表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/60

[十 美杉長政] モンの優しさ

 二日目。

 開場直後。酒場前には、他の仲間はまだいなかった。今のうちにと、門まで行き、ま行姉妹を呼んでおいた。


 酒場で待っている間、離れたE&Eを見ていると、ゾロゾロと他のパーティが出てきている。中には、随分と冒険者らしい格好をしている者もいた。羨ましい。

 別の場所では、空間に向かって話しかけている者がいた。話し相手は、おそらくモンだろう。各パーティにいる映像秘書は、そのパーティメンバーと視聴者だけが見える。


 視聴者数の増減は、いくらか落ち着いていた。昨夜の終わり際で、千人程度まで減っていた。今は四百二十人。放送も開始されたばかりだろうから、これから人数は増えていく。多くの視聴者が、長政に対して否定的な者だ。肯定される材料もない。

 執拗な誹謗中傷コメントが多く、内心では少し傷ついていた。


『おいはやく国から出てけよ』←百円。

『煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw煽り耐性ゼロw』←百円。

『ねえなんで手から先に生まれたの?』←百円。


 無課金コメントは、長政に届かないようフィルタリングしている。だから、課金コメントだけが、長政に届く。金を払ってまで伝えたい何かがあるなら、反応してやっても、と思わなくもない。しかし、このコメントの質では、不毛なやり取りにしかならないと思えた。

 気にしない。反応しない。それくらいしか、対策が思いつかない。


「長政。フィルターを強化することで、不適切な課金コメントも、ある程度の制御が可能です。どうしますか?」


 モンが隣に現れ、提案してくれた。状況を検知しているのだろう。


「へえ。どんな風に?」

「音声、文言に、NGワードが含まれる場合、フィルターで当該コメントを抑制します。その際のNGワードの候補となるリストが、これまでより強化されます」

「いや、いいや。ただのイタチごっこだろ」


 多少の効果はあるのかもしれないが、問題ない視聴者にも不便を与える可能性がある。それは、知識として、長政も知っていた。


 モンは、まだその場に残っていた。街内などの安全地帯に一人でいると、一緒に行動してくれることがある。前回のロールクエストでもそうだった。

 何を言うでもない。時々まばたきをする。そのまつ毛の動きを、なんとなく見つめた。


「この前、モンのモデルの人に会ったぞ。放送で一緒になった。知ってるか?」

「はい。放送前に、天津様と会話をしました」

「モンの真似をしてたぞ。すっかり騙されちまった。さすが女優だなー」


 見た目が同じなので、うまく演じられてしまえば、もう見分けようがない。まさか本人に会えるとは、その時は思っていなかった。


「長政から見て、天津様は、どう映りましたか?」

「そうだなあ。お嬢様って感じかな。でもなんて言うのかな。少し飾ってるような感じがして、ちょっと違うだろって思った」

「そうですか」

「第一印象はちょっと違くて、純朴っていうのかな。そう思ったてからさ。あとで観たんだけど、王国劇にあの子出ててさ、あっちの素でやってる感じの方が、俺は好きだなあ。言いたいことも、やりたいことも自分に素直でさ。役がハマってたんだろうな」


 やってしまった、と長政は思った。

 配信中に喋りすぎた。これではトースケになってしまう。余計な否定はせず、手放しで褒めておかないと、天津ファンがうるさいかもしれない。天津悶が対象であれば、褒めることに抵抗はない。


「いやまあ、すっげー可愛かったよ。シラネエって恥ずかしがってたのも可愛かったし。素が出てると光ってたなあ。って何顔赤くしてんだよ。こっちのモンじゃねーよ」

「ハイ」

「あの日の良い思い出だ。あのあとは、変なのに巻き込まれたし」


 放送後、指定の場所に赴き、何もわからずリンチされ、ボロボロで警察の世話になり、父親が迎えにきた。終わってしまったことではあるが、黒歴史にしたい気持ちもある。


「事実を公表しては、いかがでしょうか?」

「あれ、モンは知ってるのか?」

「はい、データはあります」


 博雄社長だろうか。映像秘書に教えて、何をする気だったのか。


「自分で言ってもな。嘘くせーだろ。これって証拠も、見せれるものはないし。つかな、俺にとっては、もう終わったことだ」

「長政は、悪くないと思います」

「信じてくれる人がいるのは、正直嬉しいよ」


 厳密には人じゃないけど。


 殴ったという事実だけが、視界映像付きで広まっている。客観的に見て、長政が悪いとしかならない。変に抗ったところで、火に油を注ぐだけだろう。

 時間が解決するのを待つしかない。そう思っていた。憂鬱な日々は、まだ続くだろう。それでも、冒険をしている間は、心の躍る気持ちが強い。




 お読み頂き、ありがとうございます。

 ブックマークすることで、いつでもお読み頂けます。

 続稿も、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ