品質が担保されるはずだった。

 とはいえ、クリアさせるために、下手に難易度を落とすわけにもいかない。退屈になるだけだからだ。バランスを取ることは、開発者が常に持つ至上命題だった。


 道三は、ロールクエスト2のメインシナリオを思い描いた。

 ロールクエスト2は、二日目の終わりから、メインシナリオが動き出す。そして三日目で、必ず終わる。そう決まっていた。提携している放送先との関係で、四日目以降に延びることが許されなかったからだ。

 内容としては、兵が出払っているネバギブ王国へ、モンスターの軍団が攻めてくる、というものだ。王国が猛攻に耐える間に、敵の拠点を冒険者叩く。そういう流れだった。細かい肉付け次第では、ドラマのあるストーリーとなる。

 これから会議するロールクエスト3の内容は、その続きということになる。


 会議は進んでいる。

 進行役には、明らかな緊張が見て取れた。見知った社員で、まだ数年の経歴だったはずだ。

 黙って聞き続けた。

 やがて、テイル3の具体的な話になってきた。映像が切り替わる。


「ネバギブ王国滅亡後ですので」


 そこで、道三は血の気が引くような気分を味わった。思わず席を立った。


「なんの話だ、それは」


 その場の社員からは、困惑の表情が返ってきただけだ。


「王国は滅亡するのか?」

「あ、はい。冒険者は勝ちますが、王国軍は耐えきれなかった形です」

「そこから、逆転のドラマを始めていきます」


 何を言っているんだ。ロールクエスト2をバネにするというのか。




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