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未知標  作者: 一族
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第七一〇話 よいよいよい(六)

 予言は的中した。ものの五分もたたないうちに尋道からの電話だ。信号待ちの時間もあって、周回はまだ終わっていない。正しく、すぐに済んだ、ようであった。みさとの慧眼に舌を巻きつつ、孝子は応答した。

「はあい」

「終わりました。正門前でいいですか?」

 開口一番のせりふにも孝子はやられた。「両輪」の以心伝心、恐るべし。

「いいよ。じゃあ、すぐ行く――斎藤さん。正門前だって」

「あいよ」

 またしても開口一番だ。

「すみません。やらかしてきました」

 後部座席に乗り込んできた男の言に、孝子とみさとは叫声を上げた。

「よくやったー! で、何を言った、このやろうー!」

「ボス気質同士、最後まで並び立ちませんでしたね。もう、いいでしょう、と」

 最後通牒。尋道でなければできない芸当といえた。

「言いましたねえ!」

 みさとは破顔一笑する。

「言いましたねえ。まあ、過ぎたことを悔やんでも仕方ない。先を見ましょう」

「どの口が言うのやら」

「この口です」

「そうだ。郷さん。せっかくねじ込んでもらった重工のCFO室ですけど、辞退しますわ」

「ですね。我らがボスと、ここまで相性の悪い相手なんです。僕たちも、もう、いいでしょう。話を付けます。最後は一緒に頭を下げていただく必要があるかと思いますが」

「当然っす」

「おっさんについては、それぐらいでいいでしょう。車は、どうするの? さっきの青いやつ」

 孝子は話題を転換した。

「遠慮するべきですね。あれだけの減らず口をたたいた小僧だ。頼られたところで先方も困る。気のいいおばさんなのでね。迷惑は掛けたくありません」

 社用車の選定は振り出しに戻った形となった。次は、これだ。

「この上は斎藤みさとを、どれだけ有効活用できるかが鍵になります。飛び回っていただくための、翼みたいな車、と伝えて、改めて正村さんに選定していただきましょう」

「却下」

 尋道の提案を孝子は一蹴した。続いて、思い付きを口にする。

「二人の間でコンペにしよう」

「お。どういうお話?」

 祭りの匂いを嗅ぎつけた女が乗ってきた。

「うむ。聞け」

 岩花であおった「両輪」対決は引き分けに終わっている。今度こそ優劣を決してみせてほしいものだ。コンペ開催の底意だった。

「正村さんはどうするんですか」

 苦々しい声が届いても孝子は取り合わない。

「どうもしないよ。私は二人の丁々発止が見たいの。ぐちぐちやった揚げ句に、ちゃちな車が選ばれるところなんか、見たくないの」

 嘆息だ。

「翼みたいな車、と条件を付けているのに、ちゃちな車はないと思いますが」

「わかった。そんなに言うなら郷本君の推薦を受け付けるよ。マヤ公もコンペに参加だ」

 特大の、嘆息だ。

「マヤ公を立てたかったのか。それとも、君が横着したかったのか。どちらかはわからないけど、やぶへびでした。ざまを見ろ」

「本当に。ちなみに、識者を立てたかったのが二で、横着したかったのが八です」

 尋道は素直に見込み違いを認めた。

「そんなこったろうと思った。社長賞を出すから、やる気を出しておくれ。どうせ君が取るだろうし、リクエストを受け付けるよ」

「こら。なめるなよ」

 みさとの左手が襲いくる。

「やめろ。郷本君。みさとが生意気。たたきのめして」

「わかりました」

「もう! 郷さんも結託しないで!」

 一騒ぎの気配である。孝子の希望は腹心の白星だが、みさともさる者。さぞやの名勝負となろう。そして、麻弥は「両輪」の威力に、どこまで抗し得るか。親友の勝ち味は皆無、と孝子は読む。もちろん、この予想、裏切れるものなら裏切ってくれて、一向に構わない。各人の奮戦を期待しつつ、その時を待つとする。

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