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カクリモン  作者: 廿楽 亜久
4章

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31話 要探し

 目の中の憑き物が疼く。


「外……?」


 外に何があるのかと見上げれば、見えてはいけないそれ。


「なんだあれ?」


 ついてきた梶も、それを見ては、不思議そうに首をかしげた。

 そして、干川にも同じように空を指さして問いかける。


「見てみろって。空に変なの浮いてる」

「え……」


 干川は不思議そうに空を見上げて、まばたきを繰り返す。まるで、元からアレが見えていたかのように。

 いや、見えていた。干川には、ずっと。普通の人間でも見えるようになっただけ。


「僕、本部に戻ります!」

「え、お、おぅ……?」


 血相を変えて出ていった朱雀に、梶は目を瞬かせながら、干川を見る。


「えーっと……アレ、そんなにやばいのか?」

「というか、梶、見えてるの? アレ」

「…………ってことは、アレが例の大門の魔方陣!?」


 ようやく理解した梶がもう一度空を見れば、確かに飛行機雲とも見える光の線が浮いている。


「つまり、俺も観測者になったってこと――じゃないよな。さすがに」


 とんでもなくまずい状況になっていることだけはわかるが、何ができるかと言えば、何もない。

 朱雀のように、本部に戻って手をかせるようなこともない。


「……」


 ふたりは、何も言わず、同じ空を見上げる。


「邪魔するぜ」


 そんな静寂の中、ノックもなしにドアを開けて入った来た男。


「あ」

「え、誰……知り合い?」

「向こうにいねぇから、どこにいるかと思ったら、サボりの定番か」

「いや、サボりじゃないっすよ?」


 訂正だけしつつ、干川に目をやれば、警部だと言われた。


「ほら、新宿の時にも」

「あ……あぁ、そういえばいたような……」


 正直、覚えていない。警察が多かったというより、それ以上にいろいろ衝撃的なことが多くて、覚えていなかった。


「ま、警察の顔なんて覚えてる奴にも覚えられる奴にもろくな奴はいねぇよ」

「じゃあ、初めましてってことで、何の用ですか?」

「お前のダチ、スゲェな」


 半ば本気で感心していたが、すぐに気を取り直すと、干川の方を見た。


「お前だよな。観測者って」

「え゛……」


 反射的に目を逸らしてしまえば、笑われる。


「わかりやすいな。お前。ま、さすがに間違ってはいねぇとは思ったがな」

「いやいや、観測者は俺っすよ。刑事さん」


 まるで、当たり前のように梶が笑いながら手を振るが、警部はニヤリと笑う。


「お前が観測者ねぇ。その割に、お姫様みたいに守られてねぇみたいだな」


 初めて会った時だって、干川の隣には逵中がいた。新宿で会った時だってそうだ。確かに、梶を見かけた時は、必ず斎藤や榊が傍にいた。

 しかし、天ノ門と長く付き合っている分わかっていた、護衛の対象の序列で、誰が付くか。

 一番大事な存在に、逵中がつく。こんなただの男子高校生に、逵中が付く理由など、会話からして察しがつく。

 この少年が、観測者だ。


「……ダメだァ! ワトソン君! 本職には勝てない!」

「あ、うん。わかったから、とりあえず、本題入ってもらったほうが良くない? というか、入ってください。コイツ、長いです」

「だろうな」


 分かっていたような表情で頷くと、警部も笑みを消した。


「外は見たか?」

「あー……見えるようになってるっていう」

「あぁ。それで、今、本部は大混乱だ。ろくな作戦じゃないが、半日後に決行されるはずの作戦の準備すら終わらず、動ける部隊が前倒しで動く状態」


 慌ただしく走る車の音は、そういうことかと梶が窓の外へ目をやる。


「現状、大門を開くのを止めなきゃ第二大戦が起きる。門を開くのを阻止するには、ミントを倒すか、要を壊すかしなきゃいけねぇっていうのに、ミントも要も見つかりゃしねぇ。

 しかも、ミントが暴れりゃ、タイムリミットは短くなる」

「それって、要を探す方を優先しません?」

「ま、普通そう考えるだろ」

「……」


 察しが付いた。要もなにも、視えない人間には、基点すら発見できない可能性があるのだ。

 もちろん、わかりやすいこともあるし、とても近くに存在すればわかるが、観測者のようにはっきり視えるわけではない。

 ひとつ探すことだって苦労するのに、この広大な都市から探すなど、砂漠で決められた一粒の砂を探すようなもの。無茶だ。


「探せってことですか」

「あぁ。なぜか知らんが、あの大男はお前に探させるのは嫌みたいだがな。だが、この状況だ。宝の持ち腐れってわけにはいかないだろ」

「なるほど……でも、干川、その場にいかないと視えないんじゃね? というか、要とかの見分けつくの?」


 一緒に探していた時だって、ある程度範囲を絞って、向こうの術師の跡を探していたのだ。それでは、今までの効率と変わらない気がする。


「あー……一応、アレなら見えるかもしれない」

「アレ?」

「ほら、ゴリラの時の」


 遠くにいた術師を見つけた時。

 あの時は、術師を探そうとして視て、そして見つけた。

 今回も要を探そうとすれば見つかる可能性はある。


「ストップストーォップ! ほっしー、あの時ぶっ倒れてたよな!? なんだっけ、フィードバック? ってやつ! 寿命とかなんだろ? やばいって」

「いや、あの時は結局、眼精疲労……」

「そうだった。でも、今回は、ほら……ゴリラのケツってレベルじゃないぜ?」

「ゴリラのケツと比べるとその……でも、ちょっとくらいなら。また眼精疲労くらいかもしれないし」


 一度、外に出てみようと、外に出て空に浮かぶ魔方陣を見上げる。


「……」


 魔方陣の要を探すようにじっと見つめれば、いくつかの筋が地上に降りている。その中でも、一際太い筋。

 おそらく、アレが要だ。


「あっちに、太いのが降りてます」

「目、大丈夫か?」

「まだ大丈夫」

「……なぁ、お前がもう一回外に出る気があるなら、ここで無理しなくてもいいが、どうする?」


 それは、警部の譲歩だった。

 一瞬、干川が目を歪めたのが見えた。”まだ”というのは、まだ耐えられるというだけなのだろう。やはり、負荷はかかっている。

 太い筋が降りている先にさえたどり着ければ、干川もこれ以上力を酷使しなくても済む。代わりに、カクリモノに襲われる危険はあるが。

 なにより、前にも術師が視えただけで、はっきりとした場所を確定させたわけではない。結局、干川が視たものを探さなければいけない。ならば、一緒にいたほうが見つけやすい。


「腐っても刑事だしな。武器くらいはあるぜ?」


 そして、数分後、斎藤からの電話をパトカーで受けることになった。

 散々、単純な罵倒を受けたあと、目的地だけ告げると追いかけると言って、切れた。


「応援が来るの、待ちませんか?」


 パトカーには、警部、干川、梶の他に、倉田も乗っていた。

 敷地を出ようとした時、警備をしていた倉田に干川たちが見つかり、面倒事になりそうな気配を察した警部が、助手席に座らせたのだった。


「……警部。いくら武装が整っているとはいえ、危険です」

「……仕方ない」


 ようやく折れた警部が車のエンジンを緩めた。


「要の方向はこっちでいいか?」

「はい。外出ても大丈夫そう?」

「一応、声は聞こえない」


 安全そうな場所に車を止めると、干川は一度外を確認すると車の外に出た。


「中にいた方が……」

「大して変わらねぇだろ。どうだ?」


 周りを見ても、カクリモノがいた残像はそこら中にあるが、本物はいない。むしろ、残像が多すぎて、自分が内部に埋まって見えなくなってしまうほどだ。

 空を見える場所まで移動して確認すれば、筋の方向も近づいたような気がする。

 梶や警部、倉田も外に出て周りを見るが、誰もいない。


「林?」

「林?」

「はい。なんか、木が見えて……」


 また少し、目を歪めた干川は言葉を詰まらせる。倉田も心配そうに声をかけようとするが、それよりも早く心当たりを聞かれては、倉田も地図を想像するしかなかった。


「林というほどの場所となると……植物園がありますが、この辺は、公園や遊歩道も相当木が生えていますから」

「地面が見えたので、遊歩道とかではないと思います……」


 なら、どこだろうかと候補を上げている時だ。重い足音が聞こえた。

 警部と倉田が、すぐに銃を構え、足音の方を見ればハイエナのようなカクリモノが数体。


「……俺が足止め。アンタは車」

「了解。ふたりとも、ついてきて」


 こちらを睨むハイエナたちが微かに動いた瞬間、撃った。

 同時に走り出す倉田と、後を追う干川と梶。


「ギェェェエエエッッ」

「新しく支給された方じゃねぇと、ろくに効かねぇのかよ……!!」


 撃って怯んだものの、走ってくる様子は無傷とほとんど変わらない。すぐさま、普段の対魔弾ではなく、新しく支給された強いものに切り替え、撃てば効いているようだ。

 弾を撃ち切るつもりで撃ちつつ、少しずつ後退する。

 今か今かと、後ろでエンジンを吹かす音を待っていれば、聞こえてきたのは干川の声。


「止まってください! 後ろにいます!!」


 干川の目に視えた、ごく最近のハイエナの残像。車の裏に回っていた。

 気がついて、すぐに叫んだが、倉田が言葉の意味を理解するよりも早く、視界に入ったハイエナの口の中に光る牙。


「――ッ」


 今からでは、誰にも何もできない。言葉を発することも、銃を撃つことも、逃げることも、覚悟を決めることさえも。


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