[十一 美杉長政] やってきた遊び人
「おまたせ」
「ごめんね。待った?」
少しすると、トースケと羽瑠が揃ってやってきた。
これで、昨夜の解散時の状態に戻った。違うのは、新しい美杉饅頭を持っていることくらいだ。それは、トースケが持ってくれた。
今の状態で、盾と荷袋を持っているので、両手は塞がっていた。剣は腰鞘に納めており、戦闘時は荷袋を置いて、抜剣する。
「イベントって、今二つが完了してるよね……?」
「そだな」
「あと二つ」
羽瑠が実績を気にしていた。羽瑠には悪いが、長政に優勝を目指す気は、全くない。
一日が終わって、まだポイントは十だ。詳細不明の実績が六もあるし、優勝を目指せる状況ではない。
詳細不明の実績は、取得可能な状況にならないと、詳細が明らかにならない。
どう考えても、優勝を狙えるとは思えなかった。できるとしたら、他のパーティが全て全滅した時だけだ。
「なんか新しいイベントを探すか」
「ちょっと待ってー」
聞き覚えのある声が、遠くから聞こえていた。
「ねえ、美杉君。あそこ」
手を振りながら走り向かってくる女がいた。華道遊々だった。
長政は、後ろを見た。遊々を待っているそぶりの人は、他にいない。つまり、長政達に用がある、ということだ。
「ねえ、なんで今、知らないフリしたのさー」
「何の用だ」
「ん、パーティに入れてよー」
「なんで」
「あたしのパーティ、全滅しちゃった」
「なんで」
「敵が強くてさー」
遊々は、格好の良い騎士のような装いをしていた。所々露出した肌が、白く眩しい。高そうな剣と盾も持っていた。
「その格好からすると、前衛でもしてたのか?」
「そうそう。前衛、あたしだけだったの。すごいでしょ」
「で、なんで壊滅したの」
「だから、敵が強くてさ」
「違う違う。前衛やってたんだろ。前衛が生きてるのに、他のパーティメンバーが全滅っておかしいだろ。なんのための前衛だよ」
近接戦闘に向かない後衛メンバーを守るのが、前衛の仕事の一つだ。前衛一人だけ生きているなんて、普通に考えたらありえない。
「ん、それは類稀な生存能力で、生き残ったわけだよ、長政ちゃん」
ノイアーだ、とは言わなかった。もう訂正するのが面倒臭い。
「入れてもいいが、スポンサー提携でのパワーアップは認めないぞ」
「ぅ」
その場で固まる遊々。それから、自らの装備を見た。
「じゃあな」
「待ってよー。分かったよ。置いてくるよ。だから代わりの服を買ってよね」
「なんで」
「だって、これ全部脱いだら、ほとんど裸だよ?」
「着てきた服があるだろ」
ワールド内の装備には、ロッカーで着替えているはずだ。だから、外用の服があるはずだ。
「チッ」
「チッ、じゃねーよ。俺達だってまだ私服だぞ」
「じゃあ、武器だけ買って?」
それなら、と思えた。
「ああ、あと、俺の今の状況知ってるんだろうな。殴った視界映像がまわって、評判悪いんだぞ。それでもいいのか」
「ん、それはそれ。これはこれ。あれはあれ」
分別があるというか、何も考えていないというか。
「優勝も目指さないぞ」
「問題なーし」
「め、目指そうよ、美杉君」
羽瑠のことは、無視した。
どちらかと言えば、長政のロールクエストに対するスタンスは、遊々と近い。
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