彼女と化け物と藁人形
《注意!》
この作品は読む方によってはグロ等の表現や女性の方には好ましくないと思われる表現を描写しております。作品を読むに当たってご了承のうえでお願いいたします。
――「はぁ、はぁ」
一人の女子高生が息をあげながら校舎内を走る。
疲れから一旦立ち止まり、少女は窓から外を覗く。
空は濃い紫の様な不気味な色で染まり、黒い影が飛び回っている。
「一体なんなの・・・これは・・・。」
少女の目に映る黒い影、それはまさしく空想の世界で悪魔と呼ばれる異形の怪物。
「これは…夢じゃ、無いのね。」
少女は両肩を抱き、座り込む。
「やっぱり…さっきのも、現実…なのね…。」
一人呟く少女。その目には涙が浮かんでいる。
――――時は、一時間程前にまで遡る。
「はぁ…。先生に押し付けられた仕事ですっかり遅くなっちゃった…。」
教室で一人、ぼやきながら帰り支度をする少女。
茶色いセミロングの髪型で赤いカチューシャをしている。
時計を見ると午後7時を回っている。
「やあ、岬君。今帰りかい?」
教室から出たところで爽やかな少年が少女に話しかける。
「あ…須藤会長。お疲れ様です。」
岬、と呼ばれた少女が定型的な挨拶をする。
「こんな時間まで仕事とは、学級委員も楽じゃないね。」
「いえ、生徒会長に比べたらこのくらい。」
それを聞き須藤はフフン、と機嫌良さげに鼻を鳴らす。
「そういえば君のクラス、大変らしいね。例の、《間野口さんの件》で。」
須藤は哀れみを込めた声で岬に話しかける。
「ええ…。」
岬はふい、と須藤から顔を逸らしながら答える。
スっと須藤が岬の肩に手を回す。
「!!」
「なんなら僕がその件、解決してあげようか?理事の孫で生徒会長の僕なら造作もない…。」
口調は穏やかながらも、その言葉には思惑が透けて見える。
「いえ…結構です。」
岬はやんわりとした口調で須藤の手をはらう。
「ふふ、つれないね。ああ、そういえば帰宅するところだったね。見送ろう。」
「いえ、け…。」
須藤に断りを入れようとしたその時。
ドオオオオオオン!!!
凄まじい音が地響きと一緒に鳴り響いた。
「きゃああ!!」
「な、何事だ!?」
二人は咄嗟に床に伏せる。
数十秒程すると揺れは収まった。
しかし校舎内の明かりは消え、辺りは真っ暗になってしまっていた。
「…お、収まったようだな。無事かい?」
須藤は服を払い立ち上がり岬に手を差し伸べる。
「は、はい。でも、停電してしまったみたいですね。」
岬はその手を無視し、立ち上がる。
それに対し須藤はやれやれといった表情をしている。
「それにしても今のは地震か?いや、でもその前に聞こえたあの音は…。」
「あの、会長。とりあえず外に避難した方が良いんじゃ…?」
「あ、ああ。そうだな。」
須藤はポケットから携帯を取り出しカメラ用のライトを点ける。
「無いよりはマシ、といった所か。」
「あ、私も。あれ?」
「どうかしたかい?」
「ここ、圏外になってる…。」
「!僕のもだ、電波障害でも起きてるのか?」
岬も須藤と同じく携帯を明かり代わりにする。
「まあともかく早く校舎から出よう。」
二人は昇降口に向かって移動する。
そこに。
ズウゥン ズウゥン
二人の前方からなにやら地鳴りが聞こえてきた。
「な、何だ?この音と揺れは。」
前から大きな黒い影が近づいてくる。
「い、いったい何?」
岬が影に向かい光を照らす。
光に照らされ出てきたものは。
「ヴモオオオオオオオ!!!」
「う、うわああああああ!!」「きゃああああああ!!!!」
黒い影の正体を見た二人は思わず悲鳴をあげた。
それは牛の頭をした人型の化け物だった。それも天井に頭がつくくらい大きい。
「な、なんだこれは?だ、誰の悪戯だ!?」
須藤は腰を抜かしたのか尻餅をついたまま叫んでいる。
「何なの一体…?私、夢でも見てるの…?」
岬は頬をつねってみる、痛みがある。
牛頭の化け物は手に無骨な棍棒を握り、こちらを見ている。
そして座りこんだ須藤のもとへゆっくり近づいていく。
「お、おい!誰なんだ!君は!!」
須藤は涙ぐみながら叫ぶ。
「理事の孫で会長の僕にこんな…ぶばっ!!?」
その瞬間、プシャッ!と赤い液体が岬にかかる。
須藤の頭がスイカのように弾け飛んでいた。
化け物が棍棒で力任せに殴り飛ばしたのだ。
飛び散った肉片が辺りにへばりつき、目玉がころころと岬の足元に転がる。
ごぽごぽ、と音を立て、頭を失った須藤の身体がぴくぴくと痙攣しながら倒れこむ。
そして、化け物は須藤の四肢を引きちぎるとバリボリと音を立てながら食べ始めた。
しゃぁぁ…。下着が生温かくなる。
「あ…ああ…きゃああああああああああああああああ!!!!!」
そのおぞましい光景を目にした岬は悲鳴を上げながらその場から逃げ出した。
――――ズゥン、ズゥンと先程の化け物の足音が校舎内に響く。
岬は無我夢中で逃げ、とっさに入った教室でうずくまり身を潜めていた。
「…どうしたらいいの…?このままじゃ私も…。」
返り血を浴びた手を見てさっきの光景を思い出す。
「なんなのよ…こんなのありえない…。」
ズゥン…ズゥン…
「ひっ…!」
足音が近づいてくる。
「どうしよう、まだここは三階・・・。窓から逃げるには…。」
岬がどうにか脱出する方法に考えを巡らせていると
ドガシャアアン!!
と扉が壊されると同時に牛頭の化け物が教室に入ってきた。
「ひぃ…!!」
岬はすぐにもう一方のドアから出て逃げ出した。
『とりあえず、下へいかないと!』
廊下を走るな、と描かれたポスターを尻目に岬は走った。
『あの様子だと足はそんなに速くない、はず。』
そう願い、全力で走った。
もうすぐ、もうすぐ出られる。あと少し、と思ったその矢先。
ズゥン
目の前にあの牛頭の化け物が現れた。
「あ…あぁ…そん、な…。」
その場にへたりこむ岬、どうやらもう体力も限界のようだ。
岬は絶望した。これほどまで死を強く意識したことなど無かった。
丸く、黒い瞳から涙がぼろぼろとこぼれ落ちる。
『ああ、私、死ぬんだ。さっきの須藤会長みたいに、殺されるんだ。』
化け物が棍棒を振り上げ、岬は全てを諦めたその時。
「あらぁ。【ミノタウロス】だなんてハズレだわぁ。」
聞き覚えのある声とともにその少女は現れた。
その声に化け物も反応する。
「あ、あなたは…。」
腰まである長い黒髪、ジットリとした目。そして両腕に巻かれた包帯。岬と同じ制服を着ている。
「間野口小夜子、さん・・・」
間野口と呼ばれた少女が岬に気付く。
「あらぁ、あなたは…岬奈菜さんねぇ?何して…」
ドゴォッ!!
話してる途中で間野口がふっ飛ぶ。
ミノタウロスに殴り飛ばされたのだ。
「ひッ…!ま、間野口さんッ!!」
校舎の壁に叩きつけられた間野口がぬるぅっとゆっくり立ち上がる。
「うっふっふ~・・・いったいわねぇ。でぇもまあ、無理矢理犯された時に比べたらマシだわぁ。」
頭から血を流し、不気味な笑いを浮かべながら間野口が右手を上げる。
「でも、抜いたわよぉ。あんたの毛。」
その右手には恐らくミノタウロスのものであろう毛が握られている。
そして間野口の左手には藁で作られたとおぼしき人形が握られていた。
ミノタウロスは己の攻撃で死ななかった間野口に動揺したのか、それとも毛を毟られたショックからなのか動かずにいる。
「さぁて、初の試みだけど上手くいくかしらぁ。」
間野口は毟った毛を藁人形に押し込む。
ミノタウロスはハッとし、再び間野口に襲い掛かる。
「うっふっふふ~…もう、遅いわよぉ。」
そう言うと間野口は長い釘を毛の入った藁人形に
グサリ、と突き刺した。
その瞬間、ミノタウロスの動きが止まる。
「ヴオオオォオオオオオ!!!」
そしてミノタウロスはおぞましい叫び声を上げるとズズゥン、と音を立てその場に倒れこんだ。
「あ~ら、私の呪いは悪魔にも効くみたいねぇ。これは良いこと知ったわぁ。」
長い髪をかき上げながら間野口は言う。
「え…?え…?」
岬は目の前で起きた一連のできごとに考えが追いつかないでいる。
『悪魔…?呪い…?この子何を言って…?』
「はぁ~あ…でも失敗だわぁ。まさかこんな小物が召還されるなんてねぇ。」
間野口はミノタウロスを指でつつきながら溜息をつく。
「あ、あの間野口さん…。」
「ん?ああ、岬さん。殺されなくて良かったわねぇ~。」
「あ、その、た、助けてくれたんだよ、ね…?ありがとう…。」
間野口はジトっとした目で岬を見る。
「…いったいなんなの。急に地震が起きたと思ったらこの化け物は現れるし、外も変な怪物が飛んでるし…。須藤先輩も殺された…。」
「須藤…あ~アイツねぇ。」
自分の言葉でハッと思い出し、岬は窓から外を見る。あの怪物達がいつまにか消えている。
「いなく、なってる…。空の色も、戻ってる。」
「ああ~、たぶんあなたが見たのはコイツにくっ付いて召還された下級悪魔のコバンザメみたいなものよぉ~。ほら、見なさい。」
間野口が倒れたミノタウロスを見るよう促す。
ミノタウロスは白目を剥き、口から舌を出し息絶えている。
先ほどの光景を思い出し「う…。」と岬が口を抑えていると。
ぶしゅうううう…。
ミノタウロスの身体が黒い消し炭となっていく。そしてボロボロと崩れだし消えてしまった。
「消え、た…。」
「召還されたコイツ自身が死んだからくっついて出てきた外の奴らも自分の魔力じゃこっちでの身体を維持できず消えたのよ~。」
「ちょ、ちょっと待って!さっきから悪魔だとか召還だとかもう頭がおかしくなりそうなんだけど。」
「それに、間野口さんは何でそんなに冷静なの…?あの化け物に一人殺されてるんだよ…?」
間野口は額から流れる血を手のひらで拭い、赤く染まったその手を岬に見せ言う。
――――――「何で…?それはあの化け物を召還したのは、私だからよぉ。」
そう言い、彼女はニタァっと笑った。




