25話 調査
迫るカクリモノに、軽々と一閃し、倒していく斎藤。
逵中たちから護衛として、派遣されたらしい。学校には、伝えたところで混乱になるだけだろうと、集団移動にまぎれて離れた。警察には事情が伝えられているため、後で適当な理由をつけられるのだろう。
「高ェならどこでもいいだろ」
という斎藤の意見により、駅前の大型ショッピングモールの最上階に向かっていた。
とにかく、遠くまで空を見渡せればいいのだから、いいかと、干川も梶も斎藤に続き、ショッピングモールに入った。
「うわ……すげー人いっぱい」
新しく作られた建物は、カクリモノ対策も最新のものをしており、避難所のひとつになっていた。
「確かに古い学校より安心だよな」
梶の言葉に相槌を打ちながら、階段を上がっていく。
エレベーターはすでに動かないようにされていたため、最上階まで歩くしかない。
「とうちゃーっく」
「つかれた……」
息を切らせながら、ようやくたどり着いた展望台は、予想通り東京一帯を見渡せそうだ。
普段であれば、キレイだの富士山だの騒ぐものだが、すでに干川にも梶にもそんな体力残っていなかった。
「で?」
「ム、ムリ……ちょっ、と……待って……」
唯一息を切らせていない斎藤が、早くしろと催促し、干川を窓辺まで引きずれば、空にぐるりと描かれた円。
まだ一部は途切れていて、完全ではないが、確かに円だ。
『途切れてる? ってことは、まだ外枠も完成してないってことかな……』
電話先の宮田も難しそうに唸っている。
『今、干川くんが見た光景を専門家に解析してもらってるから、三人共、今日はそこで待機して。また何か動きがあったら、連絡して』
「わかりました」
すでに日は落ちて暗い。ここで一晩泊まるのかと、外を見るが、窓に写った楽しげな友人の顔。
「楽しそうだなぁ……お前」
「いやいや! 考えてみろって。すごくね? 展望台で泊まり! しかも、他の客いない!」
確かに、珍しい光景ではあるが、男三人で展望台で夜空を見ながら泊まると言われて、喜ぶ人は少ないだろう。しかも状況が状況だ。
「つーか、飯取ってこいよ。下で配ってんだろ」
「一番体力ある人が行ってくださいよー俺らのバテ具合見ました?」
「ハァ? なんで俺が取りに行くんだよ。ガキが取りに行け」
「……じゃあ、自分の分だけ持ってきてくださーい。俺らはあるんで」
学校を出る際に、非常食の食料を一部拝借してきたのだ。一日くらいなら越せる。
カバンから非常食を取り出せば、目の前から消えたそれ。
「だと思った!!!」
案の定、奪い取られる始末。
とはいえ、斎藤の分も最初から入っていたため、奪われたところで問題はない。が、気持ちの問題が大きい。
「ほしいなら素直に言えよ……!!!」
騒がしすぎる夕食を終え、展望台カフェスペースに置かれたソファで横になる。
「電気は通じてるから助かる」
「親に連絡ついた?」
「一応、避難所にいるって言っといた。まぁ、あっちも避難所みたいだけど」
「そっか」
「お前は? 家に帰ってこいとか言われてねぇの?」
梶の家は東京のため、両親共に今回のことに巻き込まれ、避難所にいるらしいが、干川は千葉だ。直接は、巻き込まれてはいないだろう。
「電車もバスも動いてないし、危ないから避難所にいなさいだって」
「まぁ、そうだよなぁ」
「ずっとニュースで流れてるってさ」
「ネットもすごいぜ? 大戦の再来!? だとか、東京終末散歩とか。あ、この人更新途切れてる」
「やめて……本気で」
「……ん。寝るか。こんな早寝するの小学校以来だよ」
「確かに」
ようやく静かになった展望台に、斎藤も静かに目を閉じた。
ふと目を開ければ、まだ暗い。外を見ても地平線の向こうがうっすら白んでいるくらいだ。
早く寝た分、起きてしまったのだろう。外に目をやれば、相変わらず空に浮かんでいる円。
「あれ……?」
見渡す限り、その円に切れ目はない。無くなっていた。
*****
叫び声すら止まり、ただひたすら走った。隣からは狂ったような笑い声。
「お前、別にあそこにいてもよかっただろ!?」
隣で狂ったように笑い続ける梶に叫べば、笑い声混じりに「ムリ」だと答えられた。
宮田が言うには、円が繋がったということは、ミントたちが魔方陣を完成させたことになるそうだ。まだ発動には時間がかかるそうだが、すぐに起点を見つけ破壊しないといけないそうだ。
危険だが、カクシリャが関わるなら干川が見つけるのが速いという理由で、斎藤と共に探すように言われた。梶はそのままその場に残ることを勧められたのだが、
「下手するとこっちのほうが安全!」
出ようとした直前、カクリモノが展望台に突っ込み、ひと騒動あったのだ。
もちろん、斎藤が倒したのだが、曰く、前からよく現れていたカクリモノよりも強いそうだ。強さで言うと下半身だけのゴリラくらいに。
そもそも、比較的新しいショッピングモールはカクリモノ対策も行なっており、展望台までの階段にシャッターを降ろし、隔離したとはいえ、侵入されたのは事実。別の場所に避難しようという人たちも現れ、大混乱していた。
結局どうなったかはわからないが、その混乱の中に梶も残りたくないと、斎藤に護衛してもらえるであろう干川についてきたのだ。
「はぁ……はぁ……」
一度切れた息を整えると、後ろから斎藤も戻ってきた。
カクリモノが強くなってきたとはいえ、倒せないほどではないらしい。
「で、どっち行くんだよ?」
基点のありそうな場所は、宮田から送られてきている。梶が、地図アプリを見せるものの眉をひそめている。
「あの交差点、右に行って……まぁ、道があればっすけど」
先程から何度か、道が陥没していたり、塞がれていたりで通れないこともあった。
多少ならば、ガレキを乗り越えてしまうのだが、どうにもならない部分もある。確認してくるかと歩けば、梶と斎藤もついてくる。
途中、何かに気がついたように足を止め振り返った斎藤に、梶も足を止めて振り返った。
「?」
斎藤も道の先を見つめると、飛んできたコンクリートミキサー車を掴んでいるクチバシの大きな鳥。
「「ギャァァアアァァアアッ!!!!」」
ふたりの叫びに、干川も振り返れば、飛ぶというより突っ込んできた鳥に、同じように叫び声を上げ、目の前に落ちてきた衝撃で吹っ飛んだ。
干川よりも近くに落ちてきた梶は、衝撃こそすごかったが、咄嗟に斎藤が襟をつかみ庇ってくれたおかげで、干川のように吹っ飛ぶことはなかった。
「干川!!!」
「チッ」
干川もどうやら無事らしく、すぐに立ち上がっているが、カクリモノが向こうにいる。
斎藤がすぐに小刀を鳥の頭に投げつければ、こちらに向く。
「こっちだ! 鳥頭!!!」
思惑通り、干川ではなくこちらに向いた鳥は、コンクリートミキサー車の上に乗ると、腹を膨らませ、火を吐いた。
驚いて距離を取った斎藤と梶の予想では、吐かれた火は消えるはずだった。だが、消えない。それどころか道全体に広がっている。
「あ、ガソリン」
「クソガキ! 勝手に生き残れ!!」
「アホかァァ!!!」
道の向こうに消えていった叫びと共に、爆発音が響いた。
斎藤とはぐれてから数分。合流するにも連絡がつかず、仕方なく目的地へ向かおうと、慎重に進んできたが、ついに見つけてしまった。カクリモノだ。まだこちらには気づいていないらしい。
気づかれる前に、別の道に行こうと引き返した時だ。こちらに近づくエンジン音。その音に気がついたようにこちらを見るカクリモノ。
「あ」
完全に目があった。
「うわぁぁあああ!!!」
走れば、向こうも追いかけてきた。
「死ぬ! これはさすがに死――」
銃声。それからタイヤの急ブレーキの音と共に、掴まれた腕と襟。
「確保!」
「了解。一斉射撃、始め!」
訳も分からず抱き上げられたまま、後ろから聞こえる銃声とカクリモノの咆哮。
「ほとんど効いてないぞ!?」
「敵はノロマだ! このまま振り切る!」
ようやく腕から解放され、座らされれば荷物置きなのか、一角にはダンボールの山。それに、銃火器。服装からして自衛隊のようだ。
「怪我は? 逃げ遅れたのかい?」
「え、あ……えっと……」
「それとも自分からあんな危険な場所に?」
険しい口調に、首を横に振れば、信じていない目。
「とにかく、近くの避難所に連れていく。ケガもそこで手当してもらいなさい」
「あ、ありがとうございます」
天ノ門のことを言えば、違った反応をするかもしれないが、斎藤とはぐれた今、迷惑をかけることになるかもしれない。むしろ、避難所ならば落ち合いやすいかもしれない。
数分ほどで避難所に指定された運動場に到着した。
「はい。終わり」
「ありがとうございます」
消毒して絆創膏を貼る程度の怪我だったため、すぐに手当は終わった。
斎藤に連絡しようと立ち上がると、肩を叩かれ振り返れば、白衣を着た初老の女性。
「場所、わからないでしょ?」
「あ、えっと……」
「運動場にみんな集まってるのよ。一緒に行ってあげる」
「あ、あの」
「あ、ご家族に連絡は取れてる? 携帯ある?」
「そうじゃなくて! 僕、用事があって」
「用事? こんな時に何言ってるの。外に出たら危ないんだから。ここなら、ちゃんと自衛隊の人が守ってくれるから。ね? それとも、来ないといけないなんていう人なの? 私が電話してあげようか?」
腕を掴まれ、やむなく一緒に廊下に出ると、運動場に向かう。
正直、もう人は入れないくらいスペースがなかった。だというのに、少し隙間のある場所に向かうと、入れてもらえないかと頼んでいる。
「あ、あの!! 僕、カクリシャで! この辺の調査をするので、すぐに出ていきます!」
どうにか、それだけ伝えれば、不思議そうに首をかしげた。
「なに言ってるの。カクリシャが戦うのは昔の話よ。私が子供の時の話よ」
「もう、それ何十年前の話?」
笑い声に押され、開けられたスペースに座らされれば、白衣の女性はどこに何があるかなど、必要なことを告げると忙しいのか医務室の方へ戻っていった。
人が多い。きっといくつかの避難所が、設備の整った運動場にまとめられたのだろう。ちらほら見かける胸から名札のようなものを下げている人たちは、スタッフのようなものをしているボランティアだそうだ。
外に出ようとすれば、きっと声をかけられる。適当に嘘をつくにも、ひとりで外に出たところで自殺行為なのは変わらない。
やはり斎藤に連絡を取ろうと、スマホをつければ、近づいてくる足音。
「あら、学生さん」
「学生?」
隣の声に顔を上げれば、首からボランティアと書かれた札を下げた知り合いが立っていた。
「こんにちは。なにか困ってることありますか?」
「特にないわよ。お昼の心配くらい」
「あはは。お昼はおにぎりですよ。さっき向こうで作ってましたから」
すると、こちらに向けられる視線と振られる手。ようやく開けっ放しになっていた口が、言葉を発し始めた。
「ひ、日向さん!?」
「知り合い?」
「はい。バイトの。向こうで話す?」
「あ、はい!」
慌てて立ち上がれば、日向は一度隣に頭を下げると、出口に向かって歩いていく。
「いやーびっくりした」
「お互い様です。日向さん、ボランティアなんですね」
「実習中だったからね。学生はみんな、ボランティアだよ。強制的に」
小さく付け加えられた言葉に、干川も乾いた笑いを漏らすしかない。
廊下を抜けて、裏口のような場所から外に出れば、誰もいない。遠くに銃を持った人は見える程度。
「喫煙所が隣だから、あんまり人が来なくていいんだよ」
「へぇ……で、えっと……」
先程歩いている最中から、頭の上にすっかり慣れてしまった感覚があった。上を向けば、案の定、雷鬼が顔をのぞかせていた。
先程までは、いなかったはずだ。
「精霊は姿を消せるからね。この歳で、ずっと一緒だといろいろ言われるからさぁ……学校とかは隠れてもらってるの。それでどうしたの?」
「あ、実は」
今までのことをかい摘んで説明すれば、「ふたりに連絡しなよ」と真っ当なことを言われ、慌てて携帯を取り出す。着信はない。
梶の方へ電話をすれば、通話と同時に叫び声。
『生きてたぁァア゛ア゛! こっちが死にそう!! 主にあの人のせいで!!』
「が、がんばれ……」
『干川、今どこ!? ――あ゛!? 死んでないっすよ! 生きてる!』
後ろから斎藤の声も聞こえるが、遠いし、どこか切羽詰った様子だ。戦闘中だろう。
「俺は運良く避難所に来られて、今、日向さんと一緒」
『そっち行きたい』
「だろうね……」
『あの黄色いのいても、ぜってーそっちの方が安全!!! なにあいつ俺に恨みでもあんの!? 瀕死のやつこっちに投げ飛ばしてくんだけウォォオ!?』
向こうでまた鈍い音。梶の慌て具合からして、また倒したカクリモノを投げ飛ばされたのだろう。
干川もなんと励まそうかと、迷っていれば、隣で同じように電話をかけている日向が、うるさそうにこちらに目を向ける。
「元気そうだね。とりあえず、私が一緒に行ってあげるから、ふたりはどこか安全な場所に行くように言ってくれる?」
「だって」
『うるせェ!! んで、テメェに従わなきゃ――』
『岳』
『…………んで、いるんすか……?』
日向の携帯から干川の携帯を経由するという、なんともアナログな方法で届いた声に、斎藤も一瞬にして静まる。
『お前ひとりならまだしも、梶がいるんだ。任務は結城が引き継ぐ。いいな?』
『うぃっす……』
大人しく引き下がった斎藤に、干川も感動していれば、小声で耳打ちされる言葉。
「チンピラって結構上下関係しっかりしてるから」
『聞こえてんぞ! クソオン――』
「はいはーい。じゃあ、梶君がんばってねー」
切られた電話に、日向も自分の携帯に目をやれば、榊も電話越しでもわかるようなため息。
『ああは言ったが、大丈夫か?』
「大丈夫ですよ。ちょうど暇だったし、息抜きがてら行ってきます」
『……わかった。気を付けて。手に負えないことはあまりないだろうが……ミントたちの姿も確認されていない。十分気をつけるように』
「…………はい」
通話を切れば、早速行くのか名札を外してポケットにしまっている。
「だ、大丈夫なんですか? 仕事とか」
「ちょっとくらいいいでしょ。24時間働けません」
大丈夫なのだろうかと、振り返ると同時に開いたドア。現れたのは、ボランティアという名札をかけた若い男。
「あ、すみません。って、どっか行くの?」
どうやら日向の知り合いらしく、首をかしげている。止められるのではないかと、慌てたように日向の方を見れば、あっけからんと返していた。
「散歩。1時間くらい行ってこようかなって」
「マジか。コーラ頼む」
「え゛!?」
予想外の答えと小銭を渡されている日向に、干川も訳が分からず声を上げれば、日向も笑っていた。
「ダイエット?」
「この状況でカロリー気にしないだろ」
慣れたようにタバコに火を点け始める男に、日向は少し眉をひそめると、男も気づいたように干川を見た。
「いい?」
「あ、はい。ドゾ」
「というか、喫煙所は隣ですよ。お兄さん」
「勘弁してくださいよ。姉さん。関係者ばっかなのに、俺なんて初日のアレで印象最悪なんだぜ?」
「あー……そうね。うん。ドンマイ」
「ま、俺の方はまだいいけど。話分かる人だし、単位はくれるだろ。つーか、お前もよくアレ耐えられるな」
「ヤメロ」
煙を吐きながら笑う男は、時計を見て、少し唸る。
「とりあえず、誤魔化すのはいいけど、昼の配布始まったらキツいとは思う」
「あと1時間ちょっとね。じゃ、頼んだ」
「おー」
男に手を振られると、日向は干川に改めて行こうと言うと、外に向かって歩き出した。




