表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
カクリモン  作者: 廿楽 亜久
4章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/38

29話 選択

「現状、破壊された基点は4ヶ所。いずれも要ではなかった」


 解析班が大結界を元に調べを進め、また新たな基点らしき場所は確認されている。


「要っぽいところ狙ってるんだけどなぁ……」


 宮田が頭を抱えるのも無理はない。大結界となれば、要の位置は把握している。門の逆方陣であるなら、関連することが多いはずなのだ。


「ミント一派の行動から調査もされていますが、今のところ法則性はありません」

「大門形成までの猶予は?」

「大門そのものの形成は、早くて1日。遅くとも3日後には形成が終わります。形成後、大門が開くには約5日の猶予が」

「猶予はないものと考えるべきだ」


 研究員の言葉を遮り、京極が重い口を開いた。


「しかし! 形成後は、一般人にも肉眼で確認でき、70年前は5日後に大門が開かれたと……」

「前回は半ば自然に発生した災害だ。だが、今回は悪意を持った人為的犯罪。記録よりも全てが前倒しになると思ったほうが良い」


 少しだけ研究員の顔が曇ると、宮田もそっと手を挙げた。


「大門が開く期間が短くなる可能性は大きいと思います」

「……できれば根拠を示していただけますか?」

「カクリモンの発生件数と場所です。結界などの守られている場所を除き、カクリシャやパワースポットなど集中する場所には、門が現れることが多くなっています。

 門の形成、開門についてのプロセスの解明は行われていませんが、もし大門と同じプロセスで、小規模ゆえに時間の短く認識ができないのであれば、門の開門が精霊などの力に引っ張られる可能性は十分にあり得ると思います」


 もし、宮田の仮説が正しいなら、普段よりも門やカクリモノが多く現れている東京では、通常よりも早く門が開くことになる。


「それなら、私も考えました。ですが、その心配はないかと」


 研究員のひとりが、宮田を一度見るとパソコンの画面を操作する。


「ここ数十年で、空気中の霊力濃度は極端に下がりました。確かに、近年で考えれば濃度は高い状態ですが、70年前と比べればほぼ同じか、まだ低い可能性もあります」


 70年前、最初に大門開いた当時は、カクリモノやカクリシャだって多く存在した。それこそ、急激に低下したのは、ここ十数年のことだろう。

 それに比べれば、今の霊力濃度が上がった程度では猶予がなくなるほどではないはずだ。

 わかりやすく見せるため、画面に70年前の大門が開いた当時の霊力濃度とリアルタイムで計測されている霊力濃度を比べた地図を表示した。


「!!」


 70年前の地図は大部分が真っ赤だ。それに比べて、現在はほとんど橙色。つまり濃度は低いということだが、研究員が息をのんだのは別のことだった。

 極一部、局所的に黒に近い紫を示していた。


「これは……」


 そこは、先程ミントがいた場所。つまり、天魔が暴れた場所だ。


「報告によれば、その戦闘に天魔波旬はほとんど関わっていないとか」


 自衛隊が逵中へ目をやる。その場に自衛隊もいたため、報告はされているが、正直詳細は分かっていなかった。

 何が起きたのかはわかるが、一般の兵では、どの災害を誰が引き起こしたのかまではわからない。その辺を理解しているのは、逵中もといその場で戦ったという天ノ門の女だろう。


「はい。天魔波旬による攻撃は二撃のみで、その攻撃も100%の出力ではありませんでした」


 天魔波旬の炎をまともに纏わせられる武器は、ほとんど存在しない。それこそ、力に耐え切れず崩壊する。

 それは、ミントがまだ協力的だった頃、実験として行われていた。


「つまり、二撃だけで、この数値……」


 青い顔をして震える研究員に、逵中は訂正した。


「天魔波旬の攻撃は二度ですが、天魔を呼び出し、その場で交戦したため、純粋に二撃だけというわけではありません」

「回数は別として、ミントとの戦闘の結果、濃度が危険値まで上昇するというのは良くないな」


 あまりに濃い霊力は、無能力者をカクリシャにすることもあれば、体が耐え切れず不調を起こすこともある。

 加えて、今回は空気中の霊力によって、大門が開かれる時間が短くなる可能性だってあるのだ。ミントとの戦闘は避けられないが、何度も逃げられれば、不利になるのはこちらだ。


「……どちらを優先しますか?」


 現在打てる手は、ふたつ。

 今と同様、大門の術の要を捜索、破壊。もうひとつは、大門が開く猶予を引き伸ばすため、ミントもとい天魔波旬および天魔の排除。


「ミント一派の誰かを捕まえて、ミントの居場所を吐かせれば……細川は!? 細川小夜! 奴がこの術を発動させているはずだ! 要だって」

「それが見つかれば早いんですがね。目撃情報もないですよ」

「チョコミント幹部は、目撃はされていますが、確保には至っていません。他に確保された者はボスと幹部の居場所は知らないと」

「だったら、ミントは置いといて、要の破壊を最優先に――」

「要だってすぐに見つかるかわかりませんよ! 大門が完成して、ミントがこじ開ける目的で暴れたらすぐに第二大戦が起こりますよ!? ミントが時間稼ぎしているのは目に見えてます!」

「移動する対象と移動しない対象なら、まだ移動しない方がいいでしょう!?」

「要だからってわかりやすい訳じゃないんです! 神社みたいにはっきりしてるわけじゃない、私たちが見たら、ただの石ころにしか見えないことだってあるんですよ!」

「まともに戦えるカクリシャの数を考えてください! 人手もなにもかも足りてないんです! どっちにも人を割くなんてできませんよ! 少しでも可能性が高い方に――」


 ヒートアップする会議の中、自衛隊のトップは京極を見た。

 カクリシャの数が足りないのは事実。カクリシャのみで構成された特殊部隊の隊員を各分担させたとしても、要を探すには時間がかかる。1日2日では足りないだろう。

 しかし、もっと無茶なのが、ミントの相手だ。

 先程のデータからして、戦闘は長引かせず、手早く、確実に。できることなら不意打ちで、天魔波旬を出させないことが一番良いことだろう。

 だが、隊員の報告によれば死角からの攻撃も自動防御によりミントには届かないそうだ。


「……」


 むしろ、この場に天魔波旬と対峙できる人間や部隊がいるだろうか。

 少なくとも、現在いる特殊部隊では難しい。単なる大精霊やカクリモノであれば、問題なく倒せるだけの能力はあるが、人を呪い人を殺すことに特化した天魔には、相性が悪い。

 それこそ、実力というより、これは生まれ持った能力の問題だ。


「逵中」


 かつての部下である逵中を呼べば、すぐにこちらを見る。


「京極さんは、戦えるのか?」


 昔ならば、ミントともしかしたら相対せたかもしれない人物。カクリシャで最強と呼ばれた男、京極。

 しかし、退役してからというもの、戦闘に出てくることは無くなった。そして、今も彼は”戦う”とは一言も言わなかった。

 それは恐怖ではない。分かっているのだ。今の自分では、時間稼ぎもできないことを。


「不可能です」

「やはり」


 予想通りだった。


「ご病気で。現在も、薬で動いている状態です」

「……そうか」


 言葉にはしないが、相当悪いのだろう。

 険しい表情の逵中に、男はため息をつくと真剣な目を向ける。


「何故、お前たちが観測者の存在を隠しているかは知らない。だが、ここの現状を打破できるのは観測者ではないかね?」

「……」

「大戦時を終結させたのも、観測者だった。今回もピースは変わらない」


 だから、観測者を出せ。そう言っていた。


「それは、彼が決めることです」

「そんな悠長なことを言っている状況か?」

「悠長なことを言っている暇がないことは承知しています。しかし、来度の事件がかつて我々が彼らに行為を強いた結果であるなら、同じ轍を踏まないように行動を起こすべきでは」

「それで第二大戦が起きれば、傷つく必要がなかった人間も傷つくぞ」

「……」

「お前が言うことは理解しよう。人としての権利も認めよう。故に、今だけは命を削れ」


 命令だった。答えなど聞いてはいない、ただの命令。

 要を見つけるフィードバックがどれほどのものかはわからない。だが、それでも探せというのだ。例え、命に係わるフィードバックだったとしても。


「お断りします」


 だが、逵中ははっきりと断った。

 それは、自分の決めることではない。


「私は、選ぶ権利を彼らに与えるため”天ノ門”に入った。故に、彼らが望まない選択を強いることはしません」


 揺るぐことのない言葉。

 例え、世界が終わっても、男は今の言葉を曲げることはないだろう。


「なら、1億2千万人に死ねと言え」


 たった数人の意思を守るために、日本人に死ねと。

 男の目は、静かに回答を待った。

 逵中がなんと答えようが、男は反抗しない。受け入れるだろう。それだけの覚悟を持った回答をしろと、告げていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ